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2021年12月23日

ついに行政ビッグデータの活用が可能に!私たちの生活はどのように変わるのか?

 2021年5月に成立したデジタル社会形成整備法に、個人情報保護法の見直しが盛り込まれた。個々の地方公共団体が定めている個人情報保護条例(いわゆる2000個問題)が解消され(*1)、地方公共団体における個人情報保護法制は、2023 年度から新しい「個人情報保護法」に一本化される。さらに、都道府県と指定都市は「個人情報ファイル簿」 を整理した上で 、「行政機関等匿名加工情報」の民間事業者等への提供を開始しなければならない(*2)。これにより、行政に眠っていたビッグデータの利活用が一気に加速すると期待されている。このデータを利活用することで、今後、どのような社会課題が解決できるようになるのか。また、どのような市場が創出されるのか。データ利活用の可能性、課題や注意点について、データを利活用する企業、データを提供する地方公共団体、そしてプライバシーマーク制度を運用するJIPDECのキーパーソンに話を聞いた。
 ※取材はオンラインで実施しました

 *1 これまで各地方公共団体で個別に制定していた個人情報保護条例については地域問題による若干の条例の上乗せのみ(条例要配慮個人情報等)に限定される

 *2 都道府県と指定都市以外の地方公共団体は個人情報ファイル簿の整理は必須、匿名加工情報の提供は当面の間は経過措置により任意で対応する

匿名加工された個人情報を新たなサービスやビジネスに活用

 ――デジタル改革関連法における個人情報保護法の改正により、行政機関などが持つ個人情報ファイルの一覧を公開し、民間企業などからその活用案を募って提供する制度が開始されます。この制度の意義をどうとらえていらっしゃいますか。

カカクコム 森氏:
 当社は「価格.com」や「食べログ」「スマイティ」といった、さまざまな情報提供サービスを運営しています。これまでは、各種サービスで収集した口コミやレビュー、独自調査のトレンドやマーケットプライスなどからCS(Customer Satisfaction)を分析し、商品やサービスの向上を追求してきました。

 これに対して行政ビッグデータは、各種サービスとは直接的には結びつかないものの、さまざまな地域特性に関する情報が詳細に分析できるため、各地域に必要なビジネスを推察したり、CS分析に関する地域特性からの交絡バイアス(*3)や新しい気づきを発見したりすることに役立つのではないかと考えています。行政ビッグデータの活用で、さまざまな情報連携が進めば、より消費者が利用しやすいメディアになっていく期待感もあります。

株式会社カカクコム
経営管理本部
法務部マネージャー/弁護士
森 正弘氏

 *3 明らかにしたい真の結果を誤らせる要因の種類の1つで、原因と結果を検証する際にその背後に隠れて存在する交絡因子が存在すること

熊本市
健康福祉局 福祉部
健康福祉政策課 主任主事
佐美三 知典氏

熊本市 佐美三氏:
 新型コロナウイルス感染症対策をはじめ、行政、中でも市区町村に求められる役割が近年非常に大きくなっているとともに、デジタル技術も日々進歩していく中で、行政と民間が連携して、社会的な課題に対応していくことが非常に重要となっていると感じています。

 今回の個人情報保護法改正により、遅くとも2023年5月までには、本市も行政機関等匿名加工情報の提供の実施が義務付けられます。制度運用にあたっては、まだ詰めていかなければならない課題が多くありますが、この制度を本市と民間企業の皆様が社会的課題の解決に向けて協働していくよいきっかけにすることができればと考えています。

JIPDEC 奥原氏:
 行政機関等匿名加工情報に関する規律は、プライバシー法制の先進国であるEUなどにもないもので、日本独特の政策に沿った取り組みです。地方公共団体が、その権力性に基づいて収集した情報を活用することになるため、より一層の透明性や説明責任が求められることになります。プライバシーに関するレピュテーションリスク(評価・評判・信頼・ブランドなどが棄損すること)は、違法ではない部分で発生することも多く、対応が難しい面があります。一方、レピュテーションリスクを懸念するあまり、データの提供や利活用の推進にブレーキがかかってしまうと、せっかくの制度も意味をなさないものになってしまいます。

 匿名加工情報は、適切にデータ加工を施し、適切な使い方をすれば、社会課題の解決や消費者の利便性向上などに役立つ多くの可能性を秘めています。リスクに対する懸念を払しょくすること、社会に役立つインフラ整備の一環という視点も持ちながら支援を行っていくことが、当協会の役割であると考えています。

一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)
認定個人情報保護団体事務局 グループリーダ
奥原 早苗氏
NEC
デジタル・ガバメント推進本部
シニアエキスパート
岩田 孝一

