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NECが目指すSmart Work 2.0~「働きやすさ」から「働きがい」へ~
【前編】NECのこれまでの働き方改革とは

 NECグループはこの数年、全社を挙げてカルチャー変革に取り組みながら、制度、オフィス、システムを整備し、社員が働きやすい環境づくりを進めてきた。それによって実現した働き方が「Smart Work 1.0」だとすれば、働き方改革は次の新しい段階「Smart Work 2.0」に入ろうとしている。では、「Smart Work 2.0」とは何か──。去る7月30日に開催されたオンラインセミナー「働き方DX Day 改革の次なるステージへ」から、「Smart Work 2.0」をめぐるセッション採録を前後編にわたってお届けする。

SPEAKER 話し手

Forbes JAPAN

谷本 有香 氏
(モデレーター)

Web編集長

NEC

松倉 肇

取締役 執行役員常務 兼 CHRO

小玉 浩

執行役員常務 兼CIO 兼CISO

85%のテレワーク率を達成

谷本氏:新型コロナウイルス禍以降、多くの企業が働き方改革に本気で取り組むようになり、リモートワークも広がってきています。お二人は、現在どのような働き方をされていますか。

松倉:今日はちょうど月末ですね。数えてみると、今月は8回出社しました。だいたい週に2日出社し、ほかの日はミーティングも含めてリモートで行うといった感じですね。

小玉:私もオンラインとリアルのハイブリッド型ですね。定例のミーティングやちょっとしたコミュニケーションはオンラインで行っていますが、議論の中から具体的な解を見出さなければならないなど、創造性を必要とする仕事はリアルに顔を合わせることが重要だと感じています。

谷本氏:リーダーから率先して新しい働き方を実践されているということですね。さて、NECは新型コロナウイルス禍以前から働き方改革を進めてきました。NECにおける働き方の今を示す数字の一つに「85」があるそうですね。これはどういった数字なのですか。

小玉:NECグループ社員のテレワーク率です。もちろん時期によって差はありますし、クリーンルームや生産現場での物理的な作業などはテレワークが難しいという事情もあります。そのような実情も踏まえながら、現場の社員みんなの創意工夫の結果到達した非常に高い数字であると私は考えています。

「Code of Values※1」で示した新しい働き方の本質

谷本氏:私もこれまでたくさんの企業を取材してきましたが、おっしゃるように、ここまでのテレワーク率を実現している企業はなかなかありませんね。どうやってこの数字を実現したのでしょうか。

松倉:NECがテレワークの制度を導入したのは20年以上前ですが、しばらくの間はなかなか定着しませんでした。どうしても会社に来てしまうわけです。それを解決するのに一番大切なのは、やはり意識改革だと私たちは考えました。NECは120年続いてきた会社ですが、これまでのカルチャーを転換する必要があるだろう、と。そこで「Project RISE※2」という取り組みを、社長をヘッドにしてスタートしました。3年前のことです。

 この取り組みで重視したのが、現場の社員の声を聞き、それを経営に生かすことでした。具体的には、いわゆるタウンホールミーティング(対話集会)と呼ばれる手法をとりました。社員から寄せられる質問に社長が直接その場で答えて、そのやりとりを社内ウェブにすべて公開しました。その中で出てきたのが、例えば「テレワークと言っても、インフラが整っていない」「スマートフォンも全員がもっているわけではない」といった声でした。さらに「トップマネジメントが全然変わっていないじゃないか」という厳しい意見もありました。そのような意見を受けて、私たちはトップが本気で変わろうとしていることを見せていかなければならないと考えました。

 カルチャーを大きく変えていく取り組みの中で、大切にしなければならない考え方をまとめたものが行動基準となる「Code of Values」です。役員同士で侃々諤々議論をして5つにまとめ、これを全社の人事考課の物差しにすることにしました。全社員が上長との1on1ミーティングの中で、このような働き方を実現できているかどうかを確認していくわけです。こういった一連の改革の中でテレワークも浸透してきました。

谷本氏:「Code of Values」は、シンプルでありながら働き方の本質を捉えた、すばらしい規範だと思います。社員の意識を変革するには、まずリーダーが意識を変えていかなければならないということですよね。松倉さんは、リーダーのお立場として、どうやってご自身の意識を変えられたのでしょうか。

松倉:考えたのは、「NECは日本の中でずっと生きていく会社なのか、グローバルにナンバーワンを目指す会社なのか」ということです。答えは明確です。グローバルで勝負していくには、多様な考え方を受け入れて、新しい働き方を実現していかなければなりません。そのためには、自分たちのマインド自体をしなやかに変えていく必要がある。その決意が、私自身の自己変革のトリガーになっています。

  • (※1) 役職を問わずすべての社員が体現すべき日常的な考え方や行動の在り方を示した行動基準
  • (※2) Project RISEとは、NECグループの変革活動の総称

大きく向上した働き方満足度

谷本氏:歴史ある大企業でこれまでの働き方を大きく変えるのは、簡単なことではないと思います。ほかには、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

小玉:テレワークを進めても、例えば、押印した書類を提出するために出社しなければならないということになると、そのたびに出社しなければなりませんよね。ですから、意識改革に加えて、業務プロセスの変革やインフラ整備を一体的に進める必要があると考えました。それによってエンプロイーエクスペリエンス(従業員の体験)が向上し、Smart Workが実現する。そのような構想から生まれたのが、「NECデジタルワークプレイス」です。

 ツールありきで考えるのではなく、さまざまな部門のさまざまな年代の人たちと議論を重ね、先進事例の研究をしながら、エンプロイージャーニーの新しいデザインをつくることを私たちは目指しました。重視したのは4つの要件、すなわち「時間と場所からの解放」「多様な働き方の実現」「デジタル活用」、そして「セキュリティーファーストの達成」です。仕組みを開発するだけでなく、具体的な活用法を示すユースケースづくりにも取り組みました。

谷本氏:デジタルの力を使いながら働き方改革を進めてこられたことがよくわかりました。その手ごたえはいかがでしょうか。

松倉:この4月に森田新社長が就任しましたが、現在もタウンホールミーティングをオンラインで継続的に実施しています。オンラインには、数多くの社員が一度に参加でるというメリットがあります。多くの社員がトップに直接アクセスすることができるようになったことで、経営と現場の距離が今まで以上に近づいたと肌感覚で感じています。まさにデジタルの力ですね。

谷本氏:デジタルの力によって、多くの社員の皆さんがトップと直接つながることができるわけですね。社長と対話することによって「承認」の感覚が得られ、働く意欲が向上し、クリエイティビティや生産性が高まる。そんな効果が期待できそうですね。

小玉:そのとおりです。制度を変え、ワークスタイルを変え、インフラを整備したことで、確実に効果が出ています。スマートな働き方の実践度は22%から64%に、業務の効率化も19%から41%に大幅に上がりました。一番嬉しかったのは、社員の働き方満足度が大きく向上したことです。

 とはいえ、これで改革が終わったわけではありません。ようやく新しい働き方の環境が整ったところです。これから次のステージに進んでいかなければならないと私たちは考えています。
後編はこちら

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