

急拡大するAIスピーカー市場とエコシステム
~ 業種別サービスを提供するスタートアップ企業たち ~
Text:織田 浩一
Amazon、Googleが先行するなか、Facebook、Samsungも参入し、さらに中国ブランドが台頭してきたAIスピーカー市場は大きく拡大している。Google HomeやAmazon Echo以外のデバイスやアプリが増え、エコシステムも確立してきた。現在のAIスピーカー市場の変化を見てみたい。

織田 浩一(おりた こういち)氏
米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。
自国の普及を背景に中国勢が大きく進出
上図で第3位に急伸したのが、2018年第2四半期でシェア率17.7%を突如獲得し、第3位となったアリババと、同じく急激な成長により12.2%のシェア率を獲得して第4位となったシャオミである。これは、中国市場が急成長しており、低価格のAIスピーカーが中国で購入され始めたからだ。
下図は、同じくCanalysが2017年第1四半期から2018年第2四半期での四半期毎のアメリカ、中国での出荷台数を示したものである。青で示されている中国での出荷数は2018年第2四半期に急伸しており、米中でのシェアは35%に上っている。この時期、アリババは300万台、シャオミが200万台中国で出荷しており、中国の90%のシェアとなる台数が中国市場での成長に反映されている。Google、AmazonのAI機能は中国に参入することが許可されておらず、両者の出荷は主に欧米などである。一方でアリババ、シャオミはまだ欧米には出荷していない。
だが、アリババ、シャオミ、そして続くバイドゥ、テンセント、Lenovoなどが次々とAIスピーカー市場に参入しており、同時に彼らが大きくデバイスの価格を下げていることから、市場はさらに普及する段階に入っていると予想される。中国でアリババが販売しているTmall Genieは15米ドルほど。バイドゥも元々39米ドルで販売していたAIスピーカーを14米ドルまで値下げしている。LenovoはAmazon Alexaに対応したAIスピーカーやGoogle Assistantに対応したディスプレー付きスマートデバイスを販売しているが、その安価な料金設定は他のデバイスにも価格面でのプレッシャーを与えることになり、欧米や日本市場でも価格が徐々に下落している。
音声機能エコシステムの現状
AIスピーカーの市場は、Google Home、Amazon Echoなどのハードウェアや、Google AssistantやAmazon Alexa、Microsoft Cortana、Apple Siriなど、AI音声プラットフォームを中心に語られることが多いが、ソフトウェア、開発側のエコシステムはどうなっているのだろうか。
ドイツのシード投資ファンドPurpole Orange VenturesのシニアアソシエイトSavina van der Straten Waillet氏が昨年12月に下図のような業界のエコシステムを示した。


まず上から見ていくと、前述のOSともいえる各社のプラットフォーム群として「Voice Platforms」がリストされている。
そして次の層が「Bot Building Tools(ボット開発ツール)」。例えばSmartly.aiは、上記のプラットフォーム上や自社のWebサイト向けに音声・テキストチャットボットアプリをつくるためのAI SaaSプラットフォームを提供している。
続いて、開発した会話アプリを解析する「Analytics Tools」。Google Analyticsの音声版というイメージであるが、例えばDashbotではアプリの利用状況、ユーザーとのセッション時間やエンゲージメント、ユーザーの意図やその購買ファネルでの位置、センチメント分析などが含まれている。
次がこれらのアプリ開発を代理する「Agencies」。コンサル企業のAccentureやデジタルエージェンシーのAKQA、デザイン企業のBlinkなどが含まれている。
そして業界情報メディアを示す「Medias」、提供コンテンツ・アプリをオーディオブック、ゲームなどで提供する分野は「Entertainment」として含めている。
企業アプリは医療、金融、Eコマース、製造・サプライチェーンに展開
企業が消費者に音声サービスを提供するために、業種別AI音声機能などを提供しているスタートアップ企業群が誕生している。また、オフィスや会議室でAIスピーカーやスマートフォンを使うことも当たり前になりつつあるので、そこに向けた特定のサービスが展開され始めた。Straten Waillet氏はBtoB分野で提供されている音声サービスについても分析している。
下図は、BtoBでの音声サービスを業種別に分析したものである。
最も多いのが「医療関係(Healthcare)」で47.1%、そして「金融(Finance)」「Eコマース(Ecommerce)」「製造・サプライチェーン(Manufacturing/Supply Chain)」が同率で位置しており、これらの業種で積極的にサービスが展開されていることがわかる。