NEC 岩田:
 民間企業の立場として、今回の制度には大きな期待感を持っています。膨大な項目を擁する行政データを活用し、さまざまな主体が積極的に分析を行うことで、相乗効果も合わせ、新しいビジネスやサービスが生まれてくるはずです。近年は、高性能で環境にも配慮した次世代パワー半導体や量子コンピュータなどのような、ビッグデータ処理に適した技術や製品が出てきていますので、今まで以上に産業活性化が進んでいくと思います

企業と地域社会の双方にメリットを還元

 ――今後、どのような行政サービスや民間企業のビジネスが可能になるのでしょうか。一般論として想定されるユースケース、現在検討しているサービスやビジネスのアイデアがあればお話しいただけますか。

森氏:
 行政ビッグデータの利活用で、まず考えられるのはエリアマーケティングではないかと思います。対象地域に特化した商品やサービスを提供することにより、効率よく売上・利益を確保していく上では、そのエリアに住む顧客の属性やニーズ、生活様式などを掴むことが重要だからです。

カカクコム 鬼鞍氏:
 エリアマーケティングでのデータ活用は、企業だけでなく地域の方々にもメリットを還元できます。例えば、コロナ禍を契機に首都圏から地方への住み替え需要が高まっています。行政データを活用して、今後これだけ住民が増える、購買需要が高まるといったデータを示すことができれば、これまで少子高齢化や過疎化でスーパーマーケットなどの出店がなかった地域にも、新たな店舗の出店や移動販売ビジネスの実施などを検討することができます。この様に、データを活用することで、その時々の状況に合わせたサービスを、地方公共団体とも協力しながら展開できると思います。こうした取り組みが広がることで、これまで買い物難民として困っていた人が救われるなど、地域の課題解決にもつながると思います。

株式会社カカクコム
経営管理本部
法務部 個人情報保護室室長
鬼鞍 奈美氏

佐美三氏:
 民間の知見を借りて新たな事業を共創していくことには非常に価値があると考えています。私が熊本市で担当している健康増進・介護予防の事業でも、行政だけでは思いつかない民間ならではの視点やアイデアを加えたサービス改善が不可欠です。例えば、スマホアプリなどを通じて、熊本市の住民の特性を踏まえた健康コラムや、一人ひとりの興味に合わせた運動のアドバイスなどを民間企業から発信していただければ、より多くの市民が健康づくりに向けたモチベーションを高めることができると思います。

奥原氏:
 佐美三さんがおっしゃったように、地方公共団体が今後、最適なコストで最大効果を上げる住民サービスを考える上では、民間と一緒に行政ビッグデータを活用しながら、施策やサービスを提供していくことがますます重要になっていくでしょう。地方公共団体のデータは、種類も数も桁違いに多いので、行政計画の高度化ニーズに対応し、より一層の利活用が見込まれると思います。

岩田:
 匿名加工情報は、個人データの有用性を高いレベルで維持しながら、個人の権利利益を守ることができるデータです。個人データの有用性が消去されたオープンデータとは異なり、アドホック分析やダッシュボードによる見える化などで意思決定に活用したり、ディープラーニングでAIタスクを生成して、そのAIタスクを活用したアウトリーチ型サービスを提供するなど、マーケティングから新サービスの創出まで幅広く利用できます。

 NECでは、官民共同でデータ活用市場の新たな可能性を発掘するための「パーソナルデータ活用研究会」を主催しています。この座談会にご参加いただいている皆様も、その研究会のメンバーの方々ですが、いま挙げられたアイデアなども参考に、今後は行政ビッグデータを活用した、より実証的なサービスを検討していくつもりです。

プライバシーリスクへの不安や懸念の解消も急務に

 ――そうした新たなデータ活用の取り組みの効果を最大化するために、行政と民間企業は今からどのような準備を行うべきなのでしょうか。また、行政ビッグデータの活用に伴うリスクや課題に対しては、どのような対応策が必要になるとお考えでしょうか。

鬼鞍氏:
 行政ビッグデータ活用を進展させるためには、事業者の立場として乗り越えなければいけない壁が2つあります。1つ目は、公開される個人情報ファイルの一覧のデータ項目や意味合い、値などが、地方公共団体によってかなり異なるため、どのデータがどんなビジネスに結びつくのかが非常に分かりにくいことです。今後これが標準化・規格化されていけば、より検討のスピードや精度が高まり、多くの企業が参入しやすくなると思います。

 2つ目の壁は、事業者が行政からデータを入手するための提案書です。現状は、個人情報ファイルの一覧の記載からデータの中身を推察して提案書を書かなければならないため、かなり高度なスキルやテクニックが必要になります。求めるデータを確実に入手するための提案書の書き方やノウハウを、各企業はしっかりと蓄積していかなければなりません。

