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2019年03月27日

織田 浩一 北米トレンド

米国におけるリアルデジタル小売店舗の最前線
~パーソナル化されたショッピング体験という未来~

 2019年1月にニューヨークで開催されたNRF(全米小売協会)の年次イベント「Retail's Big Show」は、3万6500人を集める小売業界最大のイベントだ。紹介されているテクノロジーはリアル店舗をサポートするものが大多数を占め、Eコマースやデジタルテクノロジーと統合したリアル小売店舗が次々と登場している様子が紹介されていた。今回はそのようなリアルデジタル小売店舗について解説したい。

デジタル小売の進化

 小売のデジタル変革は、90年代のCRMやポイントカードなどによる顧客データの収集から始まり、2000年代はEコマースの展開を中心に進んできたといえる。AmazonやeBayの登場から、マーケットプレイス、課金サービス、レコメンデーション技術、2時間配達を可能にするロケーション技術、オーディエンスセグメント化・ターゲティング、ソーシャルショッピング、モバイルコマースなど次々に進化を遂げてきた。

 とくに最近では、Amazonが高級スーパーチェーン「Whole Foods」を買収したように、OMO(Online Merge Offline)と呼ばれるトレンドも進みつつある。

 Eコマース業界サイト「Internet Retailer」の調査によると、アメリカにおける2018年の小売売上のEコマースシェアは14.3%で、Eコマースの売上総額は対前年比15%上がったという。その影響か、ここ数年はトイザらス、Best Buy、Sears、Kマート、Macy’s、など大手小売店の閉鎖が相次ぎ、リアル小売の終焉がやって来たかのように語られることが多い。

 もちろん、リアルの小売店舗もWi-Fiやビーコン、ビデオ解析による店内動線分析などのテクノロジーを導入し、より効率的な店舗運営を目指していて、店舗のオムニチャネル化に取り組んでいる。

 2019年1月にニューヨークで開催されたNRF(全米小売協会)の年次イベント「Retail's Big Show」でも、様々なテクノロジーが導入された新しいリアル小売店舗が次々と誕生している様子が紹介された。「リアルデジタル小売店舗」と呼んでもいいような業態であるが、イノベーションをテストする場として機能したり、新たなトレンドを生み出したりする場所でもあるようだ。そのような店舗の事例を見てみよう。

アメリカのリアルデジタル小売店舗事例

Nike House of Innovation NYC 000

 昨年11月にニューヨークの5番街にオープンした地下を含めて6フロア、6300平米の売り場面積を誇るNikeのフラッグシップストアが「Nike House of Innovation NYC 000」である。

 未来のリアル小売はパーソナル化されたショッピング体験で、デジタル体験と同様に顧客のニーズに素早く対応するものであるという概念で作られているようだ。リアルとデジタルを統合したハイブリッドな体験を提供している。

「Nike House of Innovation 000」の外観。ニューヨーク5番街のブランド街の一角にある
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-nyc-house-of-innovation-000

 何よりもパーソナル化したショッピング体験を象徴するのは、自分の好きなスニーカーを作れるサービスだろう。下図は同店内の「The Arena」というセクションである。そのシーズンのファブリックや型などを選択して、スニーカーのDIY(自分自身で行う、の意味)ができるエリアである。同社はすでに「Nike By You」というスニーカーをカスタムメイドできるサイトを展開しているが、それをリアルで実施できる場所を提供しているのだ。

The Arena
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-nyc-house-of-innovation-000
「The Arena」では数多くのカスタムオプションが用意されている
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-nyc-house-of-innovation-000

 NikePlusのメンバーはモバイルアプリ「Scan to Try」を利用することで、試したいスニーカーや服を試着室まで持って来てもらえる。また「Instant Checkout」を利用して、商品をスキャンすることで支払いを済ませ、そのまま店を出ることも可能だ。

 同店舗は常に進化しつつあるようで、これからも新しいテクノロジーが導入されると考えられる。

Nike By Melrose

 西海岸に移ろう。昨年7月にロサンゼルスのMelrose通りにオープンしたのが「Nike By Melrose」である。

「Nike By Melrose」の外観
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-by-melrose-store-los-angeles

 平屋の店舗は「House of Innovation NYC 000」と同様に多数のデジタル機能を備えており、データを活用した店舗作りとなっている。「Nike Live」という概念で作られた「Nike By Melrose」はロサンゼルスのNikePlus会員が購買している商品、商品ページへのエンゲージメント、アプリ利用データなどに基づいて品揃えが構成されている。そのコミュニティを反映した店舗づくりが行われ、2週間ごとに更新しているという。

「Nike By Melrose」店舗内。品揃えがNikePlus会員の行動などによって決められている
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-by-melrose-store-los-angeles

 来店促進や店内でのアプリ利用を高める施策も用意されている。「Nike By Melrose」内には下図の「NikePlus Unlock Box」が設置されている。これはNikePlusのメンバー向けに無料商品やリワード(会員向けのご褒美にあたるサービス)を提供する自動販売機である。NikePlusアプリをスキャンさせることで商品などが受け取れる仕組みだ。2週間ごとに新たな商品、リワードが追加提供される。NikePlusのアプリで通知されるので、それを受け取るために来店を促すことができる。

NikePlusのメンバーはアプリを「NikePlus Unlock Box」自販機にかざすことでリワードや商品をもらえる
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-by-melrose-store-los-angeles

