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2020年02月07日

顔認証を活用したマーケティングの可能性

 店舗、イベントといったオフラインでの接客に加え、メルマガ、SNS、スマホアプリ、Webなど、オンラインを介して顧客とのさまざまな接点を持てるようになった現在のマーケティング。しかし、重要なのは個々の施策ではなく、チャネル全体で顧客体験価値を高めること、つまり適切に「おもてなし」ができているかどうかだ。その切り札の1つとして注目されているのが顔認証だ。なぜ、顔認証が「おもてなし」マーケティングで重要な役割を果たすのか、その仕組みでどんなメリットが生まれるのか。NECのデジタルマーケティングを担当する東海林 直子に話を聞いた。
生体認証とは?

NEC
IMC本部
本部長代理
東海林 直子

デジタルマーケティングの限界と可能性とは

 メルマガ、SNS、スマホアプリ、Webブラウザでの行動履歴など、オンラインのさまざまな情報を分析、最適なマーケティング施策を実施するデジタルマーケティング 。既に多くの企業が実践しており、マーケティング領域においてデジタルマーケティングは不可欠な取り組みとなりつつある。

 とはいえ、マーケティングの対象となる顧客の活動すべてをオンライン側だけで把握できるわけではない。デジタルの世界とリアルの世界、オンラインとオフラインの間を絶えず往還している人々の姿をできるだけ正確に捉えることが、現在のマーケティングの1つの課題となっているという。

 なぜ、オンラインだけではだめなのか。それを解くキーワードは2つある。まず1つ目がアノニマス(誰かわからない匿名のお客様)に対するアプローチだ。NEC IMC本部でマーケティング戦略に携わる東海林 直子は次のように説明する。

 「最近になってより重要だと感じているのは、マーケティングプロセスのアノニマスに対するアプローチの取り組みです。お客様が最初にNECの情報に接して興味を持っていただけるチャネルを調査したところ、新聞やインターネットメディアの記事であるケースが多いことがわかりました。ニュースリリースを出して、取材を受けて、記事としてメディアに掲載される。それを見て、製品やソリューションに興味を持って、NECのオウンドサイトに来訪してくださる──。そうした戦略的な広報活用を広報室と連携してマーケティングプロセスの中で実践していくことが重要になってきているのです」

 デジタルの世界では、膨大な情報が氾濫しており、そうした流れを意識的に作り出さなければオウンドサイトにたどり着いてもらうことさえ難しい。デジタル上の接点にたどり着く前に、勝負がついてしまっているというわけだ。

 2つ目のキーワードが「より深い顧客理解」である。ようやくオウンドサイトにたどり着いてもらったとしても、問題は興味を持ってくれた見込み顧客にいかに適切なアプローチを行えるかである。的外れな情報提供を続ければ、当然、顧客は離反していく可能性が高い。

 こうしたことが起こるリスクを減らすため、NECでは、ユーザデータをリアルタイムに把握し、ほかのツールへ連携できるTealium社の顧客データオーケストレーションプラットフォーム「Tealium Customer Data Hub」 を活用しているという。

 「お客様がどのような人かがある程度わかれば、来訪時にその人たちの興味に合ったポップアップの掲示などをして、さらに興味を醸成するという施策が可能になります。そのお客様が、NECのイベントに足を運んでくださり、そこで名刺交換などができれば、そこから長期的な関係を構築していくこともできるでしょう」

 広報や取材記事などから興味を持ってくれた顧客とのエンゲージメントと、自社からの情報提供に同意をしてもらった顧客とのエンゲージメント。その2つのプロセスをつなげて顧客との継続的関係を構築していくのが、より重要になってきているというわけだ。

顔認証がリアルとデジタルをつなぐブリッジとなる

 このコミュニケーションデザインにおけるポイントの1つは、オフラインの接点がより重視されていることだ。オフラインには、店舗をはじめ、イベントやセミナー、ショールーム、ユーザー会、営業活動などさまざまなタッチポイントがある。そこで得られた多種多様な情報をオンラインの情報と統合していくことによって、よりトータルで正確な顧客像を描くことが可能になる。

 「例えば、BtoBビジネスの場合、同じ企業、同じ組織のお客様と別々の接点でコミュニケーションをとるケースが少なくありません。すべての接点で得られた情報をつないでいくことで、お客様理解を深めることができます。また、そのお客様のつながりには、別のキーパーソンや組織があるかもしれません。上司、部署、プロジェクトでつながっている事業部など、適切なリーチをするためには個人だけでなく、全体像を理解しておく必要があるわけです」

 さらに、オフラインの顧客情報には可視化されていない情報も含まれる。例えば、「イベントに来場した顧客がどのブースを回っているか」「どのコーナーに長時間滞在しているか」といった情報だ。それらは顧客の興味関心を示す非常に重要な情報である。Web上の行動データを取得するようにリアルな行動をトレースすることができれば、顧客のニーズや興味関心をより深く理解することができる。

