2016年04月15日
働く大人の学びと成長
安西洋之氏×三宅秀道氏 対談(前編)~これからの企業は「文化」を知るべき~
「お土産物」になってしまう日本雑貨
──企業が海外進出する際に、どのような心がけが必要になりますか?
安西氏:
三宅先生のご著書で紹介されている「文化開発」は、「コンテクスト」という言葉に言い換えることができると思いました。『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』(日経BP社)で色々と事例を紹介しましたが、企業が海外に進出する際にローカライゼーションがなぜ必要なのかと言うと、コンテクストが違うところに新しい商品を持っていかなければならないからです。たとえば、日本酒をヨーロッパで売るときに役所が考えがちなのは、大使館に貴族や上流階級を呼んで振る舞うといったようなこと。しかし、それではあまり上手くいかないと思う。なぜなら、ミシュラン級のレストランを利用する人の7割くらいは、法人の接待で使っているからです。この7割は、いわゆる「羽振りのいい人たち」であり、「気前よくお金を使って気持ちいい」「自分たちが時代の先端を行っている」と思わせなければいけません。そういうコンテクストに日本酒を埋め込む必要があります。
三宅氏:
昔でしたら、貴族の真似をすることがステータスでした。アメリカだったら、貴族がいない代わりに、その機能をセレブたちが担っていた。安西さんのお話を聞いて、ヨーロッパにも古い階層とは違う、新興ビジネスマン階層が出てきているのだと思いました。
安西氏:
アメリカのタイムワーナー社が発行している「Wallpaper*」というライフスタイル誌があります。読者層は年収が高く、都市生活者が80%くらい。その「Wallpaper*」と提携した「WallpaperSTORE*」というオンラインショップがあるのですが、扱う商品の基準は「インターナショナル・デザイン」であることです。彼らの言う「インターナショナル・デザイン」とは、つまり「西洋文化様式」ということなんですね。一方、日本のデザイン雑貨は「伝統」「歴史」などがパッケージ化されて売られている。しかし、西洋文化様式に合ってないので、メインとしては扱われないのです。
三宅氏:
つまり、日本の雑貨はどこか飾り物と言うか、異国趣味の「お土産物」のように扱われて、暮らしの中のコンテクストに入り込むことができていないということでしょうか。
安西氏:
そうです。日本雑貨が収まるようなポケットはあるけど、そんなに大きいわけではない。だから品揃えにはあるけど、実際には売れていないと言うアンバランスな状況があります。
──もっと広く普及させるためには、新しいコンテクストを作る必要がある、と。
安西氏:
そうですね。では、なぜ日本雑貨が扱われているかと言うと、ヨーロッパやアメリカ以外の品揃えがないと面白味に欠ける。面白味があって、洗練された商品を他の地域から持ってくるなら、日本くらいしかないと言うんですよ。他のアジア諸国にも、素晴らしい商品があります。しかし、トップの次の2番手くらいになると、ガクッと質が落ちる。その点、日本は2番手でも質が落ちません。とどのつまり「仕方なく、日本の商品を扱っている」ということです。他の地域の質が上がってくれば、日本でなくても良いということになります。