資産・健康寿命を延ばして「人生100年時代」を豊かにしたい
~大和証券グループとNECが新しいサービスを共創するまで~
「人生100年時代」を豊かに過ごすには、何が必要なのか。もちろん、個人によって価値観は異なるが、多くの人に共通するのは老後の生活を維持できるだけの「資産寿命」と、生き生きと過ごせる「健康寿命」の2つではないだろうか――。こうした観点から大和証券グループとNECグループでは、金融商品の契約者に疾病リスク予測サービスを特典として提供する取り組みを開始した。この共創事業に懸ける思いについて、プロジェクトに携わるキーパーソンたちに聞いた。
「人生100年時代」に配慮すべき「長生きリスク」
厚生労働省の調査によれば、日本の65歳以上の高齢者は、2025年に総人口のおよそ3割に達すると予測されている。急速に高齢化が進む社会の持続性を高めるためには、高齢者をはじめとした国民全体の健康寿命を延ばすことが不可欠だ。
しかし人生100年時代を快適に暮らすには健康だけではなく、ある程度の生活レベルを満たせる資産も必要となる。リタイヤ後の期間が長くなるほど支出する生活費が増大し、そのことが「長生きリスク」となりかねないからだ。
「資産寿命」と「健康寿命」の双方を同時にサポートしたい――そんな思いから大和証券グループとNECグループが共創し、新しい取り組みを開始した。具体的には、大和証券の金融商品を利用する顧客への新たなサービスとして、NECグループのフォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」を提供する(図1)。特典の対象となるのは、「ダイワのラップ口座(※)」で一定の条件を満たす契約者だ。
「私どもは大和証券の商品・サービスを通じて資産形成のお手伝いをしてまいりましたが、健康維持においても今までにない形でお客様をご支援したいと考えました。そこで目を向けたのが、最先端のヘルスケアサービスとして注目を集めるフォーネスビジュアスです。この先進的なサービスを私どものお客様にご利用いただくことで、資産寿命のみならず健康寿命の延伸も後押しできるのではないかと考えました」と、大和証券グループ本社の上橋 賢一氏は思いを語る。
- ※ ラップ口座:証券会社などの金融機関と投資一任契約を結び、示された運用方針を理解した上で資産運用や管理を託す金融サービス
手軽な血液検査で重大疾病の発症リスクを予測
特典として提供されるフォーネスビジュアスは、米国SomaLogic社が開発した血中タンパク質の解析技術にNECグループのAI・解析技術を組み合わせた検査サービスで、医療機関の医師が現在の健康状態と将来の疾病リスクを可視化して提示する。
その特長は、血液を調べるだけで認知症、心筋梗塞・脳卒中、肺がん、慢性腎不全などの発症リスクを絶対値(○○%)・相対値(平均の○倍)で示すとともに、生活習慣病に密接にかかわる耐糖能、肝臓脂肪、アルコールの影響、心肺耐久力(最大酸素摂取量)、内臓脂肪、安静時代謝量などの様子を明らかにする点にある。採血量はわずか5mlほどなので一般的な検査より体への負担が軽く、食事制限など事前に特別な準備をする必要もない。
手軽に受けられる検査にもかかわらず、なぜこれほど多くのことがわかるのだろうか。これについてNECの森 貞司は次のように説明する。「人の体には2万~3万種類のタンパク質があり、それらのタンパク質の組成量・バランスが皆さんの体の状態を表しています。つまりタンパク質のバランスが徐々に変わることで、体が病気の状態に近づいていくのです。これを早期に発見すればもちろん早く対処できますし、生活習慣を変えることもできます。フォーネスビジュアス検査では血液に含まれる約7,000種のタンパク質を解析し、そのデータと日本人向けに検証が行われた疾病予測アルゴリズムを組み合わせることで、健康状態や重大疾患の発症リスクを提供します」
肝心なのは、検査を受けた人が「その後どのような行動を取るか」、つまり行動変容を促すことにある。フォーネスビジュアスでは、オンラインの健康相談サービスを付帯しており、保健師の資格を持つコンシェルジュが健康に関する提案やアドバイスを提供。さらに、スマートフォンアプリを通じ、その人ごとに目標を設定しての日々の生活の自己管理も支援している(図2)。疾病対策においては早期発見が重要だが、フォーネスビジュアスはそのさらに手前の段階で、発症の防止につながる生活習慣の改善を促すわけだ。
現在は特典の利用申し込みを受け付け始めたところで、実際にサービスの提供を開始するのはこれから(2024年11月を予定)となる。「一人でも多くのお客様が重大疾病になる不安を解消され、豊かな人生を過ごされることができれば、これほど喜ばしいことはありません」と上橋氏はフォーネスビジュアスへの期待を口にする。
新たな事業価値の創造を導く戦略的パートナーシップ
なぜ大和証券グループとNECグループは、こうした共創を行うことにしたのか。それはお互いの目指す未来が合致したからだ。
