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フードテックとは?世界的に深刻化する食糧問題を解決する最先端テクノロジー

 フードとテクノロジーを融合させたフードテックという技術が注目されています。注目を集めていることは知っていても、具体的な意味合いや取り組みまではわからないという人も多いのではないでしょうか。

 この記事では、テクノロジーの領域がどれほど食に適用されているか、その具体的な取り組みを解説していきます。

フードテックとは

 フードテックとは、最新のテクノロジーを駆使することによって、まったく新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術です。新たな食の可能性として注目されています。

 たとえば、フードテックによって、植物性たんぱく質から肉を再現したり、単品で必要な栄養素を摂取できるパスタを開発したりすることが可能になります。そのため、フードテックは世界的に深刻化する食糧問題を解決する方法としても、大きな期待を集めています。

フードテックの将来性

 急速な拡大を続けるネット産業などに比べると目立ちませんが、世界の飲食料の産業は、今後も着実な成長が期待されています。人間が生きていくために必要不可欠な商品を扱っているため、その規模は極めて巨大です。最新テクノロジーを適用することで高付加価値化できれば、社会に与える影響は絶大なものになるでしょう。

 農林水産政策研究所の推計によれば、世界の主要な34カ国・地域の飲食料市場の規模は、2015年の890兆円から2030年には1369兆円へと1.5倍に成長するとされています。特にハイペースで経済成長が続くアジア市場の伸びは顕著であり、420兆円から800兆円へと約1.9倍へ拡大するとみられています。

出典:世界の飲食料市場規模は2030年に1,360兆円と約1.5倍に成長|農林水産政策研究所別ウィンドウで開きます

 飲食料の産業が、これほど顕著な成長を遂げる理由は大きく二つあります。

 一つは、世界人口の増加です。国際連合では、2015年の世界人口は約73億8000万人でしたが、2030年には約85億5000万人に増加するとみています。その間、欧州の人口は減少に転じますが、世界総人口の約6割を占めるアジアや、生活水準の高い北米は継続的に増加し続ける見込みです。

 もう一つは、新興国の経済発展によって生活水準が高まり、食に対してこだわりを持つ人が増えていることです。OECDは、2015年に74兆7573億ドルだった世界の名目GDPは、2030年に111兆1000億ドルに成長すると予測しています。特に、世界で一番人口の多い中国と次いで二位のインドでの成長が顕著です。中国では、2015年から2030年にかけて、人口が4.3%増の14億6000万人になりながら、GDPは140%増の26兆ドルへ。インドに至っては、人口が14.5%の15億人になりながら、GDPは412%増の11兆1000億ドルに急成長するとみられています。経済成長と共に、消費者が口にする食料は、より安全で、高品質、高付加価値なものを求めるようになる傾向があります。そして、1人当たりの飲食料への支出が増えていくことになるのです。

フードテックへの注力で、国際競争からの出遅れ挽回を目指す日本政府

 ただし、世界の飲食料市場が大きく伸びたとしても、日本の飲食料に関わる企業や個人が潤い、飛躍的な成長が約束されているわけではありません。日本は、少子高齢化が進み、国土も狭く、農業や水産業など食料の生産から加工、流通、販売に至るフードチェーンのなかで生まれる価値の量と質が、黙っていても高まるような状況にはないからです。これまで通りの手法では、せっかくの成長機会を取り逃がしてしまう可能性があります。そこで注目されているのが、フードテックの活用によるフードチェーンの生産性向上と価値向上です。

 これまでの日本は、海外と比べてフードテックの開発や活用に向けた投資に消極的でした。農林水産省によると、2019年時点でのフードテック分野への投資額は、米国が9574億円、中国が3522億円、インドが1431億円、英国が1211億円であるのに対し、日本はたった97億円にすぎませんでした。日本では、飲食料に関わる産業は、最新テクノロジーの活用とは無縁の成熟産業と考えている傾向があるからです。

