ついに実用化が秒読み段階に!
空飛ぶクルマが創造する未来とビジネスチャンスとは?
空飛ぶクルマの運航開始を目指す大阪・関西万博を間近に控え、その後のビジネスチャンスに関する議論が活発化している。実用化に進めば、移動の概念が大きく変わる。新たな市場が創生され、産業の発展にもつながるはずだ。実現に向けて、クリアすべき課題はどこにあるのか。次世代モビリティを開拓するAerial Innovation社の小池 良次氏、国産機体メーカーSkyDrive社の村井 宏行氏、航空管制に携わる部門に所属するNECの荒井 貴成が「次世代空モビリティ」の可能性と未来を語り合った。
大阪・関西万博を機に空飛ぶクルマは新たなフェーズへ
小池氏:大阪・関西万博の会場へ来場者を運ぶ空飛ぶクルマの運航事業者として、SkyDrive社が選定されました。日本での空飛ぶクルマの実用化が、秒読み段階に入りましたね。
村井氏:開発した機体はマルチコプター型(3つ以上のローターを搭載した回転翼機のこと)で、操縦士一人、乗客二人の三人乗り。機体の部品数は1万から2万点程度と、ヘリコプターの10万点と比べて圧倒的に少なく、軽量でコンパクトなのが特長です。
電動のモーターを動力としているため、エコで低騒音。空飛ぶクルマの名前通り、操縦もクルマ並みに簡単なものを目指しています。
既にベトナムの2社と合計200機のプレオーダー契約を締結し、日本でも2023年4月に個人と国内企業とのプレオーダー契約を締結しました。2023年7月にはチャーター機運航会社オースティン・アビエーション社と5機のプレオーダーで合意。サウスカロライナ州の主要空港や運航会社と協力し、実現可能性の高いユースケースの創出に取り組んでいます。
機体の製造はスズキと提携し、量産化の準備も整えました。
小池氏:NECも以前から「空の移動革命」を支える技術開発を進めていますね。
荒井:空の移動革命は「次世代空モビリティ」の最適な運航・利活用がカギを握ります。これまで培った航空管制や無線通信システムの技術・知見を活用し、空飛ぶクルマやドローンの運航を管理・支援するシステム開発に取り組んでいます。
小池氏:空飛ぶクルマは、海外メーカーが先行して実用化に向けて動き始めています。世界の中で日本の現状をどう見ていますか。
村井氏:ドイツや中国など先行している国は、本格的な開発に着手してから有人試験や量産化に至るまでに10年近くかかっています。当社が本格的な開発に着手したのは2018年。先行グループに比べれば出遅れていますが、そこからわずか2年弱で有人試験に成功しました。異例の開発スピードで世界を猛追しています。現在は、2025年の大阪・関西万博での運航および、2026年に型式証明を目指し、開発を進めています。
短距離移動のエアタクシーや遊覧飛行で市場をつくる
小池氏:実用化した場合、具体的にどのようなサービスが実現するのでしょうか。
荒井:まず官民連携による、比較的短距離のエアタクシーやエア救急車、観光地の遊覧飛行や物資輸送などのサービスが始まるでしょう。既にその実現に向けた環境整備や試験飛行が全国各地で進んでいくと思います。
村井氏:当社の空飛ぶクルマの航続距離は今のところ約15km程度。そう聞くと短いように感じるかもしれませんが、渋滞がひどい都市なら、移動時間を革命的に短縮することが可能です。
その一例として私たちがよく話題にするのが、インドのムンバイです。ムンバイはお椀のような形をした盆地。お椀の底の部分が都市部で、渋滞が慢性化しています。そこを抜けてお椀の縁にあたる向こう側の街まで車で移動すると、2時間ぐらいかかるのですが、空飛ぶクルマなら10分程度で移動可能になります。
小池氏:日本でも渋滞の多いエリアや公共交通機関が発達していないエリアでは、高速で便利な移動手段になりそうですね。さらにその先には、どのような未来を描いているのですか。
村井氏:技術開発が進めば、航続距離が伸び、自動運転も可能になるでしょう。サービスの提供エリアも広がり、オンデマンド運航だけでなく、定期運航も可能になる。将来的には、道路を走っていたクルマが空を飛び、渋滞や海を越えていく。そんなSF映画に登場するような乗り物が身近なものになる世界を目指しています。
