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2019年03月18日

Amazon Goに死角あり! 米国レジ無しストア最前線

 Harvard Business Schoolの研究によると、アメリカ人は年間で約118時間(1日当たり約20分)もの時間を、スーパーや銀行など順番待ちの列に費やしているそうです(1)。人々が実店舗での買い物からオンラインショッピングに流れていく理由は様々ですが、この「待ち時間を省く」ことは常に理由の1つにあげられます。これまで、日々の生活に欠かせないスーパーではこうした顧客のレジ待ち時間を削減するために、購入商品点数によるレーン分けや、セルフレジの導入が進んできましたが、Amazon Goの登場以降、さまざまな方法でCashier less Store(レジそのものやレジ係がいない店舗)への取り組みが活発化してきました。本記事ではタイプ別にCashier less Storeを体験し、その特徴・利便性について考察します。

左:購入数が15品以下の顧客用レーン。 右:セルフレジ

Cashier less Storeの種類

 アメリカではWalmartやMacy’s、7-Elevenといった大手スーパー・コンビニチェーンや、スタートアップ企業らによるCashier less Storeへの取り組みが増えています。その方式は提供企業ごとに異なっていますが、今回は主に利用している技術ごとに(1)映像解析、(2)モバイルアプリ、(3)スマートカート、と大きく3つに分けてご紹介します。

(1) https://hbswk.hbs.edu/item/switching-queues-just-makes-customers-wait-longer-but-they-do-it-anyway

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(1)映像解析

 Amazonが運営するAmazon Goや多くのスタートアップ企業が採用しているこの仕組みは、店内に設置したカメラや商品棚のセンサーなどで利用客の買い物行動を把握します。(Amazon Goについては過去記事を参照)
この仕組みにおける利用者は事前に専用アプリで支払い方法(クレジットカード情報)を登録済みであるため、お店では欲しい商品を手に取って退店するだけで済みます。(お店の入り方は専用ゲートやアプリの起動など、各企業により異なります)

Standard Cognition

 Standard Cognition社は天井に設置するカメラのみで利用者の動きを把握する技術を開発。サンフランシスコ市内の試験店舗Standard Storeでは、約185平方メートルの店舗面積に対して設置しているカメラ数はわずか27台であり、既存店舗への導入が比較的容易なシステムだと考えられています。利用者の観点から見たAmazon Goとの違いは入店方法や、アプリを利用しない方でも買い物が可能である点があげられます。

アプリを利用しない方向けの支払いスペース

 Standard Cognitionは、日本市場向けにPALTAC社と提携し2019年の実証実験開始を発表しています。

Zippin

  Zippin社は天井に設置するカメラと商品棚の重量センサーを利用してCashier less Storeの実現に取り組んでいます。2018年8月からサンフランシスコ市内の小スペース(約90平方メートル)で試験店舗を展開中です。Zippinのシステムは約93平方メートルの面積に対して必要なカメラ数は15台で、店舗への設置にかかる費用は同面積あたり2万~2万5千ドル(2.2百~2.75百万円)と見積もっています(2)。Amazon Go1号店では約167平方に店舗面積に対して天井に設置したカメラだけで数百台(3)、そのほかに棚に設置されたカメラや重量センサーも考慮するとハードウェアだけで100万ドル(1.1億円)以上(4)かかるともいわれています。ZippinやStandard Cognitionがいかに少ないコストでCashier less Storeの実現に取り組んでいるかが分かると思います。

(2) https://www.fastcompany.com/90232674/this-san-francisco-mini-mart-is-the-hottest-amazon-go-rival-yet

(3) https://www.nytimes.com/2018/01/21/technology/inside-amazon-go-a-store-of-the-future.html

(4) https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-09-20/amazon-could-spend-3-billion-on-go-stores-analyst-says
※2018年10月サンフランシスコにオープンした店舗ではカメラ台数も大幅に減っており、1店舗あたりの初期・運営コスト削減に取り組んでいる模様

注:数字はすべて、ニュースサイト等で報じられた時点のもの
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 調査会社Juniper Researchによると、こうした支払いを意識させないタイプのCashier less Storeでの決済総額は、2017年の約100億ドル(約1.1兆円)から2022年には780億ドル(約8.6兆円)まで増えると予想されています。Amazon Goは2021年までに3,000店舗まで拡大する計画が報じられており(5)、現在の1店舗当たりの年間売り上げは110万~195万ドル(約1.2~2.1億円)、2021年には年間45億ドル(約5千億円)(6)とも予想されています。ご紹介した3社とも現在は小規模な店舗のみでの展開ですが、ZippinやStandard Cognitionの、既存スーパー・コンビニへの普及や、Amazon Goの大型店舗化(7)などを考慮すると、この数字も現実味を帯びてくるかもしれません。

(2)モバイルアプリ

 7-ElevenやMacy’sなどが採用しているこの仕組みは「Scan & Pay」や「Scan & Go」など様々な呼称がありますが、共通していることは商品バーコードを読み取る専用のアプリを用いることで顧客のスマートフォンがレジ代わりとなり、レジに並ぶことなく会計を済ませられるという仕組みです。買い物中は、スマートフォンで読み込んだ商品の金額・合計が分かることから、(気がついたら買いすぎていた、というとなく)予算にあった買い物が出来ることが特徴の1つです。

