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大阪・関西万博が日本のキャッシュレス化を推進
~顔認証×決済×共創で描く社会とは~

 2025年4月に開幕する2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)では、国際博覧会として初の「全面的キャッシュレス化」が行われる。三井住友銀行、三井住友カード、そしてNECの3社が「キャッシュレス決済・EXPO2025デジタルウォレットサービス」協賛事業としてその実装の役割を担う。現在、日本のキャッシュレスはどのような状況にあり、万博ではどのような“未来社会”の姿を体験できるのだろうか。パノラマティクス 齋藤 精一氏が、大阪・関西万博におけるキャッシュレス化推進のキーパーソンたちに話を聞いた。

SPEAKER 話し手

株式会社三井住友銀行

遠藤 直樹氏

執行役員
トランザクション・ビジネス本部長

三井住友カード株式会社

谷川 真一氏

アクワイアリング統括部(大阪)部長

パノラマティクス

齋藤 精一氏

主宰

NEC

岩井 孝夫

Corporate SVP兼
金融ソリューション
事業部門長

「カード決済=タッチ決済」という時代が到来する

齋藤氏:今日の座談会のテーマは「キャッシュレス決済の未来、万博から広がる世界」です。キャッシュレス決済の取り組みの1つとして、いよいよ来年に迫った大阪・関西万博における協賛事業についてもご紹介したいと思います。まずは、キャッシュレス決済の現状についてご説明をお願いします。

パノラマティクス主宰
齋藤 精一氏

遠藤氏(三井住友銀行):キャッシュレスは世界的に普及していますが、日本でもここ数年で大きく成長しています。2018年度のキャッシュレス比率は24%でしたが、2023年度は39%と約1.6倍に拡大しています。使い方としても、日常決済での浸透と定着が進んでいます。なかでもクレジットカード決済金額の比率が高く、日本のキャッシュレスはクレジットカードが牽引している状況です。

株式会社三井住友銀行
執行役員
トランザクション・ビジネス本部長
遠藤 直樹氏

谷川氏(三井住友カード):クレジットカード利用はコロナ禍以降で大きく変化しました。百貨店や旅行の取り扱いが減少した一方、ネット決済やコンビニ、スーパーの日常利用が非常に増えました。もともとクレジットカードには、旅行やレストランでの食事など、特別な機会に使うものというイメージがありましたが、コロナ禍に背中を押される形で、「非日常」から「日常」へと大きく変化した格好です。

 コロナ禍が落ち着いた後も、クレジットカードの日常利用は右肩上がりで増え続け、キャッシュレス決済は全体として非常に大きく伸びています。特に目立つのはタッチ決済で、日本国内でもタッチ決済が4割に迫る勢いで伸びています。「カード=タッチ決済」という時代が到来することは間違いないと思います。

三井住友カード株式会社
アクワイアリング統括部(大阪)部長
谷川 真一氏

齋藤氏:今後、高齢化が進めば、キャッシュレス決済の普及率も急激に上がってくるのではないかと思います。キャッシュレスを推進する立場として、三井住友カードさんはどのような取り組みを推進しているのでしょうか。

谷川氏:「健全なキャッシュレス社会の実現」に向けて、利用者と事業者(店舗)という2つの視点からさまざまなサービスを展開しています。

 まず、利用者の視点では、ナンバーレスカード(券面にカード番号が印字されていないクレジットカード)やOlive(SMFGが提供する個人向け総合金融サービス)といった、今後の金融・決済サービスのスタンダードとなりうる先進的なサービスをリリースしてきました。

 一方、事業者の視点では、ビザ・ワールドワイド・ジャパン様やGMOペイメントゲートウェイ様とともに、「stera(ステラ)」という次世代決済プラットフォームを提供しています。日本は諸外国と比べて決済の種類がクレジットカードや電子マネー、コード決済など多岐にわたり、また決済の処理を行う際には、センターやネットワークなど多数の事業者がかかわる非効率な構造となっていることが課題でした。

 そこで、三井住友カードでは、店舗に設置する決済端末や、決済データを処理するセンター、決済データをブランド会社やカード会社に届けるネットワークなど、決済にまつわるすべての機能を一括で提供する次世代決済プラットフォーム「stera」を構築しました。その結果、複雑な契約やシステムの接続をする必要がなくなり、さまざまな種類の決済をワンストップで利用できるようになりました。

 steraの特徴的なサービスの1つに、「stera terminal」があります。この端末にはAndroid OSが搭載され、1台でクレジットカードや電子マネー、コード決済といったさまざまな決済をカバーします。2020年7月にリリースして以来、多くの事業者からご好評をいただき、当初5年後の目標としていた契約台数30万台を、2023年度に前倒しで達成できました。

1台の端末でクレジットカードや電子マネー、コード決済といったさまざまな決済に対応する

国際博覧会として初めて「全面的キャッシュレス化」

齋藤氏:日本でもそれだけ、キャッシュレス化が進んできたということですね。今後、日本社会がキャッシュレスを推進していくにあたって、何が必要になると思いますか。

谷川氏:キャッシュレスの利用をさらに広げるためには、利用者の満足度を上げることが重要です。そのために必要な要素とは、「利便性」「利得性」「セキュリティ」の3つだと考えています。

