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2022年03月09日

脱炭素化に残された時間はあとわずか!?
持続可能なサプライチェーンの実現に向け、今、打つべき一手とは?

 現在の企業経営では持続可能なサプライチェーンの構築が何よりも重要な課題となっている。中でも欠かせないファクターとなるのが地球温暖化の主な要因とされるCO2の排出抑制だ。サステナビリティ経営で求められる、環境や社会に配慮した持続可能なサプライチェーンをどのように構築すべきか。その課題と具体的な取り組みを、製造(花王)、物流(NXグループ/旧日本通運グループ)、ICT(NEC)の視点から、各社のキーパーソンが徹底的に議論した。

サステナブルな物流改革に向けたアプローチ

NXグループ(以下NX) 大辻氏:
 物流業は、ある意味「アンサステナブル」な業界で、自然災害やパンデミックの影響を受けやすい脆弱性を持っています。台風や地震、コロナ禍でサプライチェーンが寸断されると、下流に大きな影響が出てしまうのです。また、モーダルシフトでトラックから鉄道へと移行しても、日本では台風災害などで鉄道が寸断されるケースが多く、「環境対応」か「BCP」かの選択を迫られます。とはいえCO2削減はこれからのグローバルサプライチェーンにおける至上命題ですので、我々NXグループは環境問題への対応を中心に、長期的視野に立ったサステナブル経営を重要なテーマに掲げています。

花王 山下氏:
 当社は、原材料の調達から生産、販売、物流、包装容器のリサイクル・廃棄まで、すべてがエコにつながるモノづくりに取り組んでいます。その中でも、私が担当している物流では、物流ルートの改善、安全で環境負荷の少ない輸送手段の選択などを通じたモーダルシフトに加え、ドライバー不足への対応、より働きやすい環境づくりに向けたホワイト物流にも取り組んでいます。自社だけの活動では限界があるため、同じくホワイト物流を推進している企業と、いかにサステナブルな物流を実現していくかが喫緊のテーマだと考えています。

NIPPON EXPRESSホールディングス(日本通運株式会社)
執行役員 グローバル営業統括部担当 兼 グローバル営業統括部長
兼 日本通運株式会社執行役員
大辻 智氏

NEC 清水:
 NECは製造業とICT企業という2つの顔を持っています。製造業としては、自らのサプライチェーンやバリューチェーンをいかにサステナブルなものにしていくか。ICT企業としては、その持てる知見やノウハウを活かし、お客様のCO2見える化や削減を支援するパートナーとしてDXに貢献していくことを重要なミッションに据えています。

脱炭素社会ではScope3でのCO2削減が不可欠

NX 大辻氏:
 製造、物流、ICTと、各社それぞれがサステナブル経営に向けた取り組みを行っていますが、やはり個別にやっていても限界がある。温室効果ガス算定範囲でいうと、Scope1と2は各企業がやっていますが、実は一番難しいのが、原料調達から生産、販売、廃棄までの間接排出であるScope3です。とはいえ、国内で中小含め5万から6万社あるといわれる物流企業の全CO2を把握して削減するのは非常にハードルが高い。そこでNXグループだけでなく業界全体、そしてお客様のサプライチェーン全体のCO2削減に貢献するために、全体のCO2排出量を算定し、効果的に削減できるソリューションがつくれないかと、NECと一緒に考えているところです。

NEC 清水:
 カーボンニュートラルを実現するには、物流企業だけでなく、異業種の方たちとも連携しながら全体最適のサプライチェーンをつくっていくことが必要です。お互いに知恵を出し合うことが大切だという共通の思いが、年々高まっていることを感じています。

花王 山下氏:
 サプライチェーンにおけるCO2削減では、さまざまな企業との協業が欠かせません。その一環として2020年10月から、花王は競合でもあるライオンと、サプライチェーン全体の最適化に向けた共同輸送を開始しました。これは花王の神奈川県にある工場から香川県の流通センターへの輸送と、ライオンの香川県にある工場から関東にある各流通センターへの輸送を結合して往復輸送とすることで、トラック輸送の生産性向上とCO2排出の削減を目指すものです。
 こうした取り組みは従来からも実践してきましたが、やはりスピード感を持っておこなうにはESG視点での物流プラットフォームを構築し、多くの企業を巻き込んでいくことが重要になると考えています。競合企業が参加するだけに、“総論賛成・各論反対”が起こるのは重々承知していますが、少しでもいい方向に向かうように議論し、具体的なアウトプットを出していくことが必要になるでしょう。

