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2021年07月09日

「オフィス」はこれからどうなる?
NEC本社ビルのデジタル化が示した新たな方向性

 2020年7月、世界的なCOVID-19の感染拡大が始まるなか、NECでは新しいオフィスのかたちを探るべく本社ビルでの実証実験を開始した(関連記事「いま問われるオフィスの価値 NECのオフィス改革プロジェクトが探る未来」)。New Normalを見据え、顔認証入退ゲートや顔認証決済などのタッチレス化を推進したオフィスのデジタル化は、果たして広く社員に受容されたのか、今後も同様の方向をめざすのか。今後のオフィスの有り方を占う社会実験とも言える本プロジェクトの反応と進捗について、NECの担当者に話を聞いた。

安全性よりも利便性や先進性に強く反応

 NEC本社ビルのデジタル化は、社員の感染症対策はもちろん、New Normal 時代にICT企業として社会へ広く貢献できる道を模索する取り組みでもあった。世界No.1の精度(※)を誇る顔認証を軸に入退ゲートや自動販売機の決済などのタッチレス化を推進し、新時代のオフィスにおける一つのロールモデルづくりをめざした。実際、実証開始後にはたくさんのお客様から問い合わせがあり、一定の役割を果たすことができたという。しかし、オフィスを利用した社員の反応はどうだったのか。

 今回のデジタル化を主導したクロスインダストリー事業開発本部 シニアマネージャーの太田は「アンケートでは、85%以上の利用者が満足していると回答しており、概ね好意的なものだったと思います」と語る。2020年7月から2021年6月現在に至るまで、NECでは約8割がリモートワークを行っているが、そのような状況下でも約1500人のユーザが参加し(2021年3月末時点)、入退ゲートなどの顔認証システムを体験した。およそ1年を経て実施した利用者アンケートからは、意外な発見もあった。

NEC
クロスインダストリー事業開発本部
シニアマネージャー
太田 知秀

 「興味深かったのは、安心・安全面での反応以上に、利便性や先進性に対する反応が大きかったことです。実証実験を利用した印象を問う設問には、『安全・安心できる』という回答が約10%であったのに対し、『便利になった』には約37%、『先進性がある』には約30%、『わくわくする』には約20%の回答がありました。安全・安心なオフィス環境だと感じるかという設問には約82%が好意的な回答をしているので、安全性への否定的な評価があったわけではないと思います。それ以上に、利便性や先進性に対する評価が大きかったと考えられます。」

 確かに、そもそも顔認証システムは感染症対策のためだけに開発してきたものではない。利便性という顔認証が生み出す価値が発揮されたのであれば、この結果にもうなずける。回答内にも「社員証を出す必要がないので便利だった」という声や、「両手がふさがっている状態でも入退場ができた」という声が多くあがっていたという。顔認証が実現するメリットが再確認された格好だ。しかし、「先進性」や「わくわくする」という評価には、企業として一体どのようなメリットがあり得るのか。

 「自由回答のコメントを拾っていくと、『先進性を感じ、モチベーションが上がった』という声が多く寄せられていました。今回の取り組みについての印象を尋ねた設問でも、『時代の最先端を具現化し社会をリードしている』という項目を実に60%以上の社員が選択していました。『お客様との話の種になる』という声もありましたね。こうしたことからも、社員の誇りの醸成やモチベーション向上に貢献する大きな効果があったと実感しています。今回のオフィスの技術が、広く社会に活かせるものであることが確認できました。」

(※) 米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の精度評価で5回第1位を獲得

「働きやすさ」に加え「働きがい」を醸成するオフィスへ

 「オフィスのあり方として、これからは『働きがい』につながるかどうかが重要な指標になると思っています」と語るのは、COVID-19の感染拡大以前からオフィス改革プロジェクトを推進してきた人事総務部 シニアマネージャーの坂本だ。誇りやモチベーションの醸成は、これからのリアルオフィスが持ち得る一つの重要な価値になると話す。オフィスのデジタル化がもたらした効果は、オフィス改革が目指す方向性とも連動していた。

NEC
人事総務部
シニアマネージャー
坂本 俊一

 「これまでの働き方改革では『働きやすさ』に注力してきましたが、いま私たちはもう一歩踏み込んで『働きがい』につながるオフィスを創りたいと考えています。というのも、COVID-19によって社員の出社頻度が大きく減ってきているからです。週5日の出社が前提とされていた時代には、社員一人ひとりが会社に来て顔を合わせて話すことで、「会社」というものを感じていました。しかし、自宅でのリモートワークやシェアオフィスなど、働き方に対する選択肢が多様になってきている現在、自分たちが所属する会社を感じる機会はどうしても少なくなってしまいます。これは、従業員の帰属意識やロイヤリティということ以上に、会社のミッションや取り組みを肌で感じ、それを共有しながら働けるかという意味の話です。『3人のレンガ職人』の寓話のように、自分が取り組む仕事が社会にどんな効果を生み出すのかを想起して、活き活きと働けるようにしたい。数少ない出社機会のなかで、会社のめざす方向性や先進性をいかに体感できるようなオフィスにするかが重要だと考えています。」

