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すべてAlexaにおまかせ!? Amazonが提案するスマートホーム

 EC業界を牽引し続けるAmazon、その会員制プログラム「AmazonPrime」の会員数が、全世界で1億人を突破したことが、4月のJeff BezosCEOから株主宛の書簡で明らかになりました。オンライン上で磐石な顧客基盤を築くAmazonですが、ここ数年では「期間限定のPop-Upstore」、「リアル書店Amazon Books」、「レジなしスーパー Amazon Go」、「高級食料品店大手Whole Foodsの買収」など実店舗への取組みが注目を集めています。

 また最近ではホームセキュリティー機器を手がける米Ring社の買収を発表。スマートスピーカーEchoシリーズも含め、着実に家庭市場への進出を拡大させているなかで、今年の5月新たに「Amazon Experience Center」というモデルルームを発表しました。

山口 博司 氏

NEC Corporation of America
Business Development Manager

システムエンジニアとして金融機関向け業務アプリケーション開発・システム企画を経て、2016年6月よりシリコンバレーにて米国発の新技術・サービスの調査、活用の企画・推進に従事。

成長するスマートホーム市場

 米国のコンサルティング会社AT Kearneyによると、世界のスマートホーム市場規模は2020年以降に急拡大すると見込まれており、2020年には550億ドルを超え、2030年にはおよそ4,000億ドル、全家電製品市場の40%以上に達すると予測されています(1)。なかでも「利便性と快適性」に関するアプリケーション市場が最も大きな割合を占めると予想され、「Amazon Dash」のような「家」を超えたサービスとの連携が注目されています。市場を牽引しているのはミレニアル世代を中心とした若者層で、アメリカにおけるスマートホーム製品所有者のうち43%が32歳以下という調査(2)があります。また同調査では33~54歳(Generation X世代)は33%、55歳以上は24%となっており、若者層以外にも幅広く受け入れられています。ただその目的はそれぞれ異なり、ミレニアル世代が利便性やエンターテイメント性を好むのに対し、Generation X世代は監視カメラなど家のセキュリティ強化や省エネに関心が高いようです。中でも監視カメラなどは家庭内の見守り技術としての役割も果たし、単身で住む親を持つGeneration X世代が、親のために購入するケースも少なくありません。実際に70歳以上の親と別居している世帯の30%が高齢者見守りサービスへの関心・契約意思がある、と回答しています(3)。超高齢化社会が進む日本においても、同様のニーズによるスマートホーム製品市場の拡大が期待されます。

Amazon Experience Centerとは?

 Amazonは米国時間5月9日、住宅建設会社Lennarが所有する米国全土にわたる15箇所のモデルハウスで、「Amazon Experience Center」を発表しました。このモデルハウスではAmazon PrimeサービスやAlexa搭載スマートスピーカーの様々な使い方を実体験できます。モデルハウス内ではAmazon Echoや他のスマートデバイスは売っておらず、AmazonのWebサイトや量販店ではできない、「実際の家庭での体験」を提供しているのです。

写真:カリフォルニア州にある実際のモデルハウス外観

体験できる利用シーン例

  • エントランスでの来客確認
写真:キッチンに置かれたEcho Showで来客確認が可能

 エントランスにはRing社のVideo Doorbellsが設置されており、モニター付きスマートスピーカーEchoShowやFire TVはもちろん、手持ちのスマートフォン、タブレットなどからも来客確認ができます。

  • リビングルームで「Movie Time!」

 リビングルームでは、Alexaに「Alexa, Movie Time.」とひと声かけるだけでシェードの下げ具合、照明の明るさ、音楽のON/OFF、TVのON/OFF、空調の設定など、リビングルームが事前に設定済みの環境(この場合は映画鑑賞用)に早変わりします。

  • ベッドルームで「Good night.」

 ベッドルームでも、Alexaに「Alexa, Good night.」とひと声かけるだけでシェードを下げ、照明を消し、玄関のロックをかける、といった就寝準備が整います。また、起床時にはシェードを上げ、ニュース・交通状況・当日の予定を読み上げるなど、一日の始まりをスマートにスタートすることもできます。モニター画面付きのAmazon Showを利用すれば、ベッドルームにいながらでもカメラが設置してある庭先や子供部屋の状況も確認できます。Alexaを基点として、自分の生活スタイルに合わせた様々な生活環境をコントロールすることが可能となるのです。

他社の取り組み

 今回Amazonが発表した住宅建設業者との取り組みは、決して新しいものではありません。Appleもスウェーデンの住宅建設会社Trivselhusと提携し、Appleの音声アシスタント、Siriが利用できるHomePodやiPhone、iPadから制御できる新しい家、という同様のアプローチをしています(4)。このスマートホーム内の製品は、AppleのHomeKitプラットフォームと互換性があるように選択・設計されています。

 また、日本においても大和ハウスが2018年1月からGoogle Homeを活用したコネクテッドホーム「Daiwa Connect」の提案を始めています。

 こうした各社の取り組みの中心にあるのは、Amazon、Apple、Googleなど各社が提供するスマートスピーカー製品です。この1年でスマートスピーカーの市場競争は激化しており、2017年第一四半期には81.8%もあったAmazonのシェアは2018年第一四半期には43.6%に急減するなど、AppleやGoogleのほか、Alibabaなどの中国勢の攻勢が顕著です(5)

(世界のスマートスピーカー市場シェア率)

 それぞれの部屋に、それぞれスマートスピーカーを置くような家庭でも、おそらく製品は1種類になるでしょう。そのため、スマートスピーカー単体でのプロモーションではなく、家やスマートホーム製品の購入など、様々な接点・購買プロセスで顧客を自社のエコシステムへ誘導していく取り組みが活発化していくことは自然な流れといえます。

 Amazonはプレスリリースで、Amazon Experience CenterにいるAmazon社員は最新の技術について特別に訓練された従業員で、顧客のサポートに熱心である、と述べています。実際、私の訪問時に説明をしてくれた方は、『ここ(Amazon Experience Center)はAmazonのスマートホーム製品やサービスがどんなものかを知ってもらうことが目的。私の役割は来たお客さんを楽しませることだ。』と語り、モデルルーム内で試せることから、自分の家庭で同様の仕組みを作るための設定方法などを懇切丁寧に説明してくださいました。

  • * Amazon、Amazonのロゴ、Amazon.co.jp、Amazon.co.jpのロゴは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。