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サッポロビールとNECがデータ分析コンテストを開催
AI・データ活用人材の育成に貢献

 デジタル人材の育成は、社会全体の重要な課題。日本政府が打ち出しているデジタル田園都市国家構想の実現に向けた取組方針を見ても、それは明らかだ。では、どのように育成に取り組むか。データ分析コンテストは、実践的なスキルを学ぶ貴重な機会となる。NECは、以前から「NEC Analytics Challenge Cup」というデータ分析コンテストを開催し、社内および連携する企業・大学と共にAI・データ活用人材を目指す社会人・学生に対して、競争と共創による成長の場を提供してきた。2023年度はサッポロビールと共同開催し、参加者は実際のビール関連データを活用したテーマに挑んだ。コンテストの意義や得られる成果、今後の展望について話を聞いた。

データサイエンティスト以外の人もコンテストに参加

──「NEC Analytics Challenge Cup」とは、どのようなコンテストでしょうか。

祐成(すけなり):AI・データを活用してビジネスや社会の課題を解決する──。それを担う人材育成の一環として2017年度から継続しているデータ分析コンテストです。当初は、NEC社内のコンテストでしたが、2020年からは、ほかの企業や大学と連携して共同開催しています。

──なぜほかの企業や大学と連携することにしたのでしょうか。

祐成:デジタルデータを起点としたビジネス企画や意思決定は、企業の競争力を決める重要な要素になりつつある、そう考えて多くの企業がAI・データ活用人材の育成に取り組んでいます。もちろんNECも取り組んでいます。しかし、日本政府が2026年度までにデジタル推進人材を230万人育成するという方針を打ち出しているように、AI・データ活用人材の育成は社会全体の課題です。また、人材の流動性も高まっており、多くの人が複数の企業を渡り歩いてキャリアを形成しています。それらを踏まえると、各企業が独自に取り組むだけでは限界がある。AI・データ活用人材の育成は、社会全体で考えるべき。そう考えて共同開催に切り替えました。

NEC
AI・アナリティクス統括部
AI人材育成グループ長
シニアデータサイエンティスト
祐成(すけなり) 光樹

──どのような人が参加しているのでしょうか。

祐成:データサイエンティストを中心に多様な人が参加しています。初心者でも参加しやすいよう、開催中は定期的に分析のヒントや勘所をコラムとして配信するといった工夫もしています。

──データサイエンティストだけではないのですね。

祐成:データサイエンティストと聞くと、AI・データ活用技術をイメージし、その高度な専門性に期待を寄せる人も多いと思います。しかし、実際のビジネスの現場では、それだけで課題を解決することは難しい。技術的な専門性に加えて、ドメイン知識と呼ばれる、その業種・業務ならではのデータに対する知識やノウハウも重要になってきます。

 そのため、技術的な専門性には少し自信がなくても、業界の経験を持っていたり、興味関心があるという人にもぜひ参加して欲しい。そう考えてコンテストをデザインしています。

山口:私は、長く化粧品会社でデマンドプランナーとしてキャリアを積み、その後、NECに転職しました。現在の部署で多くのデータサイエンティストと一緒に仕事をするようになったのですが、そこで感じたのが、誰もがデータサイエンスを学び、極めるのは現実的ではないということ。経済産業省およびIPAが定義した「DX推進スキル標準」でも、企業や組織のDXの推進において必要な人材を、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つの人材類型に分けています。

 多様な人材が、それぞれの業務経験を活かし、チームを組んでお互いを補完しながらプロジェクトに参加する。それによって厚みのあるAI・データ活用が実現する。コンテストの参加者が技術的な専門性を持つデータサイエンティストだけでないのは、非常に有意義だと感じています。

NEC
AI・アナリティクス統括部
需要予測エバンジェリスト
山口 雄大

2つの部門で予測精度とビジネスアイデアを競う

──2023年8月15日~9月15日に開催した第8回目の「NEC Analytics Challenge Cup 2023」は、どのようなテーマで競い合ったのでしょうか。

祐成:サッポロビール様と連携して「夏だ!ビールだ!データサイエンスでビジネスを変革しよう!」というテーマで開催しました。

吉邑氏例えば、私が担当しているサプライチェーンマネジメントの領域では、データの重要性が年々高まっています。需要を予測し、年、月、週、日単位の生産計画や物流計画を立て、実際のオペレーションに落とし込み、さらに現場でも調整を行いながら、サプライチェーンを回す。現在、そのカギを握っているのは経験豊富な人材の暗黙知です。長年磨いた高度なスキルは、非常に素晴らしいものですが、後任を育てるのが難しいといった課題があります。AI・データ活用で、それを補うための検証を継続して行っています。

 このような背景があり、社会全体で取り組んでいるAI・データ活用人材の育成に貢献できればという思い、そして、サッポロビールのビジネスにも役立つヒントを得られればと考えて共同開催を決めました。