 ロサンゼルスはクルマ社会なので、NikePlusアプリで注文し、「Nike By Melrose」に備えられたドライブスルーでピックアップも可能である。必要な商品を素早く手にする仕組みとしてもう一つ、下図の予約・ピックアップボックスを入口近くに設置し、NikePlusのアプリで解錠して商品を受け取る仕組みも用意されている。

商品のピックアップボックスはモバイルアプリ内のパスを利用して解錠する
出典:Nikeニュースサイト(https://news.nike.com/news/nike-by-melrose-store-los-angeles

Converse Sohoストア

Converse Sohoストアの外観と一階
出典:Converseサイト(https://www.converse.com/stores/store?StoreID=converse-soho-store

 スニーカーブームに乗って、2016年にNikeグループの一ブランドであるConverseもニューヨークのSohoに同ブランド世界最大の930平米を誇るフラッグシップストアをオープンさせた。その地下にあるのが、ConverseがNikeと同様のテクノロジーを利用したスニーカーのカスタムスタジオ「Blank Canvas(何も書かれていないキャンバス、の意味)」である。

 Converseは昔から、クリエイティビティと自己表現をブランドの核としており、アーティストやミュージシャンなどからも愛されてきた。

 この店舗では、すでに様々な素材や色の組み合わせの「Chuck Taylor」や「One Star」、「Jack Purcell」などが1階で販売されているが、「Blank Canvas」では、自分だけの「Chuck Taylor」を作るという考え方だ。

 「The Maestro(巨匠、の意味)」と呼ばれる店員のサポートを得て、素材やキャンバス、デザイン要素、紐などをモバイルアプリ上で選んで形にしていく。1時間程度の作業で、その日のうちに持ち帰ることも可能だという。

Blank Canvas。モバイルアプリでキャンバスや靴底、紐の色やパターンを選べる(撮影:筆者)
壁にはスニーカーの底、キャンバスのサンプル、そして実際にカスタムメイドされた「Chuck Taylor」が並ぶ(撮影:筆者)

Reformation Soho Bond Stストア

 環境・職のサステナビリティをブランドの核として2009年に立ち上がった女性ファッションブランド「Reformation」。環境問題に大きな影響を与えるファッション業界で、素材や水、エネルギーの利用を減らすことをミッションとしている。

 毎年、ミッションに対して、どのような環境対策の結果を得られているのかをレポートしている。同時にロサンゼルスに工場を持ち、そこで働くスタッフに教育の場を提供したり、市民権を得るための法的サポートを行ったり、情報開示のために顧客に向けて毎週金曜に工場ツアーを実施したりしている。

 現在全米に14店舗を構えているが、ニューヨークのSoho Bondストリートにある店舗では、商品をスムーズに試着できる機能が提供されている。

Reformation Soho Bond Stストア外観(撮影:筆者)
店舗内には商品が控えめに並ぶ。奥にいくつかの試着室がある(撮影:筆者)

 同店舗ではモバイルアプリを利用し、試着したい商品を事前に選んで予約を申し込み、その時間に店舗を訪れる。下図の店内サイネージで商品とサイズを選んで、指示される番号の試着室へ入るとその商品がすでに置いてあり、試着できるというわけだ。もし別の商品やサイズが必要であれば、その試着室内のサイネージで指示をだせば、試着室にある小窓から商品が届けられる仕組みになっている。

壁に用意された大型サイネージから気に入った服とサイズを指定して、試着室へ持ってきてもらう(撮影:筆者)

b8ta

 「Retail as a Service(RaaS)」という概念で2015年にガジェット商品の小売チェーンとして立ち上がり、今では12の独立店舗と百貨店「Macy's」や日曜大工用品販売「Lowe's」などで70の店舗内店舗を展開するのが「b8ta」である。

 販売している商品は、スマートホームデバイスやIoT製品、医療・ウェアラブルデバイス、ドローンやエレクトリックスクーターなど、まったく新しい分野のデジタルハードウェア製品であり、製品の理解のために利用方法や利用ケースなどの説明が必要なものが多い。

b8ta外観
b8ta内観。商品の横に設置されたタブレットで、ビデオによる商品説明やEコマース購買ができる仕組みが用意されている

 これを解決するために、同店舗はショーケースのようにゆったりとした空間に商品を並べ、商品ごとにタブレットを用意。それによって商品説明のビデオ、利用事例コンテンツ、オーディオ製品であれば音声コンテンツなどを提供し、購買まで促進できるようにしている。

 各製品のメーカーは、RaaSプラットフォームを介して、これらのタブレットの利用顧客や利用状況、特定の顧客が店内でどのような他製品に興味を持っていたかをトラッキングすることができるため、新たなマーケティング施策に役立てることも可能だ。非常に新しい概念の製品が多いので、b8taがテストマーケティングの場となっていると言えるだろう。

 上記だけではなく、Amazon Goのようなチェックアウトフリー型の店舗も全米の大都市において増えつつある。

 様々なデジタル機能がリアル店舗に浸透していき、リアルデジタル小売店舗は様々な業種の小売チェーンで普及しつつある。これまではEコマースに対抗してリアルデジタル小売店舗が展開されてきたが、Eコマースとリアルが統合していくことで、Eコマースという言葉がなくなり、すべてが単に小売と呼ばれる日も近いのではなかろうか。

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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