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G7サミットや世界の主要空港でも活躍
“生みの親”が語るNEC顔認証の現在地とその未来

 NECは4月の「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」の入退場ゲートに顔認証システムを導入、さらに5月の「G7広島サミット」ではデモを実施、6月の「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」においてはNECの取り組みを展示で紹介した。

 これらを通じて、NECが誇る顔認証技術を世界に発信したのである。

 すでにさまざまな場所で活用される顔認証。実はさらなる可能性を秘めているという。今春「紫綬褒章」を受章し、NECフェローとして生体認証技術を統括する今岡仁に、顔認証の現在地と未来を語ってもらった。

グローバルでは日本以上に顔認証が浸透

 2023年、4月29日・30日の両日、群馬県高崎市で「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が開催された。その際、入退場ゲートに導入され、スムーズな会場運営に寄与したのが、NECの顔認証技術だ。

4月29日・30日に開催された「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」における入退場ゲートの様子

 NECの顔認証は、米国国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストで何度も世界No.1の評価を獲得した、世界トップレベルの技術(※)。それがG7という舞台で採用されたことは、この分野におけるNECの優位性を裏付ける結果となった。

  • 米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにNo.1を複数回獲得
    NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません。
    https://jpn.nec.com/biometrics/face/history.html

 このとき、顔認証を行ったのは、G7 各国デジタル・技術担当大臣や政府関係者など約1000名。当初懸念されていた顔情報の事前登録も混乱なく全員が応じたという。

 「日本人のお客様の中には、カメラの前で立ち止まる方も多かったようですが、海外のお客様は特にカメラを意識せず、そのまま歩いてゲートを通りすぎた方が多かったと伺っています。グローバルでは日本以上に顔認証が浸透している、と実感しました」とNEC フェローの今岡 仁は語る。

NEC フェロー
今岡 仁

 近年、さまざまな領域でセキュリティの需要が高まり、それに伴って顔認証も急速に普及しつつある。今後はビルや施設の入退館のみならず、店舗から交通機関、オンラインでの本人確認に至るまで、あらゆる場面に利用が広がっていくと考えられる。

 「アフターコロナでさまざまな交流が回復しつつあり、それに伴って顔認証の新しいニーズも拡大しつつあります。現在NECでは、顔認証と虹彩認証を組み合わせた、より高精度なマルチモーダル生体認証にも力を入れています(※)。マルチモーダル生体認証の普及が進めば、より厳格な基準が求められる高額の決済や、複数の生体認証にも対応が求められる重要施設でも利用が広がっていくでしょう。

 顔認証と虹彩認証を組み合わせた“顔の系統”のシステムは、登録や認証作業がワンアクションで済むというメリットがあります。その点は、指紋認証と指静脈認証を組み合わせた“手の系統”も同様ですので、NECとしては、“顔の系統”と “手の系統”の2つに取り組んでいます」(今岡)。

1分間に100人以上を認証する「ゲートレス生体認証」

 マルチモーダル生体認証に加え、NECが実用化を目指しているのが、「ゲートレス生体認証」だ。これは、その名の通り“入場ゲートを使わない”、新しいコンセプトの生体認証システムである。

 従来の顔認証は、一人ひとり個別に認証を行う必要があり、多くの人が押し寄せるゲートでは、混雑や滞留が起こるケースがあった。そこで服装や人の動きの特徴を追跡する「人物照合技術」を併用することで、多人数をリアルタイムに追跡。顔が見えたタイミングで顔認証を行うことで、1台のカメラで1分間に100人以上を認証することが可能になった。

「ゲートレス生体認証」の認証の流れ

 NECの顔認証技術は、マスクやサングラスを着用したままでも認証ができる。また、立ち止まって顔をカメラに向けなくとも、自然に歩いているだけで顔認証ができるため、入場がスムーズになり、大幅な混雑緩和が期待できるという。

 「顔認証と人物照合を組み合わせれば、たとえ後ろを向いていても、その人物が誰かを特定できる。さらに、特定の人を追跡する技術を組み合わせれば、人の影に隠れて顔がよく見えなくても、服装や動きの特徴をチェックしながら、同一人物を追跡することができます」(今岡)。

多人数を認証する仕組み

 前述のマルチモーダル生体認証が個人認証をより厳密化する技術だとすれば、ゲートレス生体認証は、もう少しゆるやかな用途での活用を想定しているという。

 「例えば、初めての場所では、意図せずして、自分が入ることを許されていないエリアに迷い込んでしまうことがあります。そんなときは、顔認証で個人を特定して注意喚起を出したり、警備員に知らせたりして、退出を促すようにするわけです。

 このシステムに2段階認証を組み込めば、第1段階でゆるめに人を通過させ、第2段階で入場資格のある人だけを通す、といったことも可能になる。一度顔認証をすれば履歴が残るので、その人が入場料金を払わず有料エリアに入ろうとしたり、他人になりすまして会場に侵入したりするのを防ぐこともできます」(今岡)。

G7関係閣僚会合で好評を博した「最先端の搭乗手続き」のデモ

 さらに、このゲートレス生体認証を決済システムと連携させれば、有料エリアでの自動決済も可能となる。

 「例えば、顔認証でチケット購入済みかどうかをチェックし、決済を済ませた人はAゾーン、未決済の人はBゾーンに誘導する。前者の場合は、そのまま中に入ってもらう。後者の場合は、決済手段に応じてさらにいくつかのゾーンに誘導する。こうした方法で、チケット購入待ちの行列ができるのを防ぎ、人の流れをスムーズにすることもできます」(今岡)。