荒井:空飛ぶクルマと共に、無人ドローンの商用利用も始まります。こちらは主に物流用途がメインになるでしょう。空飛ぶクルマとドローンが共存する、快適で便利な社会をつくっていきたいですね。
運航管理まで含めてトータルソリューションで考える
小池氏:一方で、新しい乗り物である空飛ぶクルマを怖いと感じる人もいます。新しい移動手段として受け入れてもらうためには、社会受容度を高めることが重要ですね。
荒井:その通りです。そのためには機体の安全性向上だけでなく、運航の管理や制御も含めて全体の安全性を高めていく必要があるでしょう。
空飛ぶクルマに加え、ドローンの運航も盛んになると、低高度空域の運航密度が上がる。高度な情報処理技術で空域を監視し、安全を確保しなければなりません。
この実現に向けて、NECは「ReAMo研究※(低高度空域共有に向けた運航管理技術の研究開発)」に取り組み、そのメンバ一員として、エコシステム構築に向けたオペレーション検証、運航管理システム・衝突回避技術の開発、自動・自律飛行と高密度化に向けた技術開発を推進しています。
- ※ 本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(次世代空モビリティの社会実装に向けた実現(ReAMo)プロジェクト)によるもの
全電源喪失時や天気の急変時にどうするかといった不測の事態への対応も重要な研究課題の1つです。全方位的な視点で安全を確保する運航管理システムの実現を目指しています。
小池氏:先に触れていた、航空管制や無線通信システムの技術が活きてくるわけですね。
荒井:宇宙事業で培った衛星の開発・運用技術や光通信技術、海底の資源探査や災害検知を支える音波やセンシング技術など、NECのアセットやノウハウを総動員して研究・開発に取り組んでいます。
安全で便利な空の移動には、運航管理だけでなく、オンデマンド運航時の予約や配車のシステムなど周辺インフラの整備も必要になります。産業の波及効果も大きい。それだけに既存の枠組みを超えた「共創」で新しい市場をつくっていきたいと考えています。
離着陸場となる地上インフラの確保・整備が急務
小池氏:実用化には、もう1つ重要なポイントがあると思います。離着陸場となる「バーティポート」の確保です。これも官民連携で取り組むべき課題でしょう。
村井氏:空飛ぶクルマは、通常のヘリコプターより小型で軽量。騒音も少ない。そのため専用の飛行場でなくても、公園やショッピングモールの駐車場、ビルの屋上などでも離着陸可能です。候補地は全国にたくさんあります。官民連携で周辺住民の理解を得ることが大切です。
荒井:補完的な移動手段と考えると、高速道路のインター近くも有力な候補になりますね。ただし、大規模なバーティポートは周囲の安全を管理する仕組みを整備し、メンテナンスも行える施設が必要です。中小規模なバーティポートならバッテリーの充電・交換設備や人の乗降、貨物の積み下ろしに必要なスペースがあればいい。規模や用途に応じて場所を選定する必要があるでしょう。
場所の確保とともに重要になるのが、離着陸の管理やバーティポートの状況を監視・把握するシステムです。NECは運航管理・支援システムの一環として、こうしたシステムの開発にも取り組んでいます。
小池氏:空飛ぶクルマの実用化は技術だけでなく、安全運航手順の確立や各種の法令・規制対応まで広範囲に渡ります。当社は米国シリコンバレーを拠点に活動しています。コンサルティングを通じて得た知見を活かして日米の懸け橋となり、新たな市場づくりを支援していく方針です。
村井氏:当社は万博で運航する機体以外にも、いくつかのバリエーションを持っています。万博での運航を成功させ、新たな日常的に利用出来る移動手段の実用化と 普及を目指します。
荒井:ライト兄弟が初飛行に成功して120年。今まさに次の移動革命が起きようとしています。NECは運航管理・支援の側面から空の安全に寄与し、次世代空モビリティの発展に貢献していきます。