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2018年12月26日

次世代中国 一歩先の大市場を読む

膨張する中国「個人信用情報管理」
ハイテク「アメとムチ」で模範国民を育てるしくみ

 中国で個人信用情報の「国家管理化」が急速に完成度を高めている。これまでアリババグループの「芝麻信用(ジーマ・クレジット)」など民間の個人信用情報システムが一定の存在感を示してきたが、その機能は、従来から存在した政府(国家)の個人信用情報システムに吸収される形で大幅に縮小しつつある。中国の個人信用情報管理は「官」が一元的に行う形がますます明確になってきた。今回はこのあたりの状況を整理しつつ、今後の成り行きを考えてみたい。

「官営版・国民信用格付け」が普及

 最近、中国の個人信用情報にまつわる話題で注目すべきは、地方政府が地元住民の信用度をポイント化して提供する、いわば「官営版・市民信用格付け」が全国各地で続々と誕生していることだろう。個人信用の点数化といえばアリババグループの「アント・フィナンシャル(「螞蟻金服」以下「アント」)が運営する「芝麻(ゴマ)信用ポイント」が日本でもよく知られている。

 この連載でも2017年4月「“信用”が中国人を変える スマホ時代の中国版信用情報システムの“凄み”」という記事で紹介した。今般の「官営版・市民信用格付け」はこの「芝麻信用」の仕組みをほぼそのまま、丸ごと政府が取り入れて、国民の信用度を点数化するものと言っていい。

浙江省杭州市の「銭江ポイント」

 代表的な例が浙江省杭州市で導入された「銭江ポイント」だろう。名称の「銭江」は杭州市内を流れる「銭塘江(せんとうこう)」に由来する。全市民を対象にした正式なスタートは2018年11月で、ごく最近のことである。杭州市には10数年前から市政府による独自の個人信用情報蓄積の仕組みがあった。その基礎のうえに、杭州市が「お膝元」であるアリババグループのアントが「芝麻信用」で培った経験を全面的に市政府に提供し、誕生したのが「銭江ポイント」である。

 「芝麻信用」と杭州市政府が協力関係の構築を発表したのは2016年1月。後になって公開された「銭江ポイント」の基本的な発想、アプリ画面のデザイン、信用評価の項目、使い勝手などは「芝麻信用」とそっくりである。これは私の推測だが、「芝麻信用」は事実上、みずからの主要な機能を杭州市政府に譲り渡したと言ってもいいのではないかと思う。

 「銭江ポイント」の評価は以下の5つの項目でなされる
(1)身分特質本人の戸籍所在地や学歴、職業、社会保険の加入状況など
(2)遵紀守法適正な納税、公民の義務の履行、違法行為がないことなど
(3)商業信用購入代金の適正な支払い、借入金の返済状況など
(4)生活信用公共料金の適正な支払い、公序良俗に反する行為の有無など
(5)社会的行為ボランティア、社会奉仕活動への参加、積極的な献血など

評価点数は5段階に分かれており、

550点以下向上を期待
550~600一般
600~700良好
700~750優秀
750以上極好 模範的市民

「銭江ポイント」の5つの評価ポイント項目(左)と、実際の評価分布を示す画面(右)
画像を拡大する
「銭江ポイント」の5段階評価(左)と、実際の評価点数を示す画面(右)
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高ポイントの市民には優遇続々

 このあたりの分け方も「芝麻信用」と似ている。

 「銭江ポイント」の点数を高めるには、犯罪行為がないことは当然として、適切な納税や公共料金の確実な支払い、債務の履行、市民活動などへの積極的な参加などが求められている。もちろんこれらに反する行為があれば点数はマイナスになり、交通違反の経歴も回数を重ねれば減点になる。