花王株式会社
SCM部門ロジスティクスセンター センター長
山下 太氏

物流プラットフォーム実現の第一歩はシナリオづくり

NEC
執行役員 兼 CSCO 兼 サステナビリティ推進本部長
清水 茂樹

NEC 清水:
 多くの企業が参集する物流プラットフォームを実現するには、まずシナリオづくりが重要と考えています。当社でも、自然災害やパンデミックに向けたBCPでは、当初想定していなかった問題がいくつも起き、そのたびに学習・改善する作業を積み重ねてきました。多くの企業が参加するプラットフォームならなおさらのこと、あらゆる状況、あらゆる可能性を想定した物流プランや対処法を議論して、調整していくことが必要です。
 また仮説だけでは不十分ですので、各社から輸送量や商品の形状、ルートなどの実データを取らせていただき、AIなどで分析しながら、各シナリオの実現性を検証し、基本的な合意のもとに進めていくことも大事ではないでしょうか。

ディスカッションは一部リモートでおこなわれた

NX 大辻氏:
 仲間を増やしていくためには、信頼関係の醸成も重要なポイントになります。参加する企業の中で「ウチは得する、損をする」という意識だけが先行していては、決して長続きしません。そのプラットフォームを使うことで各社のコストが削減できる、CO2を削減して環境保護に貢献できる、災害が起きてもきちんと助け合えるということを、全員が理解し合える関係になってこそ、初めてサステナブルな仕組みになり得るのです。
 例えば当社では3PLを進化させ、物流も含めたお客様のサプライチェーンを全体最適化するLLP(Lead Logistics Provider)を提案していますが、「NXグループだけが儲かる仕組みではないのか?」と、その真意をなかなか理解していただけないケースが多々あります。何とかしてそうした誤解を乗り越えるアプローチを見出し、信頼関係を築き上げることが大事だと、常々考えています。

花王 山下氏:
 同感ですね。当社も2019年から顧客や物流会社と協力しながらホワイト物流を推進してきましたが、その過程でコロナ禍に遭い、国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保することの必要性がようやく理解されてきたと実感しています。新たな物流プラットフォームも、さまざまな企業とつくる意義や目的を理解し合い、効果をきちんと検証することで実現性が高まっていくのではないでしょうか。

サプライチェーン全体の見える化がカギに

NEC 清水:
 物流プラットフォームの効果を検証するためには、データによってサプライチェーン全体をエンド・ツー・エンドで見える化する仕組みが必要となります。CO2の見える化自体は、既にNECもソリューションとして提供していますが、対象をScope3まで広げていくことが現在の大きなテーマです。
 サプライチェーン全体のデータをCO2排出量も含めてダッシュボードで一元的に把握できれば、物流コストとCO2削減の最適解をリアルタイムにシミュレーションし、実践できます。サステナブルなサプライチェーンの実現には、このような世界観が必要だと考え、AIやデータアナリティクスを活用したトータルソリューションの開発を検討しているところです。

花王 山下氏:
 最近注目されているインターナル・カーボンプライシング(ICP)という考え方があります。組織が独自に自社のCO2排出量に価格をつけ、コスト換算することで企業活動を意図的に低炭素化していくというものです。例えば積載率を上げるために他社と共同配送すると、今まで自社で運んでいたときよりコストが高くなることがあります。ただしCO2は削減されるという場合、コストを取るのかCO2削減をとるのかというジレンマが出てきます。
また脱炭素化に向けてEVやxEVを使えば、当然コストもかかるし投資も増える。再生プラスチック容器を使った環境配慮型製品も出していますが、そこでかかる静脈物流のコストを製品価格に反映するまでには至っていません。各社それぞれICPの金額も違いますし、いろいろな考え方があると思いますが、花王では目先のコストだけに縛られず、ICPを考慮に入れた社内ルールを決め、CO2削減を促進していく方向に持っていかないといけないのではないかという議論になっています。

NX 大辻氏:
 ステークホルダーは業績でROEを見ますが、今後CO2削減を評価軸に据えるのはどうか、株価に連動させられないかという話も出てくるでしょう。例えばスーパーに並ぶ花王の製品を“これはEVで運んだものです。リサイクル容器の物流コストもかかっているので、少し価格は高いですが買ってください”とは、消費者になかなか説明しにくいのが現状です。それらの部分をICPできちんとトレースし、ライフサイクルまで追跡することができれば、物流のCO2削減が一歩先へ進む可能性が出てくるのではないでしょうか。

