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2017年01月17日

海外の先進事例は日本の未来。マイナンバーカードが生み出す新しいビジネスモデルとは

先進国における新しいビジネスモデルの誕生

小泉氏:
 マイナンバーカードの利便性を高めるには、民間活用を充実させていく必要があります。

 例えばスウェーデンではSPAR(Swedish Population and Address Register)という住民情報のデータベースが整備されており、銀行や生命保険、クレジット会社などが住民情報をオンラインで取得できるようになっています。

 情報は国税庁の住民登録データベースから提供されるため最新のものであり、住民自身のオプトアウトは可能ですが、結婚や出産、入学といったライフイベントに合わせた適切なタイミングで企業からのサービス案内が届くような用途にも使われています。

 またイギリスでも金融、電力、携帯電話の3分野で企業が集めた個人の取引履歴データを本人が自由に利用できる「midata」というプロジェクトが始まっています。本人はそのデータを他の企業に提供して、最適なクレジットカードや携帯電話のプランのレコメンドを受けることができるというサービスです。

国際社会経済研究所 情報社会研究部 主幹研究員
小泉雄介氏

須藤氏:
 日本ではマイナポータル(※2)と連携予定の電子私書箱で、保険会社や金融機関と連携したサービスが実現される予定です。政府の有識者会議でも、企業が保有する購買履歴などの顧客データを、顧客の意思で他社も活用できる「パーソナルデータストア(PDS)」や、データ管理を代行する「情報銀行」などの検討が始まっています。

 私がこれから特に重要だと考えているのが、医療・介護・健康情報の管理と分析です。2025年には団塊の世代すべてが後期高齢者になる超高齢社会が到来します。医療費が枯渇する中で予防医療や質の高い地域包括ケアを実現するには、地方公共団体が管理する個人情報を本人の同意をとった上で公共的な情報バンクに格納し、企業のリソースも借りたビッグデータ分析で、個々人に最適なサービスを提供する基盤が必要になるでしょう。

小泉氏:
 それは重要な観点ですね。例えば要介護度が高くなった高齢者の家族に、いち早くケアサービスの提案を行ったり、処方される薬の内容が適正かどうかカウンセリングしてもらえるサービスなどが考えられますね。何より、予防医療を通じて通院回数や投薬を減らし、医療費を減らすという観点が大事だと思います。

須藤氏:
 各地方公共団体が条例などを作って運用すれば、いろいろな活用法が生まれるはずです。医療や介護、子育てケア、民間サービスなどにマイナンバー制度のフレームワークをうまく使えるようになるでしょう。情報へのアクセスやダウンロードについてもマイナンバーカードの公的個人認証機能で本人確認するため安全面でも問題がありません。

小泉氏:
 そう考えると、エストニアなどを除く諸外国で官民連携サービスがいまだ十分に進んでいないのは、課題が切迫していなかったからともいえますね。日本は高齢化や医療費の問題、少子化にともなう労働力不足など、さまざまな課題先進国であるがゆえに、マイナンバーカードやITの力を使った課題解決へのモチベーションが高い。そこにいろいろなインフラ構築が進み、ビジネスチャンスも拡大しつつあるのかもしれません。

須藤氏:
 そうだと思います。これから官民連携が本格化してくれば、もっと面白いサービスが生まれてきます。例えば自動車に搭載された各種センサーから得られるプローブデータはドライバーのブレーキのかけ方やハンドルの回し方などを克明に記録します。

 これを利用して高齢者の運転挙動の微妙な変化を見極められれば、認知症の兆候をとらえ早期に治療が受けられる医療保険と、リスクに応じて保険料率を柔軟に変えられる自動車保険を組み合わせた新しい商品ができるのではないでしょうか。

小泉氏:
 面白いですね。そこに医療機関から得た既往症データを加味すれば、より精度の高い予測ができるかもしれません。そういった個人の機微な情報の取得と連携はマイナンバーカードの公的個人認証機能が担えばいいということですね。

(※2)マイナポータル:行政機関が国民に対して官民横断的なワンストップサービスを提供するための基盤として2017年7月から本格的な運用を開始予定。
自宅のパソコンなどからアクセスできる国民一人ひとり向けのポータルサイト。

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