2017年01月17日
海外の先進事例は日本の未来。マイナンバーカードが生み出す新しいビジネスモデルとは
本当に必要な人に必要な情報とサービスを届けることができる可能性を秘めた「マイナンバーカード」。このようなICチップ付き国民IDカードで情報管理や本人確認を行う仕組みは、既に世界の多くの国々で進められており、行政手続の効率化や官民連携によるさまざまなサービスの立ち上げにつながっている。
その先進的な取り組みは、今後日本におけるマイナンバーカード活用におけるヒントとなるだろう。マイナンバーカードの利便性やビジネスへの可能性について、グローバルな先進事例に詳しい東京大学の須藤修教授とシンクタンク 国際社会経済研究所の小泉雄介氏が語りあった。
グローバルに普及が進むICチップ付き国民IDカード
小泉氏:
日本のマイナンバーカードにあたる国民IDカードが欧米では早くから導入されています。また、意外と日本では知られていませんが、中南米やアフリカといった新興国も含めると、国民IDカードは非常に多くの国で活用されています。導入されていないのは、イギリス、フランス、アメリカなどの先進国の一部にすぎません。
須藤氏:
アメリカでは長らく社会保障番号(SSN※1)が事実上の個人識別番号として使われていました。しかしICチップもない時代に始まった制度ですから、悪意あるプロファイリングなどが頻発したことで、現在は活用範囲に法的な規制がかかるようになっています。
欧州では、オーストリア、デンマークなどが日本のマイナンバーと制度的に近く、一人ひとりに対応できる行政サービスのインフラとして使われています。特にオーストリアなどでは既に公的個人認証用の電子証明書を携帯電話やスマートフォンのSIMカードに搭載し、より利便性を高めようとしています。
小泉氏:
電子的な活用で一歩先をいくのがバルト三国の1つ、エストニアです。1991年のソ連からの独立以降、IT立国化を国策として進め、電子政府や国民IDカードを早くから普及させていました。このICチップ付き国民IDカードは運転免許証や健康保険証、また公共交通機関のeチケット等さまざまなサービスに利用できます。さらに公的個人認証サービスを使って、オンラインバンキングや選挙などの電子投票に使うこともできます。
特徴的なのが社会保障や税、医療、民間サービスなどを統合する「X-Road」と呼ばれるデータ連携基盤を2001年から導入していることです。このX-Roadによって、自分の所得情報や銀行残高と紐づけて自動的に納税額が決定し、確定申告が大幅に簡易化されるような官民連携サービスが実現されています。
須藤氏:
地方公共団体と政府が連携して早くから住民へ質の高いワンストップサービスの提供を実現しているのがデンマークです。社会保障や医療、教育など幅広い分野で同じ番号が使われているため、地方公共団体側から各世帯や個人の生活状況をかなり深く見通すことができます。
例えば離婚後に一人で子育てしているような家庭で、親が最近カウンセリングを受け始めたとします。「どうやらこの人は生活や仕事で悩んでいて、子育ても大変のようだ」といった情報をキャッチした地方公共団体側が「ケアが必要なら、ぜひこのサービスを申請してください」と踏み込んでいくわけです。
住民の合意を得るまでにかなりの時間を要したと思いますが、セキュアな環境を確保した上で、必要な人には積極的に社会的サービスを届けようという考え方が根底にあるんですね。
小泉氏:
プライバシーに関する議論もあるでしょうが、日本でも子育て中の家庭や介護などで行政サービスが早く機能していれば悲劇を生まなかったようなケースが増えています。悩んでいる人々に、いち早く手をさしのべるための手段としても機能しているわけですね。
須藤氏:
まずは政府と地方公共団体、住民の合意形成が必要ですが、「こんなケースでこんなメリットがあります、だからどんどんマイナンバーカードを活用してください、もちろんセキュリティはしっかり守ります」という議論を日本でももっと活性化させ、広く住民の方々に理解を得ることが必要です。そうすれば社会的にいいサービスがどんどん生まれてくると思います。
(※1)SSN:Social Security Number(社会保障番号)は、アメリカ合衆国において社会保障法(the Social Security Act)205条C2に記載された市民・永住者・外国人就労者に対して発行される9桁の番号。