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“働きやすさ”から“働きがい”へ
~NECの働き方改革「Smart Work 2.0」を支えるデジタル活用とは~

 「働き方改革」を進めている多くの企業が気付くこと。それは、テレワークや業務の見直しだけでは解決できない課題が多いことだ。一人ひとりの意欲や幸福度を高めつつ、いかにエンゲージメント(愛着心)や生産性も向上させていくか──。これは多くの企業・組織にとって共通した重要テーマだといえるだろう。NECが展開する働き方改革でさまざまな課題に直面してきたキーパーソンたちに、試行錯誤の取り組みから導き出された新しい働き方に向けた道筋と、効果的なデジタル活用のあり方について聞いた。

「働きやすさ」に加え「働きがい」も追求していく

 2018年4月、NECは外部のプロフェッショナル人材をトップに据えたカルチャー変革本部を設立。強靱で柔軟な企業文化を再構築し、力強く成長し続けるNECの実現に向けた変革プロジェクト「Project RISE」をスタートさせた。

 その一環として位置付けられた働き方改革「Smart Work」では、フリーアドレス化などのオフィス改革、全社員を対象としたテレワークやスーパーフレックスの導入、AIによる業務効率化や電子署名・電子契約といった、数々の「働きやすさ」を向上させる取り組みが進められた。

 その結果、2019年以降の新型コロナウイルスの感染拡大にも柔軟に対応。政府による緊急事態宣言のもとで出社制限が求められた中では、85%のテレワーク率でも業績を落とすことなく業務継続を推進した。こうした積み重ねにより、従業員一人ひとりの働き方が大きく変化したという。

 「Smart Workでは、働く場所や時間、働き方そのものをできるだけ自由にしていく『働きやすさ』に力を入れてきました。ただコロナ禍でテレワークが定着していく中、『もっとコミュニケーションを活性化したい』『組織の枠を超えてノウハウを共有したい』という声も多く上がってきました。また2021年4月にスタートした中期経営計画では、NECが社員や社会から選ばれる会社であり続けるために、従業員と企業の信頼関係を示すエンゲージメントスコアを2025年までに50%にするという新しい目標も掲げられました。そこで『働きやすさ』から一歩前進し、一人ひとりの『働きがい』も追求していくSmart Work 2.0を2021年からスタートさせたのです」とSmart Work 2.0のプロジェクトリーダーを務める森田 健は話す。

NEC
人事総務部門
カルチャー変革エバンジェリスト
森田 健

 Smart Workを進化させたSmart Work 2.0では、「働きがい」とともに「ウェルビーイング」が重要なキーワードとなっている。その理由を森田はこう説明する。

 「働きがいを追求するには何が必要なのか。それを知るために、役員を含め社内でも特にパフォーマンスの高い働き方をしている人たち数十人にインタビューを行いました。そこで出てきたのが『信頼』『挑戦』『成長』『誇り』というキーワードです。人はまず、周りから『信頼』されることでさまざまな『挑戦』ができるようになる。挑戦していく中では当然、失敗もありますが、それを経て人はさらに『成長』していく。そうなれば、より多くの仕事を任されるようになり、自身の『誇り』につながっていく。この4つのステップを経てエンゲージメントが向上し、大きな働きがいが得られるようになるのです。ただし、そこでは心身が健康な状態であることが大前提となります。つまりウェルビーイングと働きがいは表裏一体の関係にあり、両方を重視した施策を展開していくことが何よりも大切だとわかったのです」(森田)

Code of Valuesの実践に向けたSmart Work 2.0

 Smart Work 2.0では、一人ひとりが働きがいを実感することでエンゲージメントも向上させ、会社としてのトータルパフォーマンスを向上させることを大きな目標としている。

 施策を実行する主体が「会社」ではなく、「個人とチーム」であることも大きな特長だ。最大限のパフォーマンスを発揮できる働き方を、従業員そして個々の業務を担うチームメンバー同士が徹底的に考え、主体的に実行することが、多様な人材が集まりイノベーションを追求する企業「NEC」の未来像に欠かせない要件だからである。

 その背景には、NECグループの一人ひとりが体現すべき日常的な考え方や行動の在り方を示した行動基準「Code of Values」の存在がある。

  • 視線は外向き、未来を見通すように
  • 思考はシンプル、戦略を示せるように
  • 心は情熱的、自らやり遂げるように
  • 行動はスピード、チャンスを逃さぬように
  • 組織はオープン、全員が成長できるように

