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SDGs×レゴ®ワークショップ体験レポート(ウェルビーイング編)
~どうすれば幸せな働き方を実現できるのか~

 2022年7月22日、wisdomが主催する「SDGs×レゴ®ワークショップ」の「ウェルビーイング編」が開催された。ウェルビーイングとは「すべてが満たされた状態で、かつ継続性のある幸福」のこと。本ワークショップは「働くことにおけるウェルビーイング」をテーマに掲げ、どうすれば自分らしく幸せを実感できる働き方が実現できるのか、ワークとレクチャーを通じて考えを深めていくもの。ここでは、その様子を誌上レポートしたい。

社員のウェルビーイング向上に取り組む企業が増えている

 ワークショップは、ファシリテーターの井澤 友郭 氏によるレクチャーで幕を開けた。

 「SDGsが目指すゴールとは、“誰一人取り残さない世界”の実現です。これは、“誰もが自分らしく幸せを実感できる世界”と言い換えることもできる。これがまさにウェルビーイングだといえます」と井澤氏は語る。

こども国連環境会議推進協会(JUNEC)
事務局長
井澤 友郭 氏

 近年、働き方改革と健康経営の観点から、社員のウェルビーイング向上に取り組む企業が増えている。だが、この概念が生まれたのは最近のことではない。

 1946年発効のWHO憲章は、「健康とは、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、全てが満たされた状態にあること」と定義し、well-beingの定義と近い。また、厚生労働省はウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と説明している。

 このウェルビーイングは、「フィジカル」「ファイナンシャル」「キャリア」「ソーシャル」「コミュニティ」の5つに要素分解できるという(図)。

ウェルビーイング:5つの要素

 それでは、ウェルビーイングとSDGsとの間には、どのような相関関係があるのか。ウェルビーイングの5つの要素のうち、「フィジカル」とかかわりが深いのが、SDGsの13番目の目標である「気候変動」だ。気象災害の多い日本は、世界で4番目に気候変動リスクが高い国であり、災害に対して備えるだけでなく熱中症への対策も重要である。例えばエアコン28度というのは「室温28度」であって「設定28度」ではない。酷暑の中、エアコン設定を28度にした結果、仕事が進まず残業が増えてしまえば、結果として電力だけでなく働き方にも悪影響が出る、と井澤氏は言う。

働きがいのある人間らしい仕事が実現できているか

 一方、「キャリア」や「ソーシャル」と関係が深いのが、SDGsの5番目の目標である「ジェンダー平等」だ。世界経済フォーラムが公表したジェンダー・ギャップ指数2022年版によれば、日本は男女平等ランキングで146カ国中116位。2006年には日本の順位が115カ国中80位だったことを考えると、なんと15年間で40位もダウンするという結果となった。一方、2006年には70位に甘んじたフランスは、2022年には15位と大躍進を遂げている。きっかけは、憲法改正とパリテ法の制定だった。これを機に、フランスでは選挙にクォータ制が導入され、「男女同数の候補者擁立」が義務付けられたのである。

 「企業研修でこの話をすると、『うちはオープンで差別はしていません。女性の意識が低くて、手を挙げようとしないんです』という方がいます。ただし問題は、女性が手を挙げないのは、本当に『女性の意識の低さ』が原因なのかということです。ある役所が調査したところ、男性は若いうちから責任のある仕事をどんどん任されるのに、女性は書類整理や受付、電話対応などをさせられていたことがわかった。要は、経験の質に圧倒的な男女差があったわけです」(井澤氏)

  もちろん、ジェンダーの問題は男性と女性に限った話ではない。LGBTQも含めたジェンダー平等への取り組みは、SDGsの10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」とも大きくかかわっている。

 こうした「キャリア」や「ソーシャル」に「コミュニティ」も密接にかかわってくる。コロナ禍でテレワークが普及し、ワーケーションや移住の動きも広がる中、「大切にしたいコミュニティは地域か組織か」の二者択一を迫られる時代は終わり、「自分らしい生き方」を選ぶことが可能になりつつある。SDGsが目指す、誰もが自分らしく幸せを実感できる世界では、誰もが自分らしく生きることのできる「コミュニティ」を選択することも重要となっているわけだ。

 また、「ファイナンシャル」と直接関係しているのが、SDGsの8番目の目標「働きがいも経済成長も」だ。ここでは、すべての人が「ディーセント・ワーク」、すなわち「働きがいのある人間らしい仕事」を持つことが、目標として掲げられている。

