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レジが無いだけじゃない! Amazon が仕掛ける新たな購買体験
Text:山口 博司
レジや買い物かごがなく、商品を直接自分の買い物袋に入れて外に出るだけの次世代コンビニエンスストアAmazon Go。2016年12月5日に発表後から注目を集め、2017年初頭の一般公開を予定していましたが、従業員に開放するのみで一般公開は延期されていました。そんなAmazon Goが2018年1月22日ついに一般公開されましたので、営業6日目に早速現地へ行き体験してきました。
SUMMARY サマリー
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山口 博司 氏
NEC Corporation of America
Business Development Manager
システムエンジニアとして金融機関向け業務アプリケーション開発・システム企画を経て、2016年6月よりシリコンバレーにて米国発の新技術・サービスの調査、活用の企画・推進に従事。
Amazon Go基本情報
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現在はAmazon本社のある米ワシントン州シアトル内に1店舗のみ運営されています。「レジなし」をどのように実現しているか、Amazonはその仕組み・技術の詳細を明らかにしていませんが、自動運転車に利用されている技術(computer vision, sensor fusion, deep learningなど)を利用している、と同社サイトには記載されています。また、米メディア(1)によれば、顧客のプライバシーを考慮して顔認証技術は用いていないという情報もあります。
店の広さは約167平方メートルで、日本のコンビニエンスストア(以下、コンビニ)の標準的な店舗面積(120平方メートル)の約1.4 倍ほどです。店内に陳列されている商品は食料品や飲料(アルコール含む)など、8つのカテゴリー(Breakfast, Lunch & Dinner, Snacks&Sweets等)で約1,500種類(2)を扱っているようです。また、店内にはイートインスペースも存在し、電子レンジ、Wi-Fiや充電用コンセントもあります。Amazonの技術力を披露するショーケース的な店舗ではなく、日常的な使い方を想定されたコンビニだということがうかがえます。
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(1)
https://techcrunch.com/2018/01/21/inside-amazons-surveillance-powered-no-checkout-convenience-store/
- (2) Amazon Go アプリ内の商品一覧から引用・集計
利用の流れ
具体的なサービス利用の流れは以下の通り。
Amazon Goへの入店には、専用アプリのダウンロードと初期設定(3)が必要です。設定が完了すると、入店時に必要な二次元コードを表示することが出来るようになります。なお、アプリ初回起動時に流れるチュートリアルでは「複数名での入店」と「禁止事項」についての説明がありました。まず「複数名での入店」ですが、Amazon Goアプリを持たない友人や家族を連れて入ることが可能とのことです。その場合、自分の二次元コードを入り口でスキャンさせ、まずは友人・家族を先に入店させます。その後、再度二次元コードをかざし自分も入店をする、という流れで、友人や家族が店内で取った商品は自分が取ったものと同様に取り扱われるようです。次に「禁止事項」ですが、自分が棚から取った商品を、他の買い物客に(手渡しで)渡すことは禁止されています。これは、自分が棚から取った商品は自分のバーチャルカート(4)に追加されており、買い物客同士で商品の受け渡しを行っても、商品は最初に取った人物のバーチャルカートに残ったままになるため、と推察されます。一度取った商品の購入をやめる場合は、”自分の手で”棚に返却する必要があるようです。
- (3) Amazonアカウントへのログイン、買い物に使用するクレジットカードの指定 など
店内の様子とレシート確認
店内にレジはありませんが、スタッフは数名いました。入り口付近とアルコール棚付近は常に人がおり、その他は棚への商品補充の為に数名が店内を歩き回っていました。入り口付近のスタッフは入店時のサポートが中心かと思われますが、アルコール棚付近にいるスタッフは買い物客の年齢確認の為にいるようです。この当たりもテクノロジーによる自動化が期待されますが、顔認証技術を用いていないとの情報からも、当面はこの運用が続いていくものと推察されます。
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- (4) Amazon Go内で買い物客が取った商品をAmazonが管理するための、仮想の買い物カゴ
