AIネイティブ時代のコーポレート・トランスフォーメーション
― Human CapitalとAI Capitalが創る企業変革 ―
― Human CapitalとAI Capitalが創る企業変革 ―
構造改革やカルチャー変革、データドリブン経営など、長年にわたり自ら変革を積み重ねてきたNEC。その延長線上で現在取り組んでいるのが、AIネイティブカンパニーに向け、AIを前提に企業そのものを再設計するAIトランスフォーメーション(AX)である。Human Capital(人的資本)とAI Capital(AI資本)をいかに組み合わせ、人とAIそれぞれの強みを生かしながら、新たな価値を生み出していくのか。変革を推進するCAXOの小玉 浩と、CFOとしてコーポレート機能を統括する雨宮 邦和に話を聞いた。
SPEAKER 話し手
NEC

小玉 浩
執行役 Corporate EVP 兼 CAXO

雨宮 邦和
取締役 代表執行役 副社長 兼 CFO
AXは、企業変革の延長線上にある
──AIを企業変革の中核に据える「AIトランスフォーメーション(AX)」とは、どのような考え方なのでしょうか。NECが捉えるAXの本質についてお聞かせください。
小玉:私は、AXとは生成AIを新たに導入するだけの取り組みではなく、企業そのものを再設計することだと考えています。NECの話をとってみても、今進めているAXはこれまで進めてきた企業変革の歴史が土台にあり、その延長上に今があると実感しています。一時は弊社も時価総額が3,000億円を下回り、2000年代には痛みを伴う構造改革や株価の額面割れを経験し、中期経営計画をわずか半年で取り下げたこともありました。機関投資家向けのIR説明会でも質問が出ないほど、市場から期待されていなかったのです。だからこそ、自ら変わる必要がありました。私たちはDXをお客様に届けるIT企業です。自社のトランスフォーメーションを成し遂げていない会社に、変革の支援を任せたいと思う人はいません。まずNEC自身が徹底して変革に取り組み、確かなビジネスアウトカムを示す必要があると考えました。そこで、NECを最初の顧客である「クライアントゼロ」と位置づけ、先んじて課題に挑み、成功だけでなく失敗も含めて得た知見を、お客様や社会へ還元していく方針を打ち出すことにしたのです。自社の構造改革とカルチャー変革を粘り強く進め、その歴史のなかで培ったデータドリブン経営が、現在のAI変革を支える基盤になっているのです。
執行役 Corporate EVP 兼 CAXO
小玉 浩
雨宮:現在のNECのAXは、長年にわたる企業変革の延長線上にあると私も考えています。カルチャー変革やDX、データ基盤の整備、業務プロセス改革など、これまで積み重ねてきた取り組みを土台に、現在のAXが位置づけられています。
こうしてNECがAIを活用できるようになった背景には、「人とカルチャー」「コーポレート機能」「データやシステムなどの経営基盤」の三領域で、段階的に変革を進めてきた蓄積があります。なかでも重要なのは、変化への拒絶を乗り越え、「変わり続けることが文化になっている会社」を目指して改革を進めてきたことです。まだ道半ばではありますが、この歩みこそが、現在のAXの取り組みにつながっていると考えています。
構造改革やカルチャー変革、業務プロセス改革、データドリブン経営など、NECが積み重ねてきた企業変革の歩み。こうした変革の蓄積が、現在のAIトランスフォーメーション(AX)を支える基盤となっている。
小玉:現在、NECのAXを支えているのは、2025中期経営計画で進めた三つの改革です。第一は、「経営ファイナンスプロセス刷新プロジェクト」による業務プロセスの整備です。受注前から価値と利益を織り込み、組織的に運用することで、可視化した情報を具体的な行動につなげました。第二は、「ファクトベース経営」です。全員が共通のデータを基に、過去を分析するだけでなく、より良い未来に向けた行動を議論する文化へと転換しました。第三は、データ基盤であるOne Data Platformの構築です。分散する重要データを仮想的に連携し、データの意味や関係性をAIが理解できる形で整理することで、AI活用に適した「AI-Ready」な環境を実現しました。これらはまさに、長年にわたる改革の延長線上にある取り組みです。
AXの実践例としての「経営コックピット」「AI自律型組織」
──現在、NECはAXにどのように挑んでいるのでしょうか?
