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データドリブン経営の先にあるもの
NECが挑むAIネイティブな経営

 報告が組織の階層を上がるにつれて、現場の実態が見えにくくなる——。かつてNECが抱えたこの課題は、多くの企業に共通するものだろう。そこで、NECは「ファクトデータ」を全社で共有し、事実に基づいて意思決定する「データドリブン経営」に舵を切った。その取り組みは、粗利益率5.5%改善など多くの成果につながり、現在は、人とAIが共に意思決定と実行を担う「AIネイティブな経営」の実現に挑戦している。NECの経営変革をけん引してきた天野 昌彦に、今も続く試行錯誤と現在地を聞いた。

揺るぎないファクトが平行線の議論を動かす

──多くの企業がデータドリブン経営の実践を目指していますね。

天野:経営変革のテーマの1つにデータドリブン経営を掲げる企業は年々増えています。NECは、一足早く、2016年に直面した業績悪化をきっかけにコーポレート・トランスフォーメーションの一環としてデータドリブン経営に取り組んできました。その経緯もあり、データドリブン経営の実践を目指す多くの企業から「話を聞かせてほしい」との依頼をいただきます。昨年度は、約400件の依頼をいただきました。2年前の約5倍の件数です。

NEC
コーポレートIT・AIイノベーション部門
エグゼクティブプロフェッショナル(クライアントゼロ)
天野 昌彦

──データやAIは企業や社会にどのような価値をもたらすのでしょうか。

天野:データは、捉えづらい課題をはっきりと見えるようにしてくれます。課題は、一部の人がぼんやりと気づいているだけでは、組織として共有することは難しく、人も動きません。データを通じて課題を明らかにすれば、多くの人が認識し、適切な手段を検討して、素早く解決に向かうことができます。それは経営課題だけでなく社会課題の解決にもつながっていくはずです。

──これまでのNECの道のりをご紹介ください。

天野:企業変革におけるプロジェクトの1つが「経営管理」でした。当時、NECは、人による集計と報告書をベースに予算管理や業績管理を行っていましたが、多大な工数をかけているにもかかわらず、組織階層が上に行くほど実態が見えづらくなるという課題を抱えていました。理由の1つは人の思いが反映された報告書です。例えば、 “少し見た目を整えたい”という思いから、数字を丸めたり、都合が良い部分を強調して見せるように加工したりしてしまう。その結果、実態がタイムリーに経営層に伝わらないという状況が生まれる。その状況を打破するために、加工をしない、ただ1つの「ファクトデータ」を経営層から社員までが共有し、都合の悪いことも直視しながら改善に取り組む。そうした企業に生まれ変わろうとデータドリブン経営に踏み出しました。

──その後のデータドリブン経営の実践は、どのような成果につながっていますか。

天野:さまざまな成果がありますが、データドリブン経営の価値を多くの経営層や社員が理解し、全社的な取り組みを加速させるきっかけになったのが、経営・ファイナンスプロセス刷新プロジェクトです。商談プロセス・商品・価格を全社で標準化・システム化し、標準化されたデータを活用して経営の高度化を行いました。その一つの例として、商品ごとにプライシングで設定した価格と実売価格を可視化した「プライスマネジメント」があります。可視化を通じて、設定価格が高すぎる、あるいは安すぎる、担当者によって販売価格にバラツキがあるといったことが一目でわかるようになりました。そのファクトをもとに製品部門や販売部門などが部門を超えて議論を重ね、金額適正化、営業活動におけるベストプラクティスの水平展開、仕入れ品の商品戦略や保守の価格戦略の見直しなど、様々な取り組みで、2年間で粗利益率を5.5%改善(※)しました。営業利益にすると1,100億円の改善に相当します。商品価格については、製品部門は設定価格に根拠を持っているが、販売部門はその価格で売るのは難しいという現実に直面しているなど、主張がかみ合わず、議論が平行線をたどりがちです。しかし、揺るぎないファクトデータがあれば、そのような議論も前に進められるということがはっきりしました。

 それ以外にも、サプライチェーン領域では在庫の可視化により1年間で約600億円の棚卸資産改善を実現しました。また、社員エンゲージメントスコアは、取り組み開始時の19%から中期経営計画の目標である50%に迫るまで改善。サイバーセキュリティの領域では、日々の攻撃状況を可視化したことで社員の意識が高まり、対策スコアが160pt向上しました。

  • 2022年度~2024年度 NEC単独

提言するAIを支える「AI-Ready」なデータ

──AIも積極的に活用しているそうですね。

天野:はい。AIを活用したデータドリブン経営の高度化に挑戦しています。

 NECのデータドリブン経営の中心には、全社員がファクトデータをリアルタイムに可視化できる経営コックピットと経営ダッシュボードという仕組みがあります。コックピットは操縦室でアクセルやブレーキがあるもの、ダッシュボードは計器類、と定義しています。経営ダッシュボードは10領域、約100種類あり、CxOオーナーシップのもと、領域ごとに整備しています。経営コックピットは全社経営の視点で整備し、AIを活用して経営の操縦ができるようにしています。

経営コックピット(サンプル画面)
Finance、HR、IT、Supply Chainなどの経営情報の中から、今、重要な情報を可視化し、経営層から一般社員までが同じデータに触れ、ファクトに向き合い、分析、経営判断、意思決定などのアクションの実行につなげていく

