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2022年11月11日

いよいよ始まった物流のパラダイムシフト
~異業種間連携で挑む脱炭素化向けた物流の未来~

 持続可能なサプライチェーンをいかに実現するか――。これは脱炭素化に取り組むすべての企業にとって重要なテーマだといえるだろう。脱炭素化に向けてはScope1、2(自社全体のCO2排出量)のみならず、Scope3(自社をのぞくサプライチェーン全体からのCO2排出量)が重要となるからだ。ただし、これは自社のみの活動では達成できず、異業種間連携がカギを握る。ここにパラダイムシフトを起こすべく、メーカー(花王)、物流(NXグループ/旧日本通運グループ)、ICT(NEC)の3社が中心となったプロジェクトが動き出した。ここではその具体的な取り組みと目指す未来について紹介したい。

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物流改革のアイデアは現場のワークショップで生まれた

ローランド・ベルガー 小野塚氏(以下、小野塚氏):
 サプライチェーンはプロセスが多岐にわたる上、ステークホルダーも多い。そのため、これをサステナブルに変えていくのは簡単なことではありません。そうした中、NXグループとNECはサステナブルなサプライチェーンの実現に向けた共創プロジェクト「DNX」を推進しています。まずこの概要を教えてください。

モデレーター
株式会社ローランド・ベルガー
小野塚 征志氏

NXグループ 大辻氏(以下、大辻氏):
 国が掲げる2030年の温室効果ガス削減目標を達成する。これは喫緊の課題ですが、その先には2050年のカーボンニュートラルの実現という、より大きな目標が控えています。そこでNXグループは、2021年6月にNECと業務提携契約を締結し、共創プロジェクト「DNX」を立ち上げたのです。

 NECはICT企業でもあると同時には製造業でもある。つまり、製造業のサプライチェーンを持ち、課題ややるべきこともわかっている。これは大きなアドバンテージだと感じました。ちなみに「N」は両社に共通の頭文字。自分たちが中心になってDXをリードしていきたい。プロジェクト名にはそんな思いが込められています。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
執行役員 マーケティング部、営業戦略部担当
兼 日本通運株式会社執行役員
大辻 智氏

NEC 清水(以下、清水):
 プロジェクトでは優先度の高いテーマとして「ロボット遠隔操作」「倉庫作業のデジタル化」「サプライチェーンのCO2見える化」の3つを定義しました。

 具体的には危険な作業、人力では困難な作業に遠隔操作ロボットを用いて安全性・生産性の向上を図り、人手不足の解消にもつなげていきます。倉庫作業はIoTを用いて人や物の動きを高速かつ適切にデータ化し、AIで分析してノウハウや暗黙知をデジタル化します。さらに物流プロセスにおけるCO2排出量を可視化し、その情報を基に排出削減を目指します。この実現に向け、トライ・アンド・エラーで挑戦を続けているところです。

 注目していただきたいのは、これが経営のトップダウンではなく、現場から生まれたものであるということ。両社の若手社員を中心に半年ぐらいかけてワークショップを実施しました。社会が大きく変わりつつある中、いま何をやらなければいけないか。バックキャストして考えた結果、導き出されたテーマがこの3つだったのです。

同じ課題を持つ花王がメーカーの視点で共創

小野塚氏:
 サプライチェーンを変革する上で3つのテーマはどれも重要ですが、サステナブルな視点で考えると、とりわけ重要になるのが「サプライチェーンのCO2見える化」でしょう。そして物流はサプライチェーンの中で非常に重要な役割を担っています。

 サプライチェーンのCO2見える化と削減は「Scope1」「Scope2」「Scope3」という3つの活動の合算で算出しなければなりません。Scope1と2は自社内の事業活動なので比較的進んでいますが、問題はScope3です。自社だけでなく、取引先や協力会社を含むサプライチェーン全体のCO2見える化と削減が求められる。どうやってデータを集め、管理するのか。仕組みやルールづくりが大きな課題になっています。

大辻氏:
 おっしゃる通りです。DNXプロジェクトは2社でスタートしましたが、Scope3まで含めたCO2見える化は、大きな荷主企業に参加してもらった方がいい。そこで大手日用品メーカーであり、グループで物流も手掛ける花王に参加してもらいました。

花王 山下氏(以下、山下氏):
 物流の世界は大きく変わろうとしています。消費者の動向も変化し、先が読みにくくなる中、ビジネスの将来像に関する議論が社内でも活発に行われています。

 将来像を描きながらバックキャスティングしていかなければ、この大きな変化には対応できない。同じように考えるNXグループやNECと議論の場を設けていただいたことに感謝しています。これを軸にいろいろな業種の方と議論をする場が広がれば、日本の物流やサプライチェーンを変えていくことができる。大きな期待と可能性を感じています。

