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2016年04月15日

働く大人の学びと成長

安西洋之氏×三宅秀道氏 対談(前編)~これからの企業は「文化」を知るべき~

 商品の質や性能を向上させていくだけでは、新しい市場を開拓できない時代になったと言われている。そんななか、気鋭の経営学者・三宅秀道氏(専修大学経営学部准教授)は、著書『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)などの中で、消費者の「暮らし」を変え、新しい市場を丸ごと創造するような「文化開発」が必要だと指摘している。一方、『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)などの著書がある安西洋之氏は、ヨーロッパとアジアの企業間提携、商品企画、販売戦略の提案などを多数手がけ、異文化理解の重要性を強調している。企業にとって「文化」とはなにか。これからの企業はどのように「文化」と関わっていくべきなのか。「文化」をキーワードにし、両氏に日本企業の行く先について伺った。

安西 洋之(あんざい ひろゆき)氏(左)
ビジネスプランナー

三宅 秀道(みやけ ひでみち)氏(右)
専修大学 経営学部 准教授

少人数で先端的な仕事をするヨーロッパ

──お2人とも、中小企業に焦点を当てたご著書を出版されています。三宅先生にはWISDOMのスペシャルインタビューでお話を伺っていますので、まずは安西さんが、中小企業やベンチャーに興味を持ったきっかけについて、お伺いしたいと思います。

安西氏:
 20代は、いすゞ自動車で働いていて、エンジンなどの大型コンポーネントをGMグループに供給する仕事をしていました。当時、GM傘下にあったいすゞ自動車はGMの大量生産を主体とした開発方法を採用していました。80年代後半にGMがイギリスのロータスを買収したことがきっかけで同社も担当することになり、両社の開発方法の違いに気づきました。GMでは、完璧な図面を描いてから部品メーカーにサンプルを発注するのが基本。しかし、少量生産のロータスは、市場から使える現物を調達して、まずは試作品を作り、それから図面を描くという順序です。私は「新しいコンセプトを作る」ことに興味があったのですが、そのためにはロータスのような柔軟な発想で開発する必要があると実感しました。

──少量生産の企業だからこそ、できることがあるのだと。

安西氏:
 もう1つ、当時ロータスはロゴをアルファベット主体のスマートなものから、創業当時のやや古くさいものに戻しました。彼らの説明は「我々は歴史の中でブランドを作っている。創業者の理念や精神を常に意識できるようにしたい」というもの。80年代の日本は、古いものをどんどん壊していこうという時代だったので、彼らの考え方は新鮮でした。すごくヨーロッパ的だと思ったんですね。「歴史的な時間軸や文化的な風土の中からこそ、新しいコンセプトが生まれていく」ということをロータスから学びました。

三宅氏:
 自動車は「文明の利器」でもあると同時に、「文化財」でもあると思っています。機能が充実しているのは当たり前で、ステータスなどを含めて「乗っている人の喜びを最大化するためにはどのようなことが大切なのか」というアプローチが必要です。「文化財」として商品を作る思考の蓄積が少ないことが、日本のものづくりの足枷になると思っています。

──安西さんは著書の中で、「中小企業にこそ時代の先端感覚があるのだ」と記されています。

安西氏:
 ヨーロッパには、少人数で先端的な仕事をすることを良しとする風土があります。ビジネス規模の拡大を、優先順位の一番に置かないという文化がある。ただ私の場合、大企業が駄目というわけではなく、生き方として中小企業と仕事するほうが向いていたということです。

三宅氏:
 部品点数が膨大でなおかつ精緻な製品を大量生産しようと思うと、とても少人数の組織ではできません。少人数の組織に勝機があるとしたら、「こんなものは今までなかったけど、あったら便利でしょ?」というコンセプトを打ち出すこと。コンセプトを見せられれば、「あったほうがいい」と学ばされるけど、それまで誰もが思いつくことさえできなかったようなものを作ることが、小組織の生き残る道なのです。安西さんのご著書には、その事例が豊富に紹介されている。最先端で活躍する中小企業の事例は、大企業にとっても参考になると思います。

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