佐美三氏:
 まずは行政と民間で信頼関係をつくることが大事だと思います。これに加え、匿名加工してあるとはいえ、データを外部に出すことについては住民の方々の理解を得なければいけません。例えば、「コンプライアンスがしっかりとした企業、セキュリティに配慮した企業と一緒にやっていくから安心です」ということを明確に示すことも大事ですし、行政が主体となって「ビッグデータ分析によって地域振興、産業振興にこれだけ役立つんだ」というメッセージを発信し、住民のコンセンサスを高めていくことも大切です。

 熊本市でも、将来にわたって快適で利便性の高いまちづくりを実現するため、産学官連携の「スマートシティくまもと推進官民連携協議会」を立ち上げており、市長自らが熊本市内の企業・大学に、データ活用などの重要性をお伝えしているところです。

奥原氏:
 行政ビッグデータの活用を、より効率的に行う観点では、データを利活用する企業が簡便に地方公共団体のデータにアクセスできる環境整備についてと、企業が行政ビッグデータを入手する際に発生する手数料に直結する地方公共団体の事務負担の軽減について、共通的に検討を進めるべきだと思います。

 また地方公共団体は、ビッグデータの活用促進と両輪で、セキュリティ強化も行っていく必要があります。2020年12月に総務省から、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和2年12月版)」が改定版として公表されました。当協会ではセキュリティポリシーに関する外部監査などの支援も行っているので、ぜひご活用いただきたいですね。

 一方、民間では業界ごとに取り扱うデータが異なります。また、利用の仕方などもさまざまであるため、業界団体の自主基準や自主ルールがつくられてきた経緯がありますので、今後は業界ごとのユースケースをつくり、データ活用がしやすい環境を整備していくことが必要です。

 そして一般の個人消費者は、こうした行政ビッグデータ活用にかかわる動向を知らないケースが多いので、データを使われることに不快感を持ったり、過剰な反応を示してしまったりすることがあります。そういった懸念を解消するための説明や普及・啓発についても、行政と民間双方で時に協力し合い、消費者の利益にどのように直結するのかといった説明責任を果たしていくことが大切です。

岩田:
 例えば、マーケティングで使われるSNS分析では、フェイクデータなどが混じる可能性があり、AIが誤った判断をしてしまうケースが少なくありません。それに対して、行政機関等匿名加工情報は、データ属性が多岐に渡り、常に更新され続けていること、純度が高くバイアスも少ないことなどから、フラットなデータ分析に非常に適しています。

 多様なサービスや商品があふれる現代では、行政も民間も、より精度の高い判断材料が得られる行政データの活用を進めていく必要があります。そのためにNECとしては、匿名加工、データ分析、AIといった技術をさらに磨き上げ、行政と民間双方にビッグデータ活用に貢献する技術開発やソリューションの提供を行っていくつもりです。

官民一体でデジタル社会を進展させていく

 ――最後に、今後の新たな行政ビッグデータの活用・促進に向け、どのような取り組みや挑戦をされていくのかについてお聞かせください。

森氏:
 行政ビッグデータには、個人に関する世帯や不動産・動産、所得・収支、健康・医療・介護・保育など、ほとんどの情報が揃っています。これらが匿名化された情報を正しく有効に活用することは、事業戦略立案やマーケティングの質を高め、より魅力あるサービス開発につながります。そうしたデータ活用の有用性が消費者の方々にも正しく理解され、安全・安心も担保できるよう、企業内での法的なバックアップをしっかり進めていきたいと思います。

佐美三氏:
 熊本市では2022年度に、市が保有する医療介護のビッグデータ分析を実施する予定です。まずはこのプロジェクトで一定の効果を上げるとともに、「スマートシティくまもと推進官民連携協議会」などでの議論を通して、より効果的な官民連携のあり方についても探っていきたいと思います。

奥原氏:
 JIPDECでは官民学の有識者の方々を講師にお迎えした研究会などを実施して、行政ビッグデータ活用にかかわる、さまざまなユースケースを検討・検証する取り組みも行っています。今後は、事業者・団体の皆様から寄せられたご相談への回答とも合わせ、行政ビッグデータを活用することでどんなことができるのか、どのようなリスクに備えなければならないのかという情報を広く発信していきたいと思います。

岩田:
 少子高齢化が進み、歳入が減少する中、地方公共団体では住民サービスや公共インフラを持続するために、歳出削減の観点がより重要になります。行政だけではなく地域住民や多様な主体が参画した「地域共生社会」の確立が急務となる中、NECはデータ分析による地域課題の解決策の共有を進めるため、データ生成から抽出・編集・加工・分析・機械学習・消去に至るまでの幅広いデータソリューションを提供していきたいと思います。

 ――皆様、本日は貴重なご意見をありがとうございました。

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