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2022年05月20日

「着眼大局、着手小局」で脱炭素化へ
~新たな物流プラットフォームが描く、「脱炭素」と「コスト最適化」の両立~

 持続可能なサプライチェーンを構築するには、Scope1、2(自社全体のCO2排出量)のみならず、Scope3(自社をのぞくサプライチェーン全体からのCO2排出量)の脱炭素化が重要なカギとなる。当然それは1社だけの取り組みでは実現できない。まずはサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化し、全体最適で削減する企業間データ連携プラットフォームが必要となる。それでは、実現に向けてどのような共創を進めていけばよいのか。立ちはだかる課題と具体的な解決策について、製造(花王)、物流(NXグループ/旧日本通運グループ)、ICT(NEC)の視点から、各社のキーパーソンが議論を行った。

実際の取り組みから見えてきた脱炭素化の課題とポイント

NXグループ(以下NX) 大辻氏:
 私たちの議論も重ねて参りましたが、サプライチェーンにおける脱炭素化に向けて、改めて3社の課題感や成功につながるポイントを整理、共有してみたいと思います。まずは花王の山下さんから現状の課題を提示していただいてよろしいでしょうか。

NIPPON EXPRESSホールディングス(日本通運株式会社)
執行役員 グローバル営業統括部担当 兼 グローバル営業統括部長
兼 日本通運株式会社執行役員
大辻 智氏

花王 山下氏:
 当社では、工場から物流拠点までの「幹線輸送」、物流拠点からお客様までの「配送」という2つのロジスティクスを管理しています。

 長距離中心の「幹線輸送」では、往復輸送による実車率(全走行距離に対し、実際に貨物を載せた距離の割合)向上がCO2削減のポイントとなります。しかし共同輸送できるルートを見つける作業負荷が大きく、日常業務ではコントロールが難しい。そこで複数社が合意できる特別な「場」が必要になります。当社は内閣府の戦略的イノベーションプログラム(SIP)「スマート物流サービス」に参加することで、ライオンとの往復輸送を実現しました。しかしルート限定での共同化のため、生産拠点や出荷先、出荷量などの条件が変化すると、将来的な継続が困難になるのではという課題も抱えています。

 もう1つの「配送」は、共同配送による積載率(最大積載量に対して実際に積載した量の割合)向上がポイントとなります。納品条件が強い制約となるので、同じお客様を持つ卸売業との共同配送が中心で、積載率の低い地方での実施に偏っています。また、現状の委託先が中小の運送会社が多く、保有車両サイズや台数の制約を受けたり、委託先変更による経営状況への配慮が必要になる場合もあります。

 つまり往復輸送や共同配送を行うにしても、個社間での共同化ではどうしても広がりに限界がある。やはり多数の荷主が参画できる「場」としてのデジタルプラットフォームと、需給マッチングを行うデータベースが必須になってきます。既に中小事業者向けのサービスは出始めていますが、大手の事業者間でもこうした流れを実現していく必要があります。

花王株式会社
SCM部門ロジスティクスセンター センター長
山下 太氏

NX 大辻氏:
 いま提示された課題感は、当社も全く同じです。共同配送や往復実車率を上げるための物流ターミナルのあり方や荷主と物流企業のすり合わせ、Scope3の可視化、モーダルシフトの活用、費用の透明性など、さまざまな議論を行っていく必要があります。

 当社グループも、複数のお客様間で共同配送の取り組みを行ってきました。成功事例もありますが、失敗例も少なくありません。例えば、複数の建材メーカーの間で共同配送を行うトライアルでは、どのメーカーがどのお客様にどれくらい納めているかという情報開示に想像以上の抵抗がありました。各社で仕分け・検品用のシステムが異なっているため、ドライバーがハンディターミナルを各社ごとに用意しなければならないという問題も発生しました。また共同配送では同じタイミングで出荷・納品となりますが、これまでの商習慣を変えられないというケースもありました。輸送効率を上げたいという共通認識はあるものの、乗り越えられないネックがあるのも現実です。

 もう1つ、需給マッチングのお話が出ました。我々もグループ内で2000を超える作業レーンのデータがありますが、特に異業種の共同配送ですと荷姿もバラバラでパレットも統一できていない。そのため、理論上の積載率と商材別の実際の積載率の乖離が非常に大きくなります。ここをAIで判断できないかと考えているのですが、システム面でのハードルが高く、現状はまだマンパワーに頼っている状態。既に限界を超えているため、AIによるN:Nのマッチングが大きな課題になっています。