花王株式会社
SCM部門ロジスティクスセンター センター長
山下 太氏

大辻氏:
 物流は、ある意味「アンサステナブル」な業界です。自然災害の影響を受けやすく、サプライチェーンが寸断されると、下流に大きな影響が出てしまう。最近ですとパンデミックによる物流の停滞が発生し、今は地政学的なリスクも高まっています。労働力やコンテナの不足も深刻で、これがコスト増やリードタイム増につながっています。

 アンサステナブルな業界をサステナブルに変えていくという点では、足元の課題解決もCO2削減も根は一緒です(図1)。産業を横断した協業が必要であり、物流改革の実現に向け、真剣な議論を重ねています。

図1 サプライチェーンのあるべき姿
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図1 サプライチェーンのあるべき姿
CO2削減に対応したサプライチェーンの実現は、物流業界の足元の課題解決ともリンクしている。そのためには自社の活動だけでなく、取引先や協力会社まで含めたサプライチェーン全体のCO2見える化が必須だ

共同輸配送で物流効率を上げ、CO2排出を削減

小野塚氏:
 2030年の目標達成、その先の2050年のカーボンニュートラルは日本の悲願であり、すべての産業に課せられた使命でもある。しかし、これは一気に実現できるわけではなく、先進テクノロジーの活用も欠かせません。どのようなアプローチで物流改革を進めているのですか。

清水:
 物流改革は3つのステップで進めていきます(図2)。まずステップ1では同業他社・異業種も含めた物流プラットフォームを構築し、CO2を見える化します。将来的にはサプライチェーン全体のCO2をダッシュボードで見える化し、CO2を金銭価値化するインターナル・カーボンプライシング(ICP)にも対応できるようにします。

 ステップ2ではCO2排出量削減を目指します。その実現手段として考えているのが「共同輸配送」です。個社ごとに物流ルートを持つのではなく、複数の会社が“相乗り”する物流形態です。物流を競争領域ではなく、協調領域に変えていくわけです。

 個社ごとの物流では実車率(全走行距離に対し、実際に貨物を載せた距離の割合)や積載率(最大積載量に対して実際に積載した量の割合)が低くても、荷主企業の求めに応じてトラックやドライバーを確保しなければなりませんが、共同輸配送なら実車率や積載率が上がり、1社あたりのCO2排出量も削減できます。

 そしてこの取り組みを産業横断的に拡大していくのがステップ3です。これによって、CO2排出実質ゼロのカーボンニュートラルを実現します。

NEC
執行役員 兼 CSCO
清水 茂樹
図2 物流改革のステップとその打ち手
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図2 物流改革のステップとその打ち手
まずCO2データを物流プラットフォームに集約し見える化する。そうすればCO2削減効果も数値化が可能になる。削減手法の1つとして共同輸配送を実現する。この取り組みをスケールしていき、最終的にカーボンニュートラルを達成する

小野塚氏:
 物流プラットフォームはCO2見える化だけでなく、共同輸配送を支える基盤としての役割もあるのですか。

清水:
 その通りです。荷主と物流会社だけでなく、自治体や民間企業、商店などに参加してもらうことを想定しています。共同輸配送のルートを設計・運用・管理し、これを使いたいという荷主や物流会社との最適なマッチングを支援します。そのためのデータベースの開発も進めています。

 共同輸配送にはモーダルシフト(貨物輸送をより環境負荷が低い輸送手段に切り替えること)の活用も考える必要があるため、多様な物流手段に対応し、そのコストやCO2削減の管理も行えるようにする計画です。

小野塚氏:
 最終的にステップ3のカーボンニュートラルを実現するためには、すべての産業をまたいで、どれだけ多くのステークホルダーに参加してもらえるかがカギになりますね。

大辻氏:
 そこが非常に難しい。CO2排出削減は目指したいが、自社の物流情報は外部に出したくないという荷主企業もあるからです。総論賛成・各論反対になってしまうのです。

 また共同輸配送で効率が上がり、CO2も削減できるとわかっても、従来の物流コストより高くなってしまっては二の足を踏む企業もある。荷主企業にも理解をいただく必要はあるが、コスト的には現状と変わらないくらいを目標値にする努力が必要でしょう。

山下氏:
 荷物の特性や商習慣の違いも考えなければなりません。例えば、工業製品と食品では扱い方がまったく違う。食品だったら匂いが付いては困るとか、温度管理が必要なものもある。製品によってパレットの大きさも違うし、平積みできないものもある。荷積み・荷受けの作業手順の違いもある。こういうものもすべてデータ化する必要があるでしょう。単純にルートが同じというだけでは相乗りできないのです。

