社会の循環器である物流を止めない
センコーグループが挑むデータ活用と人材育成
物流、商事を中心に事業を展開するセンコーグループでは、現在データ活用とデータ人材の育成に挑戦している。目指すのは物流の課題解決と新たな提供価値の創出。社内に広くデータ活用の意識を定着させるため、現場担当者を中心とするプロジェクトを進めている。
物流の課題を解決することは重要な使命
──データ活用およびデータ人材の育成に取り組んだ背景を教えてください。
吉田氏:センコーグループの中核事業となるのが物流です。総合スーパーやドラッグストアなどの流通業界、住宅・建材業界、ケミカル業界、食品業界などのお客様に全国規模のネットワークを活かした物流サービスを提供しています。この物流事業の課題解決がデータ活用と人材の育成に取り組んだ目的の1つです。
──どのような課題でしょうか。
吉田氏:現在、物流は大きな課題に直面しています。その1つがドライバー不足です。少子高齢化で労働人口が減っているだけでなく、負担が大きい、つらいという印象が強いドライバーは、少し前から担い手が減り続けています。加えて2024年4月には、これまで猶予されていた自動車運転業務の時間外労働の上限規制が適用されるようになります。このままでは労働時間の減少がドライバーの収入を低下させ、さらなるドライバー不足になるといわれています。
人の体の心臓や血管に例えられるように、物流は社会の経済活動を支える重要な役割を果たしています。より短い時間、より少ないドライバーで、これまで同様、あるいはこれまで以上の物流サービスを実現し、ドライバーの収入を担保する。ドライバー不足に歯止めをかけて物流事業を継続させることは、私たちの重要な使命です。
では、どのように課題を解決するか──。解決の糸口がないわけではありません。実は物流は、まだムダの多い分野です。例えば、往路ではいっぱいの荷物を積んでいたが、復路ではガラガラ。こんなトラックがたくさん走っています。復路でも荷物を積んで走ることができれば、単純計算で2倍の働きです。輸配送の計画をはじめとする今の業務のやり方を見直し、このようなムダをなくすことができれば、課題解決に近づくのではないかと考えています。
──その業務の改革にデータが使えるのではないかと考えたのですね。
南里氏:はい。現状の物流における課題解決にとどまらず、 新たな提供価値の創出にもデータを活用したいと考えています。センコーグループは、吉田が紹介した物流以外にも、商事、介護や家事代行サービスを提供するライフサポート、ITサービスや不動産や人材派遣などのビジネスサポート、ものづくりのプロダクト事業など、複数のビジネス領域を展開しています。グループ内の各事業をデータでつなぎ、点ではなく“面”で新たな提供価値を生み出したい。そのためには、デジタル人材が必ず重要になる。そう考えて、我々教育部署とDX推進部署が組織の壁を超えて、協働でデータ活用人材の育成に取り組んでいます。
市民データサイエンティストの育成
──どのように取り組みを進めたのでしょうか。
南里氏:センコーグループがデータ人材の育成に取り組んだのは、今回が初めてではありません。
センコーグループには従来、「人」と「育成」を大切にする文化があります。その中で将来を担う人材育成を目的に2016年に社内大学である「センコーユニバーシティ」を開学しました。センコーユニバーシティは、高度な専門性を持つ人材育成をテーマに掲げ、リーダー教育など、複数の学科を設けていますが、その1つとして開学当時からデータ活用の学びのコースを用意しています。
しかし、社内の多様なデータ活用ニーズに対応するのは難しく、全社にデータ活用文化を定着させるには至っていません。また、データサイエンスの基礎を学び、Pythonのようなプログラミング言語や統計解析ツールを使いこなすようになるまでには、非常に長い時間がかかることが分かってきました。そこで、次のステップでは、スペシャリストではない現場の従業員でも簡単にデータを活用できる環境をつくろう。そう考えてプログラムを用意することにしました。そのプログラムに採用したのがNECさんのAI自動化ソリューション「dotData」と、その使いこなしやデータ活用を学ぶ「DX人材育成サービス」です。
──dotDataとDX人材育成サービスについて、どの点を評価したのでしょうか。
南里氏:まずツールと教育がセットで提供される点を評価しました。どんなに優れたツールも、使いこなせなければその価値を発揮できません。ツール導入と合わせて使いこなしをサポートしてくれる点は、非常に心強いです。またNECさんは、当グループ全体を見据えたDXテーマの提案があったのも魅力的でした。