スマート物流とスマートシティの考え方は共通する

NEC 清水:
 多くの企業が参加する物流プラットフォームを実現するには、スマートシティでの取り組みが非常に参考になるのではないかと考えています。大辻さんから、これまでの議論のなかでも総論は賛成だが各社のオペレーションに影響するので連携がなかなか進まないというお話がありました。持続可能な都市・地域づくりを目指すスマートシティでは、交通データや防災データ、行政オープンデータ、決済データ、住民のパーソナルデータといった異種データを1つの基盤上で連携させ分析することで、さまざまな課題解決に向けた価値を創出していきます。

 つまりデータ連携による可視化と分析、フィードバック、このループをいかに早く回すかによって、事後対応ではなく事前対応につなげていくことができるのです。その意味でスマートシティはスマート物流とも考え方が共通するのではないかと思うのです。

 スマートシティの取り組みが先行している欧州では、そうしたニーズに応えるオープンでロイヤリティフリーのデータ連携基盤を開発し、既に各国の自治体や企業に広く活用されています。こうしたデータ連携フレームワークを活用することも、Scope3の可視化や全体最適のCO2削減、新たなビジネスモデルを創造する際に役立つ可能性があると感じました。

NEC
執行役員 兼 CSCO
清水 茂樹

花王 山下氏:
 非常に参考になります。脱炭素社会に向けたアプローチは物流会社にとって死活問題ですから、きちんとした枠組みをつくってデータを持ち寄り、責任分担を明確にしていかないと進めることはできません。ただ現実問題として立ちはだかるのは、共同配送にかかわる物流会社やルートをどう整理していくかです。当社がほかの荷主と共同配送を行う際には、今までお願いしていた物流会社を変えなければいけないケースがあります。日本では多くの事業者がいらっしゃるので非常にシビアな問題です。

NX 大辻氏:
 荷主に代わり物流管理を包括的に行うLLP(Lead Logistics Provider)の観点から申し上げますと、そこはしっかり割り切る必要があるのではないでしょうか。ある企業のサプライチェーン改革に当社が参画した際、お客様から「当社には物流子会社が2社ある。これは守って欲しい」といわれましたが、「子会社ありきではなく、全体最適な運送会社はどこかを一緒に探していきましょう」と申し上げました。そこを抜きにして物流改革や脱炭素化は進められないと思います。

花王 山下氏:
 なるほど、そこは業界全体が変革する未来に向けて考えていくべき課題なのかもしれませんね。もう1つ、清水さんがおっしゃったスマートシティのデータ連携プラットフォームについてですが、事業者が使う際、そのコストは誰がどう負担するのでしょうか。

NEC 清水:
 SIPスマート物流サービスのように行政主導型で行われる場合、基本的には民間事業の支援というかたちで一定の初期コストは行政が負担するでしょう。ただし、あるタイミングになると「ここから先は民間で」というかたちになっていくかもしれません。行政と民間がコストをシェアし、参加者全員が納得いくようなビジネスモデルになれば、少しずつ回っていくはずですが、日本のスマートシティは現状手探り状態でなかなか前に進めません。それは脱炭素化に向けたSCMも最適化も同じではないかと思います。

自治体も巻き込んだ物流プラットフォーム構想

NX 大辻氏:
 配送量の増加とドライバー不足に起因する物流クライシスや物流コストインフレを解消する手段の1つが共同配送です。ただし既にSIPスマート物流サービスの基盤はあるものの、なかなか実装が進まない。業界特有の制約も多い。そうなると先ほどご紹介いただいた自治体向けの基盤が物流でも使えるのか、データはどうやって集めるのか、マッチングはAIでいいのかといった現実的なプラットフォームやエコシステムを考える段階になってきます。

花王 山下氏:
 当社はSIPスマート物流サービスに参加していますから、他社と連携するためのデータは提供できます。ただし幹線輸送と配送を含めるとかなりのボリュームになりますから、まずは幹線輸送を中心に他社とデジタルでマッチングできるような試みからスタートしたいですね。