小玉:私たちのAXは、データやシステムだけでなく、業務、組織、人材、ガバナンス、意思決定まで含めた企業を動かす仕組み全体、いわば「企業OS」を、AIを前提としてどう再構築するか、という問いから始まりました。これまで人を前提に設計されてきた業務、組織、データ、システム、ガバナンスのあり方を、人とAIがともに価値を生み出す形へと再設計していく。それが、私たちの考えるAIネイティブカンパニーへの変革です。目指すのは、AIを単なるツールとして使う会社でも、AIに置き換えられる会社でもありません。組織としてAIを使いこなし、新たな価値を生み出す会社です。その具体的な実践例が、以前からデータドリブン経営の一環として進めてきた「経営コックピット」の活用です。経営コックピットとは、経営・財務・人事などの重要な経営情報を集約・可視化し、データに基づく迅速な意思決定とアクションを支える仕組みですが、AIの導入によってこれらをさらに高度化させました。実際に、ここで把握したリスクや可能性を経営判断に生かす事例も生まれてきています。
意志を持って経営を判断し、現実を動かして未来をつくることは、人の役割です。一方、AIは大量のデータを分析し、予兆やリスクを捉え、意思決定に必要な示唆や選択肢を提示することを得意とします。経営コックピットは、人とAIそれぞれの強みを生かした取り組みだと言えます。
さらに、真にAIネイティブな企業になるには、AIエージェントを組織の一員として位置付け、役割と責任、評価、育成、ガバナンスの仕組みを整える必要があります。その考えを実証する発展的な取り組みが、AI部門長、AIボード(CxO機能)、AIマネージャー、AI社員の四階層で構成されたAI自律型組織です。AI部門長が組織全体の稼働状況を把握・管理し、AIボードはAI組織の状況を経営視点から評価します。AIマネージャーは、品質管理、人材育成、検証、コスト管理を担当し、その下で多様な役割を持つAI社員が活動する仕組みです。そして、人が最終的な評価・意思決定とガバナンスを担います。
AI活用を単なる自動化や効率化で終わらせず、経営判断の質を高める取り組みへ発展させる。人とAIが互いを補完し、それぞれの強みを生かすことが、新たな価値創造につながるのではないでしょうか。
AIを組織の一員として位置づけ、部門長、ボード、マネージャー、社員という役割と責任を設定した「コーポレートAI・Workforce部門」。AIが自律的に業務を遂行する一方、最終的な評価・意思決定やガバナンスは人が担う。
経営層と現場が同じデータ・ファクトを共有し、未来志向のアクションにつなげる「経営コックピット」。データ基盤の整備を土台にAIを組み込み、状況分析や予兆検知、シミュレーションへと活用を広げている。
雨宮:私はCFOとしてコーポレート機能全体を見る立場から、経営コックピットを日々活用しています。例えばFP&A(Financial Planning & Analysis)領域では、経営層への月次報告にも用いています。従来は、人がさまざまな情報を収集し、領域ごとの状況を整理していました。現在はCFOコックピットを通じて、AIが経営報告のたたき台を作成し、必要な情報を継続的に提示しています。その大きな価値は、AIによって新たな課題や変化に「気づけるようになった」ことです。AIの提示内容を起点に深掘りできるため、経営管理のレベルも継続的に高まっています。実際に使うなかで、AIの価値は時間短縮だけでなく、こうした「気づき」にもあると実感しています。また、従来のFP&A人材は、データ収集や資料作成に多くの時間を費やしていました。今後は、こうした作業を減らし、戦略の実行・推進により多くの時間を充てられます。さらに、課題を見落とさないよう注意を払い続ける心理的負担が軽くなったことも、大きなメリットだと感じています。
人起点で考えるHuman CapitalとAI Capital
──AI時代において、AIと人間はどのように共創していくべきでしょうか?
