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2019年06月28日

織田 浩一 北米トレンド

北米フィンテック最新動向、注目を集めるAI活用企業とネオバンク
~Finovate Spring 2019カンファレンスレポート~

 2019年5月8日から10日にわたって、米サンフランシスコで開催されたフィンテックカンファレンス「Finovate Spring 2019」に参加した。今回は、現在の金融業界でのテクノロジー動向と参加したスタートアップ企業について解説したい。

 2007年秋にニューヨークで始まったFinovateは、フィンテック分野のスタートアップを多数フィーチャーするカンファレンスだ。Intuitに買収されたMintや2014年に株式公開を果たしたLending Clubなども過去にスタートアップ企業として登場している。2008年にはサンフランシスコでも実施され、その後、ヨーロッパ、アジア、中東ドバイでも開催されるようになり、グローバルカンファレンスとしての地位を確立した。

 今回、サンフランシスコで行われた「Finovate Spring 2019」に参加してきた。3日間でフィンテック分野のスタートアップ60社がステージでピッチ(端的にまとめたプレゼンテーション)を行い、その合間に業界トレンドのプレゼンテーションやパネルディスカッションなどがメインステージで行われた。銀行向け、保険会社向け、課金サービス向けの専門トラックに別れたセッションもあり、企業展示ブースで、ピッチを行ったスタートアップ企業や他のテクノロジー企業と会話することもできた。

司会者としてステージに立つFinovateの副社長Greg Palmer氏(撮影:筆者)
企業展示エリアでは、ピッチを行うスタートアップ企業のブースに加えて、周辺サポート企業やテクノロジー企業がブースを出展している(撮影:筆者)

顧客体験向上のためのAIが話題に

 スタートアップのピッチや企業展示ブースでも、数々のAI関連の企業が登場しているが、AIをテーマにしたパネルディスカッションでは、顧客体験向上のためのAI利用についての話題が中心となった。

 パネラーの一人、米大手銀行「US Bank」の担当者は、カスタマージャーニー分析や顧客体験向上のために100近くのAIアプリを導入している。特に中小企業向けのサービスでは、リアルタイムでキャッシュフローの予測を行い、口座からの過度な引き出しを避けたり、短期企業ローンを推奨したりしている。中小企業の社長は自社の事業を推し進めることに時間を使いたいので、AIでどれだけ銀行との取引を簡素化するかが重要であると語った。

 また、オーストラリアの大手銀行「Commonwealth Bank」でも、店舗やオンライン上を含めた顧客と接する19のチャネルでの顧客エンゲージメントを高めるためのツールとして、数百のAIアルゴリズムを利用し、顧客ニーズを事前に予測し、それに対応した商品やサービスを推奨するようにしているという。

AIについてのパネルディスカッション(撮影:筆者)

新しい市場としてのギグエコノミー、起業家、フリーランス

 金融業界に調査サービスと戦略アドバイス業務を提供している「Javelin Strategy & Research」の上級副社長Jacob Jegher氏は、金融業界が成長市場の担い手である起業家やフリーランスに対して、適切なサービスを提供できておらず、これがまったく未知の市場となっていると語った。

 UberやTaskRabbitなど、ちょっとした空き時間を利用できる業務で副収入を得るギグエコノミーが伸びているが、そのような中で、起業家やフリーランスという自営の人たちは米国で5700万人の市場になっている。従来の従業員のような雇用形態に比べて3倍の速さで成長しており、将来的に大きな市場になっていくと予想されている。

 特にこの層はモバイル対応が充実している銀行を選ぶ傾向があるが、このセグメントに特定のソリューションを提供できているのは米銀行30行のうち1社程度と非常に少ないという。従来の大手銀行や中小企業向け銀行がサービスを提供できない中、このような起業家、フリーランサーへのサービスのギャップを埋めるのがネオバンクと呼ばれる、中小企業向けにフィンテックを活用した金融サービス企業であろうと同氏は語る。

”ギグ”ワーカー、起業家、フリーランスなどへのニーズへのギャップを埋めるのは、ネオバンクである(出典:Javelin Strategy & Research)
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 ネオバンクの例では、Azloが起業家向けに手数料無料の銀行口座を提供している。請求書を発行し、Azloの口座を持つ企業間では手数料無しで支払いが行え、またキャッシュフロー分析ツールなども提供している。NovoやTideも社員向けなど発行クレジットカードの上限の管理やカードの凍結機能などを提供している。同氏は伸びつつある市場に向けた、デジタルサービスを提供することで、この市場でのシェアを拡大できるのだとまとめた。

Alzoサイトより(https://www.azlo.com

米金融業界でのパートナーシップモデル

 自社の商品やサービスの質向上や、企業カルチャー変革のために、大手金融企業がスタートアップ企業やスタートアップのインキュベーター、アクセラレーターとパートナーシップを組んでいる状況を、調査・アドバイザリー企業「Celent」のチーフリサーチオフィサー、Dan Latimore氏が紹介した。

1-5の指標で、どれだけ米金融業界大手企業がスタートアップ企業や外部パートナーと協業を行っているのかを示した(出典:Celent)
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 金融企業の価値連鎖の各段階での取り組みの広がりを1-5の指標で示している。「イノベーション・リサーチ」段階が5.0と最も高く、スタートアップアクセラレーターやテクノロジー企業、大学の研究室などと業務を行っているという。逆に、提供価値のデザインや醸成については1.0と低い。ここではテクノロジー企業やデジタルプラットフォーム、データブローカーなどとパートナーシップを組んで推し進めているが、他社との差別化する商品やサービスを構築する上で最も重要な業務で、ここに注力していく必要があると語った。