NEC 清水:
 コストや構築のしやすさも含め、プラットフォームは既存のものを有効活用した方がいいでしょう。荷主と物流会社だけでなく、自治体や民間企業、商店街など、より多くのステークホルダーを集めるのであれば、1:1のプラットフォームではなく1:N、N:Nで考えることも重要です。例えば、物流トラックが工場や配送センターから毎日どのように出入りするのかの情報が行政側にも開示されれば、通学路や商店街の安全対策などにも貢献できます。

 またコロナ禍などで休業を余儀なくされた飲食店のテイクアウト情報を集めて配信するような仕組みが加われば、地域や住民にも大きなベネフィットが出てきます。政府が進めるスーパーシティ構想には全国31の自治体が応募しましたが、実際には100近い自治体が官民でのデジタル活用に何らかのかたちで注力されています。そういった自治体を巻き込んで一緒にプラットフォームを構築するのも1つの手ではないでしょうか。

NX 大辻氏:
 確かにプラットフォーム化するところが一番難しいので、自治体にも参加していただき、創出するベネフィットを拡大していくのも面白いですね。まずは2~3社が参加するスモールスタートで共同配送の実績をつくり、それを支える基盤や、活用したデータの種類を知っていただくところから始めてみましょうか。

FIWAREはベンダーフリーの透明性とシステム間連携の容易さが特徴

花王 山下氏:
 欧州で普及しているスマートシティ向けのデータ連携基盤について、もう少し詳しく教えていただけますか。

NEC 清水:
 EUが官民連携の投資によって開発したオープンソースの次世代インターネット基盤「FIWARE(ファイウェア)」というものになります。NECは欧州の大手企業が多く参画する中、唯一の日系企業として2011年からFIWAREの開発にかかわってきました。FIWAREは国際標準のAPIを採用しており、オープンソースで実装されたモジュールを組み合わせたり、新たにモジュールを開発したりすることで、用途に合わせたプラットフォームを柔軟に構築できます。ベンダーフリーの透明性とシステム間連携の容易さが特徴で、欧州を中心に25カ国110都市の自治体や企業で普及しています。日本でも実績があります。

花王 山下氏:
 欧州だけでなく日本でも実績があるというのは期待できますね。

NEC 清水:
 FIWAREでは標準化されたインタフェースによって異分野サービス間のデータ共有や、あるテーマに対して適切なデータを自動取得する機能があります。そのためスマートシティに限らず、N:Nのマッチングが必要な共同物流などでも使える技術だと思います。ただし、どんな用途にもFIWAREを使うべきだとは考えていません。各々のステークホルダーが必要とする用途に最も適した基盤を選んでいくことが重要なので、そこは皆さんと一緒に選定を進めていきたいと考えています。

まずは「着眼大局、着手小局」でチャレンジ

NX 大辻氏:
 モチベーションが上がってきました。花王の工場エリアやお客様ルートと合わせ、一度このかたちでマッチングできるような共創相手を探してみませんか。

花王 山下氏:
 そうですね。まずは荷主同士のマッチングで、幹線輸送ルートのデータから始めてみましょう。「グリーン物流パートナーシップ会議」の枠組みを活かしてチャレンジするのも面白そうです。

NEC 清水:
 その際にはプラットフォーム上で物流の実績値をどう取るか、全体のCO2をどう可視化するかなども詰めていく必要があります。もしそれがスケールできるようになればNXグループのほかのお客様に対してもアピールできるようになるでしょう。

NX 大辻氏:
 実際にワンレーンを仕立てて動かしてしまうのもありですね。それができれば、ほかの荷主には「実はこのレーン、本当に動いているのですが今は荷量が3分の1しか埋まっていません。良ければぜひ参加してみませんか」と営業を掛けることもできます。

NEC 清水:
 スマートシティのプロジェクトではよく「着眼大局、着手小局」という言葉が使われます。皆が納得し得る構想であっても着手はミニマムに、まずは小さなことから始めないとうまくいかないという意味です。CO2削減に向けた共同配送もまさにそうだと思います。最初は短い拠点間でのスタートになるかもしれません。しかし小さな実績を少しずつ積み上げていくうちに、さまざまな人が興味を持ち、しだいに大きな輪になっていくのではないでしょうか。

NX 大辻氏:
 同感です。まずは花王の実データを拝見しながら、あるいはNXが持っているお客様ルートをご紹介しながら、大きな枠組みと機能を考えていきましょう。今後の活動では1つでも、その具体的な成果を発表できる場にしていきたいですね。

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