 NECではこのCode of Valuesの実践に向け、「ワークプレイス(働く場所)」「デジタルテクノロジー(技術)」「ワークプリンシプル(規則・制度)」という3つの観点から相互の施策を密連携させ、Smart Work 2.0を推進している。

NECが考える働きがい
Smart Work 2.0のコンセプトである3つのワークスタイルを組み合わせる働き方は、NECグループ従業員共通の価値観を示した「Code of Values(行動基準)」の体現につながる。Smart Work 2.0の浸透により、従業員がCode of Valuesを実践し、NECグループで働くことへの誇りにつながる経験をすることで、働きがいの獲得につながっていく

 まず「ワークプレイス」ではPost COVID-19後もオフィスや自宅、サテライト拠点やシェアオフィスといった、働く場所を柔軟に組み合わせるハイブリッドワークを実現する施策を実施。次に「ワークプリンシプル」では従業員が自律的に働き方をデザインし、積極的なキャリア形成を行うための各種施策が展開されている。

 そして、Smart Work 2.0の推進に欠かせないのが「デジタルテクノロジー」の活用だ。

 「働き方の制約とデータの力を解き放ち、自己成長できるワークプレイスを実現するためにはデジタルテクノロジーが不可欠です。そこで私たちはこのテクノロジー領域を4つのカテゴリーに分類して、それぞれの目標を達成するためのデジタル活用を進めています」とNECの綿引 征子は説明する。

NEC
コーポレートトランスフォーメーション部門
DX戦略統括オフィス
上席プロフェッショナル
綿引 征子

 4つのカテゴリーは、「ライフプランと働き方の融合」「つながるパワーの最大化」「わくわくエクスペリエンス」「自らの成長と進化」というキーワードで表現される。

 「まず『ライフプランと働き方の融合』は、従業員のライフステージと働き方が交わり、どこで仕事をしていても、メンバーと臨場感や一体感を持って働ける環境をつくること。次に『つながるパワーの最大化』は、国内外のNECグループ12万人が距離や組織・部門を超えてつながり、活性化できる環境をつくることを意味します。また『わくわくエクスペリエンス』は、NECが持つ最新技術を日々自ら試し、さらには活用し、楽しく自信を持って仕事ができる環境をつくること。最後に『自らの成長と進化』は、一人ひとりのキャリア形成をテクノロジーでサポートしたり、チームの状態を見える化し、AIでさらに生産性を高める示唆を与えるような技術革新をイメージしたりしています」(綿引)

Smart Work 2.0を支えるデジタルテクノロジー

 それでは具体的にどのような形でデジタルテクノロジーを適用しているのか。ここで少し例を見ていきたい。

 まず「ライフプランと働き方の融合」「つながるパワーの最大化」を支援するのがMicrosoft TeamsとNEC Virtual Desktop for Microsoft Azure(以下NVD)の活用だ。

 2019年から本格的な活用が始まったMicrosoft Teamsは、既に全社的なコミュニケーションインフラとして定着している。フラットに会話できるグループチャットは、定型的なメールに比べてコミュニケーションの敷居を下げ、リアルでは面識のない他部門のメンバーとも必要な知見を得るためのコンタクトや情報交換がやりやすくなったという。プレゼンスもリアルタイムに確認できるため、互いの活動状況や業務の可視化にも役立っている。

 一方のNVDは、NECが従来から運用していたデータセンター型のVDIに代わるクラウド型の仮想デスクトップ環境だ。

 「既存のVDIでは従業員に画一的なテレワーク環境しか提供できず、接続の不安定さや運用負荷の増大も課題となっていました。新型コロナウイルスが長期化する中、テレワークだけでなくオンライン会議でもレスポンスや品質面で課題が生じており、それらを一気に解決する手段としてNVDが浮上してきたのです」とNVDの導入を担当した小口 和弘は語る。

NEC
コーポレートトランスフォーメーション部門
DX戦略統括オフィス
ディレクター
小口 和弘

 NVDのベースはAzure Virtual Desktopだが、小口らは現場への試験導入とフィードバック、改善を経て、ユーザの利便性を重視した最適な環境を設計。一人ひとりの使い方や業務内容に応じてリソースを柔軟に可変できるVDI環境と、ネットワーク環境に左右されにくい安定的なオンライン会議の基盤を構築することに成功した。その使いやすさと安定性から、導入1年弱で1万6000ユーザがNVDによるテレワークへと移行している。

