本文へ移動

NECと地域金融機関との共創で社会課題を解決
地域経済の活性化を見据えて
AI推進に取り組む地域金融機関の挑戦

 人口減少、高齢化、人材不足など、地域経済を取り巻く環境は厳しさを増している。危機感を強める地域金融機関は、課題を乗り越えるための活動を積極的に推進している。その1つがAI(人工知能)活用を含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上、新たな価値づくりである。自らの組織を強化するだけでなく、取引先企業にもAI活用ノウハウなどを提供して地域経済の活性化につなげる。NECはそのチャレンジに伴走している。地域経済の課題解決とAI推進に取り組む大垣共立銀行とひろぎんホールディングス、NECのキーパーソンに話を聞いた。

SPEAKER 話し手

大垣共立銀行

奥村 勇樹氏

デジタル統括部
DXセンター

ひろぎんホールディングス

影山 綾子氏

DX統括部 担当課長代理

NEC

日野 大介

デジタルファイナンス統括部
ビジネスプロデューサー

阿部 はるか

アナリティクスコンサルティング統括部
リードAIコンサルタント

DXとAI活用の成果を地域に還元する

──地域金融機関を取り巻く環境変化、課題などをうかがいます。

奥村氏:人口減少と高齢化、人材不足は地域産業にとって大きな課題です。地域経済の活力が低下すれば、金融ビジネスにもマイナスの影響があります。こうした中で、地域金融機関として持続的な成長を目指すにはDXによる効率化、新たな価値づくりは重要なテーマになっています。

大垣共立銀行
デジタル統括部
DXセンター
奥村 勇樹氏

影山氏:私の課題感も同じですが、広島県の場合、都道府県別の転出超過が5年連続で全国最多です。官民ともに危機感を高めていますが、私たちも一層の貢献ができないかと議論しています。当社はDXを戦略の柱の1つに位置づけ、生産性向上と業務・サービスの高度化を実現し、価値創造の成果を地域経済の活性化につなげていきたいと考えています。

ひろぎんホールディングス
DX統括部 担当課長代理
影山 綾子氏

日野:地域金融機関の収益構造が変化しDX推進が重要テーマに据えられる中、経営層・現場ともに特に関心が高まっているのがAIの分野です。そこで、NECは2024年度、10の地域金融機関とともに「生成AI研究会」を立ち上げ、得られた知見をホワイトペーパーとして公表しました。25年度は参加金融機関が増え、20機関とともに「Agentic AI共同研究会」を開催しました。24年度は単一タスクへの生成AI適用が主要テーマでしたが、25年度は複数タスクからなる業務フローを意識しつつ、Agentic AIを各ユースケースに組み込んで検証しています。

 さらに大垣共立銀行様、ひろぎんホールディングス様とは、それぞれの環境に合わせた個別のAIエージェント実証にも共同で取り組んでいます。

NEC
デジタルファイナンス統括部
ビジネスプロデューサー
日野 大介

──2行はAIエージェントの実証に積極的に取り組んでいるとのことですが、感想をお聞かせください。

奥村氏:当社では、融資業務を支援するAIエージェントをNECと実証しています。この実証実験を通じて、業務効率化や顧客サービス向上の大きな可能性を実感しています。一方で当社では汎用的なAIエージェント基盤を実装しておらず、早急な利用環境の整備を行うことが求められていると感じています。また、現場の業務フローや既存システムとの連携、セキュリティ確保など、実装段階での課題も明らかになりました。さらに、AIの判断根拠の説明性や、利用者のリテラシー向上も重要なテーマです。今後は、現場の声を反映しながら段階的に適用範囲を拡大し、地域金融機関ならではの価値創出につなげていきたいと考えています。

影山氏:当社では今年度、融資稟議書の草案を作成するAIエージェントを独自に導入しました。現場からは業務効率化につながっているという好反応がある一方で、AIへの過度な期待や、AIを利用することによる自身のスキル低下を懸念する声も聞こえており、リテラシーの底上げや利用文化の醸成も並行して取り組むことが必要だと感じています。

 NECとはAIエージェントによるDXコンサル提案資料草案作成の実証を行っています。この実証は、正解のない提案アイデアの品質を上げていくという難しい課題への挑戦でしたが、パワーポイントへの出力等、一定水準のアウトプットができるということを確認できました。

