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2019年04月26日

織田 浩一 北米トレンド

超拡張人間にハプティクス、ハイパーパーソナルな寿司って何?
~SXSW Interactive 2019レポート 前編~

 今年も米テキサス州オースティンに3月8日から5日間ほど行ってきた。SXSW Interactive(サウス・バイ・サウス・ウェスト・インタラクティブ)に参加するためである。ここ4年は毎年参加している。デジタルテクノロジー業界の動向や世界のスタートアップ企業のトレンドを見る上でベンチマークとなるカンファレンスである。登壇したスタートアップ企業などの情報を含めて前編、後編の2回にわたって解説したい。

キーノートセッションやトレードショーが行われたオースティンコンベンションセンター。多数の人たちが出入りする(撮影:筆者)
日本も含めて、世界中から大手企業・スタートアップ企業が集まるトレードショー(撮影:筆者)

 1987年に音楽業界イベントとして始まったSXSWは、1994年に映画とインタラクティブ部門を加え、バンドのライブや映画試写、スタートアップ企業のピッチイベント、各業界の動向やベストプラクティスなどを話し合い、ネットワーキングするための場でもある。2018年には期間パスを持っているカンファレンスへの参加者が7万5000人、それ以外に一回限りのライブや試写イベントなどに参加する人を含めると29万人が参加した。若く、テクノロジー利用傾向も高い参加者に向けてさまざまな企業が自社の製品やサービス、映画やTV番組、ゲーム、バンドなどをプロモーションするパーティも多数開催される。

 参加したインタラクティブ部門では、AI、ブロックチェーン、VR・AR、ロボット、自動運転、スマートシティなど幅広い分野のトピックがカバーされていた。過去にはTwitter(ツイッター)やFoursquare(フォースクエア)などのサービスがローンチされ、新たなテクノロジートレンドが示される場としても注目されている。

 今年は、企業マーケティング担当者や広告会社の幹部の参加が少し減った感じがあるが、相変わらずベンチャーキャピタルや投資銀行、投資家が多数参加していた。

 このカンファレンスが他のテクノロジーカンファレンスと大きく異なるのは、企業やビジネスとしての成功だけではなく、社会的な意義を求めている点だ。そのため、社会の問題をテクノロジーで解決することをミッションとするスタートアップやNGOなども多数参加している。そのような企業やNGO間でのアイデアやテクノロジーの共有が進み、新たなソリューションが生みだされることが期待されている。

 今年の全体的な印象としては、特にスタートアップ企業や大手企業の新しい試みを展示しているトレードショーで、実際にサービスとして展開することを想定したものが非常に多く見られた。今までSXSWでは、基礎となるテクノロジーをアートで表現したような展示が多かった。アートとしては面白いのかも知れないが、世の中の本当に重要な課題を解決したり、事業として展開したりできるものではなく、この後の進展が見られそうにないものがほとんどであった。

 今回は、例えば電通が山形大学などと協力して、Sushi Singularityというコンセプトを掲げ、客の体調、遺伝子などの体のデータを元にハイパー・パーソナルな寿司を提供する店を展示していた。2020年には東京に出店する予定だという。

客のパーソナルデータに応じた寿司を提供する店というコンセプト(Webサイトより)

GAFAへの批判が高まるSXSW

 今年大きく風向きが変わったのがGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4大テクノロジー企業を総称する略語)など大手デジタル企業に対する人々の態度が厳しくなったことだろう。2016年のイギリスの欧州連合離脱や米大統領選挙でFacebookやGoogle傘下のYouTube、検索広告が有権者の印象を変えるためのキャンペーンで使われたり、フェイクニュースを流す環境を提供したりしたことから、民主主義を壊す存在として批判の対象になっている。

 またFacebookが個人のコンテンツに接触して、政治的志向などの情報やデータを大量に収集していたり、それらのデータが不法に政治キャンペーン会社などに共有されたりしたことが判明している。同時に、Googleが競合サービスの検索ランキングを調整したり、Amazonの配送センターで働くスタッフが低賃金であるため、政府の補助を必要としていたりといった話題が広がるにつれて、GAFAの市場での独占的な状況への批判が世界中で湧き起こっている。

新聞社主催のセッションでは、米民主党大統領候補・上院議員のエリザベス・ウォーレン氏へのインタビューセッションが行われた(撮影:筆者)

 SXSWはテクノロジー業界に対して非常に友好的なカンファレンスであるが、ここに参加する多くのスタートアップ企業にとってGAFAは自社の売却先でありながら、競合でもある。

 またこれらのスタートアップで働く若い社員にとっては、世界を変えるために入ったテクノロジー業界が実は世界を支配するような業界になってきていることに懸念を示している。

 そのような状況の中で、主に米民主党の政治家たちがSXSWに来て、自らの政治メッセージを参加者に伝えている。環境対策政策を中心に大統領候補に立候補したワシントン州知事ジェイ・インズリー氏、高所得者層への最高税率を70%まで上げるべきいうメッセージを伝える下院議員で民主社会主義者のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏などだ。

 中でもGAFAの分割をこのSXSWへのメッセージとして持ち込んだ、大統領候補で現上院議員のエリザベス・ウォーレン氏がセッションで多くの人たちにその理由を話した。政治家になる前には法律学教授であったため、経済的に破綻する家族の理由を調査していた。その中で金融業界のローンやクレジットカードの販売の仕方などの問題を見つけた。政治家になって「消費者金融保護局」という消費者保護の政府組織を立ち上げたという実績を持つ、政策立案を得意とする人物である。

 GAFAの独占状況についても同様に、消費者が自分のデータを他に持ち出せなかったり、データを提供しなければサービスを受けられなかったりといった状況があり、また競合スタートアップ企業が公正な市場で競争できないことが問題であると語った。

 そしてアメリカで過去に鉄道会社や電話会社であるAT&T、コンピューター会社のIBMなどが市場を独占していた時に、政府が介入し、これらの企業を分割したり、新たな成長市場への参入を禁止したりすることで、マイクロソフトやデジタル企業が次々と生まれ、イノベーションが進んでいったという事例を紹介。GAFAに対しても同様の対応をすることで、市場が活性化し、新たなスタートアップ企業がより伸びる市場が生まれると語り、喝采を浴びていた。

AIに関する多数のセッション

AIが人間の未来をどうデザインするかをテーマにしたパネルディスカッション(撮影:筆者)

 AIは今や自動運転から医療、株の短期売買、データ分析など多岐にわたっているため、SXSWでも関連セッションが最も多く、筆者もいくつかに参加した。その中で「How AI will design the Human Future(AIが人間の未来をどうデザインするか)」というAIとロボティクスが人間とのコミュニケーションや人間の未来のあり方にどのような影響を与えるかについてのパネルディスカッションがとても興味深かったので触れておこう。

 現状AIやロボティクスがテストされている分野について、パネリストの一人でオースティンのAI企業「SparkCognition」のCEOは、米国防総省で推し進めている事例について述べた。外部スケルトンスーツやそれらのスーツを使用した飛行、そしてそれらをコントロールするための人間の脳波とAIのインターフェースなどがあるという。

 つまりマーベルの映画のような世界観を推し進めるために、さまざまな研究が行われているのだ。これらを使って人間の知能や活動を拡張することができるようになり、「Super Augmented People(超拡張人間)」が生まれるのもそれほど遠くない未来であるという。

 また同時に、AIを新たに作りトレーニングして、テストを行うAIを同社では構築している。これによりAIの進化速度や学習の精度が上がっていくであろうとも語った。この分野は現在、中国と米国の間で競争になっている分野で、軍事利用が進めばいずれはそれらのテクノロジーが一般にも普及していくと予想している。

 彼や他のパネリストは、それらが実現した未来の社会では、農業が主要産業であった頃に産業革命が起こって混乱が起こった時のように、富の分配の問題が起こる可能性が高く、最低所得保障や5年ごとに仕事が変化することに対応する教育を充実させる必要があると語った。

Def Tech

VRによる兵士トレーニング機器(撮影:筆者)

 米国防総省が新しいテクノロジー開発を推し進めていることに触れたが、軍事施設なども多いテキサス州オースティンのアクセラレータの最大手であるCapital Factoryは、米国防総省と協力してDef Tech(防衛テック)のインキュベーションを積極的に行っている。

 SXSWでもデモ、ネットワークイベントを開催しており、主にはVRやハプティクス(触覚技術)、新しい形の通信技術、建物・地形などのデータを分析するAIなどが紹介されていた。

 特にハプティックスーツは、バーチャルリアリティゲームや軍事訓練で、攻撃されていることを感じたり、スーツ全体で筋肉の動きを感じるセンサーを使って正しい動きやムダのない筋肉の動きができているかなどの測定のために利用されている。だが軍事利用の後に、外骨格スーツとの組み合わせでロジスティックスや流通などへ展開されることが予測されるという。

触覚でフィードバックをするハプティックスーツ「Teslasuit」(撮影:筆者)

 SXSWは音楽イベントでもあるので、筆者も毎回いくつかのライブを見るようにしている。たまたま立ち寄ったライブハウスでSXSWを体現するような一人バンド「Mobley」のライブを見ることができた。

 YouTubeなどでもたまに一人バンドのビデオが話題になることがあるが、各楽器を別々に録音・録画して重ね合わせたものがほとんどだと思う。だがMobleyはそれをライブステージ上で行う。スタイルはファンクとロックを組み合わせたような曲が多いが、ドラム、キーボード、ギターの間を行き来しながら、録音した部分をループさせたりプログラミングしたりして、同時に歌唱もする。そして、観客を盛り上げるためにダンスも披露するというスタイルである。

キーボードからギターに持ち替え曲を続けるhttps://www.mobleywho.com(撮影:筆者)

 大人数のオーケストラやジャズのビッグバンドから、楽器が電子化することで3~4人のロックバンドが作れるようになってきたように、音声トラックのループとプログラミングのテクノロジーにより一人バンドで公演することを可能にしている。次はここにもAIが入ってくるのだろう。それがどのように音楽を変えるのだろうか、と考えさせられた夜であった。

 後編ではSXSWで見たスタートアップ企業群について解説したい。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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