買い物客の行動把握のため、天井にはかなりの数のカメラが設置されていました。しかしながら、カメラ自体の形状が工夫されている為か、カメラを向けられているという印象はそれほど強く感じませんでした。
実際に数点の商品を取り、店を後にしました。購入レシートは退店と同時に確認出来るわけではなく、数分後(5)から確認が可能となりました。また、Amazonアカウントに登録しているメールアドレス宛にもレシートが配信されましたが、商品数や合計金額が確認出来るのみで、具体的な明細確認はアプリ内でのみ確認可能なようです。なお、購入した商品は全てアプリ内で確認出来るため、会計内容が間違っている場合には商品ごとに返品/返金依頼を行うことが可能です。New York Daily News(6)によると、驚くべきことに返金依頼をした商品自体の返品は必須ではないとのことです。ただし、履歴はAmazonアカウントと紐づいているため、返品が多い顧客などは簡単に把握が出来ます。全てをテクノロジー・運用でカバーするのではなく、顧客の信用面による抑止力も考慮した設計といえるでしょう。
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- (5) 筆者が2回試してみたところ、どちらも約5分後であった
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(6)
http://www.nydailynews.com/news/national/amazon-cashier-less-grocery-store-finally-open-article-1.3771675
注目ポイント
(1)変化する二次元コード
前述の通り顔認証技術を用いていない為に、入店時の買い物客とAmazon IDとの紐付けの鍵となるのは入店時にかざす二次元コードです。この二次元コードは、成りすまし防止の観点からスマホ画面のスクリーンショット画像では入店出来ないようです。(実際にスクリーンショットを取ると「スクリーンショットでは入店できない」旨のメッセージが表示されます)。Amazonは、これを可能とするために、約30秒(7)ごとに二次元コードを変化させています。つまり、古い二次元コードでは、入店が出来ないよう工夫しているのです。
(2)商品ごとの重量センサー
商品棚には重量センサーがあり(8)、各商品の正確な重量を把握しています。そのため、商品を複数同時に棚から取った場合でも、正確にその数が認識されます。実際に筆者も、薄いチョコレートをカメラには映りづらい角度で(写真のように)2枚重ねて取ってみましたが、しっかりとレシートには購入記録が残されていました。
- (7) 筆者の実測値
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(8)
https://techcrunch.com/2018/01/21/inside-amazons-surveillance-powered-no-checkout-convenience-store/
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(3)商品内容の確認
自分がよく利用するコンビニで陳列されている商品全てを把握している人は恐らくいないでしょう。Amazon Goでは、そのアプリ内で商品名(写真付き)・値段を確認することが出来ます。また、この時期はバレンタインデイ直前ということもあり、「Valentine’s Day Ideas」と称して(Amazon Go内で購入可能な)食事やワイン、ケーキなどを特集で紹介しています。セール品の情報を確認することも出来るため、「普段は買わないけど、安くなっているなら」と新たな購買動機の創出に一役買いそうな機能といえるでしょう。
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重量センサーが顧客の行動把握の一端を担っていることから、商品のラインナップや棚のレイアウトなどを柔軟に変更することは難しいのかもしれません。実際に、パッケージ化により重さを均一にできる精肉類は売ってましたが、重さが不均一な生野菜類は取り扱っていませんでした。
Amazon Goは多くのメディアでも紹介されているように、万引きは出来るのか?という観点で数多くの検証がなされています(筆者もそのうちの1人)。しかしながら、悪意のある客(万引き、多数の返品)の行為を防止することに重点を置いた設計ではなく、通常の買い物客の購買行動を想定し設計されたというAmazon Goは一見危うい印象を受けますが、ユーザビリティを追求する上では有効だと感じさせられました。
- ※ Amazon、Amazonのロゴ、Amazon.co.jp、Amazon.co.jpのロゴは、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
■北米リテール業界最新動向をさらに詳しく紹介
リアル店舗を攻めるAmazon、Eコマース化を推し進めるWalmart(織田 浩一 氏)
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グローバル金融動向