金融機関におけるAI活用の高度化に向けて

──金融機関におけるAI活用は、どの程度まで進んでいるのでしょうか。

阿部:私は業種を問わず、様々な企業に対してAIの上流コンサルティングを行っていますが、他業種と比べると金融業界とAIとの親和性は高いと感じます。理由は2つあり、1つ目は、「業務に関連するデータが豊富に蓄積されている」点。データの散在という課題はありますが、今後データは徐々に整理されていくでしょう。2つ目は、多くの金融機関に言えることですが、「適用したい業務課題、目的が明確である」点です。どちらもAI活用を進め、効果を得る上で非常に重要なポイントです。

日野:地域金融機関においては、この1年ほどはAI活用の土台をつくる期間だったと思います。組織全体のマインドは高まりましたし、経営層や現場が生成AIで“壁打ち”をするのも日常的な光景です。これをいかに業務プロセスに組み込み、高度化するかが今後のテーマです。

NEC
アナリティクスコンサルティング統括部
リードAIコンサルタント
阿部 はるか

──研究会に参加したのは全国各地の金融機関で、その規模も様々です。将来に向けて、NECとしてはどのような形でAI活用を支援していくのでしょうか。

日野:金融機関の規模は様々ですが、AI活用においては同じ課題を抱えていることが多く、協調や共同を前提とした仕組みやサービスによって、AI活用の促進をご支援できるのではないかと考えています。

 例えば、NECではエージェント活用の共通基盤の提供準備を進めています。エージェントの活用に際して、個人情報や取引情報といった機微データを多く扱う金融機関にとっては、いかにセキュリティを担保するかが鍵となります。ただし、金融機関の業態、組織の特性や規模によっては、それらに個社で対応することには非常に労力がかかります。

 そういった個社の負担を軽減するためにも、エージェント活用における共通機能としてセキュリティも提供できるような共通基盤が必要と考えています。NECはセキュリティ事業にも注力していますので、その知見を活かした安心安全な環境の提供が可能です。

 また、共同研究会に参加されている複数の金融機関の知見を集約し、共通基盤上での業務特化型エージェントの提供も進めていきます。

阿部:AIを活用するためには、まず企業や金融機関が自分たちの現状を知ることが重要です。そこで、NECは「AI成熟度診断」を開発しました(図参照)。効果につながるAI活用のために重要なポイントを、自社の知見等から会社方針やシステムなど6つの観点で整理しました。まず、研究会に参加した20機関の診断を実施。各金融機関には、平均点と自社の得点をレーダーチャートにして提供しました。

 各金融機関ともAI活用の重要性を強く認識していますが、一方でAI推進担当者のリソースには限りがあり、適切なスキルをもった人材の不足についても、よくお悩みとして伺います。こうした中でAI活用を推進する上で、私たちの役割も大きいと感じます。当社はAI人材の育成支援、AIガバナンスのガイドライン策定支援、データマネジメント伴走支援などのサービスを企画・計画から導入、定着まで一貫して実施しています。

DXで地域の企業、さらには地域を元気にする

──地域金融機関として今後、デジタルまたはAIをどのように活用したいとお考えでしょうか。

奥村氏:地域経済における課題の1つが事業承継です。後継者のいない中小企業が廃業すれば、地域の活力は低下します。私たちとしてはM&A支援を含め、企業がビジネスを長く続けられるようなお手伝いをしたい。M&A支援においてはデータの扱いなど難しい点も多いのですが、地域経済発展のために、もう一歩踏み込んだ取り組みが必要だと感じています。

影山氏:今年度、お客様のDX支援を担当するコンサルティングチームを立ち上げました。地域の企業がDXを推進して生産性と収益性を高めれば、その成果の多くが地元で循環します。結果として、地域全体が元気になるでしょう。当社とお客様、両方のDX、AI活用を推進していきたいと考えています。

阿部:多くの産業において、ベテランの退職に伴い匠の知恵が失われる可能性に対する心配の声をよく聞きます。金融機関も同様です。AIがその知恵を学習すれば、新人でも一定品質の業務ができるようになるでしょう。また、若者の都市部への流出は、全国的な課題です。地域の企業や金融機関にデジタルやAIを駆使する職場が増えれば、若者にとっての魅力も増すはず。人口流出の抑制にもつながるのではないかと期待しています。

日野:金融業務において、AIが自律的に動くようになるにはもう少し時間がかかるでしょう。ただ、そのような時代を見据えた準備はしておく必要があります。具体的な業務での活用法はもちろんですが、人とAIの役割分担、言い換えれば境界線の引き方、あるいはAIガバナンスのあり方など、考えておくべきことは少なくありません。NECはその準備プロセスから実装、運用を含めて金融機関のDXおよびAI活用をサポートするサービスを一層充実させ、金融機関のDXや業務改革の支援、ひいては地域経済の発展に寄与したいと考えています。