BtoBでの業種別の音声サービスの割合
そして各カテゴリーでの音声サービスを示したのが下図である。上から「Vertical Software(業種別ソフトウェア)」、「Horizontal Software(業種に関係なく必要な音声サービス)」、そしてこれらのサービスをサポートするもので、プラットフォームや音声のテキスト化、自然言語分析、感情分析などの機能を含めた「Infrastructure(インフラ)」がリストされている。
業種別ソフトウェアでは、上図でも見られたように「医療関係(Healthcare)」が特に多い。Syllableは病院など医療機関向けに音声・テキストチャットアプリを提供する企業で、AIチャットによる病診予定の設定や、患者への処方薬についての説明、病院スタッフの事務作業の自動化、作業進行のトラッキングを助けるものである。
次の「Eコマース(Ecommerce)」カテゴリーでは、Eコマース企業に向けて、製品検索をサポートするものが主となり、例えばTwiggleはEコマース自然言語検索の精度をあげるセマンティックAPIを提供している。「金融(Finance)」カテゴリーでは、金融企業向けにAIツールを提供する企業群が目立つ。Personeticsは、音声・テキストチャットによる金融口座管理のセルフサービス機能の提供や予測分析によるアドバイス、そして投資管理などの機能を金融企業のアプリに提供するものである。
「製造・サプライチェーン(Manufacturing/Supply Chain)」では、工場や倉庫の運営に音声を利用しており、例えばAuguryは世界最大の製造機械の音声データを持ち、それを元に特定の工場内の機械の状況やメンテナンスの必要時期の予測分析などを行うツールを提供している。この分野では、不動産、農業、観光業などもカバーしている。
業種に関係のない機能を提供する「Horizontal Software」の分野では、ビジネスインテリジェンス、セキュリティ、カスタマーサポート、マーケティング、営業、コーチング、リクルーティング、生産性向上などの分野をカバーしている。営業分野のChorusは、営業担当者の見込み客との会話の分析をするプラットフォームで、トップ営業がどのようなトピックをカバーし、どのような順序で、どのような言葉を使って会話をしているのかを、他の営業のスキルアップのためにコーチングするものである。生産性向上分野では、ミーティングや会話の文章化の機能を提供するものがほとんどで、AISenseは会議や顧客サポートなどでの会話をテキスト化し、分析を可能にするプラットフォームを提供している。
競争はスマートホームへ
2018年2月、Amazonはビデオ付きドアベルやセキュリティビデオメーカーのRingを買収し、ホームセキュリティ分野に参入している。Amazonはこれ以外にKohlerの洗面台やecobeeの温度自動調節器にAlexa機能を搭載したり、フィリップスの電球やFirstAlertの火災報知器をAlexaに繋いでセキュリティ、ホームオートメーション市場を取り込もうとしている。また、BMW、フォード、フォルクスワーゲン、トヨタなどの新車のダッシュボードにもAlexaの導入を推進している。


Googleは温度自動調節器・セキュリティカメラメーカーのNestを買収し、LGのAIスピーカー、TV、冷蔵庫など家電全般にGoogle Assistantを導入。さらに、ルノー・日産・三菱と提携して車内でも利用できる状況をつくりつつある。
つまり、あと2-3年で音声ユーザーインターフェースがどこでも使える状況が実現しそうだということである。そして、その中心にいるのが、GoogleやAmazon、あるいは中国のアリババなどの企業になる可能性は非常に高い。
5-6年前であれば、モバイルに対応していない企業が他社に遅れを取っていたが、これからはそれが音声ユーザーインターフェースであることが予想される。対応の遅れがブランド体験の評価や売上を大きく下げる要因になるのではないだろうか。