NECの働き方改革
~エンゲージメントスコア10pt向上の裏側~
社会や経済を大混乱に陥れた新型コロナウイルスは、日本企業の働き方改革にも大きな影響を与えた。テレワークの急速な普及、働く場所の変化、そして従業員エンゲージメントの再定義。早くから働き方改革に取り組んできたNECは、当初の「働きやすさ」を支える制度やITの変革に加え、現在は一人ひとりの「働きがい」向上に向け、いかに行動を変容していくかというテーマに挑戦している。NECが推進するハイブリッドワークのあり方と、改革推進過程での苦労を4人のキーマンが語った。
NECが提供する新たな働き方とビジネスを生み出す場所
「NEC デジタルワークプレイス」 とは
「働きやすさ」に加え「働きがい」も追求するSmart Work 2.0
NECは現在、新しい働き方改革ビジョン「Smart Work 2.0」を掲げ、社員の自律的な働き方によるハイブリッドワークの定着と、「働きがい」を追求するプロジェクトを推進している。
「多様な社員がいきいきと働ける環境を作っていくには、ITだけ、オフィスだけ、人事制度だけと各チームがバラバラに進めていってはダメ。そこでSmart Work 2.0ではワークプレイス(働く場所)、デジタルテクノロジー(技術)、ワークプリンシパル(規則・制度)という3つのチームが組織を超えて一体となり、社員のエクスペリエンスを最大化する取り組みを協調しながら行っています」と語るのは、Smart Work 2.0のプロジェクトリーダーを務める森田 健だ。
Smart Work 2.0の前身は、コロナ禍前の2018年にはじまった「Smart Work」である。強靱で柔軟な企業文化を再構築し、力強く成長し続けるNECの実現に向けた変革プロジェクト「Project RISE」の一環として位置づけられたSmart Workは、フリーアドレス化などのオフィス改革、全社員を対象としたテレワークやスーパーフレックスの導入、AIによる業務効率化といった環境・インフラ面での不満足を減らし、「働きやすさ」を向上させる施策が推進された。
「この取り組みは今後も継続する必要がありますが、これだけをやっていても社員の満足は一過性です。コロナ禍を経験し、テレワークが全社的に定着していく過程で我々は、社員同士のコミュニケーションの大切さ、エンゲージメントの重要性を痛感しました。社員一人ひとりが自らの働き方と、NECという組織のあり方を真剣に考える契機になったのです。社会価値を創造していこうというNECのパーパス、Code of Valuesという社員の行動基準を共に追求していこうという意識も高まってきました。そこで2021年にモードチェンジして、これまでの『働きやすさ』に加え『働きがい』も追求するSmart Work 2.0をスタートさせたのです」(森田)
「働きがい」の指標となるエンゲージメントスコアを大幅に向上
それではSmart Work 2.0で追求している「働きがい」は、これまで行ってきた施策によってどれほど向上したのだろうか。NECではその変化を定量的に測定するため、ピープルアナリティクスの代表的な手法の1つ「エンゲージメントスコア」を採用している。
2021年5月に発表されたNECの「2025中期経営計画」では、新しい価値を生み出す企業風土の醸成には従業員エンゲージメントの向上が欠かせないという判断から、2025年度までにエンゲージメントスコア50%達成という目標が設定された。グローバルに見ても非常にハードルの高いこのKGI(経営目標達成指標)を達成するためのキードライバーの1つにSmart Work 2.0はなっている。
「私たちはエンゲージメントを大きくSAY、STAY、STRIVEの3つでとらえています」と語るのは、Smart Work 2.0 ワークプリンシパル リーダーとして従業員体験を高める人事施策を展開する山岸 真弓だ。
「SAYとは同僚や顧客などに会社についてポジティブに語ること、STAYは会社に留まることを強く望む意思、STRIVEは仕事で求められる以上に努力することを示します。これらの設問に社員がどう回答するかで、自分自身を常に会社の主役であると考えているか、自分の仕事に誇りと情熱を持っているか、期待以上の成果を出すまで諦めず頑張れるかといった、働きがいに強く影響する心のあり方が計測できます」(山岸)
外部調査会社に依頼した最新の計測で、NECグループ全体のエンゲージメントスコアは「25%」(2020年度)から「35%」(2021年度)へと大きく上昇した。
「2020年度のSTAYは約40%でしたが、SAYやSTRIVEは約20%と低い状態にありました。しかしコロナ禍で実施し続けてきたさまざまな施策の結果、2021年度はSTAYだけでなくSAYとSTRIVEも10%アップし、35%のスコア達成に寄与したと考えています。Smart Workではじまった働きやすさのための環境整備で社員の満足度が着実に向上し、Smart Work 2.0の展開によってカルチャーも少しずつ変化している手応えがあります」と山岸は述べる。
森田も「わずか1年での10ポイント上昇は非常に珍しいと外部調査会社の方も高く評価されていました。変革への熱量を保つため、社内でも現在地としてこのスコアを共有しています。今後も取り組みを継続し、KGIの達成を目指していきます」と意気込む。
「これぞ、チームの力。」を旗印に、チームの働き方を考えるステップへ
ただし、働き方改革を進めていく上では、さまざまな課題や変革の壁があるという。
「最初の関門が、自律と行動変容です。働きがいを高めるには、用意された環境や制度を利用して自分自身がどのように行動変容していくかが重要です。そのためには自律していくことが大前提になりますが、決して簡単にできることではありません。しかしここを超えないと先には進めない。これからも皆で一緒に考え続けていきます」(森田)