G7広島サミット2023で行ったデモ

 NECはG7広島サミットの国際メディアセンターで、「ゲートレス生体認証」を使ったデモを披露。多くのメディアや参加企業の方々にも進化した顔認証技術に関心を持って体験いただき、また、G7三重・伊勢志摩交通大臣会合では、各国の交通大臣や国交省幹部に、NECが提唱する「スマートエアポート」のコンセプトを紹介した。

 ここでは、成田・羽田両空港をはじめ世界の空港でも採用された顔認証を使った搭乗手続きの紹介と、ゲートレス生体認証を使った「スマートエアポート」のデモを実施。各国の大臣からは、自国の空港についての質問などもあり、最新技術と近未来の空港のイメージを体感していただいた。

「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」で行ったゲートレス生体認証システムのデモの様子

 「コロナが一段落して旅行需要が回復し、空港の人手不足が課題となっています。そんな中、スムーズな搭乗を可能にする【Face Express(*)】のような顔認証を使った搭乗手続きが既に始まっています。NECとして将来的には、ゲートレス生体認証の技術も活用して、より多くのお客様が迅速でスムーズな搭乗手続きだけでなく、空港内の買い物や食事の決済をできるようにし、空港周辺のホテルや自宅でも、顔認証で手続きや決済ができる世界を作りたい。例えば、トランジットでは滞在時間も短いですし、言葉がわからないと両替も面倒。もしトランジットで顔認証を使って簡単に本人確認ができるようになれば、面倒な決済や手続きを一切省略して、買い物や食事が楽しめる。短い滞在時間を有効活用して、快適に過ごせるようになると期待しています」と今岡はその想いを語る。

 このように高精度な顔認証技術を実用化し、世界の安全・安心の実現に貢献したことが評価され、令和5年春、今岡は、学術・芸術・技術開発などの分野で顕著な業績を上げた人に贈られる「紫綬褒章(しじゅほうしょう)」を受章した。

 「NECは、これまで50年ほど生体認証に取り組んできましたが、生体認証、なかでも顔認証は当初使い物にならないといわれ続けてきました。その領域を切り拓いてきたことを、高く評価していただいたと感じています。ただし私だけでは、この技術を世界中に広げていくことはもちろんできません。その意味で、これは個人としての受章ではなく、研究チーム、NEC全体で受章したのだと思っています」(今岡)。

ワクワクする世界を生み出す技術を作り、若い世代に引き継いでいきたい

 今後に向けて、NECは顔認証や生体認証を、どのような方向に進化させていくのか。今岡は、今後の見通しをこう語る。

 「幅広い用途で使える通常の『顔認証』、快適なユーザ体験を追求した『ゲートレス生体認証』と『マルチモーダル生体認証』。この3つが全て出揃ったことは大きいと感じています。これにより利用シーンも一気に広がり、これまでになく広い世界が見えてきました」。

 例えば、事前登録のあったテーマパークの会員に、来園したタイミングで誕生日や記念日のサプライズを贈る。もちろん本人の希望が前提となるが、顔情報をキーとして、利用可能な個人情報と連携すれば、これまでにない顧客体験を提供することが可能となるだろう。

 「もし移動する乗り物の窓の中に自分が好きなキャラクターが出てきたら、子どもは不思議がって喜びますよね。そして、ほかの子が同じ窓を覗き込めば、今度は、その子が好きな別のキャラクターが出てくる。テーマパークならそんな仕掛けがいろいろできるし、個人の嗜好に合わせた多様なサービスが提供できると思うのです。

 ほかにも、生体認証とヘルスケアを組み合せれば、顔で健康状態などをチェックするなど、顔認証によって健康寿命を延ばすことに貢献できるかもしれません。そんなワクワクする世界を最新のテクノロジーで作っていきたいと考えています」(今岡)。

 ただし、そうした新しい世界を切り拓いていくには若い世代の育成が不可欠となる。「僕自身、顔認証の開発を続けてきたのは、2004年にNECの指紋認証が世界でトップとなったことを知り、顔認証でも面白いことができるかもしれない、と思ったのがきっかけです。

 近年、NECの虹彩認証はNISTのベンチマークでNo.1となりましたが、これも、先輩たちの想いが若い人たちに受け継がれている証。NECが培ってきた生体認証の技術を、これからも若い世代に引き継いでいければと思っています」(今岡)。

 こうした研究開発を進めると同時に、今後は倫理についての議論もより積極的に進めていく必要がある。そこで2023年2月には、デンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンと一緒に講演会を開催するなど、NECの考え方を発信する活動も始めた。

 「生体認証はあくまでも安全・安心や快適・利便性を高めていく、人を中心にした世界を創るための手段。その社会受容性を高めていけば、便利で安全でワクワクする世界に近づけることができるはずです。ただし、顔認証は入り口にすぎません。ほかのサービスや技術と組み合わせることでこそ、その真価が発揮できます。こうした考えのもと、今後はさらにほかの企業との共創を推進し、その可能性を拡げていきたい」と今岡は語った。

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