 ここに、データを踏まえて事業の進捗などを評価し、提言するCxO AIを実装しています。収益性改善に対する具体的な指示、戦略事業へのリソースシフトなど、CEO AIをはじめとするCxO AIの言葉がデータを見る際の大きな指針となっています。現在、約3000の専門家AIが整備されており、私のAIもその一つです。資料作成時の壁打ちや会議に参加させて意見を求めるなど、日常的に活用されています。

CxO AIのコメント(サンプル画面)
経営コックピットやダッシュボードの情報からCxO AIがそれぞれの視点で最適な施策を提言する

 また、部門経営の強化のために「部門AIコックピット」を構築しました。業績予測をAIで行い、AIが事業状況を要約。さらにAIが「この会社にこういう提案をしてはどうか」などの施策提言まで行います。さらに、提案書作成AI、提案先選定AI、プロジェクトリスク判定AIなど、様々な実行支援AIエージェントと連携しています。

 そして現在は、その取り組みを発展させ、AI前提のマネジメントプロセスとして再設計しています。AIが現状分析や改善施策の提言を行い、人が施策を決定し、AIが実行計画策定と実行支援を行い、人が実行し、AIが実行結果を記録・整理して更に学習し、更なる分析に結び付けるという、「人とAIのOODAループ」を構築しています。

 部門経営の重要な意思決定を20カテゴリに整理しました。現時点ではトップライン、利益・コスト、リスクマネジメントを中心に取り組んでいますが、今後、大部分を構築してAIネイティブな経営マネジメントを実現したいと考えています。

AIネイティブな経営マネジメントプロセス
AI活用前提での経営マネジメントプロセスを構築して、人とAIによる経営マネジメントの実現に取り組んでいる

──AIを有効活用するためのポイントはどこにありますか。

天野:1つに絞るのは難しいですが、データマネジメントは重要なカギとなります。NECは「One Data」「One Place」「One Fact」を掲げて構築した「One NEC Dataプラットフォーム」に全社のデータを集約し、データ活用の基盤としています。さまざまな技術を取り込んでいますが、例えば、データ仮想化技術のDenodoによって、データの物理的なコピーや移動を行わずともデータを提供できるようにし、「Quick Win + スケール」「アジャイル」な社内データ活用を支えています。先ほど紹介したプライスマネジメントのレポートもDenodoを利用してわずか5日で初版をリリースしました。

 また、データそのものも「AI-Ready」を意識して整備しています。例えば、文書やメール、音声、動画など、膨大な非構造化データをAIで活用するために構造化し、データカタログを作成して、データに意味や属性を付与するメタデータ管理を徹底しています。ほかにもプライバシーやセキュリティなどのデータガバナンスなど、AI-Readyなデータの拡張要件への対応が急務です。データの活用が「人」から「AI」に変わり、AIにとってデータの「意味を理解すること」が重要であり、データマネジメントがAI活用の成否を大きく左右すると考えています。

苦労も含めて語る「クライアントゼロ」の伴走支援

──冒頭でお聞きした他企業との交流では、どのような話をしているのですか。

天野:どのような成果につながっているかなどをご紹介しますが、NECの試行錯誤についてもお話しています。例えば、今、振り返るとデータドリブン経営を現場に展開する際には4つの壁がありました。「意識」「スキル」「継続」「活用」の壁です。意識の壁においては、「総論賛成、各論反対」の意見を持つ社員と丁寧に向き合いながら、地道に乗り越えてきました。また、今も大きな課題である活用の壁は、ワークショップやハンズオンを継続的に開催して、データ活用文化の定着を図っていますが、その中にあった苦労、遠回りした経験なども可能な限りお話ししています。

──これからデータドリブン経営に本格的に取り組む企業にとって、それらの経験は貴重な宝ですね。

天野:NECは、自身をゼロ番目のクライアントと位置付ける「クライアントゼロ」を掲げて、社内の実践で得た経験や知見をお客様や社会に提供していこうと考えています。データドリブン経営においても、その経験や知見を「BluStellar Scenario」として、お客様に提供しています。具体的には、データドリブン経営の実践に必要な約50のポイントを網羅したアセスメントツールを通じてお客様の状況を整理し、お客様に合わせた伴走支援を行います。

 特に多くの企業がつまずくのが、推進役となるキーパーソンを中心とした体制づくりです。新しいプロジェクトですから、関心や意義を感じても、どこかに「火中の栗を拾いたくない」という思いが芽生えるのは当然です。しかし、誰かがリードしないとプロジェクトは進まない。そうした場面では、NECが脇を固め、キーパーソンの活動をサポートします。もちろん、データ活用基盤やAIエージェント基盤の構築など、IT分野でも持ち前の技術力を実践のナレッジを活かして支援します。

──最後に今後の展望をお聞かせください。

天野:データドリブン経営はゴールではなく出発点です。これからは、データを見て判断する経営から、人とAIが共に学び、提言し、実行する経営へと進化していくと考えています。「どこまでをAIに任せ、どこを人がやるのか」、AIの進化と共に最適解は変化していくので、その最適解を見つける挑戦そのものが、私たちのクライアントゼロの取り組みです。NECはクライアントゼロとして、その未来を誰よりも先に実践し続けたいと考えています。そして、その経験と知見をお客様に提供することで、社会の発展に貢献していきます。