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2017年05月18日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

人手不足が深刻化する中国宅配便業界
中国版クラウドソーシングで「人のシェア」へ

「最後の1マイル」にクラウドソーシングを活用

 宅配便企業としては値上げによる待遇改善ができればよいが、状況は厳しい。そこで浮上してきたのが、配達現場でのクラウドソーシングの導入である。簡単に言えば、自社の配達員だけではなく、配達先の近くにいる手の空いた人を臨機応変に活用し、荷物を届けてもらおうというのである。

 クラウドソーシング(crowdsourcing、中国語で「衆包」)は、ウィキペディアによれば、 群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、インターネットを活用して社外の不特定多数の人に業務を委託する雇用形態を指す。特定の企業や個人に作業を委託するアウトソーシングと対比する概念として語られる。

 一般にはクラウドソーシングというと、ソフトウェア開発やデータ入力、デザイン、文章のライティングといった一定の専門性を持つ業務をイメージすることが多い。しかし中国では、そうした業務もあるが、普通の人の余暇時間を短い単位で細切れにして「人手」として活用する「労働力のクラウドソーシング」が幅広く定着している。

「Uber(ウーバー)型」のモデルはすでに一般的

 Uber型の配車アプリはその一つの例である。Uberの中国事業を買収した代表的な配車アプリ「滴滴出行(Didi Chuxing)」は完全に日常の足となった。時間の空いている人が、好きな時にアプリ経由で仕事を請け、自分の車でお客を運ぶ。政府の指導により、運転手になるには一定の条件を満たす必要があり、使える車両にも制約はあるが、この仕組みは人の働き方に新しい選択肢をもたらし、旧態依然とした中国のタクシー業界に大変革が起きた。

 私もヘビーユーザーの1人だが、配車アプリで車を呼ぶと、さまざまなバックグラウンドの運転手さんがやってきて、世間話をするのが楽しい。「自分で事業を興したものの、まだ売上が立たないから営業に回るついでにお客を載せている」というスタートアップの社長氏とか、「子供も大きくなったし、家にいてもやることがないから」という女性、「会社にいても午後はあんまり仕事がないんで」というIT企業の役員氏など、実に多種多様な人がお客を運んでいる。もちろん専業で夜中までガンガン稼ぎまくっている人もいる。

「手の空いた人」を活用する便利屋商売

 配車アプリだけではない。中国語に「跑腿」(paotui)という言葉がある。「跑」は「走る」、「腿」は「足(脚)」なので、直訳すれば「足で走る」、日常的な語感では「ひとっ走り行ってくる」「使い走り」というような感じか。中国にはこの「跑腿」を業とする企業、つまりお客の注文に応じて、極端に言えば違法行為でなければ何でも請け負うことを事業にする企業がたくさんある。日本で言うところの「便利屋」「何でも屋」の概念に近い。

 日本でも「脱サラ」や独立起業の手段として便利屋ビジネスを始める人もいるが、中国はさらに本格的である。全国をカバーする「便利屋」企業が各都市に拠点を構え、事業を展開している。いずれも「ヒマな時は仕事をしてもよい」という個人を事前に募って登録しておき、GPSと連動したスマホアプリを活用、仕事が発生した時点で近くにいる登録者に連絡、仕事を受けた個人が即座に現場に向かう。

 業務の内容は「誕生日や記念日などに花やケーキを買って誰かに届ける」「飲食店の料理のデリバリー」「人気レストランやチケット入手などの行列代行」「契約書、領収書など急ぎの書類を届ける」「買い物代行」といったところが中心だ。

ショッピングモールの前でレストランのデリバリー注文を待つ配達人たち。自分のスマホに配達の注文が入ると、そのレストランに行って商品を受け取り、客先まで届ける。

「最後の1マイル」にクラウドソーシングを組み込む

 「何でもやる」のが基本ではあるが、現実の注文は、花やケーキにせよ、料理の宅配にせよ、買い物代行にせよ、詰まるところ「何らかのモノを届ける」仕事の比率が高い。そうした市場のニーズに合わせて、次第に「便利屋」商売のうち「近くに急ぎのものを届ける」仕事(「同城快送=市内特急配達」などと呼ぶ)に特化した企業が次々と成長してきた。

 大手宅配便企業が目をつけたのはここである。クラウドソーシングを武器にした地場の「便利屋」企業を宅配便システムに組み込み、「最後の1マイル」の人手不足解消を狙う。昨今、この動きが急速に現実化してきている。

 「人人快送」や「達達快送」など、近隣への特急配達を主力業務にした「便利屋」企業の有名どころが、この1年ほどの間に大手宅配企業との提携を次々と発表。自社が過去の事業で培ってきたクラウドソーシングの人材資源を宅配便の業務に投入することを表明している。

15分で現場到達、1時間以内に配達

 「達達快送」を例にとると、同社が全国に抱える登録者は260万人。主要都市であればどこでも15分以内に客先に出向き、1時間以内に市内各所に届けられる体制を整えているという。「人人快送」も全国に700万人の登録顧客があり、毎日数十万件のデリバリー注文をこなしている。

「跑腿」(便利屋)の配達部隊はあらゆる商品を届ける。移動はほとんどが電動バイク。市内ならどこでも15分以内に駆けつける機動力が売り物

 この仕組みのユニークなところは、顧客の近くにいる手の空いた人をその場で手配してしまうところにある。近くを走っている空車のタクシーをお客に配車するのと同じ原理である。登録者の側は、自分のスマホに仕事の打診が送られてくるので、手が空いていればゲットすればいい。仕事を受けられない場合はスルーすればよいので、自分で時間のコントロールが可能だ。

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