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2016年04月15日

働く大人の学びと成長

安西洋之氏×三宅秀道氏 対談(前編)~これからの企業は「文化」を知るべき~

「文化開発」としてのソムリエ制度

──日本は、自国の文化を「輸出」することが上手くないということでしょうか。

三宅氏:
 人様の文化圏に、自分の文化を提案、普及させていくような「文化輸出国」の気概が日本にはないということですよね。あわよくば「文化宗主国」になるような度胸がない。「異国趣味」の枠だけに甘んじていると、当面は割りがいいんですよ。ちょっと値段が高くても、「お土産物」として1つや2つは買ってくれますから。でも、それでは、「エキゾチック枠」や「オリエンタル枠」から抜け出すことができません。広く普及させるためには、「習慣、普及、啓発、教育」をセットにした戦略が必要になると思っています。

安西氏:
 「文化開発」の一番のビジネス成功例は、フランスワインのソムリエ制度です。ソムリエは、要するに営業部員ですよね。ワインを売るだけではなく、ワインを飲む文化から普及、啓発して、フランスワインを飲むことが、価値がある行為だと世界中にプレゼンしています。

三宅氏:
 私は自著『なんにもないから知恵が出る 驚異の下町企業フットマーク社の挑戦』(磯部成文氏との共著、新潮社)で、水泳帽を学校教育と結びつけて普及していったフットマーク社を、「家元型企業」であると表現しました。日本酒を例にすると、まずは、「向こうはお酒を飲み切るから、瓶を小さくしなければいけない」という、規格や機能のローカライズをしなければいけない。しかし、大切なのは「何と食べたらおいしい」「こういうお酒は格式がある」といった文化を啓蒙、啓発していくことだという話ですよね。

安西氏:
 日本企業は、「質の良い商品さえ作っていれば、なんとかなるだろう。売れるだろう」と思っているところがあって。でも、それだけでは駄目なんです。ワインのソムリエのような制度を普及させるためには、どうしても業界団体を機能させなければいけません。

三宅氏:
 まさに、フットマーク社は日本水泳連盟と組んで、水泳帽を普及させていきました。しかし、それを海外でやっていくのは大変ですよね。特に中小企業では手に余ってしまう。

安西氏:
 まったく同じですね。日本の中小企業は、「今、自分たちが戦わなければいけないのは、どれくらいのサイズのコンテクストなのか」という見極めができていない場合が多いと思います。ヨーロッパの中小企業は異文化に接しているから、「これくらいのコンテクストの異文化と戦えばいいのだ」という計算ができている。たとえば、異文化に乗り込むにはコミュニケーションコストがかかりますよね。誤解が生じて、プロトタイプを作り直さなければいけないことになるかもしれない。だから、日本の企業がヨーロッパの企業に仕事のオファーをするとき、現地の値段より高く見積もられるケースがあります。「我々が日本人だから甘く見ている」と怒る人も多いようですが、そうではなくて、コストを計算した結果なんです。

三宅氏:
 勉強になるご教示です。

安西氏:
 商品を売るにしても、コンテクストを変えるために、どれくらいのコストがかかるのか。業界団体を巻き込むために、どれくらいのロビー活動費がかかるのか。そういった計算がないまま海外に進出しても、向こうで「文化開発」していくほどの仕事はできないでしょう。

 前編は企業が「文化開発」していく重要性や、商品のローカライゼーションなどについて聞いた。後編はさらに深掘りして、企業が「文化」と関わり合いを持たなければいけない理由や、経営者のビジョンや企業文化を継承していくための方法などについて伺う。

(インタビュー・文 宮崎智之)

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