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2016年05月13日

働く大人の学びと成長

安西洋之氏×三宅秀道氏 対談(後編)~「コンテンツ」から「コンテクスト」への転換を~

企業の「文化」を継承していくためには

──創業者や社長の魅力が中小企業の成長には欠かせないというお話がありました。一方で、トップのカリスマ性に頼っていると、トップが退いたときに会社が立ち行かなくなるケースもあると思います。どのように、ビジョンを引き継いでいけばいいのでしょうか。

三宅氏:
 在職中に後進を育てておくことが重要ですが、難しいですよね。パーソナリティーも含めて、トップの魅力ですから。だから、トップのビジョンを組織に浸透させておくことが大切になる。その場合は、どうなんでしょう。血縁主義がいいのか、そうじゃないのか。安西さんが取材されているヨーロッパの企業は、どのような形で継承していますか?

安西氏:
 上手くいっているのは、娘婿に継がせているケース。娘さんが優秀な婿と結婚すれば、能力主義と血縁主義を両立できることになります。もちろん、当事者たちの意思もありますから無理強いはできませんが、娘婿に継がせて上手くいっている会社は多いです。

三宅氏:
 大阪・船場の商家でも、娘婿に継がせるケースがあったようです。息子は習い事のお師匠さんなどにして、経営からは外させる。それで、番頭の中で優秀な人を娘の婿として迎えるのです。家族の支持もほしいから、血縁から後継ぎを出したい。しかし、能力でフィルタリングをかけたい。それを両立させる知恵のようなものが、商家の間であったのかもしれません。ファミリーだと親の生き方を幼い頃から見ているので「文化」を受け継ぎやすいという利点がある一方、必ずしも能力が高い人材に育つかどうかはわからない。さらに、会社に対して愛が絡むが故に、判断も冷静ではなくなる恐れがあります。

安西氏:
 企業文化の継承で言うと、ヨーロッパでは成功した企業が文化財団を作ることが多いです。アートや音楽の振興をしたり、文化財団からは外れますがワイナリーを買ったりするケースもあります。そうしたことを通して、企業文化や価値観を継承していくのです。

三宅氏:
 なるほど。社員にも文化を継承していくと同時に、対外的に発信していく場所にもなる。

安西氏:
 「財団はビジネスではない」と言いながら、本業の価値向上に役立つというわけですね。財団があると政財界へのネットワークもできます。そのメリットも大きいと思います。

三宅氏:
 “名士”になることで地域からも尊敬されますし、社会的なコネクションも増えると。本日、安西さんにお話を伺って、企業が地域の文化振興に関わっていくことにより、地域の強みと自社の強みを上手く向上させていく。そして、社会貢献の意味だけではなく、きちんと企業の利益になるような仕組みを作っていく重要性に気づかされました。日本の企業も、「文化」こそが生き残りの武器なのだというマインドを持つことが必要だと思います。経営学者としては、そういった考え方を理論化していかなければなりません。今日は多くのヒントと、宿題をいただいたように思います。ありがとうございました。

安西氏:
 私は長らく「文化」という言葉を封印していました。「文化はお金にならない」と思っていたからです。しかし、IT革命以降のユーザーインターフェースの認知の問題からビジネスパーソンが「文化」を理解する重要性に気づきました。企業が海外に進出する際、ローカライゼーションが大切だという話を前編でしましたが、ある時期まで日本企業の間ではローカライゼーションが禁句でした。どちらかと言うと、「日本文化そのものを見せよう」という流れが強かった。一方、ローカライゼーションが禁句でなかったのが韓国で、韓国製品が世界を席巻しました。日本企業も「文化」を理解することが大切だということに、もっと気づいてほしいと思っています。「中小企業」と「文化」をキーワードにされている三宅先生とお話しすれば、きっと面白いはずと思っていましたが、今回、膝をうつようなご意見をたくさん伺えました。ありがとうございました。

(インタビュー・文 宮崎智之)

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