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2020年12月11日

FC今治とNECが描く壮大な『絵』。岡田武史会長が語る、カギとなる「DX」とは

 withコロナ時代で新たな局面に突入するスポーツ界。そのカギを握ると言われているのが「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」である。元サッカー日本代表監督にして現在、FC今治の代表取締役会長を務める岡田武史氏は、新機軸を次々と打ち出してきた人物の一人だ。同氏にDXの新たな潮流、そしてパートナーであるNECと進める取り組みについて聞いた。

元日本代表監督の目に映った新たな流れ

FC今治 代表取締役会長 岡田 武史氏

 with コロナ時代の「New Normal(新たな日常)」において、生き残りの方向を模索し続けるスポーツ界。そのカギを握ると言われているのが、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」である。

 元サッカー日本代表監督にして現在、FC今治の代表取締役会長を務める岡田武史氏の目に、新たな潮流はどのように映っているのか。

 「DXは新型コロナウイルスの影響で、一気に加速されていますね。最初は戸惑ったり疑問に思ったりした人もいると思いますが、もはやDXを進めないと社会生活や仕事が成り立たなくなってきた。スポーツ界でも10年後にはDXが浸透していくだろうと言われていたのが、コロナの影響ですぐに推進しなければならなくなってきているんです」

 リアルな現状認識は、FC今治の運営にも反映されている。岡田氏は新スタジアムの建設を1年先送りにするという英断を下した。

 「もちろん(コロナ禍で)資金調達の問題も出てきたんですが、それと同時に考えたのは、withコロナ時代のスタジアムは、おそらく今までと違ったものになるだろうと。例えばプロ野球では、VRで試合を放送するような試みが始まっている。これは自宅にいながらにして選手のプレーをはるかに間近に、そして360度の角度から見るという新しい楽しみ方を提供した。さらにはスタジアムのキャパシティに縛られず、世界中のより多くの人々にコンテンツを配信していく、新たな収益モデルの土台にもなったんです。

 もちろん、スポーツはやはりスタジアムで楽しみたいというファンもいる。そういう方々のためには、感染をケアするために客席を全てボックスシートに変えながら、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)で顔を認証し、行動を把握できるようにする。

 これからの時代は、『多様性(多様な価値観やニーズへの対応)』と『可変性(絶えず変化する状況への柔軟な対応)』がキーワードになっていくんです」

DXがもたらす「知の共有化」

FC今治で取り入れられるOKADA METHOD。それをデジタル化して「知の共有」に役立てようと奔走するのがNECだ

 岡田氏がかくも冷徹に時代の趨勢を見極めているのは、なんら驚きではない。

 同氏は豊富な指導経験と優れた洞察力を下敷きに、16歳以下のサッカー選手を対象にした指導方法を「OKADA METHOD」として体系化。2014年からFC今治に導入して目覚ましい成果を上げてきた。さらに近年は、日本を代表する電機メーカーであるNECとタッグを組んでデジタル化に着手し、総合的な育成支援プラットフォームへ昇華させてきたからである。

 そもそもOKADA METHODとは、FC今治が目指す「サッカースタイル(哲学)」を実現させるための方法論で、「プレーモデル(型)」と呼ばれる原則を軸に、トレーニングプログラムやコーチング理論、KPIによる評価方法などを組み合わせたものとなっている。

 その最大の特徴は、個々の経験や勘に頼って行われていたアナログ的指導を言語化し、誰もが容易に利用できる「知の資産」に高めていくアプローチにある。結果、OKADA METHODは、デジタル化ときわめて親和性の高いものとなってきた。岡田氏はDXがなければ、自らの革新的な理論を普及させることができなかったとさえ断言する。

 「DXが追い風になったというよりも、むしろDXがなければ実現できなかったんです。スポーツの指導者は詳細な練習計画を立て、反省点や思いついたことを記録するのが当たり前になっている。以前は自分のノートに自分なりのフォーマットで書くだけだったので、情報の共有ができなかったんですが、NECさんにICTを活用したDX化を進めてもらうことによって、全員の練習計画が瞬時に共有できるようになった。