塚原氏:dotDataも非常に使いやすく優れたツールだと感じました。画面も日本語ですし、専門家でなければ使えないという印象はありません。今回、センコーグループが目指すのは、いわゆる市民データサイエンティストの育成ですからうってつけのツールだと感じました。
データ活用スキルを身につけたいという強い意欲が芽生える
──育成の状況をご紹介ください。
羽田野氏:約20人の参加者が自身の業務課題を基にユースケースを定義し、データを使って解決を図りながらデータ活用を学ぶOJT(On the Job Training)に取り組みました。5つのチームに分かれ、配車最適化、需要予測、物量予測、シフト最適化などのそれぞれの課題解決に挑み、予定した5回の講義を終えました。データを使ってどんな打ち手が可能になるのか、どう精度を改善していけばいいのかを全員が学び、事務局としては大きな手応えを感じています。
吉田氏:すぐに実際の業務に適用できるような分析モデルが完成したというわけではありません。しかし、参加した約20人の誰に聞いても、もっと学習を続けたいと答えます。参加者にデータ活用への強い学習意欲を芽生えさせた。このことだけでも、私は120点をつけてもよいと感じています。
──素晴らしい成果につながったのですね。事務局として工夫したことはありますか。
羽田野氏:社内にデータ活用文化を定着させるための重要な一歩ですから、慎重にことを進め、AI分析者の裾野を広げたい。そのために誰に参加してもらうかについては、いろいろ考えました。
強制的に参加してもらうことは避け、興味とモチベーションを重視しました。また、参加者を選抜するのではなく、自発的な立候補を募りました。その立候補も段階的に参加意向を確認する方法を取りました。具体的には、まず全社員を対象に集合形式の入門講座を実施して受講生を募集し、受講後に実際にdotDataを使ったハンズオン研修でAI分析を体験してもらいました。それから各人が取り組んでみたいテーマ・ユースケースを募り、それに回答した約20人のメンバーが実務実践型のOJT研修に進みました。OJT研修参加者は講義以外の時間を活用して、自ら課題を設定し、実際にデータ分析を行うなど、プログラムに対して非常に積極的に向き合っていました。
南里氏:OJTに参加したメンバーのチーム分けでも工夫を行いました。先ほどお話ししたとおりデータ活用の目的の1つに新たな提供価値の創出があります。既にある強みを活かした新たな提供価値や事業の可能性は、既存事業と既存事業の間にあるのではないか。そう考えてOJTのチームのいくつかは、異なるグループ会社のメンバーで構成しました。
「DX人材育成サービス」活用の継続を前向きに検討
──プロジェクトの中で特に印象に残っていることをお聞かせください。
塚原氏:よい意味で驚いたのがNECさんの講師の方がとにかく「うまい」ことです。すべてを教えるのではなくヒントだけを示したり、参加者の半歩だけ先を行く分析例を示して好奇心を刺激したり、さまざまな方法で参加者が飽きずに学習を続けられる環境をつくり上げてくれました。
南里氏:私たちの狙いや思いをくんで課題設定のアドバイスをいただいたり、チームごとに進捗をまとめたレポートを作成し、それを見ながら次回のプログラムの内容を微修正したりするなど、OJTでは予定されていた2回の報告会だけでなく、きめ細かくコミュニケーションを取りながら、さまざまな提案を行っていただきました。NECさんの社内でも、ミーティングを重ねて意見を出し合い、私たちとのミーティングに臨んでいたと聞きました。ここまで対応していただけるとは、 非常に驚きました。
──今後の展望をお聞かせください。
吉田氏:担当役員も今回の成果を高く評価しています。どのようなメンバーが参加し 、どのような内容で第二期を開催するかなど、具体的な計画はこれからですが、意欲を示している第一期のメンバーの学びをさらに深めるべきではないかと考えています。
南里氏:既存の効率化と並行し、新たな提供価値の創出に向けた取り組みも活発化させたいですね。グループのさまざまな企業から多様な人材が集い、共にデータを分析しながらさまざまな発見をする。DX人材育成サービスが、データ活用を学ぶだけでなく、人やビジネスのマッチングの場、いわば新たな価値を生み出す挑戦の場にもなる。そんな未来を想像しています。
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