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2017年10月26日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

なぜ中国の住宅は値上がりするのか
~「家(family)」と「家(house)」をめぐる中国人の大いなる悩み

世の中に対する「安全感」の欠如

 このように考えてくると、中国で住宅購入動機が強いのは、つまりは世の中に対する「安全感」の欠如によるところが大きいと考えることができる。

世の中の仕組みが信頼できない

家族や親類、身内で固まり、助け合う

「家」はその基盤である

自分で支配できる安定した住宅を手に入れなければならない

 こういう構図である。

 もちろん、住宅の取得には投資としての意味がある。それはもちろんそうだが、なんとか住宅を手に入れたいと歯を食いしばっている若い人の多くが、財産の増加だけを目当てにしているとは私は思わない。中国社会の観念として「家」は確実に根を張っており、これだけは絶対に自分のものでなければならないのである。

賃貸住宅が好まれる日は来るか

 しかし、だとすれば逆に安定した世の中が続き、中国人にとって社会の仕組みが信頼できるものになれば、あえて住宅の自己所有にこだわる必要は薄れる。純粋に経済合理性だけで住宅を見るようになり、価格の上昇は鎮静化するかもしれない。

 そんなことを考えていたら、ジャック・マー(馬雲)率いるアリババグループが10月初め、賃貸住宅に関する斬新なサービスを始めたというニュースが伝わってきた。スマートフォンベースの決済システム、アリペイ(Alipay)の新機能として、全国の100万を超える賃貸住宅をネットワーク化し、取引条件を透明化して安心して利用できるようにする「信用賃貸」のシステムをスタートしたという。

 さすがアリババである。同グループのアントフィナンシャル(螞蟻金融)は従来からアリペイの利用履歴などをもとに個人の信用情報を収集、蓄積し、個人ごとの信用度を点数化して提供する「芝麻信用」のサービスを行っている。これについては連載の第3回「信用」が中国人を変える~スマホ時代の中国版信用情報システムの「凄み」で紹介した。今回の「信用賃貸」は、アリババが全国規模の賃貸住宅仲介会社とタイアップして信頼度の高い賃貸住宅情報を提供するとともに、「芝麻信用」のポイントが650点以上の利用者を対象に敷金免除などのサービスを提供する。

 入居者の側にとってはアリババの参画で情報の信頼性が高まると同時に契約条項がクリアになり、安心して入居できる。部屋の貸し手にとっては入居者の信用力が事前に判断できるのでトラブル発生の可能性が低く、双方にとってメリットがある。これはまさに「安全感」が欠如する中国社会に対して、人々が安心して利用できるプラットフォームを提供しようという枠組みにほかならない。

アリババが展開する「信用租房(賃貸)」のスマホアプリ。「芝麻信用」の信用ポイントが650以上あれば、敷金なしでスマホ上で賃貸契約が完結する。

「家」から個人を解放できるか

 個人が安心して身を任せられる枠組みの──。そう考えれば、アリババのこの行動は、情報技術の力を活用し、中国社会に深く染み込んだ「家」の観念から人々を解放しようとするチャレンジと見ることもできる。封建社会の残滓を一掃し、中国を真の近代社会へと脱皮させる取り組みと言ったら、風呂敷の広げすぎか。

 「家(family)」と「家(house)」をめぐる中国人の大いなる悩みは、案外、こんな方向から出口が見つかるのかもしれない。中国の住宅の異常なまでの高騰、不自然に高い持ち家比率、そして若い人が住宅を買うために一生を捧げる悲壮なまでの覚悟。こうしたさまざまな歪みは解消されるのか。それは中国社会の将来を大きく左右することになる。

田中 信彦(たなか のぶひこ)氏

BHCC(Brighton Human Capital Consulting Co, Ltd. Beijing)パートナー 亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師(非常勤) 前リクルート ワークス研究所客員研究員

中国・上海在住。1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、大手カジュアルウェアチェーン中国事業などに参画。上海と東京を拠点に大手企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。

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