 「標準的な接続方法やセキュアな多要素認証も含め、あらかじめ用意されているクラウドサービスの機能を使うことで、導入コストや運用負担も大幅に軽減できます。今後はこの環境をNECグループの全ユーザにまで拡大していきます」と小口は言う。

 そして「わくわくエクスペリエンス」「自らの成長と進化」を支援するテクノロジーの1つが、「Digital Well-being Assistant」だ。

 「働く人のウェルビーイングはどうやったら高めることができるのか、それをNECのAIで実現できないか、という発想からスタートしました」と語るのは、開発リーダーの青木 勝だ。

NEC
AI・アナリティクス事業統括部
プロフェッショナル
青木 勝

 「あなたが必要としているAIとは?」──そんな問いかけに、テレワークで働いている多くの従業員からは“一緒に働いている仲間” “いつも寄り添ってくれる同僚や親友”といったイメージが寄せられ、「それが大きなコンセプトになった」と青木は言う。

 NECは2020年から「幸福学」の権威である慶應義塾大学 前野隆司研究室と従業員のウェルビーイング向上に向けた共同研究を進めてきた。その成果となるロジックをNECのAIチャットボットソリューション「NEC Digital Assistant」に実装して生まれたのが、AIとの対話形式で一人ひとりの行動変容を提案し、それによるウェルビーイングの変化を計測する「Digital Well-being Assistant」だ。

 「AIとの自然な会話のやりとりで、悩み事を解決したり、本人のやる気、挑戦する気持ちを引き出して応援したりします。リアルな上司とは違ってAIとのチャットなので身構えずに気軽に答えられますが、行動変容の提案を受けるか受けないかは本人の自由です。モニターを対象とした実証では、提案を積極的に実施した人は、実施できなかった人に比べて、24ポイントもウェルビーイングの維持・向上効果が高く、この手法の有効性が証明されました。将来的にはリアルとバーチャルの垣根を越え、Digital Well-being Assistantが同じNECの従業員のように一人ひとりの同僚となり、働きがいを持って一緒に成長していくような世界観をつくっていくつもりです」(青木)

 また、働き方を変えていくには、個人やチームの働き方をきちんと把握することが重要になる。特にテレワークが常態化し、お互いの顔や表情がほとんど見えない状態でチーム力を高めていくことは容易ではないからだ。

 こうした課題の解決に向けNECでは「NEC 働き方見える化サービス Plus」を活用。このサービスは、互いの勤務状況を一目で把握できるダッシュボードや、働く時間を見直してメリハリのある働き方を実現する勤務時間管理、時間外労働時間の集計結果をグラフで表示する働き方分析などの機能を提供するもの。NECはこのツールを全社に導入し、従業員の働き方を可視化して*、Smart Work 2.0を実現するためのマネジメントに役立てているわけだ。

  • 一部の機能はNECの特定組織でのみ活用中

3つのワークスタイルで働き方のベストミックスを追求

 現在、NECではSmart Work 2.0を体現するため、ワークプレイスではロケーションフリーを原則とし、オフィスを“集う場所”として再定義。チームメンバーとの協業の場となる「Communication Hub」、顧客やパートナーも含めた社内外のメンバーが集う場「Innovation Hub」を用意している。

 「ロケーションフリー、Communication Hub、Innovation Hubという3つの働き方を従業員たちが自律的に組み合わせていくことが今後のNECのワークスタイルとなります。そこでは必ず、互いの状況を見える化して一体感を醸成するようなデジタルテクノロジーが必要となります。私たちはこれからも最先端の技術を駆使して従業員がいきいきと働きがいを持ってイノベーションを起こせる仕組みを提供していきます」と綿引は言う。

 こうした施策を展開した結果、エンゲージメントスコアが、2018年の14ptから、2022年には35ptまで向上したという。

 「Smart Work 2.0だけでなく、さまざまな社内改革も含めた成果ではありますが、やはり一人ひとりの働きがいの追求が、生産性の向上や会社への信頼につながっていることが数値的にも明らかになったと実感しています」と森田は語る。

 今後、NECでは一連のSmart Workで蓄積してきたノウハウと知見、AIに代表される最先端のテクノロジーを軸に、働き方に課題を抱える企業・組織に寄り添いながら、その改革を支援していく考えだ。