サッポロビール株式会社
サプライチェーンマネジメント部長
吉邑 大輔氏

──具体的なコンテストの内容をご紹介ください。

祐成:コンテストは、2つの部門で開催しました。1つ目の部門は「予測精度コンテスト」。サッポロビール様が参加者限定で公開してくれた一部のビール関連データと、気象情報や位置情報など、一般に公表されている外部データを使って予測分析を行い、その精度を競い合いました。2つ目の部門は「データ活用コンテスト」です。こちらも同様にサッポロビール様のデータを使って、サッポロビール様のビジネス拡大につながるアイデアを募り、その事業性や革新性、完成度を競い合いました。

2つの部門の概要

 まず予測精度コンテストは、参加したチームがさまざまなアプローチで予測に挑戦しました。独自の合成変数を作成するなど、データサイエンス中心のアプローチで高い精度を実現したチームもいれば、気温と販売数のような因果関係を重視したアプローチを採用したチームもいました。最も精度が高かったチームが、外部データをほとんど使っていないシンプルなアプローチであったことは、とても印象的でした。

山口:予測精度コンテストについては、実は私もコンテストに参加しました。全員が別の企業で働くデータサイエンティストとデマンドプランナーで構成されたチームだったのですが、議論を重ねる中で、それぞれの違う考え方に触れることができ、人材の多様性がいかに大切かを体感するよい機会になりました。

 終了後、さまざまなチームのアプローチを見て、AI・データをビジネスに活用する際の解釈性、説明性について改めて考えました。実際のビジネスに適用するとなると、仮に予測が大きく外れ、在庫が余剰になったり、反対に欠品したりした場合には、その理由をステークホルダーに説明しなければなりません。データサイエンス一辺倒だと、それが難しい。「合成してつくった変数が機能せず」では、通常は納得してもらえませんし、対策がしづらい。一方、因果関係を基に予測していれば、「マーケティングが失敗した」「他社の新商品がヒットした」など説明することができるし、対策も検討しやすいからです。

吉邑氏上位チームの予測精度は、目を見張るものがありました。AI・データ活用に取り組むと、ともすると「どこかに宝のようなデータが眠っているかもしれない」という考えにおちいりがちです。しかし、今、手元にあるデータだけでも、これだけ高い精度を実現できる。今後のAI・データ活用の大きな参考になりました。

最優秀賞は生成AIを使ったアイデア

──2つ目の部門「データ活用コンテスト」の結果についてもご紹介ください。

吉邑氏ビジネス企画のようなテーマでしたから、学生より社会人の方が有利だったかもしれません。提案の中には、実際にある場所に足を運び、そこで自らデータを収集した上で、新しいイベントを企画してくれたものもあり、参加者の思いの強さが伝わってきました。

祐成:最優秀賞は、NECの若手社員の案で「若年層のビール購入促進に向けたラベルデザイン案検討 with 生成AI」というものでした。新たにコーディングなどを行わず、既にあるサービスをつないでシステムを構築している点、アイデアの新しさ、提案書に実際のイメージ画像を組み込んでいた点が評価されました。

山口:こちらの部門では、私は審査員を務めたのですが、ポイントになったのは、どのようなデータ分析を行うかではなく、その先。データ分析から得られた示唆を参考に、いかに新しいビジネス施策を提案できるかです。最優秀賞は、その点が輝いていました。この領域は、どちらかというと現場の人の方が有利。データサイエンティストが中心のチームには、少し厳しい条件だったかもしれませんが、データサイエンティストがビジネスを学ぶことや、現場部門と連携することの重要性を体感できたのではないでしょうか。

──今後の展望をお聞かせください。

吉邑氏共同開催という貴重な機会をいただき、NECには、とても感謝しています。この経験をムダにせず、今後のサッポロビールの人材育成や業務の改善に役立てていきたいですね。

山口:元デマンドプランナーとしては、予測精度コンテストで1位になれず、悔しい気持ちがあります。来年以降、再度挑戦したいですね。また、参加して得た気付きを同じ部門のメンバーたちにも伝えていきたいと思います。

祐成:実際のデータを使って自ら試行錯誤するだけでなく、コンテスト終了後は、報告会を開催し、参加者で意見を交換したり、知見を共有し合う場を設けており、多くのことを学べると参加者に高く評価されています。非常に有意義な取り組みですから、NECが蓄積してきた運営ノウハウなどを活かして、ほかの企業内でもコンテストを開催してみたいと考えています。NECは、IT企業ですからAI・データ活用に触れる機会は比較的多い。一方、ほかの業種では、なかなかそうした機会がない、情報を共有するコミュニティがない、といった声を聞きます。そうした人たちにコンテストを通じて、AI・データ活用に触れる機会、コミュニティを発展させるきっかけを提供し、AI・データ活用人材育成の裾野拡大にさらに貢献していきたいですね。