 既にそうした取り組みも進めている。2019年10月に開催されたTealium主催のイベント「Digital Velocity Tokyo 2019」でNECが行った実証実験は、その方法の確立を目指したものだ。このイベントでは、企業のマーケティングやIT戦略の担当者が集まり、顧客データ戦略やデジタルトランスフォーメーションについての情報交換が行われた。来場者がそれぞれどのブースを見て回ったかを顔認証を利用して把握するというのがその実験の概要である。600人の来場者のおよそ1割が実験に協力してくれたという。

 「情報の取り扱い条件について提示を行い、ご了承を得らえた方にのみ、事前に顔情報を登録していただき、それぞれのブースに設置したカメラで本人確認をしてリアルタイムに情報を発信しました。 スタンプラリーのような感覚でブース回遊を楽しんでいただくことができたと思います。多くの方に関心を持っていただけたようです」 (NEC担当者)

 実験に参加した人の中には、自社のマーケティングにこの仕組みを使う方法についてNEC担当者に問い合わせる人も多かったという。「これまでは『誰かがセミナーに来た』という程度しかわかりませんでしたが、顔認証ならこのブースに〇〇会社のキーパーソンが来ていて、事前にどんなことや自社製品の何に興味を持っているのかがある程度把握できる。そうすれば、より詳しい販売員を差し向けたり、スマートフォンに限定された人用の詳細資料などを渡したりするといった対応も可能になります」

 せっかくキーパーソンが情報収集をしに来てくれたのに、詳しい人がいない状況で、他社に先を越されてしまう。そんな状況を回避できるわけだ。

BtoCビジネスにおける顔認証活用の可能性とは

 適用領域はBtoBだけではない。顔認証システムを活用したオフラインの情報取得とオンラインデータとの統合の仕組みは、もちろんBtoCビジネスでも利用可能だ。

 「例えば、自社のECサイトでよく購入してくれるお客様がリアル店舗を訪れたとき、そのお客様にふさわしい体験を提供するといった使い方が考えられます。丁寧な接客をするだけではなく、リアルタイムにクーポンを発券するなど 、そのお客様だけのサービスを提供することによって、 さらに関係を深めていくことができるでしょう」

 リアルタイムに統合された顧客情報があれば 、最適なタイミングで「特別扱い」することができるというわけだ。そのようなサービスがどの店舗に行っても受けられるようになれば、顧客のロイヤリティが高まり、ブランドと顧客との関係は極めて強固なものになるだろう。

 「また最近では、リアル店舗で商品を確認し、オンラインで購入する人も少なくありません。オフラインとオンラインをシームレスにつなぐ関係づくりは、今後ますます重要になっていくと思います。オフラインで顧客情報を取得する方法は顔認証のほか、さまざまあるが、NECの顔認証システムの認証精度は高いため()、適切なアプローチにより顧客との関係を強固にするのにお役に立つと思います」(東海林)

米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価で5回目の第1位を獲得
NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません

 もちろん、顧客側にもメリットがある。例えば、購入したい商品が決まった上でリアル店舗に行ったときには、目的の商品を最短時間で購入することが可能になる。ニーズや嗜好性にあった情報、特典が得られるのも大きなメリットといえるだろう。

企業の「信頼」がテクノロジー活用のベースになる

 現在、デジタルデータの活用におけるプライバシー情報の保護がグローバルな課題となっている。顔写真という個人情報の取り扱いも、もちろん細心の注意が必要だ。

 本人同意はもちろんのこと、いつでもオプトアウトする仕組みの提供(あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置く方法)、何に利用されるのか透明性も高く本人が理解できることなど、本人の不安を払しょくするための取り組みを丁寧に行う必要がある。また、テクノロジーによって暗号化する、同意のない情報を匿名化(マスキング)するなど、社会に受容されるためのテクノロジーであると、きちんと提示することができる 会社だけが「信頼」されることになるでしょう。

 テクノロジーによってさまざまなデータの取得が可能になっている今日、テクノロジー企業やデータを活用する企業に求められているのは「信頼」であると東海林は言う。

 「個人を識別するテクノロジーの信頼性、情報活用のポリシーに対する信頼性、テクノロジーを提供する企業自体の信頼性──。それらがあって初めて、顔認証システムはマーケティングに役立つツールになると私たちは考えています」

 NECは今後、実証実験の結果を生かし、マーケティングにおけるオフラインとオンラインの統合の仕組みを広く提供していく予定だ。しかし、一方的にソリューションを提供するのではなく、企業との共創によって最適な活用法を考えていくのが基本的なスタンスである。

 「今後、インバウンドがますます増えることが見込まれています。海外からWebで日本の企業や自治体の情報に接した観光客が日本を訪れた際に、どれだけ最適なおもてなしを提供できるか。そんな課題もこれからは出てくるのではないでしょうか。宗教上の理由、あるいはアレルギーで食べ物が限定されたり、障害がおありになって、介助が必要な方もいらっしゃるかもしれません。顔認証でそのオフラインとオンラインをつないで、素晴らしい顧客体験を創造する方法を多くの方々と共に考えていきたいですね」

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