 「日本のSDGsの8番目の目標『働きがいも経済成長も』の評価は、決して悪くありませんが、日本人の6人に1人は相対的貧困の状態にあるといわれます。『そもそも仕事がある』『権利が保護され』『十分な収入を生み』『適切な社会保護がある』という4つが満たされないかぎり、ディーセント・ワークとはいえない。働きがいのある人間らしい仕事が実現できているということが、まさにウェルビーイングにもつながってくるわけです」(井澤氏)

「バックキャスティング思考」は理想の自分へのアプローチ

 では、どうすれば、誰もが自分らしく幸せを実感できる世界を、職場で実現できるのか。井澤氏はこう説明する。

 「幸せを実現するために重要なのが、バックキャスティング思考です。これは自分がありたい姿、望ましい未来の姿を想像し、未来起点で考える方法です。例えば、キャリアを考えるときは、今の自分から積み上げて考えるのではなく、『2030年の私はこういう働き方をしたい』と決め、そこから逆算して今、何をすべきかを考える。それが理想の自分に近づくためのアプローチなので、今日は言葉にすることが難しい「未来の理想の姿」や「いまの自分の価値観」をブロックを使って言語化、見える化することに挑戦したいと思います」

 その後、受講者は3~4人のグループに分かれ、実際にワークに取り組み始めた。約3分で各人がブロックを組み立て、自分の作品について説明し、質疑応答という流れをワークごとに行う。まずはレゴブロックでタワーをつくり組み立てる練習をした後、自分の「価値観・優先順位」や「働くことの価値」をブロックで表現。次に、2030年の自分が組織の中で働きながら感じている「不安・不満・不便」や、「自分で決めたいこと」をブロックで表現し、未来のイメージの可視化と共有を行った。

 前半のワークが終わったところで、NEC 人事総務部の柴田 篤志が登壇。ウェルビーイングな働き方を追求するNECの取り組みを紹介した。

 「私たちはNECの働き方改革をSmart Workと呼び、NECが目指す働き方改革とは『社員の成長と幸せ』を実現していくことだと位置付けています。この『社員の成長と幸せ』が、結果として『会社の成長』につながり、それが『社員の成長と幸せ』に還元されていく。この良い循環をつくっていくことが、働き方改革では非常に重要と考え、我々はこのコンセプトに基づいてさまざまな施策を考えています」(柴田)

NEC
人事総務部
柴田 篤志
NECが目指すSmart Workのコンセプト

「会社の成長」と「社員の幸せ」の好循環を生み出す

 「社員の成長と幸せ」とはいってもその実現は容易なことではない。それをNECではどのように具現化しているのか。そのポイントとして柴田は、「本人のwill(意志)」「キャリア」「ワークスタイル」の3つを挙げる。

 「当社ではNEC 2030VISIONを策定し、『NECは何のために存在するのか。社会にどんな価値を届けたいのか』を問い、『2030年までに何を実現したいか』を表現しています。これが会社のwillです。それと同時に、NECでは、社員一人ひとりが『自分は何がしたいのか、何をしているときに幸せを感じるのか』という、本人のwillをしっかり考えてもらう取り組みもしています。本人のwillが会社のwillと重なる部分を見出せれば、幸せを感じながら働けるのではないか。そういう会社を目指さなければいけない、という思いで取り組んでいます」

 一方で、本人のWillを明確にしたとしても、それを実現できるキャリアパスが描けなければ絵に描いた餅で終わってしまう。そこで、NECは「キャリア」における自律を促し、社員の挑戦を応援するための仕組みを整えている。

 その1つが、NEC Growth Careersと呼ばれる、通年型の人材公募制度だ。これは、人材を募集しているポジションを原則すべて公開し、社員も自分の職務経歴と「自分は何がしたいか」を公開。組織からも社員をスカウトできるようにしたものだ。

 もう1つは、AIによる適所・適材レコメンド機能である。これは、社員の職務経歴と公開中の募集ポジションをAIでマッチングさせ、社員に対してはお薦めのポジションを、募集部門に対してはお薦めの社員をレコメンドする。

