本文へ移動

これからの金融機関が目指す未来の DX 戦略:FIT2024(金融国際情報技術展)レポート

 いまや、あらゆる金融機関がDXに取り組んでいる。従来の業務の効率化や自動化が意味をもつことは言うまでもないが、その本来的な意義は新たな価値創出にある。多くの金融機関は、新たな価値を生み出すためにDX戦略をアップデートする必要性に直面しているだろう。

 10月17〜18日に東京国際フォーラムで行われたFIT2024(Financial Information Technology、金融国際情報技術展 主催:日本金融通信社)では、今年もさまざまな金融機関が取り組むDXの実情が明らかとなった。これまで多くの金融機関のDXをサポートしてきたNECが関わったセッションから、これからの金融機関に求められるDX戦略を考える。

地域のイノベーションに向けたDX

 「私たちはDXを通じたビジネスモデルの変革に取り組むうえで、4つのテーマを設定しています。顧客接点の変革、プロセス改革、デジタル基盤変革、企業風土変革──これら4つを具体的な施策に落とし込むことで、新たな顧客体験の創出やライフスタイルの変化、地域のイノベーションに貢献していきたいと考えています」

 そう語るのは、大垣共立銀行 システム部 部長の小坂井智浩氏だ。同行によるセッション「DX戦略の実現に向けて~OKBが目指すシステムのモダナイゼーション~」では、これら4つの変革がどのように行われようとしているのか明らかとなった。

 「まず顧客接点の変革においては、非対面か対面かを問わず一貫した顧客体験を提供する必要があると考えています。そのために重要となるのが、お客さまがチャネルを意識せず使える共通の認証スキームです。生体認証、パスワード、印鑑など現状はバラバラの認証方法を共通化していきたいと考えています」

大垣共立銀行 システム部 部長 小坂井智浩氏

 さらにプロセス改革においては、窓口業務のデジタル化や意思決定のデジタル化も進んでおり、データサイエンスの活用が進んでいることを小坂井氏は明かす。地域の人々との強いつながりをもつ大垣共立銀行にとって、DXとは地域の人々へ新たな価値を提供するための手段と言えるだろう。

 こうしたDX戦略を実現するために、システムの面ではどのような変革が進んでいるのか。同行システム部 課長の窪田成臣氏は、モダナイゼーションの考えをもって進めてきたことを明かす。

 「効率化、ニーズに対応可能なシステム基盤の構築、データドリブン、サイバーセキュリティの強化──この4つを柱としてさまざまな施策に取り組んでまいりました。これらの施策に取り組むにあたり、既存の資産を適切に活用していく、モダナイゼーションの考え方を取り入れています。」

 もっとも、既存システムのリニューアルを考えていくと、消極的な打ち手に留まってしまいやすい懸念もあった。そこで大垣共立銀行は、モダナイゼーションの受け皿となる基盤や手法、成功体験が必要と考え、NECと議論を重ねていくなかで、ローコード開発ツールの採用やコンテナ・アジャイル開発の導入、API連携への拡大、データ基盤の整備に踏み切ったと窪田氏は語る。

大垣共立銀行 システム部 課長 窪田成臣氏

 「実際に社内でローコード開発の概要を紹介し、システム化のニーズがあるのか各部署にヒアリングを行ったところ、私たちの想像を遥かに上回るニーズが発掘されました。現在はそのニーズを整理しながらなるべく速く開発に着手できたらと考えています」

 ローコード開発やコンテナ開発、データ基盤といった新しい仕組みは、こうしたニーズや環境の変化に迅速かつ柔軟に対応していくうえで必要不可欠なものだと言える。窪田氏が語る大垣共立銀行のモダナイゼーションを考えるうえで忘れてはならないのが、NECの存在だ。

NEC 第四金融ソリューション統括部 プロフェッショナル 石田直也

 「NECは今年2月に金融機関向けのモダナイゼーションプログラムを発表しました。私たちが多くのパートナーとともに取り組んできたモダナイゼーションを体系化したこのプログラムは、システム構築のみならず上流の構想からプロジェクトの実行実現まで一気通貫でお客さまの支援を行うものです」