 「銭江ポイント」は導入間もないので、市民の具体的なメリットはまださほど多くはない。現時点では580ポイント以上あれば市内の各公立学校のアスレチックルームがアプリで予約でき、優先的に利用できる優遇措置が設けられている。来年以降には、ポイントの高低に応じて医療機関の優先的受診、公的住宅の家賃優遇、公務員への優先採用、市中心部への乗り入れ可能な自動車ナンバーの優先割り当て、美術館・博物館のネット予約と料金割引などといったさまざまな特典が導入される予定だ。

 ほぼ同様のシステムは杭州市以外でも次々と導入されている。例えば福建省厦門市の「白鷺ポイント」は530ポイント以上の市民は、市内の特定駐車場の利用が30分間無料、680ポイント以上で駐車料金一割引の特典がある。加えてその駐車料金はウィチャットペイ(微信支付)で支払うと、毎月抽選で一定数の利用者に駐車料金が全額バックされるというおまけもある。山東省威海市は「海貝ポイント」、江蘇省蘇州市は「桂花ポイント」という同様のシステムがあり、北京市は2020年までに導入の予定という。いずれ全国全ての都市で導入されることになるだろう。

 これまでの政府による個人信用情報管理はネガティブ情報が主体で、どうしても「ムチ」的色彩が濃いのに対し、これら最近の「ポイント化」の仕組みは「信用度を高めると、こんないいことがあるよ」と前向きなイメージを強調し、どちらかといえば「アメ」を前面に出す傾向が強いのが特徴だ。国民の信用意識、遵法意識を高め、政府にとって好ましい方向に人々の行動を誘導することを意図したものになっている。

個人信用情報の「国家管理化」

 こうした政府機関による個人(法人)信用情報管理の根幹を担っているのが、国家レベルの信用情報ネットワーク「全国信用情報共有プラットフォーム(全国信用信息共享平台)」である。これは公安・治安維持系、金融系、公的な賞罰情報などを統合した信用情報データベースで、個人は既存の身分証番号、法人には新たに割り当てた「統一社会信用番号」で、あらゆる信用情報を一元的に蓄積、管理して賞罰に活用していく。個人はすでに全員が統一の身分証を所持しており、法人も18年5月末現在、99%以上の法人が「統一社会信用番号」の登録を完了したという。

 このネットワークは警察や検察、裁判所、税務局、企業全般を管理する工商行政管理局、金融全般を取り仕切る中央銀行など、ほぼ全ての国家機能を網羅しているので、違法行為はもちろん、信用を失う行為をした者(法人)に対する懲罰、逆に「素行良好」な者に対する表彰、優遇など、あらゆる措置を行う権限を持っている。

60以上の国家機関、全国各地方政府の信用情報を網羅

 中国の「個人信用情報管理」の歴史は古い。「档案(とうあん、ダンアン)」と呼ばれる紙ベースの全国民の個人情報ファイルの仕組みが数十年前から存在し、現在でもそれは生きている。1990年代末には中国人民銀行(中央銀行)の個人信用情報データベース構築が始まり、2006年には全国ネットワーク化された。

 さらに2013年からは主に債務不履行情報を集約した最高法院(最高裁に相当)の「中国執行情報公開ネットワーク」が結合され、主にこの2つのネットワークを基本に前述の「全国信用情報共有プラットフォーム」が構築された。国営通信社・新華社発行の「中国社会信用体系発展報告2017」によると、2016年末時点で、9億1000万人の個人信用情報が登録されている。

 国家全体としての信用体系の構築は2014年に国務院(内閣に相当)が発表した「社会信用体系建設規画綱要(2014-2020)」が基本構想になっている。それによると全国各地方政府に個人および法人の信用情報蓄積のためのデータベースを構築し、それを全国統一のネットワークとして結合する。主管官庁は国家発展改革委員会で、最高法院、最高検察院、中国人民銀行、市場監督総局、税務総局、国家財政部(財務省に相当)、公安部(警察)など60以上の中央官庁および約40の省、自治区、地方政府の信用情報系統が連結されている。これらの統合された窓口が「信用中国」ウェブサイトである。

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