花王 山下氏:
 当社が考えている物流プラットフォームでは、原材料や商品を多くの荷主とマッチングさせて積載率を最大化する動脈物流だけではなく、容器の水平リサイクルや、パレット・搬送容器なども含めてリターナブルで回す静脈物流もトータルに見渡すことが重要だと考えています。AIやデータアナリティクスをフルに活用して最適解を出していくという、先ほど清水さんがお話しされたソリューションに近いイメージです。

物流事業者には大胆な発想の転換が必要

NX 大辻氏:
 物流プラットフォームの枠組みをつくる際には、そこに参加する物流事業者が、これまでの発想を大きく転換しなければならない局面が出てくるでしょう。例えばNXグループではビール大手会社と共同輸送事業の一環で、今までトラックで運んでいたものを鉄道に切り替えるモーダルシフトにも取り組んでいます。するとトラック部門の売り上げは減って、鉄道部門の売り上げが上がる結果となります。NXグループ全体ではお客様への提供価値が上がったということで、よしとしています。そういう切り替えをしていかないと物流プラットフォームでの協業は難しくなる。サプライチェーン全体の最適化には、そうした発想の転換がカギになると考えています。

NEC 清水:
 企業の構造的な問題がどうしても絡んできますね。物流事業者も多層構造だし、我々ICT企業も現場によっては多層構造が当たり前になっている。そういう構図の中で各社が競争しながらやってきたことが、プラットフォームで協業する際に、大きなハードルとなってしまう。そこをいかに打開するかも考えなければなりません。

NX 大辻氏:
 このビジネスを成功させるための座組を考えると、製造、物流、ICTだけではなく、リサイクルやSDGsに注力している自治体・国なども巻き込んで広く議論することも必要だと思います。そしてスモールサクセスでもいいので、何か1つ具体的な成果を上げていけば、座組の中に次の登場人物を増やすトリガーになるのではないでしょうか。

NEC 清水:
 モデルケースの1つとして、NXグループは医薬品業界の配送プラットフォームをつくっていますね。

NX 大辻氏:
 産業別に進めているプラットフォーム戦略の第一弾として、医薬品業界向けのデジタルプラットフォームを構築しました。医薬品業界ではGDP(医薬品の適正流通基準)への対応による品質保持、中でもトレーサビリティの確保による温度管理と偽薬混入の防止が業界共通の課題となっています。そこで製品にセンサータグを装着して輸送過程での温度監視をおこなうとともに、医薬品メーカーや卸、医療機関、物流企業など、プラットフォームを構成するすべての関係者がブロックチェーン技術を採用したクラウドで、セキュリティを確保しながら受発注などの情報共有が行える仕組みにしています。

花王 山下氏:
 非常に興味深いモデルですね。そういったプラットフォームを物流事業者が主導して構築すれば、荷主ごとの商品の違いなどはあるにせよ、我々メーカーとしては参加しやすいと思います。

NEC 清水:
 NXグループで進めているプラットフォーム戦略は、汎用的なベースをつくり、運ぶモノの特色に合わせてカスタマイズしていくようなイメージでしょうか。

NX 大辻氏:
 おっしゃるとおりです。汎用的でオープンなプラットフォームをベースに、産業あるいはビジネスごとに、さまざまなパターンをつくっていくことを想定しています。

目標達成に向けて、残された時間はわずか

花王 山下氏:
 メーカーとして、サステナブルなサプライチェーンを実現するには脱炭素社会に向けた取り組みが不可欠だと認識しています。国は2030年に向けた温室効果ガスの削減目標を掲げていますが、実際に活動できる時間はほとんどありません。本当に将来を見据え、皆が共通認識を持った上でバックキャストしていくことを考えないと革新的な物流は実現できないでしょう。できるだけ多くの皆さんと一緒に、理想的な物流プラットフォームの構築を急ピッチで進めていきたいと思います。

NEC 清水:
 物流現場の方々や実務者からすれば、CO2削減は非常に負担が大きく、目標としても厳しい内容であることは確かです。しかしこれは決してリスクではなく、産業界や日本の社会が新しいステージに進む非常に大きなチャンスです。物流プラットフォームの実現に向け、NECも最大限の努力と貢献をおこなうつもりです。

NX 大辻氏:
 さまざまなご意見を頂戴し、私自身も一歩先へ進むための気力が沸いてきました。今後、さらに具体的な方向性を見出す議論を展開していきたいと思います。

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