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約1万席規模のコンタクトセンターシステム
無停止でのクラウド化を実現したNTTドコモ

 顧客との長期的な関係を築く上でコンタクトセンターは欠かせない顧客接点となる。NTTドコモは、全国約150拠点・約1万席という国内最大級のコンタクトセンターを運営し、顧客体験の向上に取り組んでいる。業務の中核を担うのがALADINコールセンター基盤システム、通称「ALCC」である。同社は、このALCCについて、計画停止を行わない「無停止」でのクラウド化に踏み切った。パンデミックによる業務環境の変化、人材確保の難しさ、分散したデータ活用の限界―などの課題を乗り超え、柔軟な働き方と次世代CXを支える基盤を手に入れるためだ。本記事では、その舞台裏と、生成AI活用を見据えた次の一手に迫る。

全国分散の巨大コンタクトセンターを一体運営するには

 創業以来、通信技術を進化させ、さまざまな仕組みやサービスを生み出し、社会に“豊かさ”を提供してきたNTTドコモ。現在は、高品質なネットワークを通じて期待を上回る顧客体験を提供する「通信事業」、社会・産業の構造変革や地域社会のDXを支援する「法人事業」、金融・決済、映像、電力などのサービスを通じて新たな生活価値やライフスタイルを創出する「スマートライフ事業」の3つの事業を展開している。

 これらの事業に共通するのは、お客様と長期的な関係を築くことが前提となる点だ。そのため、顧客接点の質をいかに高め続けるかは、重要な経営課題となる。同社は、まちのドコモショップや法人向けの営業担当者など、複数のチャネルを使い分けて顧客接点の最適化を図っているが、その一翼を担っているのがコンタクトセンターである。

 コンタクトセンターの業務は、ALCCというシステムが支えている。ALCCが稼働しているコンタクトセンターは、全国約150拠点・約1万席という日本最大級の規模で運営されており、インバウンドコールでは「dポイントの有効期限を知りたい」「契約している料金プランを確認したい」「手続き方法がわからない」といった幅広い問い合わせに対応。一方、アウトバウンドコールでは、終了予定のサービスからの移行案内やお客様にとって有利となるサービスの組み合わせの紹介など、お客様との関係性をさらに深化させる提案を行っている。

 コンタクトセンターのサービス品質向上や業務効率化のため、NTTドコモは早くからデジタル技術の活用に取り組んできた。例えば、料金確認のような定型的な問い合わせについては、チャットボットを活用しお客様自身がセルフ解決できる環境を整備している。「簡単な問い合わせをシステムに任せることで、オペレーターは人にしかできない業務に専念できます」と同社の齋木 守通氏は語る。

株式会社NTTドコモ
情報システム部
プラットフォーム戦略担当部長
経営基盤担当部長
齋木 守通氏

 ALCCは、このようなデジタル技術活用の基盤であり、着信制御、コールフロー管理、オペレーター管理などの機能でコンタクトセンターの業務を支えているが、中でも特徴的なのは、拠点が全国約150カ所に分散していることを前提とした設計思想である。各拠点は、それぞれ異なる役割を持ちながらも、サービス品質や対応手順は共通化され、NTTドコモのコンタクトセンターとして一体的に運営されている。その体制を支えるためにALCCは、基盤や基本機能は共通化した上で、業務にかかわる細かな設定や管理は現場主体で行えるよう柔軟性を確保している。また、問い合わせ内容などに応じて、どの拠点・どのオペレーターにつなぐかを制御するコールフロー分配機能を実装しており、大規模災害時でも被災した拠点の業務を別拠点が即座に引き継ぐことが可能となっている。

人材確保の難しさなどを踏まえてクラウド移行を決定

 継続的に機能強化を行ってきたALCCにおける、直近の大きな変化が完全クラウド化である。きっかけとなったのがパンデミックによる業務環境の急激な変化だった。「パンデミックの影響でオペレーターがセンターに出社できない状況が生じました。しかし、そうした中でもお客様のサービス利用が止まるわけではありません。在宅環境でも、これまでと同じ品質で応対できる体制が求められました」と同社の島崎 拓実氏は言う。

株式会社NTTドコモ
情報システム部
経営基盤担当
島崎 拓実氏

 パンデミックが収束した後を見据えても、人口減少が進む中で人材確保は年々難しくなっており、多様な働き方に対応できる運営体制を整えておく必要があった。さらに各拠点に配置してきたオンプレミス環境のシステムは保守コストが高止まりしていた上、拠点の改廃時には、システム構築コストやリードタイムを考慮しなければならず負担が大きかった。加えて応対状況などのデータも各拠点システムに分散してしまい、データ活用を進める上での障壁にもなっていた。こうした問題もALCCのクラウド移行を後押しした。

