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wisdom特別セミナー「次世代中国一歩先の大市場を読む」より

いつ現地流マネジメントに切り替えるか
成長市場を攻めるための人材活用術

 経済成長を続けるアジアのリテールマーケットは可能性の宝庫。NECも長年、アジアリテール事業を展開してきました。ただし、課題もありました。人材マネジメントです。NECの佐藤 義之は、wisdom特別セミナー「次世代中国一歩先の大市場を読む」で「哲学とノウハウに現地流マネジメントをどう結び付けるかがカギ」とポイントを語りました。

佐藤 義之

NEC 第一リテールソリューション事業部グローバル第二インテグレーション部部長
統智科技股份有限公司董事

入社以来20年間、小売業マーケットに対するITソリューション営業、事業開発を担当。
国内小売マーケットの経験を得て、2005年より海外事業に従事。2008年から2年間半、マレーシアのリテール部門強化のため、NECマレーシアに赴任し、現地企業向け事業を立上。現在は、中国、東アジア、APACのリテール部門責任者。

日本企業から現地企業へと顧客が変化

 多くの企業が、中国や東南アジアの急成長する市場をどうやってビジネスに取り込むかを考えていることと思います。私はNECで中華圏、東南アジアで10年以上、リテールソリューション事業に携わってきました。その経験を基にアジアのリテールマーケットと海外事業のポイントについてお話しさせていただきます。

 NECのリテール向けIT事業は「For All Retailers」を掲げ、ICTの活用で世界中の小売業の事業運営と拡大に貢献し、便利な社会を創ることを目指しています。これまでに海外で12万件を超える実績があります。

 具体的には、コンビニエンスストアやドラッグストアなどの小売業向けに、POSシステム、電子マネーリーダー、デジタルサイネージなどに加えて、最近ではAI、IoTを活用した顔認証や需要予測などのソリューションも提供していますが、市場の成長に伴って、ビジネスの中身も少しずつ変わってきています。以前は日系企業の海外進出をご支援するのがメインでしたが、現在は現地企業とのビジネスが増えているのです。これによって、以前は「点」でとらえていたマーケットを、「面」でとらえることができるようになってきました。

 先に述べたように、ITシステムや顔認証などの最新技術と小売業の知見を持っているのがNECの強みです。

 たとえば、商品棚の前にお客様が立つと、性別・年齢に応じて最適と思えるプロモーション映像を流したり、備え付けのタブレットにスマホをかざすことで割引が適用されます。また、おもしろいところでは笑顔を見せると割引率が上がるなど、アジアでは新しい顧客体験を実現する様々な取り組みが進んでおり、NECも多様な技術を提供しています。

海外事業における人材マネジメントの課題と解決策

 このように、アジアのリテールマーケットでは、存在感を示すために多くの企業が最新技術とアイデアを駆使して、互いにしのぎを削っています。一方、技術とアイデアだけでは、乗り越えることが難しい壁があることも経験しました。

 それは、人材マネジメントの部分です。

 そもそも、グローバルビジネスにおける人材マネジメントは、段階的に考えなければなりません。

海外事業の進捗と人材・体制の関係
「立ち上げ期」「事業基盤の構築期」「成長期」で、それぞれ人材の役割が変わる。最終的には、現地流のマネジメントでの運営を目指すべき

 まず、ステップ1は「立ち上げ期」。この段階では、現地のトップも現場の責任者も日本人。現場担当者に少し現地人が入りますが、通訳などが主な仕事で、顧客もほとんどが日本の企業です。ですから、日本の商習慣、日本語でのやりとりが可能で、例えば、首都圏で展開していた事業を地方で展開し始めるのと、さほど変わらないともいえます。

 次のステップ2は「事業基盤の構築期」。現場責任者は、ほぼ日本人ですが、トップは現地人を据えるケースも出てきます。また、顧客は日本企業だけでなく現地企業の割合も増え、日本流のマネジメントが通用しなくなってきます。日本人がリードするには限界があり、自然に現場の担当者は現地人が占めるようになっていきます。

 ステップ3は「成長期」で、自分たち自身が現地の会社として事業を展開し始める段階です。経営トップや現場責任者、現場担当者もほぼ現地人になり、顧客の割合も現地企業のほうが多くなる。現地人がリードする現地流のマネジメントが取り入れられ、このフェーズにスムーズに移行できると、次に「成熟期」が待っています。

納得がなければ現地の人たちは動いてくれない

 私がマレーシアに駐在していた時、NECの現地法人はステップ2の段階でした。トップは日本人でしたが、現場の営業部隊やシステム開発部隊、保守サービス部隊は現地人という状況です。

 私は、そこに管理職として赴任したのですが、問題は山積みでした。営業は人脈頼み、開発はなかなか納期を守れず、保守はトラブルの多さが売り上げにつながると考えている。日本ではちょっと考えられない状況です。

 しかし、ただ単に日本式を押し付けてもうまくいかない。日本では、見本を見せればわかってくれるかもしれませんが、なぜそれが必要なのかが納得できないと現地の人たちは、なかなか動いてくれません。そこで、営業には課題解決型の提案、開発は納期の厳守、保守サービスにはトラブルを減らすことが、CS向上・利益率向上につながることを繰り返し説明しながら、少しずつ状況を改善していきました。

 こうした経験も踏まえ、現在、NECの海外リテール事業は新たな取り組みにチャレンジしています。海外の現地法人がNECの哲学、リテールナレッジを理解しながら、それぞれの国の文化や慣習に対応して、独自に運営することを目指し、その方法論を「NEC Retail way」と名づけています。

 企業の哲学、リテールナレッジを理解するのはもちろん、そこに共感できる人材を育成し、現地でのマネジメントに責任をもって向き合ってもらう。こうした仕組みができれば、人材も定着し、現地主導の新しいビジネスが生まれる可能性も高まるでしょう。

 さらに成熟すれば、日本の本社と海外現地法人の間で、共感・刺激を伴う関係を構築していけるのではないでしょうか。共通のマインドを基盤にして、現地流のマネジメントを実施する。それが海外事業の新たな可能性を拓いてくれるはずです。