一方、「エクスペリエンスを意識して、働く場所やツールを提供することが大事」と語るのは綿引 征子だ。綿引は働き方のDXに必要なデジタルテクノロジーの浸透と活用促進を担当している。
「働き方改革ではツールの導入が目的化してしまいがちです。その結果、どうしても効果的に使われない状況が起きてしまう。そこで私たちはツールの導入だけではなく、働き方をどう変えたいのか、どう変えるべきなのかというエクスペリエンスや行動変容を常に意識しながら、その実現のために使い倒せるテクノロジーを提供するようにしています」(綿引)
これらを踏まえ、Smart Work 2.0では「これぞ、チームの力。」をキーメッセージに、働きがいを向上させる行動変容を追求している。それは「個人の働き方」を考えるステップから、「チームの働き方」を考えるステップへの進化だ。
「NECのパーパスでは社会価値の創造が重要なテーマになっています。これは決して一人では実現できません。テレワークの浸透で個人の働き方の自由度は高まり、生産性も向上しました。しかしチームという観点ではどうか。本当に社会価値創造に向けて、チームや組織で共創し、社会に貢献できているのか。そこから働きがいを得られているのか――こうした観点のもと、これぞ、チームの力のあり方を皆で考え、実践につなげていくスマートワークチャレンジという取り組みを進めています」(森田)
スマートワークチャレンジでは、行動変容に向けてチームでのアウトカムを最大化するための働き方をチームごとに議論し、ルールづくりを行っている。
「チームのエネルギーを増幅するには、会社側がルールをつくるのではなく、各チームが話し合い、自らルールを決めていく方が望ましいと考えています。またチームで働く上では『個人の自律』が大切だというメッセージも打ち出しています。もちろん自律は『個々が好きに働いて良い』ということではありません。チームでアウトカムを最大化し、NECのパーパスを実現するという大前提があり、そのために個を最大限尊重するということです。まずチームが大切であることを社内にしっかりと浸透させていきます」(山岸)
全社で価値観を共有し、包括的にプロジェクトを推進する
こうした新しい働き方を定着させるため、ワークプレイスやデジタルテクノロジーといった観点で、さまざまな取り組みを行っている。
まずワークプレイスでは、社員に働く場所や時間などの自律的な選択を促すロケーションフリーを原則とした上で、「自分が所属するチーム内のつながり」「顧客や社外パートナーも含めたチーム間のつながり」という対面コミュニケーションも重視した2つの観点でオフィスを再定義した。この施策を指揮した秋田 義一は、その目的をこう説明する。
「チーム内の結束を強化して生産性を上げ、新たな価値づくりを行う場が『Communication Hub』です。社員のホームグラウンドとして心理的安全性が確保された中、オープンで活発なコミュニケーションが行えるよう、コミュニケーションのシーン別に分けた4つの機能を持たせています。
そして、お客様やパートナーをはじめとする社内外のチームメンバーが交流する場が『Innovation Hub』です。社会価値創造を行うためには組織や企業の枠を超えた共創が必要です。そこで会議室や食堂などの空間を“共創空間”と定義し、デザインを一新した上でスペースを8倍に拡大しました。社内外のメンバーが食を伴いながらフランクに議論できる『FIELD』という空間も用意しています」(秋田)
「ロケーションフリー」という自律的に働く場所を選択できることに加え、NECの拠点では「Communication Hub」と「Innovation Hub」、3つのワークスタイルとハイブリッドに組み合わせ、それらを最先端の「デジタルワークプレイス」でシームレスにつなぐことが、チーム力を高めるNECの新しい働き方の全体像となる。
ハイブリッドワークと共創を実現するためには、オフィスや制度面とセットでデジタルワークプレイスを進化させていくことが必要だ。その重責を担う綿引は、「何よりも社内・社外・社会とつながり、チームのアウトカム最大化に貢献していく視点が重要です。私たちは今後もWell-Being by Design、Security by Designという基本設計思想のもと、Smart Work 2.0の目標を達成するためのデジタル活用を加速させていきます」と語る。
多くの企業が重要課題と位置づけている働き方改革だが、コロナ禍による混乱も相まって、いまだ施策の停滞や目標未達に悩んでいる企業が少なくない。その中でNECは着実に働き方改革を進化させ、様々な成果を挙げてきた。その秘訣はどこにあるのだろうか。
「やはりIT、オフィス、人事制度の改革を個別に行うのではなく、横串を刺して進めることが肝心です。企業は縦割り組織ですから、どうしても一緒に進めづらい部分が出てきます。ですが私のように全体を統括し、調整役となるポジションを置き、総合力が出しやすい体制をつくることが大事です。またSmart Workは当社のCHRO(最高人事責任者)とCIO(最高情報責任者)が二人三脚で引っ張ってきたプロジェクトです。DX時代の働き方改革は人事部門と情報システム部門が一体となって取り組まなければ最大効果を上げることができません。他の企業にもお勧めしたいポイントは、この2つです」(森田)
NECの取り組みに見られるように、企業の働き方改革は制度やインフラを整えるフェーズから、改革のアウトカムを手にするフェーズへと移行しつつある。ウェルビーイング、チーム力、共創によるイノベーションの創出といったバリューをいち早く獲得するには、経営と現場が一体となった価値観の共有と、データに基づく施策の積み重ねが必要だと言えるだろう。