アフターコロナの観光新時代とは?(後編)
~沖縄・やんばる地域に見る地域創生とサステナビリティ~
SUMMARY サマリー
カギを握るのは、地域の人材をつなげるハブの存在
やんばる地域は、地域の貴重な自然を守ることによって、世界遺産登録をたぐり寄せ、観光資源の活用に弾みをつけることで、人口減少という地域課題解決への道筋を開いた。その意味で、やんばるの取り組みは、「持続的な観光」による地域づくりの好例といえる。アフターコロナが目前に迫った今、地域の強みを活かしてサステナブルツーリズムを実現するためには、何が必要となるのか。
1つ目が、観光コンテンツの充実だ。国内外から訪れた人たちに、人と人との交流を通じて地域の魅力に触れてもらい、リピーターや長期滞在者を増やしていく。それを実現する上で、今後のカギを握るのは「人材」、と星氏は指摘する。
「現場の人は、『うちには人材がいなくて』とよくおっしゃるのですが、実はそんなことはない。地域の皆さん一人ひとりが、すべてのものをお持ちなんですね。子どものころから、豊かな関係性が見える、持続可能な世界を体験されてきたわけですから。自分自身を解放すれば、そのことを実感していただけると思います。あとは皆さんが役割分担して取り組めば、未来の世代が感謝してくれるような仕組みを、必ずつくっていけるはずです。ぜひ、自信を持って取り組んでください。私たちも精一杯応援させていただきます」
さらに、魅力ある地域づくりを進めるためには、地元の人材と外部の人材が連携することも重要と指摘するのは、NPO法人やんばる・地域活性サポートセンターの小林和彦氏だ。
「これからは、海外への情報発信や、海外からの来訪者の受け入れ体制をいかにつくるかが課題です。その意味では、地域の人材を活かしたりつないだりしながら、ハブとしての役割を果たす人の存在が大きなカギとなる。国際結婚した人や子育て中の人など、さまざまな人材に活躍してもらいたいと考えています。それから、都会で現役を引退した方々には、その才能や経験を活かし、地域で第2、第3の人生を花咲かせていただきたい。都会のシニア世代と、バイタリティのあるゼネラリストやスペシャリストが組むことで、地域を盛り上げ、対外的に発信するための体制をつくっていければ、と考えています」
2つ目は、NPO、行政、企業、個人など、さまざまなステークホルダー間の連携だ。ユネスコ世界遺産も、登録後に価値を持続できなくなれば、登録を抹消されてしまう。このため、やんばるでは、生物多様性の保全と観光への活用を両立させるため、「行政などと常に連絡を取り合いながら、取り組みを進めている」と、比嘉氏は語る。
「今は観光のかたちも様変わりしているので、行政とキャッチボールをしながら、高速通信機能のインフラをしっかりつくることが必要だと考えています。それから、やんばるの自然を次世代につないでいくのは大変な仕事ですので、やんばる3村協議会(国頭村、大宜味村、東村)で基金を創設し、地域振興や教育に使おうと計画しています。環境省の予算には限りがあるので、企業や個人から寄付を募り、いずれは公益財団を設立して、資金集めと活用の仕組みを整えたいと考えています」
大切なのは「時代を先取りする」こと
3つ目が、観光分野におけるデジタル化と生産性の向上だ。今、政府では、デジタル技術を積極的に活用し、①宿泊業の生産性向上、②(非接触チェックイン・システムによる感染症対策の充実など)安心・安全な旅行環境の整備、③(混雑回避や移動の円滑化、周遊・再来訪の促進といった観光地経営の高度化など)観光地経営の高度化に取り組んでいる。
一方で、地域でも、外からの誘客を進めるためにはデジタル化が欠かせない。中でも危急の課題といえるのが、Wi-Fi環境の整備である。「最近は新型コロナウイルスの影響でワーケーションが注目されていますが、地方からネットワークにつないで仕事をする時代が目前まで来ています。デジタル環境を整備して、いつでもどこでもネットが使える環境をつくらない限り、国際社会では通用しない。それを抜きにして、やんばるの将来の発展はないと考えています」と比嘉氏は語る。
もちろんデジタル環境の整備は、観光客のためだけではなく、住民にも新しいサービスとして還元されていく。「旅する人の体験価値を変革すると同時に、住まう人や暮らしにも新しい価値を提供する――。こうした考えが持続可能な観光産業として必要なポイントと言えるでしょう」(星氏)。
これを実現するには、かたちだけのデジタル化ではなく、マインドそのものの変革も重要だ。
比嘉氏は「前例がないからできません、というのはご法度です。私自身も『前例はつくればいい』という考え方でやってきた結果、やろうと思ったことはほぼ確実に達成できています。大切なのは、時代を先取りすること。今の社会は日進月歩のスピードで、新しいものがどんどん入ってきます。それに遅れないよう、日々、情報を集めてアンテナを高くし、先取りしながら仕掛けていくことが重要です。皆さんも『こういうことをしたらどうですか』というアイデアを、ぜひ出してください。よろしくお願いします」
アフターコロナを見据え、観光新時代に向けて、力強く歩み始めた日本列島。デジタル技術を活用した観光新時代(NEXTOURISM)の行方に、期待したい。
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アフターコロナの観光新時代とは?(前編) ~沖縄・やんばる地域に見る地域創生とサステナビリティ~
持続可能な観光を実現する共創へ
一般社団法人日本地域国際化推進機構では、ポストコロナの観光新時代をつくる仲間を募集しています。当機構は、観光を通じて、これまでなし得なかった地域経済の活性化や地域の多様性を活かした、国際文化観光都市づくりを実現していきます。また、観光客など、訪れる人だけでなく、そこで生活している人にとっても、その地域の真の価値を享受できる機会を創出し、持続可能な地域の実現を目指します。是非、みなさんと一緒に取り組ませてください。当機構へのご参加を心よりお待ちしています。