NECグループは「2025中期経営計画」の中で、2030年のありたい社会の姿を「NEC 2030VISION」としてまとめている。世界の先行きが不透明さを増す中、持続可能な社会を実現していくには各業界のリーディング企業と協力してさまざまな社会課題の解決に取り組む必要があることから、様々な企業とのパートナーシップを模索してきた。
一方、大和証券グループもまた、2030年に目指す姿として「2030Vision」を策定。「金融・資本市場を通じ、豊かな未来を創造する」を経営ビジョンのコアコンセプトに、「人生100年時代」において、金融・資本市場のプロフェッショナルとして、社会の「豊かな未来」の実現への貢献を目指している。
「大和証券グループの豊富な金融ナレッジとNECグループのテクノロジーやコンサルティング等のアセットを効果的に活用すれば新たな事業価値を創造できるはず、との思いから、2023年10月に戦略的パートナーシップを結びました。具体的な共創としては、いろんな方向が考えられましたが、大和証券グループは『ウェルネスマネジメントビジネスの強化』を、NECグループは『デジタルヘルスケア領域の強化』を高齢化社会における重要戦略領域に位置づけています(図3)。その思いを重ね合わせたとき、ヘルスケアこそが共創事業にふさわしいテーマだと思われました」とNECの及川 典子は振り返る。
「健康」と「資産運用」がシニア層の最大の関心事
こうして「ダイワのラップ口座 健康サポート特典」が企画されたが、その具現化にあたっては払拭しなければならない懸念もあったという。金融商品とヘルスケアという全く異なるサービスの組み合わせが、顧客に歓迎してもらえるかどうか確信を持てなかったのだ。そこでメインターゲットとなる60代~70代前半の顧客約30名を対象にフォーネスビジュアスを体験してもらう概念実証を行った。
「日頃大和証券のサービスをご利用されているお客様の中から、実証にご協力いただける方を対象に健康に関する意識や行動をインタビューしたところ、『ウォーキングなどを継続的に行うことで健康維持に努めている』『定期的な健康診断やかかりつけ医への相談などによって健康状態の把握に努めている』『健康に関して信頼できる、自分に合った情報を求めている』『今の健康な状態をできるだけ長く持続したい』といった共通項が抽出されました」と上橋氏は話す。
さらに「健康サポート特典」の告知に先立ち、大和証券の顧客向け情報誌にフォーネスビジュアスの紹介記事を掲載したところ、相当な反響があったとのこと。同誌のアンケート調査では読者にとって「健康」と「資産運用」は非常に関心あるテーマであるという結果となり、改めて大和証券が「健康サポート特典」を通じて健康寿命のサポートを始める意義を実感したという。
「フォーネスライフの江川 尚人代表取締役が来社され、このサービスが特にセカンドライフを送る方々にとって有用であることを熱くプレゼンテーションしてくださったことも、ヘルスケアサービスの提供に向けて社内の機運を盛り上げる一助となりました」(上橋氏)
このように企画をかたちにするプロセスでは乗り越えるべき課題も多くあった。特にサービス提供のフロントに立つ大和証券側では自社にノウハウが無い領域を打ち出すリスク、懸念もあったが慎重かつ熱意をもって調整を進めた結果、両社の事業共創は予想以上にスムーズに進展。2023年秋にスタートした取り組みは早くも翌年6月にサービス告知にこぎつけた。「それはひとえに、『お客様の人生100年時代を豊かに過ごしていただくためにヘルスケアも含めた包括的な支援をしたい』と考える大和証券グループと、『病気にならない世界を実現したい』と願うNECグループのビジョンや目指すゴールが共通していたからだと思います」と及川と森は口を揃える。
両社の知見を活かしてさらなるサービスの拡充を図る
「健康サポート特典」を通じて「ダイワのラップ口座」契約者の疾病リスクや健康意識にまつわる理解がさらに深まれば、ニーズにより合った健康情報の発信やサービスバリエーションの拡大が可能になる。
将来的には提供する健康関連サービスのバリエーションを拡大する可能性もあるが「まずはお客様が今回初の試みである『健康サポート特典』をどう受け止められるかをしっかり見極めたいと思います」と上橋氏は言う。
NECがヘルスケア領域で有する豊富なアセット群の中には、この特典に付加できるものも少なくない。その一例が、歩行分析センサーを搭載した専用インソールを靴に入れることで歩行速度、歩幅、接地角度などのデータを収集する「歩行センシング・ウェルネスソリューション」だ。集めたデータをAIで解析すれば、歩行を通じた健康増進を支援することができる。
上橋氏、及川、森の三者の根底にあるのは、「両社の強みを掛け合わせれば、『健康サポート特典』以外にも価値の高いさまざまな共創事業を創出できるはず」という思い。「誰もが病気にならず、自分らしく生きられる社会の実現」に向けた両社の取り組みは、まだ緒についたばかりだ。
- ※ 本記事は大和証券グループによる特定の運用商品の勧誘を目的とするものではありません