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脱炭素とは?企業に期待される対応や最新動向を紹介

 近年、温室効果ガスの増加による地球温暖化が深刻さを増しています。それに伴い、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」といった言葉を頻繁に耳にするようになりました。ここでは、脱炭素などの用語を改めて解説するとともに、脱炭素社会を目指すべき理由や、脱炭素社会に向けた国内外の最新動向、企業に期待されるポイントなどを紹介します。

脱炭素とは?

 「脱炭素」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量の“実質”ゼロを目指すことを意味します。ここでいう「実質ゼロ」とはカーボンニュートラルの概念と同じであり、環境省によると「カーボンニュートラル」の定義としては、二酸化炭素などをはじめとする温室効果ガスの排出量から、木々などに吸収された値を引いた合計がゼロになった状態を指します。

出典:カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省別ウィンドウで開きます

今、脱炭素が重要視される理由

 近年、世界各地で巨大台風や洪水、豪雨による土石流、大規模な山火事などの自然災害が頻発し、甚大な被害をもたらしています。その主たる原因が地球温暖化による気候変動とされています。

 実際、世界の年平均気温は、産業革命(18世紀後半)以前と比べると1℃以上も上昇しています。年々上昇幅も増している中で、この勢いがこのまま続けば、2100年には、現在よりも約5℃も上昇すると予想されています。さらに大規模な自然災害が発生するほか、生態系の変化、環境破壊が加速していくことになるでしょう。また、マラリアなどの熱帯感染症の拡大や、世界的な食糧不足も危惧されています。北極や南極などの永久凍土が融けることで、海面上昇による陸地の消失や、新たな病原菌の発生なども予想されます。地球、そして人類にとって、持続可能な未来のためには、気候変動対策がまったなしの状況なのです。

 企業においても持続的な成長のためには気候変動への対応を経営戦略に織り込む必要があり、投資家や金融界からは環境関連の情報開示が求められるようになっています。

 気候変動の主たる原因である地球温暖化は、なぜ起こっているのでしょうか。その最大の要因が、温室効果ガスです。

 気象庁によると、温室効果ガスとは大気を構成している成分の内、温室効果をもたらすものと定義されています。その主な種類は、二酸化炭素、一酸化炭素、フロン類、メタンなどが挙げられます。温室効果ガスの排出量で最も多いのは二酸化炭素です。そのため二酸化炭素の排出量を削減することが、気候変動対策に最も有効な手段とされています。

出典:気象庁 | 温室効果ガスの用語解説別ウィンドウで開きます

脱炭素が注目されるようになった「京都議定書」

 1997年、「第3回 国連気候変動枠組条約締約国会議(COP3)」が開催され、「京都議定書」が採択されました。これは、地球温暖化防止に関する施策を義務化したものです。COP3に参加したすべての先進国が、6種類の温室効果ガスの排出量を、2012年までに少なくとも1990年比で5%削減することが義務付けられました。

 さらに、2015年には、京都議定書の後継となる「パリ協定」が「第21回 国連気候変動枠組条約国会議(COP21)」で合意されました。COP3とは異なり、国連気候変動枠組条約に加盟する196カ国すべてが参加する史上初の枠組みとなりました。

 パリ協定では、産業革命以後の世界の平均気温上昇を2℃以下に抑えることを目標に、可能な限り1.5℃以下に抑える努力をするよう定められました。そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとること(すなわち、温室効果ガスの発生を実質ゼロにすること)が世界共通の長期目標として掲げられました。

 日本は、パリ協定が定める長期目標を受け、2020年10月、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、所信表明演説において、「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。そして、2021年10月、2050年カーボンニュートラルに向けた基本的な考え方を示す「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、国連に提出したのです。

