2017年01月24日
「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」特別講演
シンギュラリティの、その先へ ~未来の科学とテクノロジー~
ロボットが人間よりも賢くなる日もそう遠くはないでしょう。ニューヨーク市立大学 理論物理学 教授のミチオ・カク氏が、未来の謎に踏み込みます。それは事実と現在のテクノロジーに基づく未来です。予測は思ったより早く現実のものとなるかもしれません。
シンギュラリティ - スーパーロボットの登場
「ロボットが人間と同じぐらい賢くなる日が、いつか来るでしょう。その時には、未来学者が称する『技術的特異点』を目の当たりにすることになる。」と世界的に著名な理論物理学者であるミチオ・カク氏は言います。
現在のロボットは「3D」、つまり「Dull(退屈な)」、「Dirty(汚い)」、「Dangerous(危険な)」仕事を担当しています。反復作業というものは、退屈でつまらないものです。下水道の清掃や事故の後始末、爆弾の拡散は、危険な作業であることは言うまでもありません。最先端ロボットでさえもゴキブリほどの賢さも持ち合わせていませんが、徐々に賢くなってきています。ロボットには福島の原発事故後処理に必要なスキルがまだないものの、徐々に知性を高め、感情を持つまでに個性を発達させることになるだろうとカク氏は予測します。ロボット産業は、サービス、保守、設計、修理に携わる数千の雇用を創出するものと見込まれます。
カク氏の主張は、ロボットが人間に取って代わる能力を持つのは時間の問題ではあるものの、それほど間近ではないということです。その理由として以下の3点を挙げています。まず、ロボットは視覚認識が非常に悪く、常識と自己認識のどちらも欠けているということ。改善すべき点が山積みなのです。ロボットは、知的資本、経験、ノウハウ、機転、革新性、創造性、リーダーシップ、分析力で人間をサポートすることはできないということ。ロボットにはこうしたことは無理なのです。3点目は、脳を大量生産することはできないということです。
ブレインネット – 感覚と記憶を送る次世代インターネット
物理学者であるカク氏は、未来学者であり科学の普及者でもあります。複数のベストセラーを含め多数の著書を執筆し、ラジオやテレビ、映画にも頻繁に出演しています。物理学者は物を発明することが好きで、トランジスタ、レーザー、電子レンジ、MRIスキャナー、宇宙計画、GPSシステム、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)等の世界的に重要な発明の多くに物理学者が貢献している、とカク氏は指摘します。
物理と予測は、発明と密接なつながりがあるようです。しかし時には、予測した方向に物事が進まないこともあります。あらゆるものに関する情報を提供したWWWは、検索対象の5%がポルノとなっています。カク氏は、今後50年から100年間、さらには500年後の予測に関して記しています。宇宙旅行、さらには宇宙船…そして知性の意味という重要な問題についての予測です。氏は、次世代のインターネットを「ブレインネット(brainet)」と称しています。人々は、自分の記憶、感情、感覚、知覚をインターネット上で送信できるようになります。
人工知能、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーが融合する時代が到来し、これら3つの最先端テクノロジーの力をいかにコントロールするかがカギとなるでしょう。
火星に基地ができる?
世界中の科学界で想像をかき立てている大きな取り組みが、現在3つあります。
1つ目の目標は、米国が15年~20年以内に火星に到達することを目標として掲げているということです。2つ目は、強力な新型コンピュータの機能と技術的専門性を生かし、ガンに対する新たな戦いを挑むことが可能になるであろうということ。3つ目は、人間の脳全体をマッピングするという壮大な目標です。「BRAIN(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies:最先端の革新的なニューロテクノロジーによる脳研究)」イニシアティブと「コネクトーム プロジェクト」では、感情、知覚、記憶を含む脳全体のマッピングを可能にすることを目指しています。
有人火星探査に関する米国の声明を受け、コンピュータ、人工知能、コミュニケーションの利用方法が変わるものと見込まれます。非常に費用はかかるものの、テクノロジーと科学面でのメリットは計り知れません。新たなテクノロジーと次世代のコンピュータが必要となり、火星における恒久的な拠点が築かれることになります。
米国政府だけでなく、イーロン・マスク氏と同氏が経営するスペースX社、ならびにブースターロケットを擁するボーイング航空機の2つのグループが、火星に人間を送り、さらには入植する計画を示しています。ここで重要になるのが、テクノロジーと科学の進歩です。1960年代のNASA宇宙計画により、ロケットの小型化と増幅無線・通信がテクノロジー進化の原動力となりました。