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2023年、日本で空飛ぶクルマがテイクオフ!その具体的なプランとは

 空飛ぶクルマの開発競争が佳境に入り、世界各地で実証実験が進められている。そんな中、2020年8月、日本勢のトップを切って有人飛行の公開試験を成功させたのが、SkyDriveだ。実用化が秒読み段階に入った今、日本における空飛ぶクルマの開発と事業化プロセスはどのような局面を迎えているのか。グローバルな最新動向と実際のユースケース、今後の展望について、同社CEOの福澤 知浩氏に話を聞いた。

2023年度に空飛ぶクルマの実用化を予定

 「空飛ぶクルマの実用化は、すぐそこまで来ています。当社でも2023年度の実用化に向けて、開発を進めているところです」とSkyDriveの福澤 知浩氏は話す。

株式会社SkyDrive
代表取締役CEO
福澤 知浩氏

 空飛ぶクルマの特長は、①電動のため低コストかつ低騒音、②運転が容易で自動運転も可能、③垂直に離発着できるので点から点の移動が可能でインフラがコンパクト、という3つの点に集約される。こうした特長を活かして、「移動をより短時間で、安全かつ思いのままに、インフラが整備されていない地域でも活用できる、という世界を目指したい」と福澤氏は思いを語る。

 空飛ぶクルマの開発に拍車がかかったのは、2016年にUber社が99ページにわたるホワイトペーパーを発表し、具体的なビジネスモデルを提示したのがきっかけだ。これを機に、欧米では製品発表や飛行試験が相次ぎ、実用化に向けた取り組みが一気に加速した。

 もちろん、日本も例外ではない。2020年8月にはSkyDriveが日本で初めて有人飛行の公開試験を成功させ、この領域におけるトップランナーとしての存在感を示した。

SkyDriveが開発を進める空飛ぶクルマのコンセプトモデル「SD-XX」
SkyDriveが開発を進める空飛ぶクルマのコンセプトモデル「SD-XX」。自動車同等のコンパクトサイズで、電動化と量産化で低コストの実現を目指す。自律制御技術で運転が簡単で、将来は自動運転を見込んでいる

 「おそらく2022年から2024年にかけて、空飛ぶクルマの販売がスタートするでしょう。その市場規模は、最終的には自動車市場の約1/3にまで拡大するのではないかといわれています。今後、バッテリーの電池技術が進化して航続距離が延び、規制や社会受容性の問題もクリアすれば、空飛ぶクルマの利用はどんどん広がっていくと思います」と福澤氏は見通しを述べる。

 現在開発中の空飛ぶクルマは、大きな機体と小さな機体の2タイプに大別される。前者はサイズ10m四方、重さ3トン以上の機体で、その代表格がベル社のNexusだ。一方、後者はサイズ3m四方、重さ0.6トンとコンパクトなつくりで、SkyDriveや中国のイーハン製品などがこれに当たる。

 大きな機体は100~300kmの航続距離を持つのに対して、小さな機体は20~30kmと短い。「このため遠くまで行きたい時には大きな機体、コンパクトな離発着場を使って近距離を移動したい時には小さな機体が向いている」と福澤氏。「日本とアジアでは、ビルの屋上でも離発着が可能で、日常的に使えるコンパクトな機体が普及するでしょう。一方、土地が広くて移動距離が長い欧米では、大きな機体の開発・導入が進むのではないかと思います。今は、これら2つのカテゴリー間で互いに切磋琢磨しながら、開発が進められているという状況です」

大阪と東京のベイエリアでエアタクシーが就航

 現在、空飛ぶクルマのプロジェクト候補は世界に200~300件あるといわれている。だが、有人試験まで漕ぎつけたのはわずか10件程度で、日本勢ではSkyDriveの1社のみ、というのが実情だ。

 同社は2019年、愛知県豊田市に1万㎡の開発拠点を構築。2020年8月には、国内で初めて有人飛行の公開試験を成功させた。今後、国土交通省の航空法に基づく認証を取得し、エアバスやボーイング並みの安全性があると認められれば、一般の乗客を乗せた有人飛行が可能になる。

 サービス開始は2023年度を予定している。SkyDriveの特長であるコンパクトな機体のメリットを活かして、「コンビニの駐車場ぐらいのスペースから離発着できるような機体をつくり、圧倒的に身近に空を使える世界を目指したい」と福澤氏は意気込む。

 ただし、当面は安全・安心な形での運行のため、決まった区間を往復する、かなり限定したエアタクシーのサービスからスタートを予定している。具体的には、飛行許可を得やすい海上ルートで一定の輸送ニーズも見込める「首都圏」と「大阪の湾岸エリア」での実装を目指すという。

 「手始めに、大阪のベイエリアからスタートしようと思っています。このエリアには、USJや海遊館、大阪万博やIR(統合型リゾート)の予定地である夢洲などが集中しています。年間数千万人の観光客が訪れる大阪の代表的観光地であり、来訪者の半数を占めるのがインバウンド客。ところが、このエリア内を電車やバスで移動しようとすると、意外に時間がかかる。そこで、空飛ぶクルマを使って楽しく移動できるようにしよう、というのが目下の計画です」