 NEC 第四金融ソリューション統括部 プロフェッショナルの石田直也がそう語るように、今回の大垣共立銀行との取り組みにおいても経営やビジネスからの要求を、既存の資産を有効活用しながら実行可能なプランに落とし込まれていった。今回行われた大垣共立銀行との取り組みにおいて実施された取り組みのように、NECが包括的に「実行可能なモダナイゼーション」を支える取り組みを展開していることが明らかとなった。

プラットフォームエンジニアリングという革新

 この日NECが主催したセッション「運用負担が8割削減!?ビジネスに集中できるプラットフォーム戦略とは」はまさに前述の大垣共立銀行との取り組みでも活用されたNECのモダナイゼーション支援を象徴するプログラム「NEC Secure PaaS/IaaS for Finance」にフォーカスしたものだ。

 NEC 金融システム統括部の中尾悠二とNECソリューションイノベータ ソリューションサービス事業ライン 第三PFSI事業部の吉見貴彦によるこのセッションは、新規ビジネスの創出を行うためのプラットフォーム戦略に関するふたりの議論からスタートした。まずプラットフォーム戦略において今後重要になると吉見が語るのは「プラットフォームエンジニアリング」だ。

 「他社との差別化のためにさまざまな新技術を盛り込んだプラットフォームを導入することは、決して悪いことではありません。問題は、そのプラットフォームを使いこなせているかどうかです。新たなビジネスの創出にプラットフォームが貢献しているか、きちんと精査しなければいけないのです」

NECソリューションイノベータ 第三PFSI事業部 吉見貴彦

 吉見はそう語り、無闇に新しい技術を導入することは結果的に開発や運用の負担を高めてしまう可能性もあると続ける。

 「とくに最近のテクノロジーはますます複雑なものとなっており、認知負荷が高まることが指摘されています。かといって古いテクノロジーだけでは実現できないこともあるため、必要なものを絞って活用していくことが差別化につながるはずです」

 開発者にとって必要な技術に絞ることで不要な認知負荷を減らしたプラットフォームを提供することが、プラットフォームエンジニアリングなのだという。そして、NECはまさにプラットフォームエンジニアリングの考え方を採用しながらソリューションを展開していると中尾は語る。

 「NECが目指しているのは、お客さまがプラットフォーム運用を意識せず使えるプラットフォームです。NECがプラットフォームの構築や運用保守といった作業を引き受けることで、お客さまには差別化やサービス拡大、新たな価値創造へリソースを割いていただきたいと考えています」

NEC 金融システム統括部 中尾悠二

 NECが展開するNEC Secure PaaS/IaaS for Financeは、こうした思想に基づいて提供されているものだ。その特徴は4つあると中尾は語る。まず1点目はゼロからのセキュリティ対策が不要なこと、2点目は最小構成からシームレスに拡張できること、3点目は標準ドキュメントが整備済みであること、4点目が最適なアップデートの継続的な実施だ。加えてNEC Secure PaaS/IaaS for Financeでは関連ソリューションとしてオプションサービスも提供していると中尾は続ける。

 「1つ目はSecure CI/CDサービスです。私たちはこれまでのナレッジを活かして SecDevOpsを実現するセキュアなCI/CT環境を標準化し、プラットフォームと一緒にご提供しております。2つ目は、マネージドサービス。プラットフォームの認知・運用負荷を下げるだけではなく、日々の運用や障害対応をNECが引き受けることで、お客さまが開発に専念いただける環境をつくります。最後のガードレールは、標準のセキュリティ対策に加えて作業ミスに起因するシステム上の問題を防ぐものです」

 NEC Secure PaaS/IaaS for Financeをはじめとするサービスの活用により、顧客は基盤構築・保守をNECに任せ、他社との差別化やサービス拡大に自身のリソースを割けるようになる。金融領域におけるDXが進んでいくなかで、NECはこれからのプラットフォームのあり方や顧客との向き合い方を示していると言えるだろう。