 なかでも、「利便性」と「セキュリティ」はトレードオフの関係になりがちなので、これら2つの質を同時に上げていくことが重要ではないでしょうか。

遠藤氏:三井住友銀行は、お客様にサービスを提供する立場にあるので、UI(ユーザインターフェイス)とUX(ユーザエクスペリエンス)を非常に重視しています。先ほど触れたOliveもそうですし、大阪・関西万博で独自に提供するキャッシュレスサービス「ミャクペ!」でも、やはりUI、UXにこだわりを持って取り組んでいます。

 デジタルリテラシーを問わず、どんな人でも簡単に利用できて、使ったときに「便利だな」と実感できる。そのことが非常に重要だと考えています。

齋藤氏:UI、UXの重要性に対する認識は、ようやく日本に浸透してきたように感じています。例えばアプリも「触って楽しい」「ボタンを押したくなる」というように、ボタンのデザイン1つで使い方が変わってくる。金融業界でも、ここ10年は「どれだけ直感的に操作できるのか」という課題に取り組まれている印象です。

 それでは、次に「未来の挑戦、万博での活用状況」というテーマについて考えてみたいと思います。まず、「万博にはどんな意味があるのか」「どういう機会として使えるのか」ということを、僕の視点からお話ししたいと思います。

 万博とは、「今、世界でどんなイノベーションが起きているのか」「今、世界にはどんな課題があって、どのような課題解決の方法があるのか」という知恵を共有する場所だととらえています。特に今回は、SDGsの達成目標である2030年の5年前ということもポイントです。大阪・関西広域を舞台に、モビリティや医療、防災といったさまざまな業界が一体となって、1つの大いなる実証実験として万博に取り組む。それが今回の万博の意義だと考えています。

 大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。金融の分野では「キャッシュレス」というデザインを実証し、実装していくことになります。国際博覧会としては初の試みとなる全面キャッシュレスが導入され、会場内での買い物や飲食は原則としてキャッシュレス決済のみ。三井住友銀行と三井住友カード、NECは、万博の協賛事業として「キャッシュレス決済・EXPO2025デジタルウォレットサービス」に取り組んでいただいているので、その話も伺えればと思います。

万博独自の電子マネー「ミャクペ!」がもたらす特別な体験

遠藤氏:まず、三井住友銀行の取り組みについてお話しします。SMBCグループでは2024年7月1日、EXPO2025デジタルウォレットサービスの万博独自電子マネーとして「ミャクペ!」をリリースしました。これは、銀行口座やクレジットカード、ギフトコードから事前にチャージする、プリペイド型の電子マネーです。「Visaのタッチ決済」や「iD」、「ミャクペ!」独自のコード決済に対応しているので、万博会場でのご利用はもちろん、会期前から日本全国の対応店舗で利用することができます。

 この「ミャクペ!」を積極的に使っていただくことで、万博をさらに楽しめるようにするための仕掛けが、「ミャクミャク リワードプログラム」です。7月にリリースした第1弾では、「ミャクペ!」のチャージ金額によって、「スタンダード」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」と4段階のステータスが各ユーザに付与され、ステータスに応じて万博オリジナルNFTを獲得することができます。

 さらに、第2弾のリリースでは、「ミャクペ!」のチャージ以外にも、万博関連の活動や体験を通じてステータスアップができるようになります。ステータス自体も4段階から7段階に拡充され、「プラチナ」「ダイヤモンド」「レジェンド」という上位のステータスが増設される予定です。また、ステータスに応じて、NFT以外にも、万博会場内での特別な体験やサービスが特典として獲得できる予定です。

谷川氏:私からは、万博会場内のキャッシュレスについてお話しします。SMBCグループは「全面的キャッシュレス」の実現に向けて、「stera terminal」とモバイル端末「stera mobile」合計1,000台を提供します。日本最大級となる約60種類の決済手段に対応することで、来場者の皆さんに快適なキャッシュレス体験を提供したいと考えています。

齋藤氏:万博では課題解決やSDGsといったテーマももちろん重要ですが、楽しめる要素も必要なので、チャージ金額によってランクアップするというのは、ゲーム感覚で楽しめるのでとてもいいですね。

 stera terminalはいつも店舗での決済に使っていますが、タッチ決済ができるので非常に便利ですよね。最近は公共交通機関向けのstera transitも、駅などでよく見かけるようになりました。

谷川氏:stera transitは、タッチ決済を利用して、お手持ちのクレジットカードなどでそのまま電車やバスへ乗車できるサービスです。インバウンド需要の拡大を背景として、2024年は全国で180のプロジェクトが動いており、特に関西では、万博を契機として、主要鉄道事業者の間で導入が進みつつあります。