 だから僕は今治のコーチたちに、たとえ面倒でも必ずパソコンに情報を打ち込むように指示しています。それがやがては、クラブ全体の貴重な財産になっていくんです」

DXがもたらす「知の合理化」

 DXがもたらす1つ目のメリットが「知の共有化」だとするならば、2つ目のメリットは「知の合理化」である。それが最も端的に表れているのは、データ分析の領域だ。

 「データ分析自体は昔からあったんですが、ここ数年は監督の目が届かない部分のデータをAIが弾き出して、具体的なソリューションまで提示するようになった。たしかにサッカーは複雑性が高い競技なので、その域に達するまでには時間がかかるかもしれませんが、DXによって明らかに状況は変わりつつある。

 従来型の映像分析は、最終的に人がデータを修正するので、時間と費用が膨大にかかったんです。ところが最近では、詳細なデータを短時間で提示するシステムも登場してきた。このシステムを育成年代の大会に導入すれば、サッカー協会側は、日本のどこにどんな選手がいるかというデータベースを簡単に構築できる。我々のようなクラブにとっても、データ分析の時間と人件費を大幅に節約できるんです」

 この種の合理化が、スポーツクラブの運営を大きく利することは指摘するまでもない。ましてや日本のスポーツ界はコロナ禍の直撃を受け、深刻な状況に追い込まれている。

 「従来のスポーツビジネスでは、スタジアムを満杯にすることが最大の目標になってきました。しかしコロナ禍で試合が開催できなくなったために、現在はJリーグの56クラブのうち約半数が赤字に陥ってしまっている。

 我々はサッカークラブの経営とは本質的にスタートアップ、ベンチャービジネスだという意識を持たなければならない。今、求められているのはコロナ禍が収束するのを辛抱強く待つことではない。コロナ禍の中でも生き残っていけるようなビジネスモデルを、死にものぐるいになって考え出していくことなんです」

 岡田氏は既に新たな活路を見出していた。そこでもカギを握るのはDXである。

 「今後は、現地に行って指導をするようなケースが激減すると思うんです。でもデジタル化されたノウハウやコンテンツを持っていれば、質の高い指導をリモートで行える。我々は中国のクラブに7人コーチを送り込み、『OKADA METHOD』を浸透させていくことによって大きな成果を出してきた。育成や指導をすべて管轄することで、中国人選手のプレーは目に見えて変わってきましたから。

 ただしコーチを派遣すれば労務管理も大変になるし、誰かが急に日本に帰国したりすると指導に穴が空いてしまうことにもなりかねない。その点、DXを進めていけば『人を送らないコンサル事業』を展開できるようにもなる。with コロナ時代を生き抜いていくためにも、この新たなビジネスモデルは是非、軌道に乗せていきたいですね」

DXがもたらす「知の融合化」

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 DXがもたらす第3のメリットは、様々なカテゴリーやジャンル、物理的な距離を超えた「知の融合(インテグレーション)」である。

 北海道鹿追町などでは、岡田氏がNECと共同で開発した育成支援プラットフォームを利用し、高校の部活動をオンラインで指導する実証実験も行われている。この試みは直接的には、日本の地方において発生している部活動の問題(指導者不足や少子化による学校単位でのチーム結成の困難化)を解決するための有効な手段となる。

 この育成支援プラットフォームは、一般に想像されているよりもはるかに広く、大きな可能性を秘めている。例えばサッカーの分野では、プロアマを問わず独自に育んできた「指導哲学=メソッド」の体系化とデジタル化が可能になるため、論理的な指導を通してチーム強化の効果を一気に高めていくことができる。

 これは野球やバレーボール、ラグビーといった他のボールゲーム、さらには陸上や体操といった個人競技にも当てはまる。従来のスポーツ界では、経験に依存した指導方法が一般的だった。だが今後は、現状を正確に把握・分析した上で最適なソリューションを導き出し、「知の財産」として共有していけるようになる。

 日本のスポーツ界を変えていく育成支援プラットフォームのロジックは、一般企業で採用されているPDCAのサイクル(計画・実行・評価・改善の循環プロセス)にぴったり重なり合う。現にNECは、岡田氏と手掛けたプラットフォームの開発プロジェクトを説明する際に、「育成におけるPDCAサイクル」という表現を用いている程だ。