フードテックへの投資の状況

出典:フードテック研究会 中間とりまとめ|農林水産省別ウィンドウで開きます

 一方、海外ではフードテックに対する関心は急激に高まっています。たとえば、2020年5月に発表されたEUの新たな飲食品産業戦略「Farm to Fork(農場から食卓まで) Strategy」の中では、植物・藻類・昆虫などの代替たんぱく質に関する技術開発を重要視し、米国ではバイオテクノロジーなど自国のフードテック分野での競争力に直結する技術を輸出管理対象にしています。つまり日本は、フードテック分野での技術開発と業界マインドを含めた活用の両面で、圧倒的に出遅れてしまっているのです。

フードテック官民協議会とは

 この状況に危機感を持った日本政府は、フードテックを活用して、日本の国際競争力を高めるための取り組みを加速させています。その手始めとして、フードテックへの研究開発の投資を促進し、民間の企業や個人が協調して生産性向上や価値向上に取り組む際の問題解決や新市場開拓を加速させるため、2020年10月に農林水産省が、産学官連携による「フードテック官民協議会」を立ち上げました。

 フードテック官民協議会は、日本の食・農林水産業の発展や食料安全保障の強化につながる資源循環型の食料供給システムの構築や、食のQOL(Quality of Life)の向上を実現する技術基盤の確保を目指す、農業、水産業、飲食品加工業、物流業、食品小売業、外食産業、廃棄物/資源管理産業などの間での異業種連携を促す官民横断のプラットフォームです。協調領域の課題解決に向けて議論する場である「作業部会」と、協議会参加者のリソースを利用してフードテックの開発・活用の機運を高める「コミュニティ」という二つの活動を行っています。それぞれ会員の関心領域の多様性や自主性を尊重し、「この指とまれ方式」を採用して活動しています。

国家プロジェクトとして進めるフードテック

 また、産業競争力の基盤となる新技術の開発を活性化・加速させるための国家プロジェクトでも、フードテックに関連した研究テーマが数多く採択されています。

 たとえば、世界の動物性たんぱく質の需要の増大に対応するフードテックを確立する文部科学省のプロジェクト「将来の環境変化に対応する革新的な食料生産技術の創出」では、最先端の生命科学と工学を駆使して、光合成で育つ藻類を栄養源にしてウシなどの細胞を培養し、人工的にステーキ肉を作り出す研究や、植物原料で作った養殖飼料を使い再生可能エネルギーで動く沖合・洋上養殖システムで、遺伝子工学で速く成長するサバを育てて、動物性たんぱく質の需要増に応える研究が行われています。

 日本発の破壊的イノベーションの創出を目指す内閣府による「ムーンショット型研究開発制度」の枠組みのなかでは、農林水産省のプロジェクト「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」を実施。人口増加や地球環境保全に対応可能な食料生産システムを構築し、食品ロスをなくしてムダのない食料消費社会や、人工的物質に依存しない生物・自然循環が円滑に機能する社会を実現するための技術開発が進められています。ここでは、CPS(Cyber Physical System)を利用した作物の強靭化やシロアリの木材分解能力を用いた未利用木材の飼料化・食料化、食料不足の解決と将来の人類の宇宙進出を見据えた昆虫を使った循環型食料生産システムの開発など、10件の野心的な研究開発が進められています。

フードテックが解決できる問題

 フードテックが生み出す最大のメリットは、食に関するさまざまな問題が解決できる可能性があるという点です。ここからは、フードテックが解決できる問題を取り上げ、どのような取り組みが行われているのか解説します。

食糧不足の問題

 世界的に見ると、現代の人口は増加する一方です。2055年には、世界の人口は100億人を超えると予想されており、深刻な食糧不足の問題を抱えています。

 食料不足を解消する方法として期待されているのがフードテックです。たとえば、AIが搭載された機械で無人農場を経営する技術が開発されれば、効率的に農産物を生産できます。食物生産の新技術や新素材などの開発が、食料問題解決の糸口として期待されているのです。

飢餓問題の解決

 フードテックでは、食材を長期保存する方法も開発・研究されています。世界には、食糧不足による飢餓に苦しむ人がいる一方で、先進国においては常に多くの食糧が廃棄されているのが実情です。フードテックによる食材の長期保存は、世界規模で見た食糧バランスを均等にできる可能性があります。

