2017年02月02日
次世代中国 一歩先の大市場を読む
中国を席巻するハイテク「シェア自転車」~仕組みで意識を変える試み
中国の都市部でスマホアプリと決済システム、GPSを結合した「どこでも乗れて、路上で乗り捨て自由」なハイテク共有自転車が爆発的に広がっている。順調に成長すれば、個人所有の自転車は事実上、消滅するとの見方もあるほどだ。世界初のユニークなシステムが中国で誕生し、普及したのはなぜか。その根底を考えてみたい。
10万台の自転車を市内にバラまく
このシステムについて最初に説明しておきたいのが、世界各地の都市や観光地などで導入されている既存の「レンタル自転車」との違いだ。
固定の駐輪ステーションから自転車を借り出し、使用後にどこかのステーションに返却するタイプの「自動管理型レンタル自転車」は、東京をはじめ世界各地に存在する。中国でも多数の都市で数年前から運用されている。これはこれで便利ではあるが、この仕組みの弱点は、出発点と終点は固定されているため、結局はどこかのステーションに行かざるを得ず、往復に一定の時間と労力がかかる点だ。
しかし中国で今回登場した「シェア自転車 (共享単車、中国の「単車」は自転車の意味)」には固定の置き場がない。いわば街中の路上に自転車がバラまかれていて、それを勝手に拾って、勝手に乗り捨てる、というイメージだ。まさに社会で共有された自転車で、運営主体が所有している自転車を「時間貸し」するのとは発想自体が根底から異なる。
スマホ画面でワンタッチ予約、返却は路上に置くだけ
運営事業者によって多少の違いはあるが、仕組みはだいたい以下のようなものだ。自転車本体にはGPSと連動した発信装置が組み込まれており、その自転車の現在位置および誰かが使用中か空き状態かが把握できる。これはタクシー会社が、空車が今どこにあるかを把握して最寄りのお客に配車するのと同じ図式である。
利用者は利用登録をしてスマホアプリをダウンロードしておけば、自分の近くにある空き自転車の位置が地図上に表示される。画面上の自転車のマークをタッチするだけで予約は完了、15分間その自転車が確保される。あとはその自転車の場所に行って、車体に付いているバーコードをスマホでスキャンすればオンラインでカギが開き、乗り出すことができる。目的地に着いたら、自転車に鍵をかければ自動的に利用が終了し、スマホに料金や利用距離、消費カロリーなどが表示される。「返却」は近くの歩道上などに設けられている自転車駐輪用スペースに置いておけばよい。
詳細は後述するが、もともと「自転車大国」だった中国の都市部には当局公認の駐輪スペースが街中のいたるところにあるので、事実上、ほぼ乗り捨て自由と言ってよい。料金は代表的事業者であるMOBIKE(摩拝単車)の場合、自転車の種類によって30分0.5~1元(1元は約17円)。そのほか事前の登録時に299元のデポジットがいる(退会時全額返却)。登録には携帯電話番号と身分証やパスポート、アリペイなどのスマホ決済システムが必要だが、手続は全てスマホ経由で簡単に済む。
どこから、どこへでも移動できる便利さ
筆者も上海で登録して利用しているが、実に便利で、日常生活の行動パターンが変わるぐらいのインパクトがある。自分がいる場所からパッと乗って、好きなところで手放せる(要は路上に置くだけ)、この自由自在な便利さは新鮮なものがある。
例えば、地下鉄やバスでどこかに行く場合、車中で降車駅(バス停)の近くにある空き自転車を検索、予約しておき、降りたらそのまま乗って目的地に向かう。帰りはまた近くの空き自転車を探してもよいし、その場所からタクシーなど他の方法で帰ってもよい。筆者がよくやるのは自宅から散歩やジョギングに出て、疲れたらこの自転車で帰ってくるというやり方だ。カフェに入って自分が今しがた路上に停めた自転車を他の人が乗って行くのを見るのは、いかにも「シェアしている」という実感がある。
市内数㎞圏内の移動であれば事実上「最速」の交通機関だと思う。自分の近くにある自転車を予約してしまえば、20分も乗れば2~3㎞は確実に移動できる。地下鉄のように階段も待ち時間もない。タクシーのように、乗りたいのに捕まらないとか、渋滞で遅れる心配もない。目的地に着いたら目の前の路上に停めるだけなので圧倒的に速い。疲れたら帰りは公共交通機関で戻ってくればよい。
実感としては「誰かから借りて、返す」という意識ではなく、「そのへんに置いてあるものを自由に使い、またそのへんに置いておく」という感覚である。もちろんシステム的には実名登録がしてあり、利用料金もアリペイなど決済システムを通じて支払ってはいるのだが、利用料金が安いうえに、使い始めはスキャン一発、使用終了はカギをかけるだけなので、何のストレスもない。まさにそこらにあるものを自由に使う――感じなのである。なるほど、資源を社会的に共有するとはこういうことなのかと私は深く納得した。
報道によれば、このような「どこでも乗れて、乗り捨て自由」のシェア自転車の仕組みは世界初だそうで、すでにシンガポール政府が正式に導入の検討を始めているほか、世界各地から引き合いが来ているという。