顧客接点を企業価値に変える大塚商会のCX改革
その戦略と仕組みづくりの全貌に迫る
企業ではビジネス成長を継続させる顧客体験(Customer Experience:CX)の向上が重要テーマとなっている。その鍵を握るのが顧客接点の最前線であるコンタクトセンターだ。コンタクトセンターは、もはや単なる問い合わせ対応のための組織ではない。顧客の声が最初に集まり、経営やサービス改善につながる重要な情報資産となっている。大塚商会とNECは、顧客接点を経営資産として活用するためのCX改革に取り組み、その先にあるAX(AIトランスフォーメーション)も見据えた変革を進めている。両社のキーパーソンが、人を中心に据えた次世代コンタクトセンターのあり方について語り合った。
SPEAKER 話し手
株式会社大塚商会

浜口 和也氏
上席執行役員
技術本部
サポートセンター部門長
兼たよれーるコンタクトセンター長
NEC

吉本 裕
BluStellar事業推進部門長
顧客接点は「経営資産」へと変わった
吉本(NEC):環境変化が激しい市場で新たな価値を生み出していくため、多くの企業がCXの向上に取り組んでいます。大塚商会も毎月15万件以上のお問い合わせに対応されている「たよれーるコンタクトセンター」を中心としたサポートセンター全体で、CX改革を実践されています。そこで、まず顧客接点としてのコンタクトセンターをどのようにとらえているのかお聞かせください。
浜口氏(大塚商会):コンタクトセンターには、お客様の声が最も早く集まります。お客様が何に困り、何を求め、どのサービスに価値を感じているのか、そうした情報は営業部門や開発部門よりも先に、まずコンタクトセンターへ集まることが少なくありません。かつては問い合わせ対応を行うコストセンターとしてとらえられることもありましたが、現在では顧客の声を経営やサービス改善につなげる情報資産の集積地として、その役割は大きく変化しています。
上席執行役員
技術本部
サポートセンター部門長
兼たよれーるコンタクトセンター長
浜口 和也氏
長年にわたり大塚商会のサポートサービス領域に携わり、コンタクトセンター運営やサービス品質向上を推進。現在は顧客接点を企業の重要な情報資産・経営資産と位置付け、CX向上と従業員体験の両立を目指した改革を牽引している。AI活用も視野に入れながら、人を中心に据えた次世代サポート基盤づくりに取り組んでいる。
吉本:膨大なお客様の声を分析することで、サービス品質や顧客満足、営業や商品企画にもつながる価値ある情報を生み出せる場所だということですね。
浜口氏:その通りです。お客様の声を単なる問い合わせ履歴として扱うのではなく、経営やサービスの改善に活かせる状態にしていくことが重要です。
一方、テクノロジーの進化という面でとらえると、従来のコンタクトセンターは電話が中心でしたが、今はメールやWebフォーム、チャットボットやボイスボットなど、お客様の好みに応じた多様なチャネルを用意する必要に迫られています。そのためシステムやデータも分散しがちで、お客様に寄り添う対応を行うためには現場の努力に依存する部分が少なくありませんでした。
だからこそ、顧客接点で得られる情報を最大限に生かすには、現場の負担を減らしながらお客様対応に集中できる環境をつくり、散在する情報資産を統合し、価値創造につなげるための基盤整備が不可欠になっています。
吉本:私たちも、顧客接点の変革を「目的」ではなく、変化に応え続けるための「手段」ととらえています。大塚商会のように顧客接点を価値創造の起点と位置付けられる企業こそ、この変化をチャンスに転換できるのではないかと感じています。実際に大塚商会はNECをパートナーとして、CX改革に取り組まれています。そのきっかけを改めてお聞かせください。
BluStellar事業推進部門長
吉本 裕
日本を支える「モノづくり」の会社の一員として活躍したいという想いで当時IT、通信、半導体の各領域で世界トップクラスであった日本電気に入社。入社後は国内市場向けソリューションセールスとして民需、通信事業領域で数多くの大型顧客を中心とした新規提案を推進。その後通信領域のアウトソーシング事業及び新規サービスビジネス開発事業をセールス/SE双方の立場での責任者を務める。21年より、NECのDX事業領域のテックセールスチームを牽引、24年度発表の「BluStellar」事業立ち上げを行い、2025年4月より現職。
既存のコンタクトセンター基盤を刷新、その真意とは
浜口氏:直接のきっかけは、既存CTS(Call Tracking System)が稼働して17年を迎え、システムとしての更新時期を迎えていたことです。ただし、それは表面的な理由にすぎません。実際には、業務変化への追随やシステム連携、現場負荷、データ活用、AI活用の前提づくりという面で、より大きな課題がありました。
