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2017年02月02日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

中国を席巻するハイテク「シェア自転車」~仕組みで意識を変える試み

背景に「自転車大国」のレガシー(遺産)

 このように画期的なシェア自転車の仕組みがなぜ中国で誕生したのか。中国のハイテク産業の進化は目ざましいものがあるが、純粋に技術的にみれば、仕組み自体はどこの国でも不可能はものではない。GPSによる位置確認やモバイル決済システムなど、既存技術の組み合わせである。

 では中国のどこがユニークだったのかと言えば、まず挙げるべきは「自転車大国」としての特有のインフラと独自の「自転車文化」だろう。

 中国では今世紀初め頃からマイカーの保有台数が急激に伸び、都市部では地下鉄の建設が進むなど、都市公共交通機関が急速に整備されてきた。しかしそれ以前、都市内交通の主役は長いこと自転車だった。近年、自転車の数は減少傾向とは言われるものの、中国全土には3~4億台の自転車があるとみられており、依然として交通手段の重要な役割を担っている。現在でも都市内移動の50~60%は自転車が担っているとの見方もある。

 そのため中国の主だった道路には、自転車専用レーンが広範囲に設けられており、歩道と車道、自転車用レーンが分かれているのが普通だ。朝晩の通勤ラッシュ時などに大量の自転車をさばける都市のインフラがある。乗ってみるとわかるが、車や人が多い割には自転車が比較的走りやすい。

車体に付けられたバーコードをスマホアプリでスキャンすると、「ガチャ」と音がしてカギが開く。

 もう一つの特徴は大量の駐輪スペースが用意されていることだ。先に触れたように、市内の歩道上には白線で囲って駐輪場所として確保されたスペースが随所にあり、主要地下鉄駅の周囲など特に混雑の激しい場所を除けば、停める場所に困ることはない。市民もそれを当然と思っているので、歩道上の駐輪スペースに対して邪魔だという文句を言う人は少ない。このことがシェア自転車の「バラまき」に非常に有利な条件となっている。

「盗んでも意味がない自転車」

 「自転車大国」のレガシーには問題もある。それは盗難の多さである。日本でも自転車泥棒は実は結構たくさんあるけれども、中国はその比ではない。自転車を所有している人は、ほぼ盗まれることが前提になっていると言ってもよいほどだ。そのため誰もが自転車をマンションのエレベーターに乗せて自室まで持っていく。一家に数台の自転車があろうものなら邪魔で仕方がないし、外で駐輪する時には常に盗まれる心配をしなければならない。

 このことが「だったらいっそ自転車を社会の共有物にしてしまい、盗む意味がないようにしてしまおう」という中国版シェア自転車の発想につながっている。確かに、いつでも、どこでも、誰でもタダ同然で自転車が使えるようになれば、特別な高級自転車などを除けば、自転車を盗む意味は劇的に減少する。自転車をいわば水や空気と同じような誰でも使える共有物にしてしまうことで、窃盗という行為を無意味化してしまおうというのである。

ハンドル部分にもバーコードがある。カゴやライトなどの装備はなく、シンプルな構造

 これは極めてユニークな発想である。盗難の多さを逆手に取り、インターネット、とりわけスマホ時代に始めて可能になった実名制の個人管理、GPSによる現在位置の把握と結びつけることで、この発想が現実に運用可能なものになった。

政府の支援と民間の「闇雲な投資」

 そして、この大胆な発想の実現を後押しするのが、政府の支援と民間の闇雲とも言えるほどの活発な投資である。中国の地方政府は、稼働率の低い自転車の大量滞蔵、そしてマイカーやタクシーの近距離利用による交通渋滞、大気汚染の悪化などの対策として、このシェア自転車に注目、積極的に支援している。前述した自転車専用レーンや自転車置き場の増設、都市計画への積極的な組み込みなど、政策は極めて現実的だ。

 そして、そこに続くのが民間の投資である。中国では政府の政策的後押しは、民間の投資の大きな誘因になる。すでにシェア自転車のベンチャー企業各社には日本円で数百億円規模の投資資金が続々と入っている。前述したMOBIKEのGPS付き自転車の製造コストは1台あたり1000元程度とみられており、30分間で0.5~1元という利用料金では簡単に儲かるビジネスでないことは明らかだ。しかし、それでも多額の資金が集まる背景には、即断即決、ハイリスク・ハイリターンの投資を好む中国社会の投資観がある。業界トップを走るMOBIKEはすでに全国100都市に計1000万台の自転車を配置する計画を発表している。黒字化はまったく見えないが、当面、その勢いは止まりそうにない。

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