齋藤氏:海外では公共交通機関でもタッチ決済が広がっていますが、日本でもstera transitのようなシステムが全国に広がりつつあるのは素晴らしいことですね。これが万博のレガシー(遺産)となって、後々、「これは万博の年に始まったんだ」と言えるぐらい普及するといいな、と思っています。最後にNECの取り組みについてお話をお伺いできればと思います。

万博とは「新しい世界を見せる」こと

岩井(NEC):大阪・関西万博では、世界No.1(※)の精度を持つNECの顔認証技術を活用した、2つの顔認証システムを導入しています。1つが入場ゲートでチケットと組み合わせて顔による追加認証を行う「チケット顔認証システム」です。これは、期間中何度も入場できる「通期パス」や「夏パス」をお持ちの方を対象に、入場時にQRコード認証に加えて顔認証を行い、チケットの貸し借りによるなりすましを防止するというものです。

 もう1つは、「通期パス」や「夏パス」をお持ちの方に加えて、一日券をお持ちの方でも「ミャクペ!」に会員登録された方を対象にしたもので、万博会場内のほとんどの店舗で、stera terminalを使って顔認証決済をすることができます。このように、今回の万博では、1回の顔登録により、「入場の追加認証」と「決済」という2つのサービスを同時に利用できます。

 「ミャクペ!」に関連したお話としては「応援経済圏構築プラットフォーム」の導入を進めています。このプラットフォームはブロックチェーン技術を活用しており、自治体による地域活性化や、企業・スポーツチームの新たな収益源の獲得など、利用目的に合わせてデジタル通貨を活用することができます。このプラットフォームを通じて、地域と、地域を応援したい人をつなぐことで、関係人口の拡大を図り、地域活性化や地域の経済圏の創出を支援します。

 今回の万博では、顔認証システムと万博独自の電子マネー「ミャクペ!」を連携させることで、街中から万博会場に至るまで、シームレスで特別感のあるユーザ体験を提供したいと思っています。万博のために作ったものをレガシーとして市中に残すため、開催期間中から街中と万博をつなぎ、顔認証への取り組みが広がっていくことを期待しています。

 これらの顔認証による入場の追加認証や決済は、NECの生体認証が目指す世界観の一部です。将来的にはさまざまなシーンで、生体認証でつながる快適な体験や、最適化されたサービスが受けられる楽しみを提供していきたい。それを目指して、万博の世界でしっかりと実現していきたいと思います。

齋藤氏:NECは今後キャッシュレスにどのように取り組んでいくのでしょうか。

岩井:当社は決済事業者そのものになるわけではなく、電子マネーやQRコードを使った地域通貨や決済基盤など、バックエンドのシステムを提供することで、これまでキャッシュレスに携わってきました。今回の万博でも「ミャクペ!」に地域通貨の仕組みを活用しています。

 このほか、生体認証を使った決済サービスも提供しており、万博では顔認証決済がこれにあたります。

 この顔認証については、万博ではsteraや「ミャクペ!」と連携した手ぶらサービスを提供し、決済サービスの利便性やセキュリティを高める部分で、キャッシュレスに関わっていきたいと思います。

NEC
Corporate SVP兼 金融ソリューション事業部門長
岩井 孝夫

齋藤氏:最後に、万博以降の社会「Beyond 2025」について、NECが思い描く未来を聞かせてください。

岩井:NECはイベント運営において新たな価値を提案し、ホスピタリティとエンタテインメントを両立するイベントの実現をサポートします。そのカギとなるのが、NECの顔認証技術とローカル5Gです。

 入場ゲートでは、来場者は手ぶらで入場し、瞬時に顔認証を行うことで混雑を緩和するだけでなく、なりすましを防止することも可能です。さらに、店舗でもスピーディな顔認証決済によって、レジ業務を効率化することができます。NECのローカル5Gの無線環境は高速で安定しており、顔認証システムの安定稼働はもちろん、会場内外の映像配信にも威力を発揮します。NECは技術と知見により、イベント運営の新たな次元を切り拓きたいと考えています。

 また、先ほども触れましたが、将来的にはさまざまなシーンで、生体認証でつながる快適な体験や、最適化されたサービスが受けられる楽しみを提供することで社会に貢献していきたいと考えています。

遠藤氏:顔認証や生体情報を使って「人と街をつなぐ」というのは、今後の可能性が広がるNECならではの取り組みだと思います。新しいビジネスの創出や社会課題の解決、あるいは社会的価値の創造に向けて、ぜひ一緒にチャレンジをさせていただきたいと思います。

谷川氏:NECの取り組みは、国家的イベントである万博だからできること。万博以降もこの構想を推し進めるということですので、一消費者としても非常に楽しみにしています。

齋藤氏:僕はこれまで「共創、共創」と言い続けてきたのですが、「共創しよう」というだけでは共創はできない。「こういう社会を目指そう」というビジョンを共有できるかどうかが大切だと思います。万博というのは「新しい世界を見せる」ことだと思います。ぜひ1人でも多くの方に万博を楽しんでいただき、「いのち輝く未来社会」をデザインできればと思います。

©Expo 2025