雨宮:価値創造を実現するには、「人材をどう捉えるか」がこれまで以上に重要になると考えています。例えば、コーポレートスタッフを業務効率化の担い手にとどめず、価値を生み出す「変革人材」と位置づけられるかどうか。私は、その役割を明確にするため、高度な専門性を持つ「高度専門人材」、AIと業務を組み合わせて変革を進める「AI業務改革人材」、現場オペレーションを極める「現場革新人材」と人材を三つに整理して考えるようにしています。そして何より重要なのは、変革を一部の専門部署に委ねるのではなく、すべてのコーポレート人材をその担い手と捉えること。AI人材を考える上では、全社的な視点が大切だと思います。
小玉:人材を変革の主体と捉えるなら、「AIネイティブカンパニー」へ移行する過程で、「人のあり方」を再定義する必要があります。これまでの企業は、Human Capital(人的資本)を前提に組織や業務の仕組みが設計されてきました。しかし今後は、Human CapitalとAI Capital(AI資本)を最適に組み合わせ、双方の価値を最大化する考え方が前提になるでしょう。AI Capitalとは、AIの能力、知識、モデル、エージェント、データ、評価・運用・ガバナンスの仕組みを組織に深く組み込んだ経営資産です。経営判断や実行結果を蓄積し、学習を通じて自律的に進化しながら、人材との相互作用によって複利的に価値を生み出します。AIは人の能力を拡張し、人との協調によって新たな価値を生み出します。だからこそ、AI活用においても「人起点」の視点が欠かせません。
「なぜこの人は仕事を円滑に進められるのか」「なぜ人間的な魅力を感じるのか」。人が持つこうした要素を分析できれば、人間とAIが今後担うべき領域も見えてくるかもしれません。また、AI同士に活動や議論をさせることで、人間の本質や、仕事をうまく進める人の特徴が、かえって浮かび上がることもあるでしょう。先ほど紹介したAI自律型組織では、AI同士のコミュニケーションや業務遂行の状況を可視化するとともに、AIの稼働状態、品質、役割適合性、改善点を把握するために、エンプロイーサーベイ、評価、1on1ミーティング、ストレスチェックなどの人材マネジメントの仕組みを応用し、自律改善のサイクルを設けています。人の組織では把握しにくい活動やコミュニケーションを、AI組織ではより可視化しやすい可能性があります。その仕組みから、人の組織運営に生かせる示唆も得られるのではないでしょうか。
変革を「創造」する人的資本(Human Capital)と、変革を「加速」するAI資本(AI Capital)を最適に組み合わせ、双方の価値を最大化する考え方。質の高いデータ・ナレッジとガバナンスを共通基盤に、人とAIそれぞれの強みを生かし、企業価値の向上につなげる。
未来を見据えた強い意志と、問いを立てること。
クイックウィンの繰り返しが変革の道へ
──AX時代の経営で、リーダーが最も重視すべきことは何でしょうか?
小玉:AI時代の人の役割は、「方向性提示」「最終承認」「統治」です。こうした役割を果たすために、AI時代の人材には、強い意志を持って自ら問いを立て、実現したいことを明確にし、決断する力がこれまで以上に求められます。現実を動かし、未来をつくることこそ、人間ならではの役割であり価値です。同時に、AI時代には、人間の本質や魅力がより重要になるでしょう。だからこそ、人材を新たな領域へ移す仕組みを整え、一人ひとりが「何をすべきか」を問い続ける必要があります。NECのAI自律型組織も、「人を含めて組織をどう再構築するか」「事業の強みをAI前提でどう捉え直すか」という問いから始まったプロジェクトです。
一方、AIの進化は速く、考え続けるだけでは答えにたどり着けません。まず自社で「クライアントゼロ」を実践して小さな成功と経験(クイックウィン)を積み重ね、手応えを得た取り組みを他領域へ展開し、変革を連鎖させていく。その際に欠かせないのが、リスク、ガバナンス、倫理の視点です。AI活用の透明性・検証性・制御性を確保することも、AI時代の経営には不可欠だと考えています。
取締役 代表執行役 副社長 兼 CFO
雨宮 邦和
雨宮:重要なのは、「新たな視点に気づけるかどうか」ではないでしょうか。私自身、AIが示す気づきを起点に、新たな観点や、人にしか生み出せない可能性を次々と考えるようになりました。AIによる作業の代替は、人の仕事を奪うものではなく、新しい価値を生み出す余地を広げます。例えば、以前は会議後に参加者が成果物を作成し、修正を重ねていました。今では会議にAIを参加させ、議論を進めながら成果物を形にしています。こうした場でも、視点を変えれば新たな気づきや着眼点が得られるはずです。そして、こうした発想の転換を促す第一歩は、AIによる価値創出の仕組みを実際に目にすること。それが社員の意識を変え、気づきやイノベーションを促し、やがて組織文化を変えるきっかけになるのではないでしょうか。