 この難易度の高いプロジェクトにおいて、パートナーに選んだのがNECである。「2009年に稼働を開始したALCCの開発、改修、運用、すべてのフェーズにおいて、さまざまな判断や工夫を一緒に積み上げてきたのがNECです。ALCCの最も重要な要件は業務を止めないことですが、NECとは、そうした考え方や現場の実情も共有し、共に最適なシステムや運用プロセスをつくりあげてきたという信頼があります」と同社の石山 省吾氏は話す。

株式会社NTTドコモ
情報システム部
経営基盤担当
担当課長
石山 省吾氏

 クラウド移行にあたって、両社は従来のシステム構成や業務プロセスを踏襲した独自開発ではなく、クラウド型エクスペリエンス・オーケストレーション・プラットフォームであるGenesys Cloudを採用し、“Fit to Standard”の考え方に基づいて業務を標準に合わせていく選択をした。

 「Genesys Cloudは、世界中で多くの企業に採用されており、大規模なコンタクトセンター運営における実績も豊富です。また通信事業を中核とするNTTドコモにとって音声品質は、お客様体験の根幹をなす要素です。“どこに出しても恥ずかしくない”音声品質を実現できることが前提でした。そうした要件を満たせたのがGenesys Cloudでした」と石山氏は言う。

並行運用とオペレーター教育を両輪にして無停止の移行を実現

 もっとも約1万席規模のコンタクトセンターを支えるALCCのクラウド移行は決して容易ではない。しかも同社が目指したのは、計画停止を行わない無停止での移行である。システムをスムーズに切り替えるだけでなく、新しいシステムで業務を行うオペレーターへの教育も含めた綿密な計画が求められた。

 システム面では、NECが移行対象やタイミングを細かく整理し、既存環境と新環境を並行して運用できるハイブリッド構成で設計を行った。一方、教育の面ではNTTドコモが中心となって複数の施策を実施。「オペレーターと一緒に操作性や業務プロセスを確認する交流会を企画したり、コミュニティを通じてノウハウを共有したりしながら、現場の理解とGenesys Cloudの早期定着を促しました」と同社の戸崎 友斗氏は言う。

株式会社NTTドコモ
情報システム部
経営基盤担当
戸崎 友斗氏

 重視した音声品質については、NECがネットワークや音声通信の分野で培った知見を活かして対応。「通信事業者として求められる音声品質を実現するために、データセンター内の機器構成や処理を一つひとつ確認し、遅延や品質劣化が生じないかを繰り返し評価して設計に反映しました」とNECの横川 宏行は言う。

NEC
OMCS統括部
プロフェッショナル
横川 宏行

生成AIによる自動応答を見据えた挑戦を開始

 無停止でのクラウド移行により、NTTドコモのコンタクトセンターは大きく進化した。勤務場所に縛られない柔軟な運用が可能となり、拠点新設・改廃時のコストやリードタイムも大幅に削減。さらに以前は各拠点に分散していた応対状況などのデータがGenesys Cloud上に集約されたことで、全体の状況を即座に把握できるようになり、それらのデータを活用した業務変革も進んでいる。

 「Genesys CloudはGUIを通じて柔軟に設定を変更できます。その特徴を活かし、オペレーター画面で表示する情報を調整するなど、業務に合わせた設定変更や機能調整を内製で行っています。従来であれば外部への開発委託を伴っていたような変更も迅速に行え、業務変革のスピードが向上しました」と戸崎氏は語る。

 またアウトバウンドコールの設定も以前に比べて開発期間を70%短縮でき、新規サービスなどの重要な案内も速やかにお客様に連絡できるようになったという。「Genesys Cloudは操作画面がわかりやすく、オペレーターが業務に慣れるまでの期間も短くなりました。状況把握や設定変更のしやすさなども相まってコンタクトセンター全体の対応スピードが向上しています」と島崎氏は言う。

 さらなる業務変革に向け、現在、同社はNECと共に生成AIの活用に向けた取り組みを開始している。「ALCCを完全にクラウド化したことで、ほかのクラウドサービスとの連携が容易になり、新しい技術を柔軟かつ迅速に取り込めるようになりました」と石山氏は話す。

 具体的にはAIによる自動応答を実現するNECのコンタクトセンター向けAIソリューション「NEC Communication Agent」の導入に向けたプロジェクトを開始している。「NEC Communication Agentは、長年、コンタクトセンターシステムを手掛けてきた知見を活かし、応対品質や運用の安定性を重視して設計しています。まずは業務や運用への影響を丁寧に見極めながら段階的に適用範囲を拡大していきます。最終的には生成AIを活用し、さらに柔軟かつ高度な自動応答を実現していきます」とNECの幾島 勉は話す。

NEC
OMCS統括部
ディレクター
幾島 勉

 このようにNTTドコモは、NECと共に約1万席規模のコンタクトセンターを無停止でクラウドへ移行するという難易度の高いプロジェクトを成功させ、次なる顧客体験の創出に向けた歩みを進めている。「NTTドコモとNECという、日本企業同士のタッグだからこそできる挑戦があると思っています。日本発の技術とアイデアで世界を驚かせるような新しいお客様体験を一緒につくっていきたいですね」と齋木氏は最後に語った。