例えば、フルスクラッチでつくられた旧CTSは長年の追加改修の積み重ねによって業務の変化に追いつかなくなり、必要な情報が複数の場所に分散していたり、画面切替や手作業が発生したりしていました。お客様対応の品質を支えていたのは、システムというよりも現場の経験や努力だった面が大きかったと思います。
また音声認識システムやボイスボットの導入などで、音声データのテキスト化やナレッジ活用は進みましたが、そのデータや対応履歴をお客様情報に結びつけて他部門に素早く展開したり、AI活用による業務の効率化を図るには、複雑な情報を統合的に管理できるシステム基盤の刷新が必要でした。
吉本:CX向上という側面だけでなく、コンタクトセンターで働く従業員の負荷も減らし、満足度を高めるEX(Employee Experience:従業員体験)の向上も重要なテーマになっていたということですね。
浜口氏:私どものコンタクトセンターは、お客様に直接向き合う“人”がすべてです。デジタルツールの導入やAI活用は、人を減らすことが目的ではありません。お客様対応を行うコミュニケーターや、全体を管理・監督するスーパーバイザーの負荷を減らし、本来業務のパフォーマンスを最大化しながら働きやすい環境をつくること。これも変革における重要なテーマだと考えていました。
標準化と安全移行、その両立に挑む
吉本:今回のCX改革にあたり重視されたことは何でしょうか。
浜口氏:最も重視したのは、Fit to Standard(業務をシステムの標準機能に合わせる考え方)と安全なリプレースの両立です。私はプロジェクト初期から、世の中の標準に寄せる、なるべくカスタマイズしないという方針を明確にしていました。私自身がもともとアプリケーション開発系のSEでしたので、パッケージをカスタマイズするリスクを痛いほど経験してきたからです。そのため最初にプロジェクトメンバーにお願いしたのは、できる限り業務をシステムに合わせよう、カスタマイズは大塚商会の強みを生かせるところだけにとどめようということでした。
ただし、標準化を理由に現場を置き去りにしてはいけないとも考えていました。CTSは日々お客様と向き合うコミュニケーターやスーパーバイザーが使うシステムです。現場が使いこなせなければ意味がありません。そのため新CTSの操作などで利用者が混乱しないこと、お客様にご迷惑をかけないことを念頭に、事前トレーニングと研修にしっかり時間をかけることにしました。
変革パートナーにNECを選んだ理由
吉本:今回のCX改革で大塚商会はNECをパートナーに選定されました。その理由を教えてください。
浜口氏:NECとは長年にわたりさまざまな取り組みをご一緒しており、信頼できるパートナーだと認識しています。ただし今回のCTS選定では当社業務への適合率や自動化率、CTI(Computer Telephony Integration)連携、AI活用、担当者の力量など、具体的な評価軸で他社とフラットに比較させていただきました。その中でGenesys Cloud CXや社内システムとの連携まで含めた改善案は、大塚商会の業務を誰よりも深く理解した内容で、利用部門からも高い評価を獲得しました。さらに、目指すコンタクトセンターの将来像を踏まえ、単なるシステム導入にとどまらず、どのように業務変革やCX向上につなげていくかという視点でご提案いただけたことも、選定した大きな理由です。特にNECの「BluStellar Scenario」に基づいた提案は、システム更改の話だけではなく、その先の業務変革やCX改革まで見据えた内容になっており、大塚商会が目指す方向性とも合致していました。
吉本:ありがとうございます。我々としても、今回のプロジェクトは大塚商会の「ビジネス変革をご一緒する取り組み」ととらえていました。NECはコンタクトセンターDXの知見をBluStellar Scenarioとして体系化しており、お客様の現状と将来像を理解した上で、変化への対応を共に描くことを何よりも大切にしています。そのため今回もFit to Standardの考え方をベースに、変化に柔軟に対応できる標準的な業務・システム基盤の構築を重視して臨みました。
大規模基盤の刷新、直面した課題とその乗り越え方
浜口氏:今回導入した新CTSは、たよれーるコンタクトセンター、たのめーるインフォメーションセンター、お客様マイページ問い合わせ窓口など、複数の顧客接点で利用される当社サポート業務の根幹となるシステムです。全体で約1,000人が利用する基盤であるため、プロジェクト遂行中には想定以上に業務が複雑であることが判明し、開発工数の増加や連結テストの期間超過、当社独自システムとの連携などで多くの課題が出てきました。