菜食主義のひとの代替品の製造

 世界には、菜食主義により動物性の食品を避けた食事をする人も多く存在します。宗教的な問題や、動物愛護の観点、もしくは健康に配慮して菜食主義志向になるなど、理由はさまざまです。

 そんな菜食主義者にとって、植物性たんぱく質による代替えミートを生産するフードテックが注目されています。

食の安全

 食品が傷んでいるかどうかを診断するフードテックツールもあります。この技術により、腐敗した食材を口にするリスクが減り、食中毒を防止することが可能です。

 また、安全に長期保存ができる梱包材料も、フードテックによって開発が進んでいます。傷みを軽減するほか、何かの拍子に異物が混入してしまう可能性を減らすことが目的です。より高い食の安全性が期待できます。

人材不足の解決

 国内では農業や漁業などの第一次産業のほか、食品製造業なども常に人材不足に悩んでおり、事態は深刻です。さらに、労働人口の減少に伴い、外食産業の人材不足もささやかれています。しかし、フードテックによりロボットやAIが開発されることで、省人化や無人化ができれば人材不足の解決につながります。

フードテックのデメリットや問題点は?

 食に関する問題解決が期待される一方で、フードテックはお金がかかることが課題です。たとえば、太陽光に代わる光を作るための電気代や、雨水に代わる水道代がかかります。

 また、必要な栄養が入った栄養液代のほか、肉を科学的に作り出すための科学用品代など、食品開発にも多くの費用が割かれてしまうのです。

フードテックで注目される最先端テクノロジー

 フードテックによって、まったく新しいテクノロジーが数多く生まれ、注目を集めています。災害時に役立つものや、多様化する消費者のニーズに応えるものなどさまざまです。ここからは、フードテックによって生み出された、最先端のテクノロジーをいくつか紹介していきます。

フードテックによって生み出された最先端のテクノロジー

人工肉

 菜食主義者の代用食品として注目を集める最新テクノロジーの一つが、限りなく本物の食用肉に近付けた人工肉です。水や小麦、自然由来の油などを用いた植物由来の肉によって、本物の肉を食べなくても、健康に害を及ぼさずに栄養を摂取できるとして注目されています。

 人工肉は大豆ミートやグルテンミートといった製品として、すでに市場に出回っている食材です。特に、アメリカなどの国外の市場では、肉ではないのに肉売り場に置かれるなど、すでに一般的な食材として認知されつつあります。

植物工場

 農業は、異常気象や害虫など、外的要因に強く影響をうける産業です。これは国内外問わず、世界的な問題として常に取り上げられてきました。

 この課題を解決するために生まれたのが、植物工場というフードテックです。屋内での栽培が可能になったことで、生産量が天候や害虫に左右される心配がありません。

 また、砂漠や、栽培に向かない気候の地域でも、農業を営むことができるようになります。各生産者の生産性が飛躍的にアップすることが期待されています。

細胞培養

 細胞培養とは、動植物の食べられる部分の細胞だけを抽出し、それを培養させる技術です。本物と変わらない牛肉や魚、野菜などの食材を作り出すことができます。たとえば、培養肉は牛などの動物の幹細胞を培養し、増殖させて作り出した代替製品のことを指します。

 膨大なコストがかかることが課題ですが、地球環境にもやさしく、衛生管理もしやすいことから、非常に期待されているテクノロジーの一つです。

新食材

 これまで人類が食してこなかった食料を生産するようなフードテックもあります。ミドリムシを粉末にしてクッキーやドリンクにした製品、必要な栄養がすべて採れるグミなど、新食材と呼ばれるものです。

 なかでも昆虫は、栄養価が高く、環境にかかる負担も低いため、商品開発やレシピの研究が進められています。食材として認められれば、低コストで大量生産も可能です。国によっては高級食材として扱われるほどで、注目度の高い新食材の一つです。

陸上養殖

 陸上養殖とは、陸地のプラントで魚を育てる技術です。陸上で魚を養殖すれば、作業負荷が軽減し、飼育環境をキメ細かく管理できるため生産性も向上し、養殖可能な魚の種類も増やせます。さらに、消費地近隣での養殖も夢ではなく、新鮮な魚を迅速に届ける高付加価値な漁業も実現します。陸上養殖には、海の近くにプラントを作って海水を生け簀に送り込んで養殖環境を整えるかけ流し式と、生け簀の汚れた水を濾過して循環させる閉鎖循環式があります。メリットが多いのは閉鎖循環式ですが、その分技術的な難易度が高い方法になります。