 「この取り組みを広げることで、社員本人のwillに基づいてキャリアを築くための制度を立ち上げ、それを定着させていきたいと考えています。自分がやりたいことを社会が求めていれば、そのポジションは会社の中に存在し、自分もそのポジションで働くチャンスがある。そうしたキャリアを描けることが、社員の成長と幸せにつながると考えています」(柴田)

 3つ目の「ワークスタイル」では、コロナ禍において今後の働き方を模索。働く時間と場所を自律的にデザインできる「ハイブリッドワーク」を推進する方針を打ち出した。ロケーションフリーで仕事をしながら、チームで力を合わせて働くための「コミュニケーション・ハブ」と、組織や会社の枠を超え、社内外の人と連携するための「イノベーション・ハブ」を新設。出社率を40%と想定して、組織単位のオフィス面積を50%削減し、社内外の人が利用できる「イノベーション・ハブ」を拡大していくという。

 「社員が自ら選ぶ自律的な働き方を実現するためには、会社と社員が従属関係ではなく、“選び、選ばれる”対等な関係にならなければならない。そのために試行錯誤しながら、人事制度の見直しを進めているところです。会社の成長に寄与しながら、社員自身の成長と幸せにつなげていく。その循環を回していくことに我々は取り組んでいます」(柴田)

価値観を変えないかぎり行動は変わらない

 ワークショップも終盤に入り、再びワークタイム。ここまでの学びを踏まえ、レゴブロックによる最後の作品制作が行われた。

 最後は、「自分の組織で『ウェルビーイングに働く』ことを実現するのに、何が必要だと感じていますか?」というテーマで作品を制作。受講生のAさんは、ブロックで「会社」「自分の能力」「向上する意識」を表す3つのレイヤーを制作。その上に、アンテナを模した何本もの赤い線と、左右に違うタイヤを載せた。

 「「会社」という組織の中、「自分の能力」と「向上する意識」によって一定の成果を上げたら、アンテナを広げて、自分がやりたいことをどんどん探す。最後にはタイヤを使って、自分が行きたいところに行く。そんなイメージです」(Aさん)ほかの受講者から「タイヤが左右で違うのはなぜですか」と質問が飛ぶと、「タイヤの違いは、行く方向が違うことを表しています。必ずしも正解があるわけではなく、どの方向にもいろいろな可能性があることを表現しました」と、Aさんは答えた。

 一方、受講生のBさんは、色の異なる4枚の基盤を置き、一番大きな基盤の上に6つのブロックを置いた。周囲にはサテライト的な3枚の基盤を配し、それぞれをアーチやスロープ状の橋で連結。「これは、自分にできることを自律的に、いろいろなフィールドでやるというイメージです。ブロックを(基盤に)差し込まなかったのは、身軽に橋を渡り、それぞれのフィールドを自由に行き来できたほうが、もっと働きやすくなると思ったから。仕事でへこたれたときは、別のフィールドに行って少し休み、また戻って来ればいい。スロープのある橋を付けたのも、戻ってきやすくするためです。ネットワークでつながった人脈を活かして、自由に活躍できる場があったらいいな、という願いを込めました」

 最後に発表したのは、受講者Cさんだ。一番下の基盤に複数の人物を配し、ブロックを積み上げた階段を上って、四方から中央のステージに上っていく様子を表現した。「この人たちはまだ骨がスカスカで、いろいろなことを吸収している段階。それぞれが階段を上ることで、大きく成長していくイメージです。中には登らない選択をする人もいると思いますが、会社が成長し、自分たちが幸せでいるためには、必ず階段を登らなくてはいけない。大事なことは、どの方向から上っても、組織としての目的は一緒だということ。最後に皆が同じフィールドに立って旗を振れば、いろいろなことができるということを表現しました」

 作品の制作と発表、質疑応答を終え、最後に井澤氏がクロージングを行った。

 「SDGsやハラスメントをテーマにした研修では、最後に『行動が大事です』という言葉で終わることが多くありますが、『行動変容=行動を変える』と『価値変容=価値観や選択の基準を変える』はセットであり、価値観を変えないかぎり行動は変わりません。ウェルビーイングに働くを実現するには、組織の中で言葉にしにくい『価値観の見える化』を始めることが非常に重要です」と井澤氏は語り、この日のワークショップを締めくくった。

当日はグラフィック カタリスト 成田 富男氏による、グラフィックレコーディングも行われた。グラフィックによりワークショップの内容がわかりやすく可視化され、内容の整理と理解、記憶の定着に役立つ