 それはすなわち、このプラットフォームが一般企業の業績改善にも幅広く援用できることを意味する。パラメーターや初期条件さえ変えれば、営業、商品開発、人事評価など、幅広い分野できわめて有用なビジネスツールになるのは間違いない。

育成支援プラットフォームが秘めたポテンシャル

 一方、地域社会に目を転ずれば、育成支援プラットフォームは医療、教育、福祉、文化、スポーツ、経済など多くのカテゴリーを束ねながら地域コミュニティ全体を活性化し、新たな「価値」を創出していく格好の基盤を提供する。

 事実、今治市ではNECの技術と岡田氏の発想を組み合わせたスマートシティ構想が着々と進められている。岡田氏はこのプロジェクトに強い手応えを感じていた。

 「FC今治を起点にあらゆる情報やサービスが繋がり、いずれは街全体がネットワーク化されていくのではないか。僕はそんなイメージを持っているんです。これは地方都市の統廃合が進む中で、今治ならではの魅力を打ち出していく上でも非常に重要ですから。

 チケット販売やファンエンゲージメント、Eコマースのデータを統合するDXと、指導の現場における『OKADA METHOD』のDX、そして健康づくりにデジタルデータを生かすようなDXは、最初は僕の頭の中で結びついていなかった。

 でも不思議なことに、DXを進めていくと、別々だと思っていたものがどんどん結びついてあれがあったから、今、こうなっているんだという繋がり(縁)が見えてくる。そういう意味でDXというのは、人生そのものだなと最近よく感じるんです」

DXの先に浮かび上がる価値と情熱

 特筆すべきは、かくもドラスティックな変化が、東京や大阪ではなく愛媛県の今治市で進行している、しかもサッカークラブのスタジアムを起点に始まっている点だろう。

 岡田氏はスポーツを通して日本人の意識を変え、引いては日本社会を変えていきたいという想いを長年抱いてきた。その想いはNECのDXを介して急速に実現されつつある。

 ただし同氏は、こう指摘するのも忘れなかった。

 「DXの流れは止まらないし、世の中も間違いなく効率化の方向へ進んでいくことになる。でもスポーツ界は、それに飲み込まれないようにもしなければならない。スポーツには効率を追求したり成功に近づくことだけでなく、失敗したり困難を乗り越えたり、仲間と助け合って喜びを味わったりしていくという、別の大切な要素もあるからです。DXが進めば進むほど、我々はもう1つの価値を大切にしていかなければならない」

 NECが岡田氏とパートナーシップを組み、意欲的にDXを推進している理由も、まさにここにあるのではないか。

 日本を代表する電機メーカーであるNECは、日本のスポーツ界や社会全体のDXに必要なツールを満遍なく取り揃えている。

 だが岡田氏とのコラボレーションが象徴するように、NECは意図的に様々なパートナーと連携を図ってきた。それは「新たな価値」が「新たな出会い」から生まれることを熟知しているからに他ならない。DXの牽引役を果たしていくことは、同社が長年培ってきた組織と人材、そして技術をシームレスに融合させ、企業としての新たな魅力と存在意義、価値を引き出していく触媒にもなる。

 岡田氏は最後に、NECをパートナーに選び、共に歩み続ける理由を明かしてくれた。

 「現実的には、今治のスマートシティ化を進めていくことが当面の目標になりますが、もちろん僕はもっと大きな『絵』を描いていきたい。

 ただし、それができる企業はそれほど多くない。まずは技術力を持っていなければならないし、会社としての体力も求められる。そして多様な社会課題に一緒に取り組もうとする情熱も不可欠になる。NECさんは、このすべてを持っている。だからこそ僕は一緒に壮大な『絵』を描いていきたいと思っているんです」

 DXを支えるのは、来るべき社会の単なるビジョンではない。

 そこに浮かび上がってくるのは、多くの人々が未来に託した「希望」であり、新たな形で受け継がれる「知」であり、with コロナ時代を力強く生き抜いていこうとする「熱」である。

 日本のスポーツ界や社会全体で急速に進むDX、そして新たな潮流を牽引する岡田氏とNECから目が離せそうにない。

本記事はHALF TIMEで掲載されたものです。
https://halftime-media.com/interviews/nec-dx-imabari/

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