スタートアップピッチ

 大手金融企業の幹部や事業開発担当者が集まるFinovateでは、60のスタートアップがステージ上で自社のテクノロジーやサービスの紹介を7分ほどのピッチで行う。興味を持った人たちは、ピッチが終わった後、企業展示ブースに訪問してそれらのスタートアップの起業家たちと会話を行うという形になる。

 カンファレンスの終わりに、参加者の投票で最も人気のあるスタートアップが「Best of Show(カンファレンスの最も良いスタートアップ)」として表彰された。その中で印象に残った企業を紹介しよう。

Voca.ai

Voca.aiサイトより(https://www.voca.ai/
Voca.aiの機能説明(出典:Voca.ai)
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 カスタマーサポートや営業、支払いの催促などに使われているAI音声プラットフォームがVoca.aiである。過去のFinovateでも「Best of Show」を何度か受賞している。カスタマーサポートなどの担当者の声を入力し、過去の電話でのやり取りなどを参照することで、顧客への返答音声を自動生成する。前回の担当者の声で返答したり、オリジナルの声を合成したりすることも可能だ。

 上図の機能の説明にもあるように、顧客(ユーザー)の意図を受け取り、それに対する返答を音声で行う。ステージ上でデモが行われたが、返答の遅れが多少あるものの、ユーザーの意向をくみ取り、きちんとした返答ができていた。

 必要に応じて、途中からカスタマーサポートの人間に通話を代わることも可能だ。そのやり取りのデータが次の自動化を行うための学習データになるので、繰り返していくと対応の精度が向上していくと考えられる。

 Voca.aiは2017年にイスラエルで設立され、昨年12月にシードラウンドの投資を260万ドル受けている。

Invest Sou Sou

 アフリカの村などで、あるグループの人たちがお金を一緒に出し合いながら、そのグループの誰かの目的のために貯蓄する。そしてそれをグループの各メンバーのために繰り返す仕組みをSou Souというらしく、何百年も続いているようだ。その仕組みをアメリカにテクノロジーとともに持ち込んだのが「Invest Sou Sou」である。経済発展途上の環境で作られている仕組みを、先進国に持ち込む逆イノベーション手法を利用して、ソーシャルバンキングシステムを提供している。

 Invest Sou Souのユーザーは、まず自分が貯蓄の目的と金額を設定する。例えば、事業を始めるための資金、大学の学費などが目的で、毎月500ドル、一年で6000ドルを貯めるというのが金額になる。そこで下図のように家族や親戚、友達をメールやテキストメッセージ、ソーシャルメディアを介して招待して、一緒にこの目標に向かって貯蓄を行っていくというものである。特に家族や親戚、友達に見られているので、責任感を持って目標に向かっていくことを助ける効果もある。

招待した家族や友達を確認する画面(撮影:筆者)

 Invest Sou Souはローン口座を持つこともでき、自分のコミュニティと貯蓄、ローンの返済を行いながら、与信スコアを上げていくことで、将来的に銀行からより大きな金額を借りることができるようになる。

 同社は2015年に立ち上がったスタートアップで、外部の投資を受けず、アクセラレーターなどで事業モデルの構築を続けているようである。

Neener Analytics

 今までも金融業界向けなどのチャットツールは多数あるものの、ローンに特化し、リスク分析まで行うチャットボットAriaを提供しているのが「Neener Analytics」である。ソーシャルメディアの分析とチャットの文面から、支払い不履行やローンを繰り上げて支払いを完了できるかどうか、信頼できるかどうか、などを分析する。同時にリスクに合わせて提示するローンの種類などをリアルタイムで調整することも可能である。

 ローン会社はAriaを利用することで、支払い不履行を30%以上減らしながら、リスクレベルを上げずに販売ローン数を26%以上伸ばし、44%以上のローンの申し込みを完了させることができるという。

Ariaはチャットで会話を行うと同時に、ソーシャルメディアやチャット文面からのデータを用いて、正直さ、処理能力などを判定し、与信スコアと合わせて、リスク分析に利用する(撮影:筆者)

 2014年に立ち上がった同社は、外部からの投資も受けず、少人数で事業を続けているようである。

 顧客体験の向上とそこから得られるデータ分析の両方をAIで行うことで、より大きな価値をクライアント企業にもたらすというようなスタートアップが増えている様子が、今回のFinovate Springでは見られた。このようなAIの利用方法はマーケティング、HRテックなど他の分野にもこれから応用されていくのではないかと考えられ、AIの進化の方向として非常に興味深いものであった。

 Finovateの主催者から、2019年10月にシンガポールで行われるFinovateAsiaの割引コードをもらった。興味のある読者はぜひ利用いただければと思う。

割引コード: FKV2352PRS
割引を含めたサイトへのリンク https://bit.ly/2GgqNDs

織田 浩一(おりた・こういち)氏

米シアトルを拠点とし、日本の広告・メディア企業、商社、調査会社に向けて、欧米での新広告手法・メディア・小売・AIテクノロジー調査・企業提携コンサルティングサービスを提供。著書には「TVCM崩壊」「リッチコンテンツマーケティングの時代」「次世代広告テクノロジー」など。現在、日本の製造業向けEコマースプラットフォーム提供企業Aperzaの欧米市場・テクノロジー調査担当も務める。

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