ITをはじめとする先端科学技術の活用

 フードテックにITやロボティクスを活用して、新たな価値を生み出す動きも活発化しています。たとえば、収集した天候・土や水の温度・土壌成分・作物の生育状況といった農地の情報をIoTで検知したり、経験豊富な農家の知見を学習させたAIで最適な農作業の条件を見つけ出したりするなど、自動的に管理できるようになりました。これによって、人手が足りなくても、作物の品質と収穫量を向上できます。また、飲食業で人と共存できる安全で汎用性の高いロボットを導入し、料理の盛り付けや配膳、皿洗いなど単純作業を自動化して、人手不足に対応する例も出てきています。さらに、調理過程での食材の分子レベルの変化と美味しさの要因を科学的に結びつけ、物理現象や化学反応を理詰めで組み立てて、これまでにない調理法や究極の風味・食感を追求する分子ガストロノミーと呼ばれる調理法の確立も進みつつあります。

フードテックを取り入れた事例

 実際にフードテックに取り組み、自動化が進んでいない分野を自動化したり、環境にやさしい食品の開発をしている事例もあります。ここからは、各社がフードテックに対してどのような取り組みを行っているか、取り組み事例を解説します。

コネクテッドロボティクス株式会社

 「食産業をロボティクスで革新する。」をミッションに、高いロボット制御技術とAIや画像認識技術を活用して食品を扱うロボットシステムを開発しています。

 コネクテッドロボティクスが提供する惣菜盛付ロボット「Delibot」は、柔らかくてつかみにくい食材を、規定量を計測して掴み、トレーに盛り付ける工程を自動で行うことができます。4台で1時間1,000食を盛り付けることが可能であり、これは一般的な食品工場で人が行うスピードと同等です。Delibotは食品産業の中でも自動化が進んでいない盛付け工程の自動化を実現しました。

出典:ABOUT - コネクテッドロボティクス株式会社別ウィンドウで開きます

株式会社ニップン

 株式会社ニップンは、植物性タンパク質素材「SOYL PRO(ソイルプロ)」を開発しました。ソイルプロにより、従来では表現できなかった肉のような弾力やクセのない風味を実現して、代替肉として広く利用されています。大豆ミートなど、代替肉は低カロリー、低コレステロール、高タンパクであることから、健康意識の高い方を中心に注目を集めています。また、環境負荷が小さく、地球にやさしいことも注目を集めている理由の一つです。

出典:ソイルプロ商品情報|ニップンSOYL PROソイルプロブランドサイト別ウィンドウで開きます

ベースフード株式会社

 ベースフードは、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」をミッションに掲げ、完全食の開発・販売をしています。

 パンや麺などにビタミンやミネラルなどを加え、成人が1日に必要な栄養素の3分の1を1食で摂取できるようにした「ベースブレッド」や「ベースパスタ」などを販売しています。完全栄養食として、米ぬか粉やパン酵母、チアシードなど10種類以上の原材料を使い、たんぱく質や食物繊維、必須脂肪酸、26種類のビタミン・ミネラルなど合計33種類の栄養素を1食で摂取することができます。オンラインやコンビニなどでも気軽に購入することができます。

出典:完全栄養食 BASE FOOD(ベースフード)別ウィンドウで開きます

まとめ

 フードテック業界は常にめざましい成長を遂げており、新しい技術や企業が次々と生まれています。2019年8月、都内では食・料理とテクノロジーの融合を追求する「スマートキッチン・サミット・ジャパン 2019」が開かれました。

 同サミットにはキッチンメーカーや料理人、医学研究者、デザイナーといった、さまざまな分野の個人や企業、約300名が参加するなど、各界における業界への注目度の高さが知れる結果となっています。

 このように、さらなる活用が期待されるフードテック業界に関する最新情報を収集することは、ビジネスをするうえでも重要です。トレンドの技術をきちんと理解するためにも、まずはフードテックの最前線についての記事を読んでみてください。

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