

wisdomスペシャルインタビュー
AFP通信 会長 兼 最高経営責任者 エマニュエル・オーグ氏に聞く「デジタル情報社会におけるメディアの未来」
~先端ICT技術がAFP通信をどう変えたのか~
世界3大通信社のひとつであり、165カ国に拠点を置き、独自の報道活動におけるIT戦略でデジタル情報社会をリードするAFP通信社。その成功の秘訣と将来の狙いは何か。9月に来日した会長兼最高経営責任者エマニュエル・オーグ氏に話を聞いた。

SPEAKER 話し手

エマニュエル・オーグ 氏
エマニュエル・オーグ(AFP通信 会長 兼 最高経営責任者)。メディア・文化事業に長年携わってきた経営者。現在55歳。フランス国立視聴覚研究所(INA)所長時代(2001-2010)には、何十万時間に及ぶビデオをデジタル化する壮大な事業を指揮した。 ©AFP/Eric FEFERBERG
──世界最古の歴史を持つ(1835年にAFPの前身アヴァス通信社「Agence Havas」が設立され、1944年にAFPとして改組された)国際報道機関として1835年に創設されて以来、現在までの歴史の中で起きた、最大の社会変革は何でしたか?
オーグ氏:あらゆるグローバルな通信社、そしてメディア全般と同様ですが、AFPは情報技術の進化やメディアの消費傾向と関連する変容を遂げました。
伝書鳩がニュースを運んでいた時代から、テキスト・写真・グラフィック・動画の、より迅速な送信を可能にする技術の進歩に、AFPは他の報道機関よりいち早く適応し、いまやリアルタイムな報道さえ可能になっています。
当社の写真配信サービスはフランスで第二次世界大戦の直後に始まりました。世界的に認められる国際通信社となったのは1985年でした。グラフィック配信も徐々に登場して、当社の配信の主要部分となりました。写真とグラフィックは、画像形式によるニュース消費のまさに「時代の先駆け」でした。
動画を始めたのは2000年代初頭です。2010年以降、速報と生中継に対応する専用のビデオケーブルを設置することによって、動画を当社の発展のための戦略的な優先事項としてきました。あらゆる形式に応じて出力しなければいけないので、モバイル機器を初めとして、あらゆるメディア様式、あらゆるフォーマット用に撮影する必要があり、そこにはライブ配信も含まれます。現代の人々は映像を通じてニュースにアクセスしますが、それは世界中の全ての報道機関にとって革命でした。
ますます多様化・多面化する市場から求められる変化とともに、AFPはさらに二つの変化と向き合わなければなりませんでした。一つはネットワークを強化すること、もう一つは出力品質の点で妥協しないことです。
そして、当然、デジタルモデルは従来型モデルをくつがえしました。
当社は革新力と適応力に自信があります。一つの数字が物語っています。当社の収益の50%が30年前には存在もしなかった商品、つまりコンテンツのデジタル化によるものです。そして当社が最近BBCと交わした契約(1)は、当社が動画の分野を初めコンテンツ全体で優れていることをさらに証明しています。

──社会とメディアの関わり方はどう変わりましたか?そして、それによって、メディアの役割はどのように変貌しましたか?
オーグ氏:近年、メディアと社会の関係性が大きく変わったのは明らかな真実です。民主社会においてメディアは常に政治的あるいは経済的な権力に対する抑制と均衡のシステムとして働いてきました。「第四階級」(2)とも呼ばれます。しかし、今日では自由と討論の手段としてのメディアへの衆望は著しく損なわれてしまいました。
これに加えて、メディア集団の構成が大きく変わり、とりわけ通信産業に依存するようになりました。そしてまた、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)の支配が、世界の報道における危機によってすでにだいぶ弱っていた経済モデルに影響を及ぼしたということもあります。言わずもがなですが、報道や記者への信頼喪失と合わせ鏡のように、ソーシャル・メディア上の画像を含め、バイラル・コンテンツが大量生産される状況が起きています。ある意味、スマートフォンを所有してソーシャル・メディアを活用している人なら誰でもニュースが作れてしまうのです。