「カーボンニュートラル」とその他関連用語について

 現代社会において、二酸化炭素の排出量を完全にゼロにするのは、並大抵のことではありません。そこで、森林の保全や植林活動を行い、植物による二酸化炭素の吸収量を増やすことなどで、二酸化炭素の排出量と吸収量をトータルして、プラスマイナスゼロの状態にしようというのが、「カーボンニュートラル」の取り組みです。

 さらに、最近は、「カーボンオフセット」という言葉も耳にします。カーボンオフセットとは、削減できなかった二酸化炭素の排出量を、自社以外での環境保護活動や他社の削減量の購入などで埋め合わせる(=オフセットする)ことで、間接的に実質ゼロを目指すものです。

 脱炭素に取り組んでいる他の企業や団体の二酸化炭素削減量をカーボンオフセットのために購入するには、「クレジット」として購入します。「排出量取引制度」の下、企業ごとに、二酸化炭素排出量の上限を決めておき、限度を超えた企業と、限度を下回る企業間との間で、排出枠をクレジットとして売買します。地球温暖化防止に貢献している企業や団体に資金を提供することで、間接的に実質ゼロにしようというわけです。クレジットには、森林保全事業や、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など自然由来のエネルギー)事業、熱帯雨林地域の整備事業などがあります。

 クレジット取引を行う際、二酸化炭素の価値に価格をつけることを「カーボンプライシング」といいます。日本政府によるカーボンプライシングとしては、二酸化炭素排出量に応じた「地球温暖化対策のための税(温対税)」の課税があります。

脱炭素社会に向けた世界の動向

 2050年までにカーボンニュートラルを表明している国は日本を含め144の国と地域に及んでいます(2021年11月現在)。全世界の二酸化炭素の総排出量でトップを占めるのは中国の28.4%、次いで、アメリカの14.7%となっています。一方、日本は狭い島国にもかかわらず、6位の3.2%を占めています(2018年)。

 世界最大の排出国である中国は、2020年9月、習近平国家主席が、国内の二酸化炭素排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指すことを表明しました。

 産業界における国際的な取り組みの1つとして、「RE100(=Renewable Energy 100%)」があります。これは、企業が自らの事業の使用電力を「100%再生可能エネルギー」で賄うことを目指すというものです。RE100には、日本を含む世界各国からさまざまな分野の企業が参画し、2050年までに再生可能エネルギー使用に完全に移行することを表明しています。

 また、企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定の1つには、SBT(Science Based Targets)があります。和訳としては、「科学的根拠に基づいた目標設定」とされるもので、パリ協定の目標に整合するよう、5〜15年の長期目標を設定するものです。日本ではSBT参加企業として164社が認定され、アメリカ、イギリスについで世界第3位の国別認定企業数となっています。(2022年3月17日現在、環境省調べ)

日本政府が推進する脱炭素に向けた取り組み

 京都議定書の採択以来、温室効果ガスの排出量削減に取り組んできた日本でしたが、2011年3月の東日本大震災に伴い、火力発電量が増加したため、2013年度には過去最多の温室効果ガス排出量14億トンを記録しました。直近の2019年度には12.1億トンにまで削減しています。

 「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けてはさらなる努力が必要です。そこで、2020年10月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(通称「グリーン成長戦略」)が策定されました。これは、脱炭素化を成長の制約ではなく、成長の機会としていこうというものです。

 グリーン成長戦略では、特に温室効果ガス削減に努めてほしい14種類の産業に対する具体的な実行計画が策定されました。14種類の産業は「エネルギー関連産業・輸送」「製造関連産業・家庭」「オフィス関連」の大きく3つに分けられます。日本政府は、これらの産業を後押しすることで、企業によるイノベーション創出に期待しています。

 また、2021年10月には、「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。これは「地球温暖化対策推進法」に基づく政府の総合計画で、前回の2016年5月の閣議決定以来5年ぶりの改訂です。この計画では、2030年度の新たな目標達成のための対策や施策、実現への道筋を記述しています。