日本における有人飛行ルート案
2023年度のサービス開始後に計画している有人飛行ルート。安全性が高く、一定の輸送ニーズが期待できる海上ルートが選ばれている

当面は「エンタメ×移動」からスタート

 2020年11月、「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」が発足。SkyDriveは、大阪府やさまざまなステークホルダーと連携しながら、空飛ぶクルマの社会実装に向けて協議を進めることとなった。「いずれ空港までルートがつながれば、海外からの観光客も気軽に大阪のベイエリアに行けるようになる。ベイエリアから淀川の水上バスに乗船すれば、梅田や京都まで移動することも可能です。そんな形で、どんどん計画を広げていきたいと思っています」

 当面のユースケースとしては「エンタメ(エンタテインメント)」、「移動」、「エンタメと移動の中間」を考えているという。「エンタメについては、遊覧飛行やジェットコースター、観覧車のような使われ方、移動の面では、ほかに移動手段がない場合や、時短のための利用が中心になると思います。一方、エンタメと移動の中間というのは、SLや豪華客船に近い使われ方です。その意味では『エンタメ×移動』からスタートして、徐々に『移動』に移行していくのではないかと考えています」と福澤氏。それ以外にも、救命救急、エアタクシーなど、さまざまな分野での利用が考えられるという。

 空飛ぶクルマの実用化にあたっては、法整備も欠かせない。現在、欧米が中心となって航空法の整備を進めており、操縦士の免許制度についてもグローバルな議論が行われている。

 日本でも2018年8月、空飛ぶクルマの産業育成と競争力強化を目指して、「空の移動革命に向けた官民協議会」が発足。官民の関係者が一堂に会し、今後、オールジャパンで取り組むべき技術開発や制度整備についての協議が進められてきた。

 「国の成長戦略にも、2023年度からの事業開始に向けた制度整備が明記され、国としてもかなりバックアップしていただいていると感じています。おそらく2021年の半ばには、制度が完成して認証が始まり、順調に行けば23年にローンチできるのではないかと思います」と福澤氏は述べる。

無人機と有人機の両輪でノウハウ蓄積と相乗効果を狙う

 現在同社では、空飛ぶクルマの開発と並行して、産業用ドローンの開発・事業化にも取り組んでいる。通常のドローンは5㎏程度しか運搬できないため、カメラを搭載して空撮や測量、点検などに利用されているが、SkyDriveの『カーゴドローン』は、30㎏以上の運搬が可能。有人機のノウハウを活かした安全設計により、「重いものを安定的かつ安全に移動させる」ことを可能にした。

SkyDrive社が両輪で開発を進める、有人機の空飛ぶクルマと無人機のカーゴドローン
SkyDrive社が両輪で開発を進める、有人機の空飛ぶクルマと無人機のカーゴドローン。共通のコア技術が使われている

 「実はこのカーゴドローンは、困りごとの解決にかなり役立っています。例えば、鉄塔はメンテナンスしないと錆が発生するため、鉄塔をペンキで塗装する作業が年間約3000本のペースで発生します。この塗装作業には20 kg の塗料缶が30~35本必要で、今は道なき道を、人手で運んでいるのが実情です。このペンキの運搬をカーゴドローンで代替すれば、危険な作業を減らして、作業のスピードアップを図り、労働力不足にも対処することができます」

 カーゴドローンの活躍が期待できる場は、もちろんそれだけではない。山設備や建設現場、船・洋上設備への資機材の輸送、山小屋への物資輸送など、さまざまなユースケースが考えられるという。

 「例えば、山小屋の物資輸送や、山間部の建設現場への資機材の輸送は人手で行われており、多大な時間とコストがかかっています。こうした作業の一部をドローンで代替できれば、コストパフォーマンスを大きく改善することができる。いずれは街中でも、宅配サービスでのドローン利用が進むのではないかと思っています」と福澤氏は先を見据える。

 同社では航空機開発で培ったノウハウを活かし、2020年にカーゴドローンの販売を開始。市場拡大が先行する無人機で運行実績を積み、そこで得た知見を、有人機の開発に反映させていく考えだ。

2023年度の実用化にむけた今後の戦略とキーポイントは

 2023年度の実用化を見据えて、今後同社では、空飛ぶクルマの市場をどのような戦略を持って切り開いていくのだろうか。

 「当初は新興国を中心に、市場開拓を進めていきたいと考えています。特に中国は飛行許可がとりやすく、中国政府も膨大な資源投下を行っているため、スピード感を持って事業を展開できるのではないかと思います」と福澤氏は言う。

 一方、日本市場はどうか。万博開催を控えた大阪は別として、国内のほかの地域での運用は、社会受容性の観点からいってもハードルが高いと福澤氏。「まずはアジアで先行導入し、十分な実績を積んだ上で、日本市場で事業を拡大していくことを考えたい」と展望を語る。

 「人類の歴史はモビリティの進化とひも付いています。空飛ぶクルマによって、移動や生活を豊かにすると同時に、日本発のハードウェア・スタートアップを成功させることで、日本のものづくり産業の活性化につなげたい。今の日本のものづくりは大企業が中心ですが、優秀な人材がスタートアップに行けば、日本発の新しい製品をどんどん生み出すことができる。空飛ぶクルマの開発を通じて、その点に貢献できればと思っています」

(資料・写真提供:SkyDrive)

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