 花王の場合、工場から物流拠点までの「幹線輸送」は積載率を全て把握していますが、物流拠点からお客様までの「配送」は地域の協力会社や運送会社への委託が多いため、積載率を把握しきれておりません。CO2の見える化や削減もこれからの課題です。

スモールスタートで実績を積み重ね、点から面へ共同輸配送を広げる

小野塚氏:
 共同輸配送という道筋は見えているけれど、その実現にはいくつものハードルがあるわけですね。しかし、新しい物流を実現できれば、CO2を排出しない形でモノを届ける。そんな未来が拓けてきます。生活者や社会に対して大きな価値を提供できます。物流会社や荷主企業もそのことを社会にアピールできるし、コストダウンにつながる仕組みができれば、利益の向上も見込める。立ちはだかるハードルを乗り越えるため、どんな打ち手を考えていますか。

清水:
 まずはNXグループや花王とともに、スモールスタートでCO2見える化と共同輸配送の実績づくりから始めていきます(図3)。そのステップは大きく3つです。ステップ1が、グループをつくること。具体的には希望条件(製品特性、温度、取扱レベル)を入力し、共同輸配送の最適なマッチングを行うことを想定しています。

 それをベースにステップ2ではプランをつくります。ただし、それを手作業でやっていたら膨大な時間や人手が必要となるので、AIや機械学習を活用して運行計画を自動作成します。うまくマッチングできない場合は、違う条件や代替案を提示する仕組みです。

 最後にステップ3ではオペレーションを支援します。どこに荷物があり、荷量の見込みはどれだけあるのか。それを見える化した上で、会社間で情報共有をするわけです。こうしてトライアルを重ね、点から面へと対象エリアや参加企業数を増やしていき、脱炭素化に貢献できる共同輸配送の確立を目指します。

図3 スモールスタートの実践ステップ
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図3 スモールスタートの実践ステップ
共同輸配送の条件が合う企業をグルーピングし、運行計画を作成する。相手候補との簡易シミュレーション、条件調整や代替案も提示できるようにする。オペレーション機能も充実させ、共同輸配送を利用しやすくする

大辻氏:
 将来的には多様なステークホルダーをつなぐ基盤となるため、そこで扱うデータはセキュアに管理しなければならない。参加企業が安心してデータを提供できるセキュリティの確保も重要な要件になってくると思います。

山下氏:
 荷主企業の立場からすると、倉庫の荷積み・荷受け作業などのオペレーションの見える化も必要と感じています。荷物の特性によって、作業に要する手間や時間が変わってくるからです。これは共同輸配送の効率やコストにもかかわってくる問題だと思います。

ステークホルダーとの擦り合わせで標準化を目指す

小野塚氏:
 スモールスタートとはいえ、業界を代表する企業の取り組みは大きなインパクトがあると思います。実績づくりに向けて動き始めたわけですが、その活動についてどのような展望を持っていますか。

大辻氏:
 大切なことは仕組みやルールを標準化することです。標準化すれば、いろいろな企業やデータをつなぎやすくなる。当然、活動もスケールしやすくなる。マインドセットや商習慣も変えていく必要があるでしょう。例えば、荷受けを置き配に変えてもらう。配達時間や荷受時間に幅を持たせてもらう。お客様を含めて共同体をつくるという覚悟と行動力が求められています。

 NXグループは物流会社として多様な業種のお客様と取引がある。業界固有のニーズや課題、各社の荷量情報もわかる立場にある。多様な荷主企業にこのプロジェクトを提案し、花王、NECと共に物流改革をリードしていきたい。

山下氏:
 花王では国の目標に先駆けて、2040年にカーボンゼロという大きな目標を掲げ、Scope1と2だけではなく、Scope3のCO2削減に向けた活動を進めています。CO2削減もさることながら、足元には「物流の2024年問題」が差し迫っています。時間外労働の上限規制が適用されれば、ただでさえ人手不足なのにドライバーの確保がますます困難になる。共同輸配送はこの問題の解決策にもなるでしょう。

清水:
 皆さんと成功事例を積み上げていく。標準化についても「これが標準です」と決めて一方的に押し付けるのではなく、擦り合わせしながら進める方が、私たちの強みも発揮できると思います。擦り合わせの議論を深める上でも、より多くの企業に理解と協力を得られるよう努力していきます。

小野塚氏:
 交通系ICカードは当初、使えるエリアや交通機関も限られていましたが、今はほぼ全国で、電車だけでなくバスやタクシー、コンビニの決済でも使えるようになりました。標準化すればそういった広がりが期待できるし、それが利用者側のメリットにもつながる。物流プラットフォームもそんなふうにスケールしていってほしい。活動が広がりを持てば、目標は達成できると信じています。このプロジェクトの今後の活動に大いに期待しています。

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