その際に非常にありがたかったのは、仕様統括リーダーの配置や課題管理プロセスの見直しなど、NECにプロジェクト推進体制を柔軟に見直しながら対応いただけたことです。課題解決に向けて常に一緒に向き合いながら進めていただけたことは大きな安心感につながりました。
吉本:私どももNECグループでコンタクトセンターを刷新した際の経験値や、CTSにおけるクライアントゼロ(※)の知見を存分に活かせたプロジェクトだったと感じています。標準的なテンプレートがある中で、現場ユーザの皆様と一緒にFit to Standardのイメージを何度もディスカッションしながら検討できた過程があったからこそ、納得のいくプロジェクトが遂行できたのだと思います。
- ※ クライアントゼロ:NEC自身がゼロ番目のクライアントとなって最先端のテクノロジーを実践し、その知見を顧客・社会へ提供する取り組み
浜口氏:また、NECにはEX(従業員体験)を重視したUI(ユーザインタフェース)への配慮に加え、通常より長い3~4カ月の事前教育期間も確保していただきました。その意味で、やはりNECは単なる導入ベンダーではなく、課題に一つひとつ向き合いながら最後まで伴走していただける変革パートナーだったと実感しています。
顧客接点のデータが価値を生み始めた
吉本:変革を進めたことで、どのような成果や変化が見えてきましたか。
浜口氏:大きく3つの成果が得られたと考えています。1つは複数の問い合わせ窓口の状況を統合的に把握しながら横断的なドリルダウン分析を行い、現場の状況がリアルタイムに可視化できるようになったことです。以前は複数システムを横断して確認する必要がありましたが、現在は必要な情報にすぐアクセスできるようになり、現場判断のスピードも向上しました。
各課のスーパーバイザーが作成したレポート数は現在までに750を超え、データに基づく迅速な意思決定も可能となりました。これはデータドリブン経営の実践とマネジメントの質向上につながっています。現場からも「状況をリアルタイムで把握しやすくなった」「必要な情報にすぐアクセスできるようになった」という声が上がっており、定着も想定以上にスムーズに進んでいます。
2つ目は、継続的な改善サイクルを現場主導で回せるようになったことです。従来はシステム改修が必要だった改善要望も、新CTSでは迅速に反映しやすくなりました。その結果、利用部門から上がる声をスピーディーに形にできるようになり、お客様対応や業務運営の改善を継続的に進められる環境が整いつつあります。
3つ目は、オムニチャネル・ルーティングの実現です。これは電話やメール、Webフォームなど複数の窓口から寄せられる問い合わせを、内容や状況に応じて最適な担当者へ自動で振り分ける仕組みです。既に月2万件を超える振り分け実績があり、スーパーバイザーからは滞留の解消や属人性の低減、コミュニケーターの自己解決力向上につながっているという報告が寄せられています。私たちが目指している、一人ひとりのパフォーマンスを最大化しながら、顧客接点を経営資産としてさらに活用する道筋が見え始めたと感じています。
吉本:現場の方々にも変革の成果が定着し始めているということですね。我々から見ても、大塚商会の中では継続的な改善サイクルが着実に回り始めていると感じています。システム導入の本当の価値は、一度つくって終わりではなく、ビジネスの変化やお客様のニーズに合わせて進化し続けられることにあります。最後になりますが、大塚商会ではCX/EXで今後、どのような未来を描いていこうとされているのか、ぜひお聞かせいただけますか。
浜口氏:今回のリプレースはゴールではなく出発点です。新CTSで得られる多様な顧客接点のデータを活用しながら、顧客体験、従業員体験、そして企業価値の向上につなげていきたいと考えています。
今回の最大の成果は、将来に向けた選択肢を広げられたことだと思います。AIをはじめとする新たな技術や、お客様との接点の変化にも柔軟に対応できる基盤を整備できました。今後はその基盤を活かしながら、お客様の声をより迅速に価値へと変えられるコンタクトセンターへ進化させていきたいと考えています。
吉本:私たちが目指すのは、顧客接点で得られる情報を起点としたデータ利活用や、それを安心して使い続けるためのセキュリティ、その先の業務全体までを変えていくAXを、大塚商会と共創していくことです。これからも大塚商会の進化にしっかりと伴走しながら、ご期待に応え続けていきたいと思います。本日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。