2016年05月13日
働く大人の学びと成長
安西洋之氏×三宅秀道氏 対談(後編)~「コンテンツ」から「コンテクスト」への転換を~
気鋭の経営学者・三宅秀道氏(専修大学経営学部准教授)と、ヨーロッパとアジアの企業間提携、商品企画、販売戦略の提案などを多数手がけ、異文化理解の重要性を強調している安西洋之氏の対談。前編は企業が「文化開発」していく重要性や、商品のローカライゼーションなどについて伺った。後編はさらに深掘りして、企業が「文化」と関わり合いを持たなければいけない理由や、経営者のビジョンや企業文化を継承していくための方法などについて伺っていく。日本企業が「技術神話」から脱却して、新しい時代を生き抜いていくためには、どのような心がけが必要なのか。熱い議論が交わされた。
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ビジネスプランナー
三宅 秀道(みやけ ひでみち)氏(右)
専修大学 経営学部 准教授
「コンテンツ勝負」か「コンテクスト勝負」か
──前編 では、日本企業が海外で「文化開発」していく難しさについてお話がありました。
三宅氏:
最近になって、海外に商品を普及させる際に規格や機能のローカライズが必要だと辛うじて気づいたくらいで、実は「文化戦争」なのだという感覚が、多くの日本企業にはありません。規格や機能を現地に合わせるのは当たり前です。それに加えて、その商品を良しとする価値観から作っていかなければならない。成功した事例としては、キッコーマンがアメリカに醤油を輸出する際、まずは日系人を中心に広めていって、その後、醤油という味覚の魅力やレシピを非日系人に啓蒙していったというものがあります。さらに、戦前に三菱商事が北太平洋に蟹工船を出して、蟹食文化を広めたという事例もある。昔からやっていることはやっているんだけど、どうしても「匠の腕」さえ磨けば商品が普及すると思ってしまいがちなのが日本企業なのです。それでも商品力さえあれば、ある程度は普及するのですが、向こうのスタンダードを獲得するまでには至らないでしょう。
安西氏:
大企業にはいくつかあるのですが、そうした成功例を思い浮かべられる中小企業が、日本にはあまりありませんよね。中小企業の成功例は、B to Bのコンポーネントなどユニバーサル性の強いものだけで、最終消費者に広く普及した商品が少ない。ですから、「あの会社のようにやろう」というモデルケースがなく、参考にすることができないのです。一方、イタリアやフランスは「文化」を軸にした生活雑貨で市場を獲得しているので、参考にする事例がたくさんあります。
三宅氏:
それは、技術では敵わないから、ある時期からヨーロッパが「文化」に標準を合わせたということになるのでしょうか。日本に限らず後発工業国は、文化の成熟度よりも技術や機能で押すことを選んだ。一方、ヨーロッパは後発国の秀才が一生懸命機能を高めたものと勝負するよりは、最終消費者の「文化」に食い込むような戦略をとった。つまり、「コンテンツ勝負」か「コンテクスト勝負」の差で、有利なほうをお互いが選んだということです。しかし、現在は日本もアジア諸国などの後発工業国に追い上げられています。そうなると、戦い方を「コンテクスト」に変えなければいけなくなる。しかし、日本の企業は相変わらず「技術神話」から抜け出せずに「コンテンツ勝負」をしています。
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安西氏:
「コンテクスト」に戦略を変えなければいけないのに、先行事例が少ないから苦労しているのでしょう。ヨーロッパは西洋の「生活」を普遍の名のもとに世界的に広めたことによって、それに対する憧れを消費者に植えつけました。「生活への憧れ」が1つの商品となったわけです。