2016年06月29日
地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
和歌山発、始動した「ふるさとテレワーク」、白浜プロジェクトの成果と課題
地方創生の有効な手段として「ふるさとテレワーク」が注目されている。情報通信技術(ICT)を仲立ちに、働く場を地方に移して移住や定住を促す新しい働き方だ。総務省の実証事業モデル地域のひとつとして成果を上げている和歌山県白浜町を訪ねた。

王道の誘致
「ふるさとテレワーク」の手本となりつつある「白浜町ITビジネスオフィス」には、実証事業が始まった去年の秋からひっきりなしに視察が訪れる。首都圏のIT企業、地方自治体の企業誘致担当者、政治家に学者グループなどその数は80件を下らない。企業の顧客管理や営業支援サービスを情報通信技術(ICT)で提供する米系企業、セールスフォース・ドットコム(本社:東京都千代田区)が白浜にサテライトオフィスを開設。移転したチームが、東京にいた時以上の生産性を実現していることが、「成功例」として話題になっているからだ。
ふるさとテレワークを担当する総務省情報流通行政局の今川拓郎情報流通振興課長は「当事者の進出企業の努力と覚悟が素晴らしいことに加え、受け入れ側の県や町とのコミュニケーションが取れていることが成果につながっている」と指摘する。


白浜町に企業を誘致しようという構想は14~5年くらい前からあった。「当初からIT系企業に絞っていました」と和歌山県商工観光労働部企業立地課の辻和彦主査が振り返る。和歌山は南北に長く、京都や大阪からも距離がある。製造業の誘致は物流などの点で難しい。IT系企業ならモノを運ぶ必要はないし、ネット環境とパソコンさえあれば仕事ができる。白浜町総務課の坂本和大さんも「海を眺めながら業務をこなしたり、プロジェクトを進める。最適の環境です」と誘致活動を強化し、白浜町ビジネスオフィスにはIT系企業が数社、入居し始めていた。

企業誘致は地方自治体の知恵比べになる。セールスフォース・ドットコムの進出話が持ち上がったのは2015年のことだったが、同社には当初、ほかにも進出先候補地がいくつかあった。担当者からこっそり「白浜が一番劣勢」と聞いた坂本さんは発奮し「温泉がある、おいしい食べ物もあると白浜のいいところをありのまま見せて回った」という。白浜プロジェクトをとりまとめるNECソリューションイノベータの島野繁弘さんは「県も町も企業が出て来やすい条件は何かをシンプルに考えて正統派の誘致をされた。企業や人に移ってもらうためには奇をてらうのではなく王道が大事なのでは」と話す。