 さらに、地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組むために、2021年6月、環境省が「地域脱炭素ロードマップ(行程表)」を作成しました。2030年までに、モデルケースとなる全国100カ所の脱炭素先行地域を定める計画です。脱炭素社会に向けた取り組みや意識が全国に伝播する様子を、「脱炭素ドミノ」と呼んでいます。

脱炭素社会に向け期待されるイノベーション

 期待されるイノベーションとしては、「ゼロエミッション燃料」や「カーボンリサイクル」が挙げられます。ゼロエミッション燃料とは、燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアのことで、現在、燃料電池車や家庭用燃料電池への導入など、利活用が推進されています。

 水素は水の電気分解により二酸化炭素を排出することなく製造できますが、製造コストの面から、当面は天然ガスからの製造が有力です。その製造過程で排出される二酸化炭素は分離・回収し、地下深部に埋めること(=貯留)や再利用することが考えられています。

 天然ガス処理プラントや火力発電所で排出される二酸化炭素を分離・回収し、地下深くに安定的に貯留することを「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」、さらに、二酸化炭素を分離・回収し、利用もしくは貯留することを「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」といいます。現在、日本政府は、ゼロエミッション燃料の供給体制を構築するため、CCSやCCUSに関連する事業を担う企業への支援を進めています。

 CCUSなどにより回収した二酸化炭素をリサイクルする「カーボンリサイクル」は、カーボンニュートラル実現の鍵を握る技術の1つとされており、「人工光合成」などさまざまなイノベーションが期待されています。

企業に期待される「サプライチェーン排出量」の抑制

 企業においては、「サプライチェーン排出量」への対応が特に重要です。これは、事業者自身の排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した温室効果ガス排出量のことです。つまり、原材料調達から製造、物流、販売、廃棄までの全体において発生する温室効果ガス排出量のことをいいます。

 サプライチェーン排出量を算定するメリットは主に3点あります。1点目は、サプライチェーン排出量の全体像を把握することで、優先的に削減すべき対象を特定できること。2点目は、他事業者と連携して排出量の削減に向けた活動ができること。そして、3点目は、情報開示をすることで、環境対応企業としての企業価値を明確化できることです。

サプライチェーン排出量の算定方法
環境省「サプライチェーン排出量とは」より作成

再生可能エネルギーのバランスをとる「需給調整市場」とNECの取り組み

 脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーによる発電設備と蓄電設備の普及、利用拡大も進められています。しかし、再生可能エネルギーは発電量の変動が大きく、需給バランスの維持が課題です。そこで、2021年4月には、電力供給区域の周波数制御・需給バランス調整を行うために必要となる調整力を取引する「需給調整市場」が創設されました。

 従来、再生可能エネルギーによる発電量は、火力発電により調整していましたが、需給調整市場では、企業などが保有するエネルギーリソースを最適に制御することにより発電量を調整する「仮想発電所」(VPP)の活用が期待されています。VPPとは、ビル・工場・大型商業施設等に導入されている発電機、コジェネレーションシステム、業務用・家庭用の太陽光発電や蓄電システムなど分散するエネルギーリソースをICTで統合制御し、1つの発電設備のように機能させる仕組みです。

 NECは、経済産業省の助成事業「VPP構築実証事業」に2016年から参画するなどして蓄積してきた調整力取引に関するノウハウを生かし、需給調整市場にリソースアグリゲーター(RA事業者)として参入。2021年10月から、AIやIoTを用いたリソースアグリゲーション事業を展開しています。また、需給調整市場に参画する他のRA事業者向けに、分散するエネルギーリソースを統合制御する「NEC Energy Resource Aggregationクラウドサービス」(2019年サービス開始)を提供しています。

NECのリソースアグリゲーション事業のイメージ
NECのリソースアグリゲーション事業のイメージ

 NECでは、自社の事業活動からの温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、リソースアグリゲーション事業のほか、SBT 1.5℃の認定取得、RE100への加盟など、自社の取り組みを進めています。