ATMはリアルとデジタルをつなぐチャネル

 近年、さまざまな形で金融機関のDXは加速している。この日行われたセッション「セブン銀行|リアルとデジタルを繋ぐATMを活用した金融機関DXへの取組み」は、DXを通じて銀行やATMという存在がどのようにトランスフォームしているか明らかにするものだ。2001年に開業したセブン銀行は小売業発の金融機関として現在すべての都道府県に2万7,000台以上のATMを展開、670社以上と提携し1日約270万人が利用する社会インフラとなっている。

 セブン銀行の常務執行役員を務める深澤孝治氏は、同行がNECとともにソフトウェアやサービスのアップデートに取り組んできたことを明かしながら、昨年9月からスタートしたサービス「+Connect」を紹介する。

セブン銀行 常務執行役員 深澤孝治氏

 「私たちはATMを現金の入出金だけでなく、あらゆる手続き認証の窓口へと変えていきたいと考えています。多くのサービスがスマホ中心にシフトするとともに求められるセキュリティのレベルも上がるなかで、ATMというチャネルを使うことで多くの課題を解決していくものでもあります」

 +Connectがカバーするサービスは、実にさまざまだ。たとえばATM窓口と題したサービスにおいては、これまで金融機関の窓口でなければ行えなかった住所変更や口座開設を可能にするほか、行政機関の手続きやホテルのチェックインまでコンビニで完結できる環境をつくろうとしている。あるいはATMお知らせというサービスでは、ATMがユーザと定期的に接触することを活かし、さまざまな案内を届けたりアンケートを集計したりすることも可能だ。ATMを入出金の道具ではなく、ユーザとのリアルな接点として解釈することで、こうした新たなサービスが生まれているのだろう。

 +Connectは、金融機関とユーザ、双方に新たな価値を提供するものだ。近年多くの金融機関がスマートフォンを中心とした非対面チャネルの活用を強化しているが、厳格な本人確認が求められる手続きはいまも窓口や郵送で行われることも多い。こういった手続きに対応できる+Connectを活用すれば、金融機関の非対面チャネル強化の新たなアクセントとなり、その動きを加速させるはずだ。

 またユーザにとっても、従来の金融機関や行政機関は夜間や土日に窓口が閉まっているので人によってはなかなか利用しづらいケースも多かった。言うまでもなくセブンイレブンのATMでさまざまな手続きを行えるようになれば、サービスの利便性は格段に向上するだろう。多様な人がさまざまな時間と場所で使えるというATMの強みを活かすことで、+Connectは新たな金融サービスの形を発明していると言えそうだ。

 「私たちはプラットフォーマーですから、どんどん金融機関のみなさまに使っていただき、みなさまが進める顧客接点の強化や業務の合理化、収益向上に貢献していきたいと思っています。もちろんいまの機能だけで十分だとは思っていませんので、みなさまのニーズに応えられるサービスを今後もどんどん増やしていきます」

 さらにいまセブン銀行が進めているのは、顔認証による入出金機能の導入だ。単純な利便性の向上はもちろんのこと、災害時に手ぶらで避難してもコンビニのATMで当面の生活費を引き出すことができる。ATMは緊急時の私たちの生活を支えるインフラとしても機能していくのだろう。

 「デジタル化を加速させていくためには、ネットとリアル、どちらのチャネルも重要だと思っています。多くの企業の方々が進められているスマートフォンを中心としたデジタル化に加えて、ATMというリアルのチャネルを組み合わせていただくことで、お客さまのサービスの幅も広がりますし、デジタル化も加速していくはずです」

 深澤氏はそう語り、セッションを締めくくった。FIT2024でNECが企画した3つのセッションは、金融領域におけるDXが着実に変化していることを明らかにするものだったと言える。単にサービスをデジタル化するだけではなく、プラットフォームのあり方そのものを柔軟に変えていくこと、そして、すべてをデジタルで完結させるのではなくリアルのチャネルと組み合わせていくこと──NECの取り組みは、これからのDX戦略を考えるうえで無視できないものとなるはずだ。