7-Eleven

 2018年11月からテキサス州の14店舗で「Scan & Pay」のパイロットを実施中で、2019年中には他の都市にも同サービスを拡大する計画です。使い方は4ステップで「1.7-Elevenのモバイルアプリを起動しScan & Pay機能を起動する」、「2.欲しい商品のバーコードをアプリで読み取る」、「3.商品を取り終えたら決済手続きを行う」、「4.出口付近の専用端末に、レシート画面を読み取らせる」です。日本におけるローソンのスマホレジ(8)が同様の仕組みです。

(5) https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-09-19/amazon-is-said-to-plan-up-to-3-000-cashierless-stores-by-2021

(6) https://www.retaildive.com/news/amazon-go-could-generate-45b-with-plan-for-3k-stores/545377/
※1日の平均来店客数:400-700人、1人当たりの平均購買額:10ドルで計算。

(7) https://www.wsj.com/articles/amazon-tests-its-cashierless-technology-for-bigger-stores-1543776320

(8) https://www.lawson.co.jp/lab/app/art/1364064_8411.html

左:商品を読み取る様子 右:出口付近の専用端末

 筆者が利用してみました。レジには3人並んでいましたが、筆者はその列に並ぶことなく買い物を終えることができました。Scan & Payの利用者が増えると、今度は出口付近の端末に列が出来るのではないかとも考えられますが、端末でのやり取りはほんの数秒で終わるため、その心配は不要でしょう。現在7-Eleven のScan & PayではHot Foodや宝くじ、アルコールやタバコ類などは取り扱っていませんが、年齢確認など実現に向けた今後の機能追加に注目したいと思います。

(3)スマートカート

 Amazon Goのように天井や棚に多くのカメラを設置し、映像をリアルタイムで処理することは店舗側にとって導入やシステム維持の障壁が高いと考えられます。また、(1)(2)の取り組みでは基本的に専用のアプリをダウンロードしてもらうことが利用の前提にありましたが、買い物をする店ごとに異なるアプリをダウンロードしたくないという、利用者側にとっての利便性もあると考えられます。そこで、既存店舗(特に中・大型店舗)では一般的なショッピングカートに、レジ機能を代替させるという取り組みがあります。

Caper

 バーコードスキャナーを内蔵し、キャッシュレス決済(クレジットカードやモバイルペイメント)に対応するCaper社のスマートカートは、既存店舗の内装やレイアウトに手を加えることなく、ショッピングカートを置き換えることでCashier less Storeを実現するというものです。すでにニューヨーク圏の2つの店舗で採用されています。スマートカートにはレジの待ち時間削減以外にも、ディスプレイを活用した買い物のサポート機能も期待されます。例えば、探している商品が見つからないとき、その商品が置いてある棚を案内したり、カートに入れた商品に関連するキャンペーンやセールを表示するなどです。

 現在は商品バーコードをスマートカートのセンサーに読み取らせる必要があり、Amazon Goなどの映像解析タイプと比較すると若干の手間がありますが、将来的には3D画像認識と重量センサーを利用して、利用者がカートに商品を入れるだけで商品を認識する技術を開発中とのことです。Caperのカートを導入した店に行ってみたら、Caperの社員がポテトチップスでカートのデモをしてくれました。読み取り速度や識別精度が実用化段階に来ている事を体験すると、その利便性からますますこのスマートカートの広がりが予感できます。

Cashier less Storeの効果

 Cashier less Storeは、利用者側にはレジの待ち時間だけでなく、会計時間そのものの短縮にも効果があるとされています。Caperと同様スマートカートの開発に取り組むFocal Systemsは、当社のシステムを利用することで会計時にかかる時間を最大で77%削減できると述べています。

図:Focal Systems Inc.のHP情報を元に筆者作成
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 また、店舗側にもレジのスタッフを商品陳列や接客に割り当てられる点や、利用者の購買データ活用によって、より個人に特化したリコメンドやキャンペーンなどが可能になります。さらには在庫・売れ行きをリアルタイムに把握することによって、特に生鮮食品・惣菜といった陳列までに時間を要する商品の補充スケジューリングがより効果的・効率的に実施できるようにもなります。Cashier lessの仕組みを導入・維持するためには多少のコストが必要ですが、顧客体験向上だけでなく、店舗の売り上げ向上に繋がる施策を打てるようになるのです。

 今回ご紹介したCashier less Storeに関する各社の取り組みは、まだまだ実験的な要素も含んではいますが、利用者の立場から見るといずれも利用してみる価値のある便利な仕組みといえます。近い将来、皆さんが普段利用されているスーパー・コンビニでも、レジに並ぶことが無くなる日が訪れるかもしれません。

山口 博司

NEC Corporation of America
Business Development Manager

システムエンジニアとして金融機関向け業務アプリケーション開発・システム企画を経て、2016年6月よりシリコンバレーにて米国発の新技術・サービスの調査、活用の企画・推進に従事。

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