 「働きやすさ」改革では、リモートワーク環境の整備やリビングルームのようなカジュアルな空間や集中できる場所など、さまざまなニーズに応えるオフィスづくりこそが重要な施策だった。投資さえできれば、実現のメドは立つ。しかし、「働きがい」はもっと内面的なものだ。どのようにすれば実現できるのかアプローチが難しい。そのようななかで、オフィスのデジタル化は一つの新しい可能性を示したという。

 「今回のオフィスのデジタル化では、NECが持つ先進性を体現することができました。入退からPCログイン、決済に至るまで最先端の顔認証サービスを体感できる。NECの技術やビジネスのコンセプトを体現するオフィスとなったことで、自社の技術に対する誇りやモチベーションの醸成につながったと思います。」

 自社のコンセプトを体現し、社員の「働きがい」を創り出す先進的なオフィス。新しいオフィスのあり方を示す一つの指標になりそうだ。

COVID-19感染収束後も以前のオフィスには戻らない

 世界のオフィスは、いまどうなっているのか。坂本は「何か一つの大きなトレンドといったものはなくなり、会社ごとにオフィスの在り方が問われている」と語る。

 「従来は、ABW(Activity Based Working)やリビングルームのようなオフィスなど、世界中でさまざまなトレンドがありました。COVID-19によって一時は世界中でリモートワークに移行せざる得なくなりましたが、最近ではワクチンの広がりとともに北米のIT系企業を中心にオフィス回帰の動きが起こるなど、多様な展開を見せています。リモートワークを継続する企業や、毎日出社に戻す企業。週に3日は出社で2日はリモートでも良いなど、COVID-19による異常事態が収束した後のオフィスの在り方は、以前とは異なるものになると思います。」

 NECでは、オフィスのデジタル化施策をさらに進展させる予定だ。太田は「今回の知見を活かして、実証段階から実装へ移行する」と語る。

 「特に、顔認証においては今回の実証を経て認証精度とスピードのバランス調整における勘所がつかめました。昨年の秋頃にシステムのアップデートをしてからは、一度も誤認証が起きていません。これこそ、今回の実証を通して得たノウハウです。お客様にも自信をもっておすすめできるシステムを構築することができたと思います。NEC本社内でも、顔認証システムの設置を全フロアのエレベーターホールへ拡大し、出入口の顔認証ゲートも増設していく予定です。」

 さらに、COVID-19の収束も見据え、新たな技術も導入すると太田は続ける。

 「出社がさらに増えていくことを想定して、試験的に自宅からでもオフィスの混雑状況を確認できる仕組みも入れ始ました。フロアや居室の混雑度を見ることで、どこへ出社するかという判断基準を提供することができます。また、秋には現在閉鎖している社員食堂も再開を予定しています。感染リスクが高いとされる食堂で安全性を確保するために、新たな完全タッチレス決済を開発しました。スマートフォンのBluetooth機能を利用した顔認証決済システムで、お盆を持ったままでもスピーディで確実な決済が可能です。これまでの実証を経て、非常に速く正確な認証システムを開発することができました。」

 オフィスのデジタル化の技術は、実運用を見据えた完成段階に至っている。

顔認証を軸に、オフィス周辺の経済圏を創り出す

 最後に、太田は将来的な展開について語った。

 「いまはNEC本社内だけでこのシステムを展開していますが、今後は各拠点やグループ会社にも拡大していきたいと考えています。また、これはまだ夢のような話ではあるのですが、ゆくゆくは本システムを本社近隣の企業や店舗にも広げていきたいと考えています。顔認証によって、NECと地域がつながるという構想です。NECの社員は、福利厚生の一環として財布をもたずに、顔だけで周辺の店舗で決済をすることができる。一方で、店舗はNECの社員がどれだけ来て、どのような購入行動をしているかを把握することができる。これによって、店舗は趣味嗜好に応じた新しいメニューを開発して来客率を上げることができます。」

 もちろん、社員は個人情報活用の許可をした場合のみ購買履歴などの情報を店舗に共有する。しかし、これが実現すれば顔認証を基軸としたデータドリブン型の地域経済圏が形成されるはずだ。

 「実際、昨年近くの店舗にご協力をいただいて実証を行ったところ、社員が多く来店し、受付の業務が非常にスピーディになったと喜んでいただけました」と太田は語る。NECが富山市や南紀白浜(和歌山県白浜町)で行った顔認証を基軸としたスマートシティ施策を、オフィス発で展開する構想といえるだろう。B to E(Business-to-Employee)サービスを拡張し、オフィス周辺まで連携していく。

 ここで重視されているのも、やはり社員の「働きがい」だ。周辺の街とつながることで、リアルなオフィスの価値や魅力も飛躍的に増える。先進性のある技術で結びついているからこそ、自社のビジネスへの誇りも醸成される。

 働き方の選択肢を増やし、新しいオフィスづくりによって働きがいを醸成する──。NECが展開する新しいオフィスづくりは、社会にどんなインパクトを与えていくのか。デジタルを活用した新しい試みは、まだまだ続いていく。

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