このような玉石混交の喧騒の渦中で、検証された信頼性のある情報を提供し、客観性と信頼性の大切さをはっきりと掲げることが何より重要です。人々が自分自身の問題意識を持てるようにすることは、我々の義務であり使命でもあります。
──この10年間、AFPのコンテンツ配信システムはかなり変わったと思います。従来は、世界のマスメディアへの独占的配信というビジネス・モデルを取っていました。現在は、フェイスブックやブログといったSNSを通じて顧客への一斉配信を活発に行っています。どういう意図があるのでしょうか?
オーグ氏:AFPはマルチメディア・コンテンツを途切れなく流し続けることでニュースを常に最速で提供し、他の多くのメディアよりも素早くデジタル革命に適応してきました。他と違って、印刷ベースのモデルを厳格な期限付きで全面的に見直す必要がなかったのです。我々がしなければならなかったのは、新しいメディアに合わせて自分たちのコンテンツが受け入れやすく魅力的であるようにすることでした。
たとえば、ソーシャル・ネットワークは「敵」あるいは競争相手ではなく、むしろ我々の情報源を多様化するチャンスであると、いち早く考えました。今日ではよく重大事件の第一報の画像はソーシャル・メディアに投稿されるので、我々の仕事はそれを検証することであり、そうすれば顧客は版権の問題に晒されることなくそれらを使うことができます。最上の情報源に基づき、最低のものを捨てる、それも我々の責任です。当社では倫理憲章の完成と補強を行い、記者に明確な指針を与えてきました。一方でソーシャル・メディアをどう活用するか、もう一方ではAFPのように強力なブランドを代表するにあたり、ソーシャル・メディアに対してどう存在感を保つか、という指針です。
──ICTの進化がAFPに与える影響はどのようなものですか?
オーグ氏:申し上げてきたように、新しい情報や通信技術によって、次々と新しい配信形態の採用を強いられます。現在はAPIですが、将来は他のものになるでしょう。
編集、技術、マーケティングの各チームが関わる横串のアプローチで専門集団が革新に取り組んでいます。目標は新しいソリューションを創出するためにユーザーに耳を傾けることです。今、当社の編集チームは日常的にドローンを活用したりデータ・ジャーナリズムを実践したりしています。また、我々はもっと協働相手に門戸を開き、人工知能に基づいた新しい商品またはサービスや、情報検証など仕事の一部の自動化に向けて、基礎作りをする必要があります。
ロボットと協働することを学び、彼らに仕事を任せて、そのスピード、データ解析能力を大量生産に利用しなければならなくなるでしょう。しかし、どのような時代においても、データを選択し、内容を正確に定義づけ、アルゴリズムが有害なバイアスを生み出さないことを確かめるために、記者はなくてはならない存在です。このために、記者、開発者、情報処理技術者には、協働するための新しいスキルが必要になるでしょう。

──将来、どうやってAFPはこのデジタル情報社会に貢献しようとお考えですか?
オーグ氏:AFPは常に基本に忠実であり続けるでしょう。検証された、信頼できる情報を作り続けるという基本です。現在の挑戦は、この検証された、信頼できる情報をできる限り広く世に出すことです。特に若い世代のために、もっともっと魅力的な形を創り出す、そういう革新を起こすことが我々の務めです。また、新たなデジタル参入者や企業部門に対し、新しい提案を通じてもっと門戸を開く必要もあります。
これは当社のAPIとともに展開している戦略です。デジタル・プラットフォームは大いなるコンテンツ消費者です。我々の野望は彼らのニーズに完璧な品質で応えることです。
(文/有限会社ラウンドテーブルコム Active IP Media Labo、写真/AFP)
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(1)
http://www.afpbb.com/articles/-/3123305
- (2) 新聞のことを国王(または聖職者)・貴族・市民の三身分に次ぐ社会的勢力の意味で第四階級(Fourth Estate) と呼んだ、イギリスの思想家・政治家エドマンド・バークの言葉。

AFP通信(Agence France-Presse)
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